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第33話 年貢の納め時


 兵士達がセリオス殿下とフレミアを縄で縛り上げて牢獄に連行する間に私はドノヴァンさんと二人で王宮へとやってきた。


「これはドノヴァン殿下、お帰りをお待ちしておりました。それにリーリエ嬢もお久しぶりです」


「ご苦労様。父上はお部屋に?」


「はい。殿下のお顔を見れば陛下も喜ばれましょう。ささ、どうぞ中にお入り下さい」


 予めシャノンさんを使者として送っていたのが奏功したのだろう。

 王宮の兵士は私達を快く迎え入れ陛下の待つ奥の部屋へと案内された。


「父上、ただいま戻りました」


「ご無沙汰しております国王陛下」


「おお待っていたぞドノヴァン。大体の事情はシャノン殿から聞いた。それにリーリエ嬢も馬鹿息子が迷惑をかけてしまったようで本当にすまぬ事をした」


 国王陛下は私が贈った患者衣を身に着けて椅子に腰かけて待っていた。

 衣服の効果の賜物か話に聞いていた程お身体は悪くなさそうで何よりだ。

 そしてその傍らで複雑な表情で私達を見ていた王妃ソフィアが切り出した。


「それでセリオスはどうなりました?」


「はい、実は……」


 ドノヴァンさんは教会での出来事を説明すると国王陛下はがっくりと項垂れ、ソフィア王妃はショックのあまりふらふらと倒れ込むところをドノヴァンさんが慌てて受け止める。

 ここに至っては王族だからと言って庇い立てする事はできない。

 国王陛下は悲痛な表情で言葉を絞り出した。


「あの馬鹿者め、よりによってフレミアに怪しげな術を使わせて悪魔を呼び寄せただと……この国を滅ぼすつもりか……」


 私はポリポリと指で頬を掻きながら苦笑いをする。

 実際悪魔が現れたのは私が仕立てた衣装を身に着けていたからでありセリオス殿下もフレミアもあんな事になるなんて思いも寄らなかったはずだ。

 しかしだからと言って二人を弁護するつもりはない。

 他人の服を盗む方が悪い。

 勿論善良な市民に被害が及ぶような事があれば全力で止めたけどあの時は彼らが自滅する未来しか見えなかったからあえて放っておいたのである。


 ドノヴァンさんは私とは対照的に真剣な表情で答えた。


「セリオスとフレミアは悪魔を呼び寄せ王国を危機に陥れた罪で裁判に掛けられる事になりましょう。幸い民衆に被害は及ばなかったので極刑は免れるかと思いますが恐らくセリオスは一生監視の中で離宮暮らしとなるのが妥当なところでしょう。フレミアの方は他にも余罪が認められますのでもっと重い罰を受ける事になると思いますが」


「……そうか。止むを得んな。ここで王子だからと情けを掛ければ元老院の連中も納得しないだろう。どうやら私はあやつの教育を誤ったようじゃ」


「いいえあなた。あの子がああ育ってしまったのは全て私が甘やかせてしまったせいです。せめて私が責任をもって離宮であの子を一生面倒見ますわ」


 陛下と王妃様が悔恨の念に駆られ打ちひしがれている。

 それはとても見るに忍びない光景だった。

 この二人に全く責任がないとは言えないが実の両親にこんな思いをさせたセリオスと元凶であるフレミアの二人は自分たちの仕出かした事の重大さをしっかりと認識して然るべき罰を受ければいいと私は思った。


「リーリエ嬢。後の事は我々に任せてくれ。そなたに掛けられた魔獣騒動の冤罪は王家の名の下に潔白を証明しよう」


「有難うございます陛下。私の冤罪が晴れればアルメリア侯爵も争う理由がなくなり兵を引きましょう」


「うむ。民衆が戦火に巻き込まれる前に解決して良かったと思おう」


 こうしてアルメリア侯爵の独立騒動も一滴の血も流れる事なく終結したのである。





◇◇◇◇





 数日後、王都の裁判所で多くの傍聴者が見守る中セリオスとフレミアの裁判が順番に行われる事になった。

 法廷内の様子は前世とさほど変わらないが、ひとつ大きく違うのは武器を構えた衛兵達が万一の時に備えてあちこちに配備されているという事だ。


 まず最初に王太子セリオスについての裁判が行われた。

 フレミアが悪魔を呼び出したという事実を目の当たりにしたセリオスは己の過ちを素直に認め潔く王太子の立場の剥脱及び離宮幽閉の罰を受け入れた。

 それには裁判の前に王妃ソフィアの涙ながらの叱責があった事も大きいと聞いている。


 一方で聖女フレイアの裁判はそれはもう見苦しいものだった。

 裁判官がまず悪魔召喚の事を問い詰めるとフレミアはいけしゃあしゃあと答える。


「あれはリーリエが仕立てたドレスのせいですわ。私はあの女に嵌められたんですのよ」


「なるほど」


 裁判官は落ち着いた様子で次の質問をする。


「あのドレスは貴女が仕立てた衣服ではないのですか?」


「そうよ、大体私衣服なんて作れな……あっ……」


「今何か言いましたか?」


「いえ、何でもありませんわ。おほほほほ」


 フレミアは思わず自分が衣服を仕立てられないことをカミングアウトする寸前で口を噤んだ。

 セリオス殿下が誕生パーティーで身に着けていたテールコート等いくつかの衣服は表向きはフレミアが仕立てた事になっているからだ。

 裁判官は質問を続ける。


「ふむそれはいいでしょう。では何故リーリエ嬢の仕立てた服を貴女が持っていたのですか?」


「え? それは……リーリエが私にプレゼントしてくれたんですわ。私を陥れる為に!」


「プレゼントですか。それはいつの話です?」


「それは……」


 フレミアは言葉を詰まらせた。

 私はセリオスの誕生パーティの直後にアルメリア侯爵領に向けて出発している。

 それからずっと王都には戻っていなかった。

 フレミアにドレスをプレゼントする機会なんてなかったはずだ。

 そのチャンスがあったのは私が王都を出る前、教会で働いていた頃だろう。

 私はいつフレミアがそれに気付きそう答えるのかと内心ワクワクしながら眺める。


 やがてフレミアはハッとした表情で答えた。


「そう、リーリエがアルメリア侯爵領に出立する前よ。今までお世話になったお礼にと私に贈って下さったのですわ」


 フレミアは思考をフル回転させて辻褄の合うシナリオを作り上げながら答える。

 本人は上手く誤魔化せているつもりなのだろうがどう考えても無理がある。

 いつまで誤魔化し続ける事ができるのかだんだん楽しくなってきた。



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