アブソリュートのいない学園1
アブソリュートがブラックフェアリー討伐のためにスイロク王国へと移動している頃、彼のいない学園では波瀾が起ころうとしていた。
それは突如として言い渡されたアブソリュート・アークの無期限の停学処分。この処分の知らせを受け、学園中がその話題で持ちきりだった。
学園の問題児であり、嫌われ者でもあるアブソリュート・アークが学園からいなくなったのだ。まるで祭りかのように学園はアブソリュートの話題一色だった。
教室、廊下問わずアブソリュート・アークの話を生徒達は口にしていく。
「アブソリュート・アークが無期限で停学って本当か? 実質退学じゃやないか! アイツ何したんだよ」
「なんか演習で魔物の大群に襲われた時、レオーネ王女を置いて逃げ出したらしいよ」
「それは本当か! だとしたらアイツ最低じゃないか!」
「同感ですね。いつもあれだけ偉そうにしているくせに、いざとなったら魔物に臆して逃げ出すとは貴族失格ですね。停学ではなく即刻退学にすべきでは?」
ボロクソに言われるアブソリュート・アーク。
それに付随して彼の周りにいたアーク派閥にも飛び火する。
「まぁ、どうあれアーク派閥はこれで終わりだな」
「アブソリュート・アークの一強で成り立っていただけの集まりだからな」
「浮いた派閥は王族派閥か貴族派閥が潰しにかかるかな。これは学園に嵐がくるぞ」
そうアブソリュートがいなくなったことで、残ったアーク派閥への風当たりが強くなる。まるで今まで溜まっていた鬱憤を発散するかのようだった。
だがこのまま終わるアーク派閥ではない。
確かに過去には彼等は虐げられる立場にあった。
だが、アブソリュートと和解したことで彼等は強くなった。アブソリュートはただ守るだけでなく彼等を導くことで一人一人が成長していったのだ。
そして今、アブソリュートという巨大な盾を失ったことで彼等の力が試される時がきた。
このまま過去のように虐げられる立場に戻るか、強さを示し立場を確立するか。
アーク派閥への試練が始まった。
♢
授業合間の休み時間。
教室で居場所がないミストとクリスはひとけのない場所に移動し、情報を交換していた。
「いやぁ、なんか一気に肩身が狭くなったっすねぇ」
「まさかアブソリュート様が停学だなんて……しかも、僕達を助けるために動いたことが原因だなんて。一体アブソリュート様にどうお詫びをすればいいのか……」
クリスが頭を抱え、震えた声で言った。
今回アブソリュートが処分を受けた理由は、演習時にレオーネ王女から離れ、危険にさらしたことを問題視されたからだ。
だが、あの時アブソリュートがレオーネ王女から離れたのは、魔物の大群に襲われていたクリス達を助けるためであり、決して逃げ出したわけではない。しかし、それはあくまでもクリス達側から見た視点で、大きく見れば天秤にかけられるべきはその立場。クリス達とレオーネ王女の命の価値は等しくない、レオーネ王女は王族だ。
彼女の身に何かあれば国際問題になり、最悪戦争にまで発展する。公爵家時期当主という立場上、あの時アブソリュートはレオーネの元を離れるべきではなかった。だが、それはアブソリュート自身も理解していた筈だ。 それでもなお、自分達を助けるために動いてくれたことをクリスは嬉しく思ってしまう。
だがその結果。自分達を助けるためにアブソリュートに汚名を着させてしまった。その事実がクリスの胸を強く締め付ける。
「クリス達のせいじゃないっすよ。それにレオーネ王女を危険に晒したという点で見れば、同じグループだった俺やレディ、オリアナにも何かしら処分があってもおかしくなかったっす」
「……恐らく、ミスト達にも責任が及ぶと思ったアブソリュート様が一人で被ってくださった。これが真相でしょうね、あの方がしそうなことだ」
優しいリーダーの心遣いは嬉しいが、迷惑をかけた事が情けなくて深いため息が出てしまう。
本来連座で罰せられるところをアブソリュートが一人で責任を負った。そのおかげで自分達への処分がなかったのだと、クリスの考えにミストも同意する。
「俺達に何も言わなかったのは遠回しに気を遣ってということなんすかね。本当に不器用な人っすね」
「そこがアブソリュート様の魅力でもあります。ですが、そうなると少し疑問も残ります」
「というと?」
「処分されたのが学園全体を含めてアブソリュート様ただ一人ということです」
学園にも責任があるはずのところを処分されたのは生徒であるアブソリュートただ一人。これはあまりにも不可解に映った。演習を行うにあたり、学園の責任の元で魔物の数並びに強力な魔物はあらかじめ駆除されていた。にも関わらず、魔物の大群や上位種の魔物が現れ、今回のような出来事に繋がった。
本来責任は大本である学園の監督、監視不足にあるのではないか。それを学生一人に負わせられるほど軽くはないはずだ。もしくは学園がアブソリュートに責任を全て押し付けたか。
しかし、彼は国王にも進言を出来るほどの権力を持つ公爵家の次期当主である。学園はそもそも国の経営する施設だ。それなのに?
分からない……。これ以上二人だけで結論を出すことはできそうになかった。
「とりあえず放課後にでもレディのお見舞いにいきますか」
「そっすね……カニみたいに泡吹いてましたし、かなり精神的にやばそうですしね」
「アブソリュート様のお屋敷にはその後で参りましょう」
「了解っす。じゃあ今回はそういうことで」
「ええ」
アブソリュートのことは気がかりだが今は目の前で傷ついたレディだ。
そして二人は約束を交わして教室へと戻っていった。
■
「レディちゃん大丈夫?」
アブソリュートの無期限の停学という処分を知り、その場でショックを受けてぶっ倒れたレディは、オリアナ付き添いのもと保健室のベッドにて療養をしていた。
「うふふ。レディちゃんだなんて♪ オリアナの真似ですか、アブソリュート様♡」
「あっ、……やばい。重症だ」
ようやく目を覚ましたもののレディの精神的なダメージは大きく、オリアナをアブソリュートだと錯覚していた。
どうしたものかとオリアナが悩んでいると、保健室のドアが開かれ、一人の来訪者が訪れた。
「レディ、陰キャ、邪魔するぜ」
現れたのは虎の獣人の少女、アーク派閥の問題児ウリス・コクトだ。
「……陰キャいうな問題児。退学しろ」
普段たどたどしい喋り方をするオリアナだが、身内のヤンキーであるウリスには強気にいける。陰キャの鑑である。
「はっ、お前は結構元気そうだな。それでレディの方は――」
「はっ! アブソリュート様。申し訳ありません、なんのお迎えもできず――」
「……なんだコレ?」
「えっと……今のレディちゃんは精神が錯乱して、視界に入る人が全てアブソリュート様に見えているみたい……多分」
ウリスはその話を聞きなんとも言えない表情を浮かべる。
「それは……ある意味幸せで良かったな?」
「……まったく良くないよ。ウリスちゃんで二人目のアブソリュート様だよ。アブソリュート様が二人いるのに、違和感を感じないくらいレディちゃんは混乱してるんだよ」
「アブソリュート様、私とご飯どちらに――」
「「レディは黙ってて」」
「キャッ♡」
暴走気味のレディをなんとか宥めつつ、ウリスとオリアナの二人は情報の共有を始めた。二人の会話に出たのは先日の野外演習のことだった。
「クリスやミストにも聞いたけどよ……演習の時、レディが魔物に気絶させられて、スイロクの王女さんがピンチになった。そんでアブソリュート様の救助が遅れた、でよかったよな?」
オリアナは重々しく頷いた。ウリスにはそのつもりはないと思うが、まるで尋問みたいに感じてしまい気が重くなる。
「それに責任感じすぎてキャパオーバーで倒れたのか? 相変わらず責任感強いな、レディは……お前は悪くないってみんな理解してるってのに。オリアナ、お前は大丈夫だったのか? その時レディと一緒にいたんだろ?」
「えっと、魔物が結界を破った時に一番近いところにレディちゃんがいて、私は少し離れたところにいたから……」
「ふーん、まぁ大変だったな」
二人の間になんとも言えない気まずい空気が流れる。
オリアナが居心地悪そうにしていると、新たな来訪者が保健室を訪れた。
「お疲れ様。レディ、お見舞いにきたよ」
「お疲れっす。俺もいますよ」
クリスとミストの二人が和やかな空気で室内に入って来る。
重い空気が緩和されオリアナがホッとした瞬間、早く反応したのはーー
「まぁ! アブソリュート様いらしてくれたんですね♪ ささお席にどうぞ。そちらのアブソリュート様も、おかけになってくださいな」
現在進行形でぶっ壊れ中のレディだ。
見舞われる側にもかかわらず甲斐甲斐しく二人の訪問に喜び、椅子を差し出した。
「ありがとうレディ。すっかり大丈夫そうだ……えっ? アブソリュート様?」
「本当っすよ。倒れた時はどうなることかと……えっ? アブソリュート様?」
元気そうな様子のレディに穏やかに応え、椅子に座ろうとしたクリスとミストだったが、明らかな異変に気づいて同時に固まる。
「うふふ♡ アブソリュート様が来てくださってわたくし嬉しいですわ」
瞬間。クリス達は先に来ていたオリアナとウリスを見た。
これは何事なのかと。
クリスが恐る恐ると先に部屋にいた二人に問いかける。
「オリアナ、ウリスこれはどういう……」
「い、今のレディちゃんはショックのあまりに全ての人がアブソリュート様に見えるの」
「スゲェだろ?」
「っ⁈ なんてことだ……羨ましい」
「いやいや、普通そうはならんでしょう。相変わらずおもしれぇ女っすね」
アブソリュート様ガチ勢のクリスはいろんな意味でショックを受け、羨望の眼差しでレディを見つめた。それよりもまとも部類のミストは、レディの異常事態を把握すると面白がった。
「ん? でも、その理屈だとここにアブソリュート様がいっぱいいる事にならないっすか?」
「それに気づかないぐらい錯乱してるんだってよ」
ミストの疑問にウリスが答えるとミストは腹を抱えて笑い出した。
「レディちゃん、ほら見て。あなたがいつも馬鹿にしているミストに馬鹿にされているよ。気づいて、こんなにたくさんアブソリュート様はいないんだよ」
普段は犬猿の仲のミストに笑われていることを不憫に感じて、オリアナがレディに諭すように話しかける。が、それに異議ありとクリスが制した。
「オリアナ、それは少し違う。アブソリュート様は何人いてもいい「クリス君は黙ってて」」
いつものメンツが集まり、保健室がさらに賑やかになった。そこに、扉を勢いよく開けて再び来訪者がやってくる。
「Hi! レディ〜!! 大丈夫デスカー?」
「おっ、《《ハニー》》すか」
飛びこむように現れたのはアーク派閥の一人ハニー・プレツエルだ。
彼女はライナナ王国の王都にある、王族・貴族御用達の高級食パン店を経営するプレツエル男爵家の息女。クリスと同じくBクラスに所属しているアーク派閥のメンバーの一人だ。
その容姿は綺麗な金髪に健康的な小麦色の肌。いわゆる、ギャルである。家業はミストやクリスのように闇組織に関するものではなく、比較的に穏やかな家業にもかかわらず派手な見た目で、マニュキュアが施された長い爪にはパン屋です!と言われてもやや信憑性はないだろう。
それだけでもおかしいのに、服装にいたっては制服のスカートを短く折り曲げ、上は白のビキニブラのみの着用を通常スタイルにする。ウリスとは違う意味で破天荒な人物だ。
むろん、貴族が通う学び舎であるため、ハニーの服装についてはいろんな意味で注目されているのはもはや当然である。
勢いよくハニーがレディに抱きつき、その放漫な胸の谷間にレディの顔が埋まる。
「くんかくんかすぅ〜!(アブソリュート様お胸が凄いですわっ!)」
「レディちゃん……アブソリュート様が巨乳という異常事態にも気づかないなんて……」
「なんか笑えなくなってきたっすね」
アブソリュートが巨乳だという事をおかしいと思えない今のレディに思わず涙が流れるオリアナ。
先ほどまで腹を抱えて笑っていたミストも面白いより心配が勝ってきたようで何とも言えない表情をしていた。
「倒レタト聞イテ、心配しましたヨ!」
事態がカオス化しかけるなか、さらに油が注がれるように来訪者が訪れた。
「やぁ、レディ☆ お見舞いにきたよ☆」
ハニー、レディ以外の一同が扉側を見る。
そこには、絵に描いた成金貴族のような甘いマスクに、気取った雰囲気を感じさせる少年が立っていた。だが、その身に纏う服は高級ブランド品でもなければ、制服でもない。在籍する貴族子息令嬢たちが誰も着たがらない学園支給の運動着。いわゆる体操着だ。
「ああ、来たっすか《《カートン》》」
カートンと呼ばれた少年は、フッと前髪を指先で軽くなびかせる。
彼の名前はカートン・ペスカトーレ。アーク領にある巨大カジノを運営しているペスカトーレ子爵の子息であり、Bクラスに所属しているアーク派閥のメンバーだ。
アーク派閥の他のメンツに比べ、人格に癖がなく、気のいい男ではあるが、彼はある問題を抱えていた。
「まだ制服は取り戻せていないっすか?」
「あぁ、親は偉大なりってね☆」
そう、彼の親はカジノを経営しているがカジノ狂いでも有名である。経営者であり生粋のギャンブラーであるペスカトーレ子爵は自らの子供にも勝負を仕掛けた。カートンは親とのギャンブルでの勝負に負け、有り金に加えて学園の制服まで取り上げられてしまったのだ。
カートンが来たと聞いて、レディに乳プレスをしていたハニーが、鞄から袋を取り出してそれをカートンに差し出す。
「Hi! カートン! これ今日の分のパンのイヤーデス」
「あぁ、ありがとうハニー。いつもすまないね☆」
「実の息子の食事にまで手を出すなんて……ソイツらがいるからアーク家の評判は悪くなる一方なんすよ」
高級食パンの耳詰め合わせを受け取るカートンに、ミストが渋い顔をしてカートンの親に怒りを見せる。
そんなミストにカートンは穏やかな様子で優しく窘めた。
「ありがとうミスト☆ だがこれは僕への試練なのさ☆ 確かに親は見境がないギャンブラー、賭け事に親子の情も一切ないよ。しかし、彼らの腕は一流。彼らを超えないと家業の跡を継ぐことはできない。つまり、これは彼らなりの親心ってやつさ☆」
そう言ってミストにウインクした。
「あぁレディ、これお見舞いの品ね。良かったら☆」
カートンがティッシュで包みを作った小さな白い花のブーケ?をレディに差し出す。
「ありがとうございますアブソリュート様っ! これは……お花?」
「ドクダミ、お茶にすると美味しいよ☆ じゃあ、僕はアルバイトがあるからもういくね。アデュ〜☆」
パン耳袋を小脇に抱え、指でシュバッと合図を送るように別れを告げると、カートンは保健室をあとした。
「花すら質素なんて……アブソリュート様、いつかカートンを救ってやってくださいっす」
今ここにいない心優しい主人に、苦労人の仲間へ救済の念を送るミストだった。
「ちょっと待って……」
不意にレディがまるで何かに気づいたかのように声を上げる。
「どうしたのレディちゃん?」
「嘘っ、アブソリュート様がいっぱいいる!?」
「「「「気づくの遅いわ!」」」」
周囲の傘下メンバーの顔を見まわしたレディが驚く。が、秒殺するようにメンバー全員のツッコミが放たれた。
それを見て親友のオリアナが深いため息をはく。
「レディちゃん……そのくだりは最初の方にやったよぅ」
キャーキャー!と喜びに声をあげるレディとツッコミ、宥めるメンバーで保健室内がさらに賑わいを増す。そのときーー
「うるさいぞ君達。保健室では静かにと習わなかったのかい」
レディの隣のベッドから、注意する声がしたと同時にベッド同士を隔てていたカーテンが勢いよく開けられる。
「あっ、すみませんっす……って《《ヒッキー》》っ! 久しぶりじゃないですか!」
隣ベッドにいたヒッキーと呼ばれた少年は、銀縁のメガネに七三にキッチリ分けた髪型。少し神経質そうで真面目を固めたような、優等生然とした見た目をしていた。
彼はCクラス所属のアーク派閥の一人。
ダイナマイト子爵家の子息ヒッキー・ダイナマイトだ。
「まったく、さっきからうるさくて課題も出来やしない。君たち、保健室は騒ぐところではないのだよ。子供じゃないんだからそれぐらい分かるだろう?」
「それは分かるけどよ……つか、お前はここで何してんだよ?」
注意され、バツが悪そうにする面々に代わり、物おじしないウリスが彼に尋ねる。
彼もベッドの上にいるが、その手元を見ると布団の上には課題のプリントや教科書が広げられており、あきらかに療養しているようには見えなかった。
「ふん、見て分からないのかい? ……勉強だよ」
眼鏡の端をクイッとあげて、さも当然というように返すヒッキー。
「いや、なんで保健室で勉強してんだよ。お前元気だろ」
「いや、ヒッキーは《《保健室登校》》だから特例で許されてるんだよ」
呆れるウリスにクリスが説明をした。
「あん? お前どっか悪いのか?」
「あー、えっとね……」
詳細をクリスが説明する。彼は、入学後のクラスでの自己紹介タイムで盛大な失敗をしてしまい、それにショックを受けてしまった。
結果、登校を渋るようになり両親とアブソリュートの説得の末に保健室登校になったのだ。
それ以来、彼は保健室の主として君臨し誰よりも早く登校し誰よりも遅く帰っているのだとか。繊細なのか図太いのか分からないやつである。
「自爆じゃねぇか! お前もうベッドから降りろ! 自爆して保健室登校なんて恥ずかしいと思わねぇのか!」
「はっ! 恥ずかしいとは思わないね。むしろ傷だらけの精神でそれでもと登校しているその姿勢を評価するべきじゃないかね? それにウリス……」
「な、なんだよ」
キリっと、引き締めた視線でウリスを見るヒッキー。そして諭すように語り掛けた。
「保健室登校は――恥ずかしくない」
「いや、保健室登校じゃなくてお前の現状が恥ずかしいって言ってんだよ!」
一拍の間を置いて言ったヒッキーの言葉に、ウリスが盛大なツッコミを入れた。
そんなウリスにヒッキーはやれやれといった様子で返す。
「別に気まずくて教室に行かないわけではないのだよ。いつのまにか保健室の居心地が良くなってしまってね。それに、アブソリュート様は言った。『保健室登校は恥ずかしくない。むしろ推奨すべきだとね』とね。どうだいレディ明日から一緒に保健室登校しないかい?」
「何言っているのヒッキー? アブソリュート様がそんな変な啓蒙いうはずがないじゃい」
「あ、レディちゃん元に戻った」
「解釈違いが起こったら元に戻るんすね」
フフン、と眼鏡の端をクイッとあげ、ドヤ顔で語るヒッキーに一部始終を黙って見ていたレディが横から正論を放つ。
「アブソリュート様を語るなんて不敬よヒッキー。殺すわよ」
「ひぇ……レディ凍ってる、凍っているよ」
笑顔で殺害をほのめかすレディ。氷の魔術でベットごと氷漬けにしていく。
ヒッキーは氷で固まってしまうが、それに助け舟を出すようにクリスが割って入る。
「レディも元に戻ったことだしそろそろ行きましょうか」
「そっすね」
それにミストも追随し他の者も席を立つ。
レディも怒りを治めてベットから降りた。
「ええアブソリュート様のお屋敷に参りましょう。待っていてくださいアブソリュート様レディが迎えに行きますわ!」
「ヒッキーはどうするっすか?」
「コオリトケルマデ保健室イル」
ヒッキー以外の全員が同意し、レディも連れてアブソリュートが居るであろうアーク家の屋敷へと向かうため保健室をあとにした。
今朝のアブソリュート停学の一報で、一時は沈んでいた傘下メンバーもいつもの調子を取り戻し、少し余裕すら感じられた。
だが、翌日大きな悪意が襲い掛かることを彼らはまだ知らない。
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