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ノワール家強襲

 そいつは突然現れた。

 

「そいつ殺さないの? じゃあヒィルが殺すね」

 

 突然高く澄ました声が空間に響く。

 その瞬間――。

 アブソリュートの視界に突如、人影が現れ倒れたかと思うと倒れていたイヴィルに向けて剣を突き立てた。

 だがイヴィルは咄嗟に身体を逸らし急所を外す。

 だが剣はイヴィルの左肩に深く突き刺さった。

 

「ぐっ……離れろ!」

 

 剣を突き立てた相手を引き離そうとイヴィルは至近距離から蹴りを放つ。しかし、その蹴りは空を切り、相手はイヴィルの目の前から消えた。

 そう消えたのだ。

 まるで瞬間移動のような一瞬の間に奴はイヴィルの目の前から姿を消した。

 

「どこ行きやがった⁈」

「あはは! 惜しい惜しい!」

 

 無邪気な声が部屋の中から木霊する。

 いつの間にか相手は部屋の入り口の元まで移動していた。

 初めて相手を視認する。

 部屋に入ってきたの二人組。

 一人はアブソリュートとイヴィルの戦闘に割り込み、イヴィルに剣を突き立てた人物。

 纏っているのは軍服だが、そのデザインは露出の多いへそ出しのトップスにショートパンツ。サイドテールを揺らしながらコチラを挑発するような笑みを浮かべている少女。

 

 そしてもう一人は燕尾服という、戦場に相応しくない格好の若い男。だがその立ち姿は気品を感じさせ、その立ち姿は上級貴族に仕える執事のように感じさせた。

 

「お前達何者だ?」

 

 怒りを滲ませた声でアブソリュートが二人に問いかける。

 イヴィルの身体与奪の権利は自身にあるにも関わらず、奴等のハイエナのごとき振る舞いに腹を立てたアブソリュートの声は怒りに満ちていた。

 

「はあ? アンタこそ誰よ。悪いけどヒィルは忙しいの。見逃してあげるからさっさとおうちに帰りなさい」


 だが、少女はそんなことは知らないと言わんばかりに言い返す。

 手のひらを振り、虫でも追い出すような仕草をする少女。言動からしてどうやらかなり気の強い性格のようだ。

 

「悪いがそれは出来ない話だ。そのイヴィルは私の獲物だ。そしてお前らはあろうことかこの私から獲物を掠め取ろうとしているコソ泥というわけだ。ここから先は慎重に言葉を選べよ。もし言葉を間違えたなら――」

 

 アブソリュートは少女に剣先を向けて言い放つ。

 

「《《先にお前らから排除することになる》》」

 

(コイツらが介入する場面は原作にはなかった。だが、アブソリュート・アークとイヴィルの誇りをかけた闘いに土足で踏み行ったからにはただで返すわけにはいかない)


 悪対悪という戦いではあったがお互いに譲れないものをかけた戦いであった。

 身体与奪も含めてそれを土足で踏み荒らした奴をアブソリュートは許せなかったのだ。

 だがアブソリュートの態度が気に食わないのか不機嫌そうな顔で少女は反論する。

 

「何? アンタ死にたいわけ? 邪魔するなら、アンタから――」

 

 少女がいい終わる前に隣にいた執事の男が彼女の前に手を置き、静止させる。

 

「お待ちなさいヒィル。ここは私が説得します」

 

 そう言うと彼は一歩踏み出し、礼を尽くすように深々と頭を下げた。

 

「お初にお目に掛かります。わたくしどもは帝国から参りました。《《ノワール家の者です》》」

 

 涼しげな声で深々と敬意を払うように礼をし、名乗る執事。

 その出自を聞いてアブソリュートは目を見開く。

 

「ノワール家だと?」

 

 ノワール家――それは世界でアーク家と並ぶ闇の力を持つ組織だ。表向きは帝国貴族だが、その闇組織の力で帝国内でも絶大な影響力を持っている。

 その影響力は皇帝すらノワール家の傀儡と言われるほどだ。

 ちなみに、ライナナ国にも隙を見つけては手を出してくる、アーク家の敵だ。アブソリュートは心の中で彼等を敵認定し、いつでも殺せるよう魔力を室内に展開した。

 

「申し遅れました。私ノワール家家臣筆頭。執事のネクロと申します。そしてコチラが――」

「ノワール家次期当主ヒィル・ノワール。お目にかかれたことを光栄に思いなさい」

「お前がヒィル・ノワールだと?」

 

 ヒィル・ノワール。彼女は原作に出てくる敵キャラの一人だ。ライナナ国で後に《《ある事件》》を起こし、勇者達と争うことになる人物。

 つまり悪役の一人だ。

 

(なる程な、これですべてが合点がいった。このスイロク王国イベントを起こした黒幕はノワール家だ)


 ノワール家が出てきたことで今回の反乱で不明な点にようやく納得した。

 何故スラム街出身で金もツテもないイヴィル達が数千人分の武器を用意できたのか。

 何故ノワール家当主カラミティ・ノワールが光の剣聖をアンデッドにしたのか。

 すべては帝国――ひいてはノワール家がスイロク王国を手に入れるためだとしたら全て納得できた。

 もし、イヴィル達が革命を成功させたら裏で彼らを操るなどして実質の占領地とする。失敗しても敵対する闇組織がいなくなったスイロク王国を楽に裏で支配できる。

 すべて何年も前からノワール家によって仕組まれていたのだ。

 ということは――


「なるほど……《《あれ》》はこのことを言っていたのか」

「? それより貴方様のお名前をお聞かせ願えますか? さぞ高貴な方だと推察いたしますが?」

 

 執事の質問で我に返るアブソリュート。

 理解したあれを頭の片隅に置き、とりあえず現状に向き合う。

 

(まぁ、分からなかったのは仕方ない。ひとまずコイツらをどうにかしよう)

 

「ライナナ国から来たアーク公爵家次期当主アブソリュート・アークだ」

「アーク家ですって⁈」

「アブソリュート・アーク……その《《赤い眼》》。なるほど、なるほど」

 

 二人は程度に差はあれ、驚いた様子を見せた。

 それも仕方がない。

 アーク家がノワール家を敵視しているのと同様に向こうもアーク家を敵視しているのだから。

 いわば天敵の次期当主がいるのだからそれは驚くだろう。

 

「失礼、予想外の方だったので取り乱してしまいました。――アブソリュート様とお呼びしてよろしいですか?」

「? 好きにしろ。どうせ後から殺し合う短い付き合いになるからな」

 

 妙に恭しいのは癪に触るが、アブソリュートは気にしないことにした。

 

「ありがとうございます。話を戻しますが、そこにいるイヴィルは我が家から逃げ出した脱走兵でずっと行方を追っていました。我々は裏切り者を決して許しません。どうか彼を引き渡してはくれませんか?」

「だから何だというのだ? それはお前らの問題であり、私には関係のない話だ。私が引く理由にはならない」

 

 あまりだらだらと話を聞く気にもならない。

 密かに魔力を展開し攻撃しようとした瞬間、次に執事から放たれた言葉に驚き、思わず攻撃を止めてしまった。

 

「いえ、引いてもらいます。じつは既に帝国軍が国境付近にまで来ているのです」

「ほう?」

「国境に近いこの都市から攻め落とす予定ですので、このままでは貴方様にも被害を受けるでしょう。もしすぐに引き渡すのならアブソリュート様の安全は保証いたします」


 アブソリュートの顔色は変わらない。

 だが、その内心は驚きに満ちていた。

 ノワール家の闇組織ではなく表の戦力である帝国軍の介入。

 それが意味するのは――

 

(おいおい、マジか!? コイツらやりやがった)

 

「貴様ら…………戦争を起こすつもりか」

 

 

 ♢


 帝国軍がスイロク王国侵略に向けて進軍していた。

 これは以前から計画されたことで、かなり綿密に練られたものだった。

 スイロク王国は現在闇組織の人間が反乱を起こし、国全体が混乱している。それもかなり酷い有様なそうだ。

 男は殺され、女は犯されまるで、敗戦国のような惨状だ。

 

 帝国はこの惨状を他国に流布し、帝国が鎮圧に向けて進軍するのに大義を持たせた。これで侵略に対する反感を少なからず減らせる。

 進軍したのは帝国軍第ニ師団総勢七千名。

 団員の平均レベルが30を超える帝国の主力部隊だ。

 何より脅威なのは徹底された連携。

 その連携で上位者を倒せるほどだ。

 この主力を迷わず投入するあたり、帝国の本気度が伺える。

 そしてそれを率いるは帝国軍少将にして第二師団団長マーシャルダーツ。

 その実力はかの光の剣聖にせまる"レベル60"

 もうすぐ帝国軍は国境を超えて、スイロク王国を救出(占拠)する。再度指揮を上げるためマーシャルダーツ少将が兵士達に向かい語りかける。

 

「これから我々は賊に占拠されたスイロク王国を救うために進軍を開始する。これは決して侵略にあらず、賊によって苦しむ人々を救うための闘いである! もう一度言おう、これは決して侵略ではない。我々は正義だ! 思う存分命を燃やせ!」

「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 罪のない人々を救うという大義名分という名の正義を掲げ、帝国軍がスイロク王国へ向けて進み出した。

 

 ♢


 アースワン帝国の闇組織ノワール家。

 仮に世界の闇組織で序列を作るならそのトップに名を上げる組織に皆ノワール家を上げるだろう。

 アーク家はライナナ国という一国内で動いているのに対して、ノワール家は世界に拠点を置き活動している。

 彼らはスイロク王国の反乱のように裏から支配しようと暗躍している過激派だ。闇組織というカテゴリーの中では同格として位置付けられているが、積極的に動いている分組織力はノワールが上をいっている。

 

 その組織の人間が国を動かして軍隊を派遣し、国を占領しようとしている。裏で駄目なら表立って強引に大義名分をぶら下げて力を行使しスイロク王国をその手に収めようというのだ。

 この蛮行はまさに過激派だ。

 そしてアブソリュートはその過激派に遭遇し、現在脅迫を受けていた。

 イヴィルを引き渡さねば、お前にもその牙が剥くぞと。

 

「私どもの目的はそこのイヴィルを回収することです。もし引き渡して頂けるなら私達並びに帝国軍は《《貴方様には》》手出しはしないことを約束致します」

 

(もし引き渡さないのなら、屈強な帝国軍が私を襲う……か、ずいぶんな脅迫だな)

 

「如何でしょうか?」

 

 奴は選択肢を与えるように見せて実質一択の答えをアブソリュートに選ばせようとしている。

 実質敗北宣言とも言える言質を――

 アブソリュートが素直にイヴィルを引き渡せばアブソリュートがノワール家の脅しに屈したという事実が残る。要求に応じなければスイロク王国と同様に帝国軍がアブソリュートにも牙を剥く。

 あまりにも理不尽に見えるその要求をアブソリュートは迫られているのだ。

 

(ノワール家や帝国と事を構えるのはどう考えても悪手に他ならない。相手は軍事国家だ。兵力数は周辺諸国に劣るが質で言ったらライナナ国や聖国を上回る。正直もっとも敵に回したくない相手だ)


 アブソリュートには敵が多い故これ以上敵を増やすのは望むことではなかった。



 

 ――考えるまでもない。

  


 

 自分の命が惜しければ要求を呑むと言えばいい。

 

 首を垂れて膝をつき慈悲を乞えばいい。

 

 誰もそれを止めはしないし、非難することはないだろう。

 

 故にアブソリュートは彼等の要求に対してこう答えた。

 

「そうか――――だが、断る」


 イヴィルの引き渡しを拒絶した。

 アブソリュートは戦線布告の引き金を引いたのだ。

 それも迷いなく――。

 ノワール家の二人は彼の出した答えに大きく目を見開いている。

 

「アンタ今なんて言ったの?」


 ヒィルは念のためもう一度だけ確認する。

 自分の耳を疑わざるを得なかったから。

 だが――。

 

「断る、そう言ったのだ」

「アンタ……馬鹿なの? そいつ渡せば見逃してあげるっていってんのよ? 断ったら私達の敵として帝国やノワール家に本格的に狙われることになるのよ、意味分かって言ってる?」

「無論理解している。貴様らがアブソリュート・アークに、ひいてはアーク家に喧嘩を吹っかけていることをな。だからその喧嘩買ってやろう、そう言っているのだ」

 

 これは個人で済む問題ではなく、アーク家の沽券に関わる問題だった。売られた喧嘩は買わなくては示しがつかない。

 それに彼等は喧嘩を売る相手を間違えた。

 

 帝国軍七千がこれからアブソリュート・アークを襲う?

 巨大闇組織ノワール家に目をつけられる?

 ――《《だからどうした》》!

 彼はアブソリュート・アーク。

 大国ライナナ国を相手に一人で戦った偉大な男の人生を歩む者だ。現作を超える人類最高峰のレベル93、この世界のラストを飾る悪役を前にしての脅しにしてはあまりにも弱すぎる。

 

「闘うなら相手をしてやる。お前らの持ち得るすべてを持ってかかってこい。だが、覚悟しろ。私は悪だ。こちらもお前等らを決して逃がしはしないし、中途半端には決して終わらせない。一人残らず殺して尽くしてやるぞ悪党ども」

 

 アブソリュートは剣先を二人に向けそう言い放った。

 強敵を前にして傲岸不遜にして豪気な振る舞い。

 圧倒的に優位な立場のはずの二人にはさぞかし狂っているように見えるだろう。

 戦力差を知らぬ馬鹿か、引くことを知らぬ愚か者だと。

 だがこれでいい。

 悪とはどんなに強敵でも決して屈してはならない。己は間違っていないと――自分の意思を最後まで貫かねばならない。《《悪役貴族として必要なそれ》》を彼は掲げ続けねばならないのだ。

 だがそれは決して苦ではなくむしろ誇らしい。

 少なくともイヴィルや原作のアブソリュート・アークはそうしてきたのだから。


 (私は誰にも屈しない)


 例え敵がどれだけ多くても――

 これからどれだけ多くの血が流れるとしても――


「さぁ来い悪党ども! 私を殺しに来い!――私を倒せるのは勇者だけだがな」

 

 誇り高きアブソリュート・アークの人生を歩む者として彼の誇りを穢すことは絶対に許されない。

 だって今の私は絶対悪アブソリュート・アークなのだから――。

 

「…………な、なんなのよこいつ……」

 

 ヒィルが僅かに後ずさる。

 アブソリュートの狂気にも近い覇気と圧力に押され無意識に身体が引いてしまっていた。

 逆に隣にいる執事は変わらない笑みを浮かべていた。

 

「素晴らしい啖呵ですね。この状況下で己を曲げない強い意思、さすが誇り高い一族の血を引くお方だ」

「交渉……と呼べるかはかなり怪しいが、確かに決裂した。後は殺し合いで決めるしかあるまい」

「ふむ……それは困りましたね。こちらに貴方様を害することをするつもりはないのですが……」

 

 白々しい奴だ。

 あれほど脅しをかけておいて何をいまさら。

 読めない奴だ。だが、もう一人のほうはそうは思っていないようだ

 

「何言ってんのよ。ノワール家を敵にするって言ってるんだからここで殺しちゃえばいいじゃない!」

 

 ヒィル・ノワール……好戦的な彼女はどうやらアブソリュートを殺すつもりらしい。

 ちなみにアブソリュートは彼女を殺すつもりはない。彼女はいるだけでマイナスになるトラブルメーカーだから。敵にいてくれた方が助かる。

 

「いけませんヒィル」

 

 対する執事は殺すのは反対らしい。

 

「うっさいわね! 勝手に付いてきたくせにヒィルに口答えするな!」

 

 なんか知らないがアブソリュート・アークを巡って二人が争っている。

 

(初対面なのにこんなことってあるんだなぁ)

 

 だが正直時間の無駄なのでアブソリュートは戦ってさっさと終わらせたかった。

 終局はもう目の前まで来ているのだから。

 

「おい、ヒィル・ノワールやる気ならさっさとこい」

 

 制止する執事を押し退け、ヒィルはアブソリュートと向かい合った。

 

「ふふん。アンタなんかこのヒィル・ノワールがぶっ殺してやるんだから!」

「出来るのか? 《《養子》》のお前に」

「――――――」

 

 アブソリュートの言葉に一瞬言葉が詰まる。

 原作知識を知るアブソリュートは敢えて彼女の禁句を使い挑発した。

 決して触れられたくない己の血筋の事を――。

 そしてヒィルの人を見下す憎たらしい笑みが徐々に怒りの表情へと変わっていく。

 

「――殺す‼︎」

 

 虎の尾を踏んだアブソリュートにヒィル・ノワールが襲いかかる。

 ノワール家とアーク家巨悪の後継同士による戦いが幕を開けた。





 駆け出したヒィルをアブソリュートが迎撃しようと構える。

 だが――。

 

「――‼︎」

 

 一瞬で視界からヒィルが消えてしまう。

 ヒィル・ノワールの持つスキルは『神速』。

 まるで転移したかのように一瞬で移動したかのような速さで動くことができる。

 スピード系のスキルの中でも最上位の能力だ。

 

「くたばれ!」

「――!」

 

 どこかからヒィルの声が聞こえた。

 するとアブソリュートの背後から殺気を感じた。

 咄嗟に横にステップを踏み避けるも、アブソリュートの衣服の肩の部分が浅く切り付けられていた。

 完璧によけたつもりだったが若干向こうの方が早かったようだ。

 だが、ヒィルは攻撃のあとで隙ができ、アブソリュートに背中を見せていた。そこをアブソリュートが切りつけようと剣を振るうがヒィルはまたスキルを使って目の前から消えた。

 

「速いな。なら『風を支配する悪』《ウィンド・アーク》」

 

 アブソリュートは上級風魔法を使用して室内に強力な暴風を発生させた。室内にある家具すら吹き飛ぶ程の暴風が室内で猛威を振るう。

 暴風で動きを阻害して相手のスピードを下げようという試みだ。

 だが、それは失敗に終わる。

 次は右から殺気を感じバックステップで避ける。

 その次は左から――上、下、上、右と攻撃が続きアブソリュートもそれらを避け、たまにカウンターを狙うもスピード最上位のスキルを持つヒィルの方が僅かに速く、攻撃が当たらない。

 

「……やるな」

 

 暴風の中、まるで意に介さず次々とアブソリュートを切り付けていく。

 

(なるほど。スピード系だが空間系に近いスキルだな。レベル差があっても追いきれないなら線ではなく点で捉えるしかないな。なら――)

 

 アブソリュートは風魔法を解除する。

 そればかりか剣を構えるのすら止めて静かに神経を研ぎ澄ませる。

 そこへヒィルの刃の嵐がアブソリュートを襲う。

 まるで弄ぶようにアブソリュートの身体を切り付けていく。

 

「あははは、もう諦めちゃった? やっぱりアーク家の跡取りなんて大したことないじゃない!」

「……………………」

「そうだ!アンタをぶっ殺せばきっとママもヒィルを認めてくれるわ。アンタを殺してヒィルがノワール家の当主になるの!」

 

 自身の優位を悟ったのか気分が高まってきたヒィル・ノワール。

『神速』のスキルを活かして、徐々に相手を弱らせるのがヒィルの戦闘スタイルだ。一見慢心ともいえるがこれは彼女の慎重な性格ゆえに編み出されたスタイルでアブソリュートを削っていく。

 そしてーー。

 

「死ね!」

 

 最後はアブソリュートの胸元まで近づいていたヒィルが、短剣をアブソリュートの心臓めがけて突き刺した。

 グサリと貫通した感触を感じる。

 生暖かい鮮血がヒィルの顔に飛び散った。

 

「ふふん♪ アブソリュート・アーク討ち取ったり」

 

 達成感に笑みが溢れるヒィル・ノワール。

 その笑みは勝利を確信していた。

 だがそれは時期尚早だ。

 

「それはどうかな?」

「――はっ⁈」

 

 ヒィルは目を見開いた。

 アブソリュート・アークは生きていた。

 

「ようやく捕まえたぞ。ヒィル・ノワール」

 

 貫通していたのは心臓ではなく彼の左手だった。

 ヒィルの短剣を、左手を犠牲にして心臓からずらす事で防いだのだ。

 それだけでなく短剣の貫通した左手で彼女の手を掴み、逃げられないようにスキルを封じた。

 これでヒィルはもう逃げられない。


(確か神速で動かせるのは自分だけだったよな)


「ちょっ! 離しなさい!」

 

 ヒィルがもがくがアブソリュートの左手からは逃げられない。

 その姿は罠に引っ掛かった小動物のようだった。

 

「安心しろ、殺しはしない。さぁ歯を食いしばれ、ヒィル・ノワール」

「や、やめ――」

 

 アブソリュートの拳がヒィル・ノワールの肋骨の内の奥深く、心臓の近い場所に突き刺さった。

 




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@Masakorin _


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akuyaku  書籍第三巻予約開始です。発売日は1月31日です。  よろしくお願いいたします。 akuyaku  夏野うみ先生が描くコミカライズ版第2巻発売中です。 コミカライズ化されたアブソリュートを是非見て下さい!   
― 新着の感想 ―
イメージ的に歯を食いしばらせたら顔面殴らない? 言葉の嘘による攻撃だったんかな
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