アブソリュートのいない学園3
【王派閥side】
ミカエル様がアーク派閥を壊滅させると宣言してすぐ、俺は彼に呼び出された。
そして――
「ジョー・パワーハイツ、アーク派閥へ仕掛けろ。手段は任せる」
侯爵家の四男である俺ジョー・パワーハイツはミカエルにアーク派閥へ仕掛けるよう指令を受けた。
本来気が弱い俺は今回の積極的な嫌がらせは乗り気ではなかったが、ミカエル様から成果によっては卒業後の就職の斡旋を確約すると持ち掛けられ手のひらをドリルにして二つ返事で引き受けた。
後から知ったことだが、どうやら他にも将来の決まっていない令嬢や令息に指令を出しているらしい。まぁ、扱い安い駒ということだ。
その後どうするか考えた結果、彼等の居場所を奪うことに目をつけた。今の彼等は学園で針の筵のような状態であり内心落ち着かない時間を過ごしているだろう。
なら、それをさらに悪化させればと考えたのだ。
その為に彼等がいつも食事の場所として使っている中庭を占領する。素直に退けばその後もしつこく彼等に付き纏いストレスを与える。反対されるとは考えなかった。俺は侯爵家であり学園では爵位が上の者に逆らってはいけないという暗黙のルールがあるためにその可能性はないと判断した。
故に何かあっても爵位出せばいけるだろうという考えで、友人を引き連れてアーク派閥の前に現れた。
そして案の定、爵位の乱用が効果的で自分でも驚いた。
やはりアブソリュート・アークがいないアーク派閥等大したことはない。
アーク派閥が潰れるのも時間の問題だろう。
だが俺はこの時知らなかった。
彼らの中に常識が通じない獣がいることに。
♢
昼食中、王派閥に属する侯爵家の者に立ち退きを命じられたクリス達アーク派閥。
上位貴族を前にどうすることもできないでいた。
そんな時、昼まで寝ていた虎の獣人の彼女はまだ僅かにまどろみながら呑気にこの場に現れた。
彼女の名前はウリス・コクト。
入学して早々に暴力事件を犯し停学をくらった経歴を持つ学園の問題児だ。
「お前ら、何してんだ? 飯食う時間なくなるぜ?」
「この場所明け渡せってうるさいんすよ」
来たばかりで状況が分かっていないウリスにミストは吐き捨てるようにに伝えた。クリス達も彼女に分かるよう端的に現状を説明した。
まぁ、寝起きの彼女には半分も伝わらなかったが……。
クリス達が説明をしている中、王派閥の者達が黙ってる筈もなくそれは心外だと白々しく反論する。
「人聞きが悪いな、ちゃんとお願いしているじゃないか」
「ふん、所詮アーク派閥という下賎な者達の集まりでは話を理解するのは難しいかな」
アーク派閥を馬鹿にするような言動をする王派閥達。
それはこの場にいない者にまで火の粉が降りかかる。
「この程度の集まりとはアブソリュート・アークも大したことないだろ」
「本当に停学になってくれて良かったよ」
「もう二度と学園で会わなくていいとなるとホントッ清々するよ」
彼等はアブソリュートがいないことをいい事に、口々に派閥の中傷に加え、アブソリュートの悪口までいい始めた。
だがそれは悪手だった。
「あ゙っ?」
どすの利いた低い声がウリスから放たれる。
確かにクリスやミスト、レディたちであればここで我慢せねばアブソリュートに非が及ぶと察し、耐えていただろう。しかし、アーク派閥には権力が通用しないというか、意識をそもそもしていない者がいる。
そうウリス・コクトである。
彼らを率いている侯爵家のゆっくり歩を進める。
「おっ、なんだ? 俺は侯爵家の人間だぞ?」
彼は先程のクリス達の反応に味をしめたのか爵位をちらつかせる。
だが、彼女にはそんなモノは関係がなかった。
売られた喧嘩は買うと言わんばかりにウリスは拳を振りかぶりーー
「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ウリスの拳が王派閥の生徒の顔面にクリーンヒットした。
殴られた男子生徒はその衝撃で空中に高く上がる。
まるでムーンサルトのような綺麗な放物線をえがき、そしてグシャッと汚い音をたて落下した。
その後、落下とともに何回転かしたのち地面に倒れ伏した。
辺りが一瞬だけ静寂に包まれる。
だが体感では数分、脳が理解するのを放棄し時が止まったようなそんな錯覚を全員が感じた。
そして全員が声を発した。
「「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――!」」」」」
「や、やりやがったすよ彼奴!」
「あちゃ~」
ミストとクリスが頭を抱えている。
こうなったら彼女はもう止まらないと分かっているから。
「あの人侯爵家の人間だぞ⁈ 怖くねぇのかよ!」
「お前みたいな下位貴族なんて潰せる力を持ってるんだぞ⁈」
そうウリスは貴族で言えば末端の子爵家。
彼女が手を出したのはその遥か上の権力を持つ侯爵家の人間だ。その気になればいくら他派閥といえど無事では済まないことを彼女は犯したのだ。
だが、ウリスはそんな彼らを鼻で笑いこう答えた。
「やってみろよ」
「「「⁈」」」
(怖かねぇんだよ……お前らなんかよ)
♢
【ウリス回想】
あーしは表向きは人材派遣業を生業とし、裏ではアーク家にて虎の獣人で構成された武闘派闇組織『蟲』を仕切るコクト子爵家六人兄妹の末っ子として生まれた。
その凶悪な出自に漏れず学園では暴力的な言動を繰り返して問題児として扱われている。
だが、本来のあーしは今とは正反対の大人しい性格だった。
あーしはコクト家念願の娘として生まれ甘やかされて育った。家族や兄達は揃ってあーしを可愛がり荒事には関わらず貴族の娘として育てられた。
だが牙を抜かれた虎は周りからは脅威としてうつらずあーしは虐めの対象となった。
コクト子爵家の人材派遣業はアーク領に留まらず根を張っている。武闘派の親父は意外にもまめに営業をして顧客や案件を取ってくるのだ。
だから他派閥のパーティーなどにも積極的に参加し、暴力的な兄妹の中で比較的まともなあーしはそれに同伴させられその度に虐められた。
アーク派閥の人間は他の貴族から目の敵にされている。だから、パーティー等に行った時は必ずと言っていいほど虐められた。
可愛がられていたあーしに降りかかる悪意にどうしたらいいか分からずされるがままになる。
部屋の隅に連れて行かれドレスを破かれ、髪を引っ張る等の暴力を受けた。
親父に泣きつくも爵位の壁は厚く耐えろというばかりでどうしようもなかった。
それからあーしは人が怖くなり次第にアーク派閥内でも喋らなくなり置物のように自己主張をしなくなった。
だが、そんなあーしを変える出来事が起こった。
それはミカエル王子の生誕祭。
あーし達はいつもより酷い虐めを受けていた。
集団で囲い罵声を浴びせ、クリスを見せしめのように奴等は痛めつけた。
怖かった……人の悪意が――。
誰か助けてと叫びたかった――。
そんな時だった。
「お前達何をしている?」
あーし等のリーダーアブソリュート様がこの場に割って入り瞬く間に虐めた者を追い払ったのだ。
正直あーしはボスが怖かった。
子供らしくないその振る舞いは何を考えているか分からず、原因は分からないが強い嫌悪感を覚えていた。
だがあの時彼は確かにあーし達を守った。
虐められていたあーし達の前に立ち、たった一人で奴等を追い払った。
ボスの小さい背中が目に焼き付いて離れない。
あの時あーしは確かにボスの強さに憧れた。
獣人は皆大なり小なり強さを求める傾向があり、その時確かにその本能が刺激された。
だが、どうせあーしなんてと心に蓋をした。
虐められているあーしではボスのようにはなれないと。
しかし後に転機が訪れる。
その後、クリスとレディが企画したボスと交流するイベントが開かれた際に相談した。
ボスのようにはなれなくていい。
虐められている現状とどうすれば解決できるか。
最悪ボスの力で守って欲しかった。
「虐めか……私がいればそんなことはさせないがそれでは根本的な解決には至らない……か。ではどうしたらと考えた時、1番確実なのはお前が強くなる事だな」
「強く……?」
「お前の父や私の父を虐めようとする奴がいるか? いないだろう? それは彼等が強く確実に何十倍になってやり返してくるからだ。結局強い奴とヤバい奴は虐めの対象には決してならない、リスクが高いからな」
「でも、あーしはパパみたいに強くない……」
ボスは真剣にあーしの話を聞いて解決策を考えてくれた。でもそれはあーしには無理だと思った。今まで喧嘩の一つもしたことのない自分が父達のように強くなるイメージが湧かないのだ。
そんな諦めていたあーしにボスは厳しい発言をする。
「いいか、ウリス。虐めはやる方が全面的に悪いが抵抗しないと永遠に終わらないぞ?」
その言葉にあーしは何も言えなかった。
ずっと虐められるのは嫌だ。
でも、怖かった。
暴力が怖かったのだ。
あーしを虐めた奴等のように笑顔で暴力を振るうなんてできる筈がない。
涙を滲ませながら黙るあーしにボスは優しく語りかける。
「別に誰彼構わず傷つけろと言っているわけではない。力とは本来自分と大事なものを守る為に使うものだ。だから、強くなれウリス。――自分を守れるようにな」
「自分を……守れるように――」
「お前にその気があるなら私はいつでも力になる。戦い方を教えレベルを上げてやる」
「強く……なれるかな?」
「それはお前次第だ。だが、お前が諦めない限り私は決して手を離すようなことはしない」
それからあーしはボスに鍛えてもらうようになった。
ボスのところにいるメイドの獣人に混じりながら技術や戦闘経験を積んでいく。
そして意外だったのがあーしは戦闘に才能があったのだ。虎の獣人というパワーとスピードに優れた特性と戦闘センスはあーしを成長させ大きくレベルを上げた。
弱点だった内向的な性格もレベルが上がり強くなるにつれ改善していった。
そして――
「や、止め――グァぁぁぁぁぁ――!」
「オラァァァアア!」
例の如く親父に連れられて行った他派閥のパーティーに出席したあーしはいつものように虐める奴等に絡まれ――奴等を《《半殺し》》にした。
きっかけはいつもの如く集団で因縁をつけられ顔にドリンクをかけられた時だった。
過去の自分なら怯えて震えるだけだったのかもしれない。
だが、その時のあーしはレベルが違った。
力を持つと自分に自信が出てきて奴等にいいようにされるのが馬鹿らしくなる。今は恐怖より奴等への怒りが遥かに優った。
結果大人達が止めに入るまで蹂躙が続いた。
パーティーは騒動を受けて中止になった。
他派閥の貴族に暴力を振るったことでかなり揉めたがそこでボスが割ってはいり、きっかけが奴等にあることやこれまであーしが奴等に受けた虐めの証拠をだし結果有耶無耶になった。
その時の事件が広まりあーしを虐める奴はいなくなり寧ろ避けるようになった。
ボスの言ってたことは正しかった。
やり返さないから増長させるのだと。
今でも昔を思い出すたびに怒りが湧き上がる。
虐められていた事実にではなくやり返さなかった自分にだ。
力を身につけて恐怖を乗り越えたあーしは虐める奴等はもう怖くはなかった。
♢
だから――
「怖かねぇんだよ! テメェらなんか、なあ!」
「グヘッ!」
ウリスが目についた王派閥の奴等を一人ずつ殴り飛ばしていく。
彼等は奇しくも踏んでしまったのだ――虎の尾を。
「お、おいやべぇよ」
「誰か、先生を呼んでくれ! グハッ!」
さきほどまでいきがっていた王派閥の者たちから困惑と恐怖の感情が漏れ出て、暴れるウリスから逃げ惑う。
学園では確かに実力や学力で生徒の本質を見てクラスを行い、個々の実力を伸ばすことを教訓としている。しかし、暗黙だが実家の爵位でカーストもできている。
何か問題が起これば実家が黙っていない上に、将来的に立場が上になるため、必然的に爵位が上の者が上に立ち物事が優位になる場合が多いのだ。
そんな考えが根付いている、特に親の爵位にしがみついている彼等は、まさか爵位が低いアーク派閥の者が暴力に出るとは思ってもみなかったので、衝撃とともに酷く困惑していた。
そして、その困惑はアーク派閥も同じだった。
「ちょっ! ウリス、あんたなんてことを……」
「……これだから不良は……」
頭を抱えるクリスに、ボソリと貶すオリアナ。
爵位が上の者への暴行はよくて停学、最悪退学に処され家同士の問題に発展し、そのまま廃嫡まであり得る。
にも、関わらず彼女は殴った。
爵位が上の彼らをである。
レディ達は止めようとするも、暴走したウリスを相手に割り込むことも出来ず、ただただ声をかけるしかなかった。
「おらっ、死ねぇ!」
「お願いウリスやめて! このままじゃさらに立場が悪くなる!」
「ったくレディよぉ……いつまでびびってんだよ」
「びびってなんか……」
「びびってんだろ。この程度の奴等に好き勝手されてよぉ。恥ずかしいったらねぇぜ。やり返さないからコイツらが調子に乗るんだ、なあ‼︎」
――と殴り飛ばした生徒の胸ぐらを掴みメンチを切る。
「ひぃ!」
そして悲鳴を上げた生徒を殴って意識を飛ばした後、腰を抜かした違う生徒へと殴りかかる。
「ボスは今はこの場にいねぇ。なら、自分の身は自分で守るんだよ!」
レディが目を微かに見開く。他のアーク派閥のメンバーもウリスの言葉にハッとした。
「力ってのはな《《自分を守るために振るう》》ものなんだぜ?」
背中越しにそう語るウリス。
だがその背中の後ろにいるアーク派閥の者達はウリスは自分たちの分まで守ろうと戦っているようにみえた。
そしてその背中にかつてのアブソリュートをみたミストは後先考えるのをやめて一人で暴れる彼女へ加勢する。
「……その通りっす、ね!」
ウリスの言葉に納得したミストはまだ殴られていない王派閥の生徒へ殴りかかった。
「ブハッ!」
「いてぇ……いてぇよぉ〜」
「ミスト!?」
クリスがミストの参戦に驚く。場はより混乱を極めた。
中庭の騒ぎに他の生徒たちも集まり始める。
「おいマジかよ! アイツら暴力に訴えやがった!」
「男爵令嬢が侯爵家ぶっ飛ばすなんて、どうなってんだよ!」
「アブソリュート・アークはどうやってアイツら纏めてんだよ! ヤバすぎるだろ」
「本当にヤバいのは、アブソリュート・アークではなく……常識が通用しない傘下の方だったんだ」
男爵令嬢が侯爵家の人間を殴り飛ばすという凶行を見ていた者たちは常識の通じない彼女に戦慄した。そして便乗して嬉々と殴りかかるミストを見てアーク派閥自体がやばいという認識に変わる。むしろそんな派閥を大人しくまとめていたアブソリュート・アークが一番まともだったのではと騒動後考察されることになる。
その後、騒ぎを聞きつけた教師の仲裁を経てその場はお開きとなった。だが、今回の騒動をきっかけにその日は、王派閥が仕掛けてくることはなかった。
♢
昼休みの騒動を経てその日の放課後、王派閥が使用している空き教室にミカエルと怪我を負った王派閥の者達がいた。
「申し訳ありません……ミカエル様。やられてしまいました」
ミカエルの前には顔に青あざを作り、全身ぼろぼろになった件の王派閥の者達が申し訳なさそうに並んで頭を下げる。
「アーク派閥の者達の反抗に遭いました。奴等の力は予想以上に強く、しかも爵位の差など関係なしとばかりに攻撃してきて……貴族として、とても正気だとは思えません。一度作戦の方針の再検討を愚行します」
今回の被害者で、侯爵家の四男である生徒が代表して進言する。
ミカエルは彼の報告を聞いてため息をついた。
「はぁ、お前らは馬鹿か?」
「ミカ……エル、様?」
こんな目に遭った自分達に労りもなく馬鹿呼ばわりされて困惑する生徒。
「何故奴等が固まっている時に攻撃した? 奴等はアブソリュートがいなければ脅威ではないが、雑魚ではない。闇組織と関わりのある奴がいるんだぞ? お前達はアーク派閥を舐めすぎだ」
ミカエルの言葉を聞き悔しそうに顔を歪める生徒たち。
事実、彼等はアーク派閥を爵位だけではなく実力も同等であると舐めて過少評価していた。その結果、手痛い目に遭った。
ミカエルの言葉が事実であり、その通りだったため言い返す言葉もなかった。
「やり方は悪くなかった……だがアーク派閥を相手にする場合、《《一番弱い奴》》を集中して責めるんだ」
「一番弱い奴……ですか?」
集団を相手にする場合、一番与しやすい者から落としていくのは定石だ。そしてアーク派閥を相手にする時これが一番効果的だとミカエルは確信していた。
ミカエルが不敵な笑みを浮かべながら彼らを導く。
「いるだろう? 一人だけ、気が弱く反抗心がなさそうな軟弱者が――」
彼等の頭に一人の少女が思い当たる。
いつも俯きぎみにレディ・クルエルの背中について回る少女の姿が――。
「標的は――"オリアナ・フェスタ"だ」
書籍第三巻の予約が始まりました!
発売日は一月三十一日になります。
楽しみすぎて作者は夜でも眠れません。
同じ気持ちの皆様には深夜のランニングをおすすめします。
あらすじは一部公開しておりますので気になる方は下記のURLからお願いいたします。
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コミカライズ第二巻も発売中です。
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