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第11話 その頃王都では


 リーリエが王都を出てから一ヶ月が過ぎようとしていたころ、王都ではセリオス殿下主催のパーティーが連日開かれていた。


「さすがはセリオス殿下。いつ見ても最高のコーディネートですな」


「ははは、当然だ。これは我が婚約者フレミアが私の為に仕立ててくれたものだからな」


「我々も肖りたいものです」


 参列者達はテールコートを身に着けたセリオス殿下に惜しみない賛辞を並べ、セリオス殿下は上機嫌でワインが注がれたグラスを傾けている。

 ここ最近セリオス殿下は何かと理由をつけてパーティーを開催している。

 何故ならパーティー会場で聖女フレミアから貰った衣装を身に着けていると皆がチヤホヤしてくれるのだ。

 それはリーリエが仕立てたテールコートの効力によるものだが本人は自身の魅力の賜物だと勘違いして全くその事実には気付いていなかった。

 深夜になってパーティーが終わり王宮内の自分の部屋に戻ると誰かが入り口の扉を叩いた。


「私だセリオス。話がある」


「……兄上ですか。どうぞ」


 扉が開き部屋の中に入ってきたのはセリオス殿下とは違って落ち着いた大人の雰囲気を醸し出している青年だ。

 青年は部屋に入るなり真剣な眼差しをセリオス殿下に向けながら言った


「セリオス、お前はここ最近毎日の様にパーティーを開いているが王室の予算も無限ではないのだぞ。少しは控えたらどうだ」


「ちっ、また小言ですかドノヴァン兄上」


 セリオスは煩わしそうに舌打ちをする。


「日頃の皆の労をねぎらう為の必要経費ですよ。俺は兄上と違っていつも臣下達の事を考えなければならないのですから」


「そうかな。私にはお前が自分の承認欲求を満たす為にパーティーを開いているようにしか見えないのだがな。ここ最近のお前の立ち振る舞いには父上も病の床で頭を痛めているぞ。リーリエ嬢との婚約を勝手に破棄した事もとても正気とは思えん。今からでも遅くないからあのフレミアとかいう生臭聖女と縁を切ってリーリエ嬢に謝罪をするんだ」


「……!」


 ガチャン!


 セリオス殿下は眉を吊り上げながらテーブルの上の花瓶を叩き落した。


「言葉が過ぎますよ兄上。仮にも私の兄にあたる人間だから大目に見ていますが所詮あなたは私と違って妾腹の子。少しはご自分の立場を弁えたらどうです」


「……もはや何を言っても無駄のようだな」


「ふん、兄上は今まで通り騎士の真似事でもしていれば良いんですよ。愚民どもの為に働くなど私には理解できない事ですけどね」


「……はぁ、こんな事では王室はお終いだ」


 ドノヴァンは大きく溜息をつきながら部屋を後にした。


「全くどいつもこいつも」


 兄を追い払ったセリオス殿下も内心穏やかではなかった。

 国王陛下が病に倒れてからセリオス殿下は重臣達のサポートを受けながら国王に代わって政務に携わっていたが元々無能なセリオス殿下は思うような結果を出せないでいた。

 パーティー会場では皆が自分を持て囃してくれるが政務の場では正反対の反応をする。

 その事が益々セリオス殿下を苛立たせパーティーの開催に駆り立てた。


「フレミア……早くまたお前に会いたい……」


 脳裏に過るのはリーリエに代わって自身の婚約者となった聖女フレミアの姿だ。

 セリオス殿下はあの日以降フレミアと顔を合わせていなかった。


 一方そのフレミアはというと窮地に陥っていた。

 彼女がリーリエから盗んだ聖女のドレスの効力によってフレミアの聖女の力は各段に上がったがそれは長続きしなかった。

 パーティードレスは一般的な衣服と違ってクリーニングが難しい。

 しかしそれを知らない教会の人間は普段着であるジャージと同様に洗濯を行ってしまった結果生地や装飾が傷みボロボロになってしまった。

 それによってドレスは力を失い、フレミアは聖女の力を存分に使えなくなってしまっていたのだ。

 教会で働く衣服の仕立て屋に同じドレスを再現するように指示を出したが彼らの技術では無理な話。

 出来上がったのはリーリエが仕立てた衣装とは似ても似つかぬ何の効力も持たない粗悪品だった。

 こんな低品質の服を着てパーティーなどに出られるはずがない。

 フレミアは今日も教会に仕える者達に当たり散らす。


「もう、本当に使えない人達ばかりね。こんな事ならもっと早くリーリエを確保しておくんだったわ! まだリーリエの行先は分からないの?」


「申し訳ありませんフレミア様。八方手は尽くしているのですが……でもひとつ気になる事がありまして……」


「何? もったいぶらずに言いなさい」


「は、はい。先日ナバル山賊団を捕らえた騎士達なんですが見た事もないような服を着ていたそうでして……」


「服ですって?」


 ここコスタミア王国や近隣の国々では全ての人々の衣服の制作から流通までをクロウス教会が取り仕切っている。

 それは騎士団でも例外ではない。


「それよ! 今すぐにその衣服の出所を洗いなさい! あの女が関係しているに違いないわ」


「畏まりましたフレミア様」


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