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第24話 聖女の企み


 王都にある教会には今日も多くの問い合わせが殺到していた。

 いずれも魔獣の被害に関するものである。

 本来は聖女の結界によって王国内に魔獣が現れるはずはないので当然の結果だ。


 聖女フレミアがあえて女神の力を抑えて国内に張り巡らされた結界を弱めているという事情を知っている彼女の側近達は教会の隠し部屋で議論を繰り返す。


「フレミア様、民衆達への被害も大きくなってきました。そろそろ結界を元通りに張り直すべきでは……」


「何を言っているの。まだ目的が果たされていないのにそんな事できるわけないでしょう。どうせ下級の魔獣の被害なんて大した事ないんだから無視しなさい」


 フレミアが結界を弱めた理由は魔界の森に封印されていた強力な魔獣にアルメリア侯爵領を襲撃させてそこに住む特定の人間、つまりリーリエを彼の地から追い出す事にあった。

 先日アルメリア侯爵領に派遣した刺客があっさりと捕まった事であの町の中でリーリエを攫うのは困難であるとをフレミアは理解していた。

 ならば逆にリーリエが自分から町から出てくるように仕向ければいい。

 そして出てきたところを街道沿いに伏せていた教会の人間が確保する。

 あわよくばリーリエの下で経験を積んだ衣服職人もついでに教会に引き込むができれば一石二鳥だ。

 その計画の為には多少巻き添えを受ける一般市民が出ても仕方がない。

 どうせあと数日もすればリーリエは音を上げて町から出てくるはずだ。

 結界を張り直すのはそれからで十分だろう。

 しかしそんなフレミアの自分勝手な思惑をあざ笑うかのように彼女の下に報告が届いた。


「フレミア様、アルメリア侯爵領でバニートゥフレイクスが討伐されたとの報告が!」


「は?」


 バニートゥフレイクスといえば古の聖女ですら女神の力を借りて封印するのがやっとだった伝説の魔獣だ。

 それが討伐されるなどありえない話だ。

 予想だにしなかった報告にフレミアはしばしポカンと口を開き間抜け面を晒しながら固まった。


「ば、馬鹿な事を言わないで頂戴。あの化け物を誰がどう討伐したっていうのよ?」


「はい、報告によるとアルメリア侯爵領の民衆が協力してバニートゥフレイクスの動きを封じ込めたところをリーリエが目にも止まらぬ剣技で止めを刺したと……」


「あの女がやったですって!? そんなまさか……ありえないわ……」


 バニートゥフレイクス以上の魔獣はこの王国には存在しない。

 それが討伐されてしまった以上最早アルメリア侯爵領を魔獣に襲わせても焼け石に水だ。

 フレミアは自分の企てが完全に失敗した事を認めるしかなかった。


「それからバニートゥフレイク討伐の際にドノヴァン殿下が負傷したとの報告もあります」


「何ですって!?」


 国王陛下の側室の子であるドノヴァンは王位継承順位が低いとはいえそれでもれっきとした王子だ。

 自らの企みが原因で王子が負傷したという事実が世間に明るみになれば一大事である。


「……フレミア様、これ以上被害が大きくなる前に結界を張り直しましょう」


「分かっているわ! 私に指図しないでしょうだい!」


 フレミアはしぶしぶ礼拝堂の女神像の前に行き女神クロウスに祈りを捧げると再び王国を包む巨大な結界が現れた。

 これでひとまず魔獣の被害は収まったが、今回の事件で生まれた教会への不信感を払拭する為にフレミアは苦心する事になる。





◇◇◇◇





「ここは……うっ……」


 アルメリア侯爵の屋敷の一室のベッドの上でドノヴァンさんは目を覚ました。


「動いてはいけませんドノヴァンさん。まだ傷口が塞がっていないんですから」


「私は生きているのか……?」


 ドノヴァンさんはきょろきょろと部屋の中を見回しそして傍らに立っている私リーリエの姿を見て呟いた。


「天使がいる。やはり私は死んだのか?」


「天使だなんてそんな……あ、この服の事かな?」


 彼が意識を取り戻すまでの間私はナース服を着てずっと看護を続けていた。

 白衣の天使とはよくいったものでドノヴァンさんが私を天使と見間違えたのも無理がない話だろう。

 そしてドノヴァンさんは全身の包帯の上にゆったりとした患者衣を身に着けている。

 いずれも医療漫画に出てくるキャラクターの服を元に私が仕立てた物である。


「ドノヴァン殿、気分はいかがですか?」


 今日まで彼の治療に当たっていたのはアルメリア侯爵お付きの医者だ。

 早速息を吹き返したドノヴァンさんの容態を確認し無事に峠を越えた事を伝える。


 最高の医者、最高の看護師、最高の患者。

 この三つの衣装の力が奏功した結果なのか、明日をも知れない程の重体だったドノヴァンさんは快方に向かっている。


「有難う、おかげで私は命を拾ったようです」


「いえ、ドノヴァンさんが助けてくれなかったら私は死んでいました。ドノヴァンさんは私の命の恩人です」


 私はドノヴァンさんの手を握り締めて感謝の言葉を口にする。


「騎士として当然の事をしたまでです」


「とにかく今はゆっくり養生して下さい。ただでさえいつも働きすぎなんですから」


「ははは、そうですね。それではお言葉に甘えさせて貰います。しかし身体を動かせないと退屈ですね」


「ベッドの上でお暇でしたら私がいくらでも話し相手になりますよ」


「それは助かります」



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