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第29話 国王陛下


「アルメリア侯爵は陛下が長く病に伏せられている事に大変お心を痛めております。そこで本日はこのようなものをお持ちいたしました」


 シャノンは台に乗せられたハンガーボックスを開くと中には数着の衣服が掛けられていた。

 どれもリーリエが仕立てた衣服だという事は一目瞭然だ。

 その造形の美しさには国王陛下のみではなく王妃ですら目を奪われている。

 シャノンはその中で一番端に掛けられた衣服を取り出す。


「まずこちらのゆったりとした衣服ですが、これは患者衣と申しまして身に着けていますと病の苦痛が和らぐと共に人間が本来持っております治癒の力が高まる効果も御座います」


「おお、それは有難い。早速着替えさせて貰うぞ」


 国王陛下は嬉しそうにジャージを脱ぎ捨てて患者衣を身に着けた。

 そしてベッドに腰を掛けてゆっくりと深呼吸をする。


「なるほど、確かに身体が楽になった気がするわい。もしかして他の衣服も似たような効能があるのか?」


「はい、その隣にあります白衣は御典医の方にお与え下さい。身に着けた者の医療の技術を向上させる効果があります」


「あいわかった、そのようにしよう。ところでその隣にある派手な衣服が気になっているのだが」


「こちらですか。これは陛下の体調が回復されてからお召しになってください」


 国王陛下に急かされてシャノンが取り出したのは金色の刺繍が施された白い衣服と赤いマント。

 そして頭部に被る為の王冠のオブジェ。

 それはトランプのキングのカードに描かれているようなオーソドックスな王様の服だ。


「私はもう先が長くないと覚悟をしていたが、この素晴らしい服を着る為に何としても復帰してみせねばならんな」


 この衣服を身に纏って人々の前に立つ自分の姿を想像し、前向きな笑みを見せる国王陛下。

 対照的に王妃は不満そうに頬を膨らませている。


「ご使者さん、用件が済んだのでしたらもうお帰りになったらいかがです? いつまでも謀反人と仲良くすおしゃべりをする義理はありませんもの」


 王妃の辛辣な言葉にシャノンはわざとらしく大げさに眉を顰めながら答えた。


「それは残念です。王妃様の分もお預かりしていたのですが……」


「そ、それを早く言いなさい! どれが私の服なのですか!?」


「はい、こちらです」


 シャノンがハンガーボックスから取り出したのはローブ・モンタントと呼ばれる肩や胸元が覆われて肌の露出を極力抑えられた気品溢れる純白のドレスだ。


「まあ素敵……」


「お気に召されましたか? お望みでしたらもっとお贈るように侯爵にお伝えしましょう」


「是非ともお願いしますわ!」


「ソフィアお前なあ……」


 手のひらを返したように衣服に食いついてくる王妃に王様は若干引き気味だ。


「さて……」


 場が温まったところでシャノンは姿勢を正すと国王陛下と王妃も空気を読み取り真剣な眼差しを向けた。


「そろそろ本題に入りましょう。我が主アルメリア侯爵は決して王室にとって代わろうと考えて離反をした訳ではないのです。賢明な陛下でしたらその理由を申し上げるまでもないかと存じますが」


「うむ、セリオスの事だな。あやつもあやつなりに動けぬ私の代わりに国内をまとめようと頑張っているのだが何分まだ若く思慮が足りぬ。良かれと思って私がまとめたリーリエ嬢との婚約も勝手に破棄しおって代わりにフレミアなどという女狐を次の婚約に選ぶ始末。私がこのような身体でなければ厳しく再教育をするところだが……」


「陛下のお気持ちお察しします。しかし王太子といえども女神クロウスの化身であるリーリエ嬢を無実の罪で陥れようとするのは許されざる事です」


 それを聞いて忽ち国王陛下の顔が険しくなった。


「無実の罪? それはどういうことだ」


「それはご存じありませんでしたか。セリオス殿下は昨今の国内を騒がせていた魔獣発生事件をリーリエ嬢の仕業だと証拠もなく決めつけ断罪しようとしているのですよ」


「魔獣発生事件? 何だそれは。ソフィア、お前は知っているか?」


「いえ私も知りませんわ……」


 国王陛下と王妃はまさに青天の霹靂といった様子で顔を見合わせている。

 その表情からとぼけている様にも見えずシャノンは二人が本当に事件の事を何も把握していない事を察した。

 それも無理もないだろう。

 国王陛下はずっと部屋の中で療養していたし王妃もそんな夫に寄り添って看病を続けていた。

 たまに耳に入ってくるのは息子であるセリオスを介しての自身に都合が良い歪んだ情報のみだ。

 この様子ではアルメリア侯爵が度々陛下に宛てて出した手紙も全て陛下に届く前にセリオス王子に握り潰されていたのだろう。

 色々と腑に落ちたシャノンは陛下が倒れられてから今まで起きた事とアルメリア侯爵が決起するに至った経緯を事細かに説明する。

 見る見る内に国王陛下の眉が吊り上がり眉間の血管が破れんばかりに浮かび上がった。

 一方の王妃は顔面を蒼白にして絶句している。


「あの馬鹿者めが……」


 国王陛下は顔を俯かせて震えながら言葉を絞り出した。

 そして一呼吸した後に大声で叫んだ。


「誰かある! 今すぐセリオスを呼び戻せ!」



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