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第10話 感謝の気持ち


 翌朝私が最初に(おこな)ったのはトリスタンおじさん達の寸法を測らせて貰う事だ。

 そして最新が終わるとそのまま家を飛び出して町へ繰り出す。

 広場に到着すると丁度商売の準備を始めているアルフリードさんを見つけた。


「おはようございますアルフリードさん」


「おや? こんな朝から珍しいですね。早速何か入用ですか」


「はい、この丈夫そうな布と麦わら、あとそちらのロープもお願いします」


「毎度有難うございます。早速新しい衣装の製作に取り掛かるんですね」


「はい。おじさん達の為にとっておきの衣装を作ってあげるんです」


「それはいい考えです。きっと喜びますよ」


「ありがとう。それではまた」


「はい、今後ともご贔屓に」


 必要な材料を買い揃えるとおじさん達の家に戻って部屋の中に籠り衣装の製作に取り掛かる。

 こうなると私はもう止まらない。

 食事と睡眠以外のほとんどの時間を費やすこと三日、ついにトリスタンおじさん達に贈る衣装が完成した。

 四日目の朝、得意満面の笑みを浮かべながら完成した衣装を見せると二人は時間が止まったかのようにその衣装に見入っていた。


「まあ本当に素敵な服……」

「リーリエちゃん、こんな素晴らしい衣服を私達が貰ってもいいのかい?」


「もちろんです。お二人の為に作ったんですから」


 簡単に破れないように丈夫な生地で仕立てたウエスタンウェアと麦わらを編み込んで作ったテンガロンハット。

 オーソドックスなカウボーイ、カウガールスタイルの衣装だ。

 おじさんとおばさんは早速ジャージから着替えて私の前に並んでみせる。


「これで着方はあってるかしら?」

「どうだ、似合ってるか?」


「うん、とっても似合ってます」


 流石本場の牧場労働者は違う。

 西部劇に出てきてもおかしくない二人の着こなしぶりに思わず感心して拍手をする。

 そしてトリスタンおじさんは腰につけられたロープを見て私に尋ねた。


「ところでこれはなんだい?」


「投げ縄ですね」


「一体何に使うのかな?」


「えーと……」


 何に使うんでしょうね。

 カウボーイといえば投げ縄が付き物だ。

 西部劇では投げ縄で野生のバッファローを捕まえたり牧場を荒らすならず者とかを捕らえて馬で引き摺ったりするのがお約束だ。

 でもトリスタンおじさんの牧場はいつも平和でそういったワイルドなアクションとは無縁な所だった。

 まあ何かの時に役に立つかもしれないからファッションの一部だと思って気にしないで貰おう。

 二人にプレゼントを渡し終わった後、お父さんが指を咥えながら物欲しそうな目でこちらを眺めているのに気付いた。

 分かりやすい人だ。

 私は笑ながらお父さんに話しかける。


「大丈夫よ、ちゃんとお父さんの分も作ったから」


「おお、それでこそお父さんの娘だ」


 密かにもう一着作っていたカウボーイの衣装をお父さんに渡すと年甲斐もなく小躍りして喜びを表現する。


「それじゃあ早速今日の仕事に行ってくるよリーリエ」

「この格好ならいつもより仕事が捗りそうな気がするな」

「あなた、はしゃぎすぎてすぎて牛たちを驚かせないようにしてくださいね」


 余程嬉しかったのか三人はいつになくご機嫌に冗談を言いながら牧場へと歩いていった。

 それを見送った私は再び部屋に戻り裁縫道具を手に取った。


「さて、もうひと頑張りしなくっちゃ」


 今回仕立てたのは仕事着だけだ。

 四六時中着続けるような衣服ではない。

 仕事が終わって家に帰ってきたら部屋着に着替えるし夜になれば寝間着を着るのが当たり前だ。

 まだまだ作らなきゃいけない服は沢山ある。

 それに自分だっていつまでもジャージの姿ではいられない。

 以前作った女剣士オルフィアの衣装はこの長閑な牧場には全く似合わないのでお蔵入りして久しい。

 折角だから次はもっと可愛い服を作ろう。

 幾つか候補を画用紙に描きながら絞り込んでいき最終的に行き着いたのはドイツの民族衣装ディアンドルだ。

 ボディス、ブラウス、スカート、エプロンの四つの要素を奇跡的な調和で融合したこの衣装はファンタジーの町娘が着ている服と聞いて多くの人が思い浮かべるあの可愛らしい衣装である。

 数日後皆の服と一緒に自分が着る用のディアンドルが完成した私は早速試着をして鏡を見る。

 そこに映し出されていたのはどこからどう見てもファンタジーの世界ではどこにでもいるような町娘Aの姿だ。

 しかしファッション文化が発達していないこの世界の人間にとっては未知の衣装である。

 私の作る衣装の事を知っている王都の人間ならともかく、この格好で町に繰り出したら目立って仕方がない。

 でも人目を浴びるのはコスプレイヤーにとっては宿命というものだ。

 そのうち町の人も慣れていくだろう。


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