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第14話 メイドの姉妹


 私はシャノンさんの案内で屋敷の隅々までを見て回った。

 そしてこの屋敷でどんな人間が何人どんな仕事をしているのかを事細かにメモしていく。

 執事、料理人、メイド、屋敷の警護、庭師、医者、果ては魔導士やピエロまで色々な職業の人間がお互い影響し合って侯爵家というひとつのコミュニティを構築している姿まるでこの世界の縮図を見ているようだ。

 大げさな言い方をすれば侯爵家というひとつの世界を私がデザインするようなものだ。

 並大抵の事ではないが遣り甲斐がある仕事だ。

 私の目には彼らの身に着けている真っ白なジャージがまだ何も描かれていないいくつものキャンバスに見えてきた。


「よし! 屋敷中を私の色に染め上げて見せるわ」


 私は両頬をパチンと叩いて気合を入れると早速画用紙に衣装のアイデアを描き始める。


「リーリエ嬢、今日のところはもうお疲れでしょうから一度お帰りになって明日改めて取り掛かられては如何でしょう」


「いえ、鉄は熱いうちに打てといいますよ」


 ゾーンに入った私にはシャノンさんの言葉も馬の耳に念仏だ。

 今日自分の目で見て耳で聞いた侯爵家の人達に相応しい衣装を次々と想像し描き留めていく。

 粗方デザインがまとまると次は型紙の作成だ。

 屋敷の中を見回った時についでにひとりひとり身体の寸法を測らせて貰っている。

 私が衣服を作ると聞いた屋敷の皆は非常に協力的だったのでここまで滞りなく準備が整っていた。


「順番を考えるならまずはアルメリア侯爵の衣装からかな?」


「あ、あのっ」


「うん?」


 先程図ったサイズを元にアルメリア侯爵の衣装の型紙を作り始めたころで私に声をかけてきた者がいた。

 手を止めて声の主を見るとまだ年端も行かない二人の少女が目を輝かせながらこちらを見ている。


「リーリエ様、私達にも手伝わせて下さい」

「私達もリーリエ様みたいな素敵な服を作ってみたいんです」


 確かこの二人はメイド見習いの双子の少女で名前はリッカとルッカとか言ったかな。

 双子だけあって本当に見た目がそっくりだ。

 二人を見分ける方法はその髪型を見る事だ。

 右に髪を寄せて結んでいるサイドテールの女の子がリッカで逆に左に寄せて結んでいる女の子がルッカだ。

 どちらもお人形の様にかわいらしい女の子だ。


「お前達リーリエ嬢の邪魔をするんじゃない。遊びじゃないんだぞ。それに自分の仕事はどうした? またメイド長にどやされるぞ」


 シャノンさんはやれやれといった表情で二人を窘めるように言う。

 でも正直私一人で五十人分の衣服を仕立てるのは大変だと思っていたところだ。

 アシスタントは多いに越したことはない。


「いえいいんですシャノンさん、手伝って貰えるのなら助かります」


「リーリエ嬢がそう言われるのでしたら……」


「やったー」


 双子の姉妹はハイタッチをして喜びを表現する。

 年相応の子供らしい仕草だ。

 でもシャノンさんの言う通りこれは遊びじゃない。

 やるからにはちゃんと手伝って貰わないと困る。

 私は二人の顔を正面からしっかりと見据えて言った。


「メイド見習いということは裁縫もできますよね?」


「は、はい。頑張ります!」


 二人は胸の前でグッと拳を握りしめやる気を表現する。

 その一方でシャノンさんは複雑な表情で二人を見ながら言った。


「リーリエ嬢、申し上げ難いのですがこの二人はまだまだメイドとしては未熟でどれだけお役に立てるか保証はできませんよ」


「そうなんですか」


 シャノンさんを疑っているわけではないけど実際に二人がどのくらい仕事ができるのかは自分の目で確かめたい。

 私は二人に道具を渡して型紙通りに生地を切り糸で縫い合わせるようにお願いする。


「あうう……」


 リッカはハサミを手に生地を切り取ろうとしているがおかしなところで切ってしまい服の装飾としてはとても使えない切れ端が何枚も出来上がった。


「痛っ」


 ルッカは裁縫をしようとするが誤って自分の指に針を刺してしまった。

 この結果を予測していたシャノンさんは予め用意していた医療箱から絆創膏を取り出してルッカの指に貼り付ける。


 この二人とんでもなく不器用だ。

 頑張っているのは認めるけど確かにこの様子では手伝いを頼むのは難しい。


 いやここで見放すのはいくらなんでも冷たすぎるだろう。

 二人の心意気を無駄にしたくはない。

 彼女達の技術が未熟だというのなら私にも考えがある。


「ごめんなさい」

「こんなはずじゃなかったのに……」


 しょんぼりと顔を伏せる二人に私は優しく声をかけた。


「リッカちゃん、ルッカちゃんごめんね、私もまだ準備ができてなかったみたい。明日またお願いできるかな?」


「え? でも……明日もまた足を引っ張っちゃうかも」


「大丈夫、明日は絶対にできるから。私が保証するよ」


「本当に?」


「本当だよ。だから明日もまたお願いね」


「うん! 約束だよ!」


 二人と固く約束して私は屋敷を後にした。

 そしてシャノンさんが用意してくれた馬車に乗って帰路に就く。


「さて、明日の朝までに二着作らなくちゃ。今夜は徹夜かな」



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