第四都市攻略
第二都市を奪還されたブラックフェアリー。
王国軍はその勢いのまま進軍し、第三都市まで奪還してみせた。
現在、ブラックフェアリーの面々は本拠地である第四都市に身を寄せている。
第四都市はスイロク王国の四大都市として数えられているが、今はほぼスラム街と化している。
そこはボロボロの整備のされていない家や建物が並び、街全体から悪臭が漂よい、まるでゴミ溜めのようだった。
それでも一応人は住んでいる。犯罪歴のある者や捨てられた子供、理由があって住む場所を奪われた者といった訳ありが集まりそれぞれがコミュニティを作り生活している。
十五年ほど前は、ここはまだ街として機能しており、今ほど酷くはなかった。
貧しいながらもそこには社会としての営みがあり、人が暮らせる環境ではあったのだ。だが、聖国との戦争で第四都市から多くの市民が徴兵されたことにより治安が悪化する。
加えて、領主が代替わりしたことで新しい領主がギレウスというスイロク王国で一番力のあった闇組織と繋がり悪政がより酷くなったのだ。
ブルース達は本拠地である地下施設で潜伏していた。
怪我人などを除いたメンバーは大広間で暫しの休息をとっていた。連戦や敗北が続きメンバー達の顔色が絶望的に悪い。空気も重く、いつも以上にどんよりして士気は最悪だった。
徐々に士気を上げていく王国軍と違い、日を重ねるごとに味方が離反していく。
「わりぃが俺は抜けるぜ! あんな作戦無駄だったんだ」
「俺もだ。処刑されたらたまったもんじゃねぇ」
「俺も」
敗北濃厚の空気に耐えかねた者が去るとそれに便乗して次々とこの場を去っていく。
無理もない。イヴィルの恐怖による支配とバウトの圧倒的な武力の魅力で成り立っていた組織だった。
そんな中バウトの離脱にイヴィルの敗北。
どちらかがかけた時点で結末は決まっていたのだ。
半分以上が組織を抜け数千人いたメンバーも残りは数百人程となる。
むしろよくここまで残ったものだ。
残った者のほとんどが国を、貴族を恨んでいる者達。この反乱が起きるまで手を汚したことのない第四都市で暮らしていた住民達だ。
たとえ死ぬとしてももう奴等の元に屈することをよしとしない者たちだ。
それほどにスイロク王国という国に絶望しているのだ。
「ブルースさん! 王国軍がやってきました!」
見張りの者から敵がやってきたことが伝えられる。
イヴィルやバウトが居ない今、序列四位の自分が指揮を取らねばならない。
ブルースはメンバー達の前に立ちこれからの指示を出す。
「はっきり言うけど、私達の負けよ」
「「…………」」
「でもね、私達が行動を起こさなければ第四都市はずっと放置されていた。人攫いも貴族による悪政もずっと続いていた。行動を起こさなかったら奴等に殺されていたわ、そうでしょ?」
多くの者が同意する。
彼らはただ生きたかった。
弱者を売り飛ばす闇組織ギレウスにそれを利用し私服を肥やす貴族達。
第四都市の人間は奴等によっていつ死ぬか分からない家畜のような日々を送っていたのだ。
自分の生活が脅かされていたから、生きるために奪った。それぐらい追い詰められていたのだ。
「私はまだ死にたくないけど貴方達はどう?」
まだ闘う意志はあるかと、ブルースが仲間を見わたしながら問いかける。
彼等の心は一つだと言わんばかりに――
「「生きたい‼︎」」
そう答えた。
「なら闘わなくちゃね。全員街に潜んで騎士達を狩りましょう。ここは私達の街だから彼らにはお帰りねがいましょうか」
ブルースの指示の元、メンバー達は街に散開していく。彼らの最後の闘いが幕を開けた。
◆
レオーネ王女率いる王国軍はついに最終決戦の場である第四都市に踏み入った。
「……嘘、これがスイロク王国の都市だっていうの」
レオーネが見た光景を例えるなら敗戦国の末路だ。まるで占領され、何もかも奪われたように活気もなにもありはしない。街全体から悪臭が漂い、ゴミ箱の中にいるようだ。
「これが今の第四都市だ。あの反乱はこのままここにいては死を待つだけだと思って行動した結果なんだろうな」
アブソリュートがそう言うとレオーネは悔しそうな顔を見せる。
今回は慰めたりしない。これはスイロク王国の問題であり、彼女たちが変えていかなくてはならない課題だ。存分に悔しい思いをしてもらわないといけないのだ。
「それでも彼らがしたことは許されることではありません。自分のために他人の暮らしを犯していい理由はあってはなりません。例えどのような事情があろうとも――」
「……そうか」
実際第四都市の住人はどうすればよかったのだろうか。権力者が悪で都合のいい存在として搾取されていたのは確かだ。
しかし、それにしても彼等はやり過ぎてしまった。
第ニ、三都市に加えて国の英雄の殺害、そして王都の襲撃。
火種は大きくなり国中を揺るがすまでになったのだから。
(第四都市……いや第三都市で止めておくべきだったのだろうな)
第四都市の現状をレオーネは知らなかった。
恐らく国の上層部は臭いものに蓋をする形で情報を止めていたのだろう。もしかしたら一部はギレウスなどと繋がっていたのかもしれない。
故にそれを問題提起する形として第三都市までなら敢えて巻き込むのはアリだとアブソリュートは感じた。
(第四都市の制圧後に不正の証拠を集める。その後第三都市の上層部を殺し市民に不正を暴露して貴族達に不信感を煽り味方につけるといった感じか……穏便に済ませるならな)
ただこの場合、味方につけるべき市民まで巻き込んでいる為それも難しかっただろうが。
そうこう考えながら進んでいると足が止まる。
ここから先には通さないと言わんばかりのバリケード。
そしてブラックフェアリー達が待ち構えていた。
「アブソリュートさんは先行して敵の首領をお願いします。ここは私達が――!」
アブソリュートはその言葉に頷き、風魔法で空を飛んでバリケードを超えていった。
「皆さん、この戦いを終わらせましょう!――突撃!」
レオーネの言葉で騎士達は動き出し、ブラックフェアリー達も死を覚悟しながら特攻していく。
スイロク王国とブラックフェアリー最後の戦いが幕を開けた。
◇
地上の方から喧騒が聞こえ始め、最後の闘いが始まったことを察するブルース。
だが彼は戦闘に参加せず、私室で何やら作業にいそしんでいる。地下にある病室で眠っているイヴィルのために粗末ながらも回復薬を作成していた。
イヴィルの負った切り口は深く、低性能か回復薬だけでは完治できずいる。ブルースを完治したような最上の回復薬があれば話は別だが。
「出来たわ。愛情たっぷりの回復薬。これでイヴィルも目覚めるわ」
急がないと王国軍がここまでやってくる。
イヴィルさえ目覚めればまだ結果は分からない。
最悪彼だけでも逃げてくれればと思いながら、完成した回復薬を持って私室を出て駆け出したその時――
「えっ?」
ブルースの腹から刃が突き出た。
溢れ出る鮮血と激しい痛みがこれを現実だと認識させる。
突然の出来事に頭が回らない。
だが何者かが背後から自分に剣を突き刺さしたのは理解できた。
ブルースは誰が自分を刺したのか確認するために後ろを向く。
「嘘……でしょ? な……んで、貴方達が――」
犯人は予想外の者達だった。
「いや〜、もうこの組織に勝ち目はなさそうですからね。元々ある方の命令で潜入していただけなのでそろそろ本職に戻ろうかと。ブルースさん、今までクソお世話になりました!」
いつも通りの軽薄な口調で語りかけるその姿が今のブルースには異様に映る。
それと同時にどうして貴方達が――という思いが胸の中に駆け巡った。
剣でブルースを突き刺したのは同じブラックフェアリーの幹部の者達。
剣で腹を貫いたのは序列六位ジャック。
後ろでニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている小太りの男は序列七位武器商人のレッドアイだった。
ジャックは貫いた剣をブルースから引き抜く。ブルースは貫かれたダメージにより全身に力が入らずそのまま地に俯せに倒れた。
「私は元々帝国の闇組織から潜入していたんですよ。貴方達のクーデターを成功させ、漁夫の利を頂くために。でも、それも貴方達の敗北で失敗に終わりました。なので、二つ目の目的を果たそうかと」
「二つ目の、目的?」
スイロク王国の次に優先する彼等の目的。
それはブルースの予想を超えるものだった。
「《《イヴィルを殺すことです》》」
「⁈」
(イヴィルを殺す……ですって⁈ )
彼が言い放った目的、それはのイヴィルの殺害。
確かに色んな所からイヴィルは怨みをかっていたがまさか帝国がその命を狙っているとはブルースは思わなかった。
(イヴィルを……逃さなくちゃ……)
このままではイヴィルが危ないと、なんとか動こうとするも血が流れすぎたのか体が働かない。
異様に身体が寒く意識が薄くなってきた。
「おや? もう限界ですか? まぁ貴方にはお世話になったので止めを刺すのは大変心苦しい。どうかそのままお休みください。ではではアデュー♪」
そう言い残すと二人はブルースを置いてイヴィルの元へと向かっていく。
ブルースはそれを見ることしか出来なかった。
「い、イヴィル……」
遠のく二人の背中を見て、かすむ意識のなかブルースは走馬灯のように過去を思い出した。
忌まわしくも美しかった思い出。
ブルースは生まれ時から歪な存在だった。
身体は男で心は女。
自身の認識している性別が身体と異なっていた。
いわゆるトランスジェンダーと言われるものだ。
スラム街のような閉鎖的な環境にてそんな周りから浮いた存在は格好の標的だ。ブルースはストレス発散の捌け口として酷い暴行を受けた。
周りと自分が違うことの何が悪いか。自分はただ生まれてくる性別を間違えただけなのにどうしてこのような罰を受けなければならないのか。辛く苦しい日々を送っていた。
そんなブルースを救ってくれたのがイヴィルだった。
16年前。
当時ブルースがまだ七歳だった頃の話。
スラム街に数ある派閥の一つにブルースは所属していた。派閥と言ってもスラムの端っこを陣取っている十数人の人間が集まっただけの弱小派閥。
人数も力も底辺の集まりだ。
派閥の仲間は困窮している生活でストレスが溜まり、当然そのストレスの発散先は一番立場の弱いブルースに向かう。
「きめぇんだよ! ブルース!」
「ぐっ……」
人はどれだけ底辺に落ちても順位をつけ下のものを虐げようとする。
ブルースより年上の者達が彼をサンドバッグのように蹴り続け、子供相手に容赦のない暴力がブルースを襲った。
ブルースは身を丸め、ただ終わるのを待つしかなかった。
だが、これでもマシな方だ。
もっとも酷かったのは縛り付けられ、ブルースの睾丸が潰れるまでその身に石を投げ続けられたこともあったのだから。
恐らくこれは自分が死ぬまで続くとそう思っていた。
痛みだけが続く時間。
救いのない毎日。
あの時ブルースは確かに地獄の中にいたのだ。
だがそんな中ブルースに救いの蜘蛛の糸が垂らされる。
そう地獄から救い出してくれたのがイヴィルだった。派閥のアジトにバウトと二人で乗り込んだイヴィルはブルース以外のメンバーをあっという間に蹂躙した。
「お前もコイツらの仲間か?っていうか女かお前?」
「……仲間じゃない、奴隷だった」
彼等と同じ目に合うのは御免だとブルースは彼に自分のことを話した。
いや、どこか限界に近かったブルースは誰かに聞いて欲しかったのかも知れない。
身体と精神の性別が違うこと。
それを理由にコイツらから虐げられたこと。
彼は黙って最後まで聴いてくれた。
敵ではないと分かったのか私への攻撃はやめてくれた。制圧を終えた彼等はアジトを出ようとする。
するとイヴィルは振り返ってブルースに言った。
「どうするお前も来るか?」
「えっ? ……でも、私」
こんな私でも言っていいのか。そう伝えると、
「そんなもんテメェで決めろ。テメェの人生なんだ、それに性別くらい好きに自称していいんじゃねぇの?」
初めてそんなこと言われた。
性別に悩んでいた自分を仲間に誘い、こんな自分を肯定してくれるような言葉をかけてくれたことに涙が流れる。
「…………行ぎだい」
「それもお前が決めろ。この派閥はなくなったんだ、お前の《《自由》》だ」
そしてブルースは彼の仲間になった。
彼等と過ごす日々は夢のように楽しかった。
彼等といるとこれまで自分がどれだけ不自由だったかを如実に理解した。
他人の暴力を怯える日々は本当に殺されるのではないかと常に死に怯えていたから。
あれから私は結局性別をどちらかに決めなかった。
女性として生きていきたくても、イヴィルやバルトの足手まといにならないために戦うことを考えるとこのスラムでは決定的な選択はできなかった。
男であり女、そういうどっちつかずの選択をとることにしたのだ。
それをイヴィルに言うとーー
「それもお前の自由だ」
そう言ってくれた。
スラム街という何もない環境でも彼等と居れればそれだけでよかった。
だが幸せな日々は突然終わりを告げる。
イヴィルが突然自分達の前から姿を消した。
これまで何も言わずにアジトを空けることのなかった彼が何日も戻ってこなかったのだ。
私達は懸命に捜索したがついぞイヴィルを見つけることは出来なかった。
急になんの前触れもなく姿を消したことから、もしかしたら人攫いにあったのではないかと仲間内では噂になった。
第四都市を実質支配している『ギレウス』という組織は人身売買をしのぎにしており、スイロク王国にいるレアスキルを持つ子供を他国に売り飛ばしているという話だ。
もしかしたらイヴィルも奴等に捕まり他国に売り飛ばされたのかもしれない。そう考えると不安で堪らなかった。
イヴィルはブルースにとって特別な人間だからだ。
ブルースにとってイヴィルはそれぐらい大きな存在になったのだ。
初めて自分を否定しなかった人。
辛い環境から自分を救い上げてくれた恩人。
そして――初めて好きになった人。
イヴィルはそれから十年程経って帰ってきた。
背は伸び、身体も逞しくなったがその顔にはかつてのイヴィルの面影を感じた。
「イヴィル、今までどうして――⁈」
言葉を投げかけようとしてが、イヴィルの憎しみに満ちた顔つきを見て何も言えなくなってしまった。
「仲間を集めろブルース。ギレウスを潰すぞ」
私はその一言で彼に何があったのか悟った。
私は何も言わず彼の言う通りに仲間を集め、『ブラックフェアリー』を結成した。
そして力を蓄えた後にギレウスを潰した。
リーダーは逃したが実質これでブラック・フェアリーはスラム街の支配者になった。
これで街が平和になると誰しもが思った。
だがイヴィルはそこで止まらなかった。
ギレウスの次はスラム街を出て第四都市をものにし、そしてイヴィルはあろうことか国を相手に敵対した。
そこで私達は彼の憎しみの深さを知った。
彼の憎悪は国を揺るがすまでになったのだ。
何度か彼を嗜めようとする者もいたが、彼はその度に見せしめのように大勢の前でその者を痛めつけた。
凄惨に苛烈に何度も責め苦を味合わせ、それを見せつけられた者達はいつしか彼に忠言する事はなくなった。
イヴィルは組織を恐怖で支配したのだ。
彼は変わった。
かつての自由を愛する彼はいなくなったのだ。
それでも私は彼について行った。
例え変わっても、あの日私を助けてくれたのは紛れもないイヴィルだから。
今でも胸を熱くしてくれる言葉をかけてくれたから。
私は彼を愛しているから。
それだけで命をかけるに充分だった。
例えその先に道がなかったとしても。
「お願い………………生き……………て」
視界が黒ずんでいき痛みも次第に感じなくなっていた。
イヴィルを安じる言葉を最後にブルースは意識を手放した。
♢
王国軍とブラックフェアリーの最終戦が開幕している中、ようやく一人の男が目を覚ました、
そう、長い眠りからイヴィルは意識を取り戻したのだ。
「つうっ!」
上半身を起こし身体を見ると全身に包帯が固く巻かれ、傷口は縫ってあるようだった。
まだ切り裂かれた痛みが残っている。
あまりに深い切り傷はただの回復薬では完治できなかったのだ。傷口を粗雑ながらも懸命に縫いあわせ、片時も惜しまず看病を続けてくれた者がいたからこそイヴィルは目を覚ますことができたのだ。
辺りを見渡すとスラム街のアジトの部屋だと気づく。
「俺は彼奴に負けたのか……」
自分の目の前に立ち塞がった赤い目のガキの顔を思い出す。
そこでようやく自身が敗北したことを悟った。
自覚したら頭に血が上り、怒りで頭がおかしくなりそうだった。
「糞が! あの後、どうなった? おい! ブルース‼︎ 誰か部屋に来い」
ベッドの上で叫ぶ。
どれくらい寝ていたのか?
あの後どうなったのか?
考えることは山積みだった。
バタバタと外から誰かが向かってくる音が聞こえ、その後勢いよく扉が開かれた。
「遅えぞ! 何してやがっ――⁈」
扉を開けた者は味方ではなかった。
怒鳴りかけるイヴィルに向かって数本の短刀が投げられる。イヴィルは咄嗟に腕を十字にクロスしてそれらを急所に刺さるのを防いだ。
「ッ⁉︎」
短刀はイヴィルの腕に突き刺さりベッドの上に血が流れる。イヴィルは攻撃した人物を睨んだ。
「テメェ……生きてやがったのか、ジャック」
イヴィルを攻撃したのは剣聖に殺されたはずの幹部。
ブラックフェアリー序列六位無音のジャックの姿がそこにはあった。
おかしい、彼は剣聖に首を撥ねられ亡くなったはずだった。しかし彼は実際に目の前にいる。
だが撥ねられた首は大きな縫い目が確認でき、それは彼が一度死んだことを意味していた。
そうレッドアイは剣聖の他にも、ジャックの遺体も密かに回収し彼もアンデッドに変え、使役したのだ。
対イヴィルの戦力として。
「いやいやいやいや、隣! 隣! 私もいますよっと。おはようございますボス。寝覚めの挨拶はいかがでしたか?」
そして彼の横には同じく幹部のレッドアイの姿があった。ボスである自分に向けての挨拶がこの攻撃というのはいささか冗談がすぎる。
喉と心臓に鳩尾。
急所に向けて三ヶ所。
間違いなくこちらの命を奪う目的の攻撃だったのは明白だ。
イヴィルはレッドアイを睨んだ。
「テメェついに裏切ったのか?」
「裏切ってはいませんよ。初めから味方ではありませんでしたから。その言い方からしてボスも薄々気づいてはいたのですね。感心、感心」
レッドアイは帝国から武器を輸入し、イヴィル達に破格で下ろしていた。ブラックフェアリーのメンバーは数千人を軽く超える。それだけの数を闇組織に売るなら何かしら帝国側からアクションがあると思っていたがそれもなかった。
ということは帝国側にバレないよう細工した奴がいるということだ。それなりに力と権力のある誰かが。
「はっ、俺はハナから誰も信用してはいねぇよ。テメェのような豚野郎は特にな。どうせあの《《ゾンビババア》》のパシリだろ?」
イヴィルの脳裏に浮かぶのは赤い瞳を輝かせる漆黒の魔女。
『カラミティ・ノワール』の姿だった。
レッドアイはそれを肯定するように笑みを浮かべながら話を続けた。
「そこまで分かっているなら話は早い。私の目的は《《裏切り者》》である貴方の始末です。理由はお分かりですね」
「……知らねぇな。俺は彼奴の仲間になった覚えはねぇ」
「この状況なのに、その太々しい態度を取れるとは素直に尊敬しますよボス。最後に聞きますがノワール家に戻ってくるつもりはありませんか? 貴重な精霊使いを私たちも手放したくはないのですよ」
最期の通告。
これを受け入れなければ、今のイヴィルでは彼等に殺されるだろう。
だがイヴィルは腕に刺さった短刀を強引に引き抜くとベッドから起き上がり、立てかけてあった剣を手に取った。それは彼に戦意が失われていない証拠だった。
レッドアイに向けイヴィルは中指を立てて言い放つ。
「誰に口聞いてやがる。くたばれ豚野郎」
危機的な状況にも関わらず傲岸不遜なこの物言い。
弱みを感じさせないその振る舞い。
その姿は一国を敵に回した悪に相応しいものだった。
それ故に惜しいとレッドアイは思う。
もしイヴィルがここで頷いてくれたらと思わずにはいられなかった。
断られたなら仕方ないと残念そうに決断する。
「…………そうですか。ではお別れです、すぐにブルースさんや他のお仲間の元まで送って差し上げます。これまでお世話になりましたボス」
そうしてレッドアイは右手を上げ合図を送る。
攻撃の合図だ。
ジャックとレッドアイの連れてきた数人の腕利きがイヴィルを襲った。
レッドアイの手下達が一斉にイヴィルに襲い掛かる。
剣を構えたものの、今の自分にアイツらに抵抗するだけの力はなかった。全身が鉛になったかのように重く、思うように動かない。傷口から血が滲み、巻かれた包帯が赤色に染まっていく。
正直立っているだけでやっとだった。
それでも彼が抵抗しているのは誰にも俺は屈さないという気持ちの表れだった。
相手に奪われてばかりの最悪な人生だった。
そんな人生で終わっていいのか?
駄目だ……俺は俺を縛るしがらみから抜け出し自由に生きると決めたのだ!
『自由になりたい?』
どこかで聞いたような声が聞こえた。
絡みつくようなねっとりした声音だ。
自由になりたいに決まっているだろ。
『なら私を受け入れて? 一つになりましょう』
怪しい内容だが何故か疑う気になれない。
そうすれば自由になれるのか?
『貴方次第よ』
どうせこのままでは俺は死ぬ。お前を受け入れる、だから俺を自由にしろ。
『契約は完了したわ。じゃあ貴方の身体、《《貰うわね》》』
次の瞬間、イヴィルの身体に巻きついていた鎖が勢いよく飛び出し口からイヴィルの身体の中に入っていく。
目の前には迫り来る敵。
彼等の攻撃が自身に降りかかるのを感じながらイヴィルの意識はそこ途絶えた。
皆さま、おみくじは引きましたか?
まさこりんは一昨年くらいに凶が出たため引くのをやめました。
一年の始まりに凶は本気で凹むので入れないで欲しいです。
書籍第三巻の予約が始まりました!
発売日は一月三十一日になります。
見どころは久しぶりに二巻で出なかったキャラがたくさんでます!
新キャラも勿論います!
ようやく書けたシーンもあったので作者はとても満足しております。
あらすじは一部公開しておりますので気になる方は下記のURLからお願いいたします。
よろしくお願い申し上げます。
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コミカライズ第二巻も発売中です。
是非よろしくお願いします!
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