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第21話 魔界の森


 魔獣退治を生業としている職業といえば冒険者や魔物ハンター、そして勇者とそのパーティーが候補として真っ先に思い浮かぶ。

 その中でも魔王をも討ち破る程の戦闘力を有している勇者は候補としては一歩リードしているだろう。

 しかし昨今の作品では勇者は実力を鼻にかけた傲慢な性格だったり、悪の側に寝返って逆に人間側に危害を加えてみたり、目立たないが実は有能な仲間のパーティーへの貢献度の高さを見抜けずに一方的にパーティーから追放して後日ざまぁされたりとろくでもない奴らが多い。

 だから私が今回仕立てるのは日本人なら誰もが知っている王道RPGシリーズの主人公である正統派勇者の衣装だ。

 最初はドノヴァンさんに勇者の衣装、四人の部下達に戦士、僧侶、魔法使い等のテンプレ的な仲間の衣装を贈る事を考えたが基本的に騎士というものは武芸一辺倒である。

 魔法を使えない彼らに僧侶や魔法使いの衣装は流石に不自然だし勇者、戦士、戦士、戦士、戦士といった脳筋パーティーの構成で衣装を作るのはさすがに絵面が酷い。

 だからいっそのこと歴代シリーズの勇者の衣装を五着作って贈る事に決めた。

 しかしナンバリングタイトルが二桁に届くシリーズとなるとどの作品の主人公の衣装も魅力的でその中から五着に絞り込むのは想像以上に難しかった。

 悩みに悩んだ末に主人公が勇者ではない作品や勇者が主人公だけの固有職ではない作品を除外していった結果漸く作る衣装を絞り込む事ができた。

 そして依頼を受けてから五日後に完成した衣装をアルメリア侯爵の屋敷に宿泊しているドノヴァンさんに届けに行くと私の新作衣装を一目見ようと多くの屋敷の皆さん(ギャラリー)が仕事を中断して集まってきた。


 まるで新作ファッションショーの会場のような雰囲気に戸惑いながらも仕立てた衣装をドノヴァンさん達に渡して早速更衣室で試着をして貰う。

 少しして私達の前に五人の勇者が現れた。


「おお、これは勇ましい」

「かっこいい!」


 忽ちギャラリーから大きな歓声と拍手喝采が巻き起こった。

 ナンバリングの垣根を超えた五人の勇者が居並ぶ様は決してゲーム中では見る事ができない光景だ。

 屋敷内はまるでシリーズ三十五周年に開かれた公式イベント会場の様な盛り上がりを思い出させる。


「では我々はこれより魔獣が領内に入らぬよう警備に当たります」


「皆さんどうかお気をつけて」


「そんな心配そうな顔をしないでください。貴女が仕立ててくれたこの衣服があればどんな魔獣が相手でも負ける気がしません」


 ドノヴァンさんはそう言って四人の部下とともに侯爵領の外れ、魔界の森と呼ばれる領域へと向かっていった。

 ドノヴァンさんやその部下達の剣術の腕前は良く知っているし、私の仕立てた衣装による能力の底上げ効果も十分に把握している。

 魔王クラスの相手ならともかくそこいらのザコモンスターなら束になってかかってきても簡単に蹴散らせるだろうという信頼がある。

 それでも妙な胸騒ぎがする。


「アルメリア侯爵、ドノヴァンさん達は大丈夫でしょうか? そもそも魔獣って実際に見たことはないんですがどんな姿なんですか?」


「そうだな、この辺りは魔界の森に近いので他の土地よりも多くの魔獣が棲息しているのだが、特に多いのが魔界の森の固有種であるイガコイガと呼ばれる昆虫のような姿の魔獣だ」


「うへっ、昆虫ですか」


「ちなみにこんな姿をしている」


 アルメリア侯爵が書庫から魔獣図鑑を持ってきて該当のページを開けると、そこには蛾の幼虫の様な姿の魔獣が描かれていた。


「わっ」


 図鑑に描かれたその姿を見て私は思わず声を上げた。

 それはまさにタンスの中の衣服に穴をあける害虫として知られているイガやコイガの幼虫と同じ姿だ。

 こいつらのせいで前世ではどれだけの衣装をダメにされたか数えきれない。

 私は恐る恐るアルメリア侯爵に尋ねる。


「……ちなみにどのくらいの大きさなんですか?」


「大体あのくらいだな」


 そう言ってアルメリア侯爵は中庭の中央に置かれた二メートルぐらいの銅像を指差した。


「そんなに」


 私が想像していたのはスライムとかゴブリンのようなよくあるRPG常連のザコモンスターの類だったがどうやらそんな甘い物じゃなかったらしい。


「ええ、あの魔獣は人々の衣服をダメにしてしまう習性がある事からクロウス教会にとっても不倶戴天の敵でしてね。聖女の結界のおかげで長い間人里に現れる事はなかったはずなんですが一体何が起こっているのか」


 アルメリア侯爵はどうにも解せないといった様子で首を傾げている。

 それは私も同じ気持ちだ。

 一体聖女フレミアは人々を守る為の結界を弱めて何がしたいのか。

 関係ない民衆を巻き込むなんて私個人への嫌がらせにしては度が過ぎている。


「ちなみにこの町以外の被害はどんな状態なんでしょうか?」


「他の町ではスライムとかゴブリンといった魔獣の被害が出ているそうだがまあ微々たるものだな。やはり多くの魔獣の被害が予想されるのはイガコイガが出現しているこの町だからドノヴァン殿も民衆の為にいち早く駆けつけて下さったのだよ」


「そうだったんですか」


 やっぱりスライムやゴブリンもいるんだという感想は民衆達の事を第一に思う騎士の鑑ドノヴァンさんへの尊敬と感謝の気持ちで掻き消えた。


「それに魔界の森にはもう一つ恐ろしい魔獣が封印されていてね」


「厄介な魔獣?」


「ああ、魔界の森にはかつて女神の力を宿した初代聖女によって封印されていた魔獣を統べる姫君がいるのだ。もし奴の封印か解けたらどれ程の被害が出るか……」



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