光の剣聖VSイヴィル 1
時を同じくして話しはブラックフェアリーに移る。
第二都市にボスであるイヴィルは既に潜入していた。今回の相手はただ者ではない。
国を守る騎士団に、救国の英雄である光の剣聖。
数で劣るイヴィル達は戦力を分散して第二都市を落とすことにした。
イヴィルは少数で敵の中枢を壊滅させ、残りの全兵力で中へ入れさせまいとする王国軍を撃破する。
王国軍の主戦力は第二都市の入り口に集中しているために中は比較的手薄になっている。そう考えてのことだ。
数人の黒装束を纏った部下を連れ、潜り込んだのは都市の中でもっとも目立つ建物。領主の住む屋敷だ。
第三都市で暴れたのは自分達の力を民衆や貴族に誇示するため。
民にまで手を掛ける無法者に対応するために王国側は都市の内部と外部、両方に兵を割かねばならなくなると読んだからだ。
屋敷の前には警備をしている兵士が六人。
門の前に一列に立っている。通常よりも遥かに多い警備体制。これは絶対に屋敷には入れさせないという領主の意志の現れだった。
「ジャック」
「ここに…………」
名を呼ぶと黒装束の中の一人がイヴィルの前に傅く。
彼の名はジャック。
ブラックフェアリー序列六位『静寂のジャック』だ。
イヴィルはジャックの胸ぐらを掴み、自分に眼前に引き寄せると射殺すようなまなざしを向け彼に命じる。
「一人で屋敷にいるやつ全員殺してこい」
それは死刑宣告のようなものだった。
厳重に警戒されているなか、一人で相手をしろというのだ。だがそんな命令でも命じられた彼は動じていない。
「御意」
短く返事をすると彼は一瞬でその場から消えた。
それは、かつて帝国を震撼させた最悪の殺人鬼が解き放たれた瞬間だった。
♢
かつてスイロク王国に隣接するアースワン帝国には暗殺専門の闇組織が存在していた。
『アサシンギルド』
多額の報酬と引き換えに暗殺をこなす集団だ。
友人、恋人、要人、貴族、彼等の依頼に制限はなく依頼されれば誰でも殺すことで恐れられている。
だが、依頼された標的は誰でも殺すが、それ以外は絶対に殺さない。
それは彼等が殺人鬼ではなく暗殺者だからだ。
一般人からすればどちらにも違いはないと思うかもしれない、それは死をもたらす者に変わりないからだ。だが両者の違いは存在する。
殺人鬼と暗殺者の違い、それは理性の有無だ。
暗殺者はターゲット以外を基本的には殺さない。証拠に残るような物を極力残さないためだ。彼等には自分を律する理性がある。
だが殺人鬼は違う。彼等は腹を満たすように理由もなく人を殺す。自分を律することも他者を慮ることもしない。己の欲に正直な純粋悪、それが殺人鬼だ。
『アサシンギルド』は暗殺者達の組織であり、ターゲット以外の殺人は禁止されている。それは彼等が殺人鬼ではなく暗殺者としての矜持を持っているからだ。
数年前、『ジャック』と名乗る彼もかつてその組織の一員だった。
彼が組織のルールを犯すまでは――
ある日、アサシンギルドに入ったばかり彼はとある依頼を受ける。それはある貴族を殺して欲しいというものだった。
ターゲットは男爵家の三男。
依頼人の恋人を傷つけた恨みを晴らしたいそうだ。
ありふれた依頼。そこまで難しくもないことから彼は一人で依頼をこなすことになった。
だが、それが悲劇の始まりだった。
とあるパーティー会場にターゲットはいた。
二十三名の貴族が参加した小規模のパーティーに彼は潜入し、そして会場にいた全員を皆殺しにした。
現場の第一発見者は語った。
遺体はすべて腕、脚、頭部、腹部、胸部とバラバラに解体されており、誰のどの部分だったのか分からないほどだった。それほど無残な形で散らばっていたという。
ジャックという男は暗殺者の皮を被った殺人鬼だったのだ。
この事件は当時帝国中を恐怖で震え上がらせた。
この一件で目立ちすぎた『アサシンギルド』は帝国軍によって討伐され、メンバーの全員が晒し首となり処刑された。
ジャックという男を除いては――
その後、彼は居場所を転々とし、ブラックフェアリーという組織に巡り合い今に至る。
彼等の目的である国家転覆に興味はないが、その過程にある闘いにジャックは惹かれた。
ジャックの目的は自分の殺人欲求を満たすこと。
国を守るために闘う崇高な騎士達を自分が殺していくことを想像しただけで高揚した。彼は戦場という狩場で遊ぶことしか考えていない生粋の殺人鬼なのだ。
話は戻り一人で領主の屋敷を責めることになったジャック。
入り口である領主の屋敷の門には六人の兵士がいる。
周りにある塀の高さは三メートルもないため、元暗殺者である彼は塀を飛び越え潜入できる。わざわざ入り口から入る必要もないが、彼の欲求は我慢の限界にきていた。
手始めに彼等から殺していくことにする。
元暗殺者のジャックは気配を消し、夜の闇に紛れて兵士に近づく。兵士達の頭上、門の上にジャックはいる。
ジャックは自身のスキル【鋼糸】を使い、指先から細い糸を拡散する。糸はまるで意識を持っているかのように複雑に兵士達に絡まっていく。兵士達はこの糸にきづいてない。
ジャックが手で空中を裂くような動きをした瞬間――
ビシャァ!
ゴトリ。
一瞬で絡みついた鋼糸が肉に食い込み、兵士達の身体がバラバラとその場で崩れていった。
久しぶりの快感に体が震える。
殺人を行う背徳感と、これから行うことへの期待が堪らなかった。
ジャックは兵士の死体から鍵を抜き、正門の扉を解除した。
あとのイヴィル達が入りやすくするためだ。
近くに人がいないことを確認すると敷地内へと入っていった。
速やかに探索する。
近くに人がいないことを確認して、使用人達が出入りする裏口の扉を開錠して中にはいる。足音を立てずに中を移動しながら目に入った騎士を先程の要領で殺していく。だが、細切れにすると鎧が落ちる音がするため、首に糸を何重にも巻きつけてそのまま体を空中に釣り揚げ窒息死で始末していく。
楽しい。
この緊張感の中でやる殺人に興奮した。
室内という、自分がもっとも有利にやれる環境さらに拍車をかけ、彼の心が躍る。
あらかた屋敷にいる人間を殺し尽くし、目的である領主の部屋にたどり着いた。
扉に耳を当てると中に人の気配を感じる。
目標がいるのを確信した。
迷いなく扉のノブに手をかけ中に入ろうとするーー
「?」
視界が逆転した。気づけば自分の身体と首が切り離されていたのだ。
開けられた扉の向こうにいる人物を確認する。
白銀の鎧を身体に纏った男が部屋の中で剣を抜いていたのが見えた。その姿は鎧が月明かりに照らされ、神秘的に輝いて見えとても美しかった。
「光の……」
ああ、これは仕方ないか。と納得する。
英雄に殺されるなら仕方ないと満足し、殺人鬼は息を引き取った。
♢
夜から少し街が明るくなり、朝日が登り始めた。
ジャックが潜入して暫くした後、イヴィル達は裏口にある使用人の通用口から屋敷に潜入した。屋敷内はジャックが殺ったであろう死体で溢れている。
内通者からの情報を頼りに領主の部屋を目指すイヴィル。
しばらく屋敷内を歩くと目当ての部屋にたどり着き、足を止めた。
その部屋の扉の前には首を切断されたジャックの死体があった。
恐らくこの部屋の中にいる誰かに殺されたのだろう。部屋の外からでも分かるほどの殺気が室内から漂っていた。
「開けろ」
自分で開けるには危険と判断し、手下に命令して扉を開けさせる。
すると――
「はえっ……」
ゴトリッ
目にも止まらぬ攻撃にて扉を開けた瞬間、手下の首が切り落とされたのだ。
(やはり狙ってやがった)
「手ごたえはあったが……ハズレか」
開けられた扉、その先に見えた部屋にいたのは、顔をスッポリと覆うヘルムに白金の鎧を纏った人物。そして手には刀身が眩いほどに光輝く剣を持っていた。
その姿を見てその場にいたイヴィルも含めて驚愕の表情を浮かべる。
「テメェは……なんでこんな所に引っ込んでやがる」
「後方待機が任務ゆえ」
敵はこの国の人間ならば知らないものがいない傑物だ。
白金の鎧を身に纏い古強者のような静かな殺気を放ち、握られた剣は魔力が可視化するほど光りを放つ固有魔法の宿った【宝剣ジュピター】。
スイロク王国最強のレベル60にして切り札。
その名は――光の剣聖アイディール・ホワイト。
「まさか最強の手札を豚共の護衛に回すとはな。なんという愚策だ……そう思わないか? 光の剣聖」
「私は剣だ。持ち主の命に従い敵を打つただそれだけだ。それに若い芽は着実に育っている。賊などに負けはせん」
嘲るように投げられた質問を動じることなく切り捨てる剣聖。
取り付く島のない様子にイヴィルは軽口を止め、表情も空気も戦闘モードへと入る。
(剣聖がいたのには驚いたが考えようによっては悪くはない。向こうには雑魚しかいないってことだからな)
イヴィルは腰に帯刀してある剣を抜き構える。
控えていた部下を下がらせた。
「いいぜ一対一でやろう。空間の勇者を退けたその腕前、見せてみろ」
イヴィルは光の剣聖に一騎打ちの申し出る。
その申し出を剣聖は迷いなく了承する。
「いいだろう。剣聖アイディール・ホワイト――推して参る」
「ブラックフェアリー序列一位名はイヴィル。絞め殺してやる豚野郎」
互いに名乗りを上げ戦闘が始まるかと思いきや互いに動く気配はない。
イヴィルは神経を研ぎ澄ませ相手の出方を伺う。
剣聖も動く気配がない。どうやら先手をくれてやるつもりのようだった。
(後悔するなよ。その余裕が生命とりだ)
『幻惑の精霊』
イヴィルは両目に宿している精霊の力を発動させる。
『幻惑の精霊』は相手と自分の目が合った時、相手の精神に干渉する能力を持っている。
そして相手の精神の中で、その人物が最強と思う敵を再現してトラウマを呼び起こし精神を破壊する。
強力な初見殺し。
イヴィルはこの技を【死戦場】と読んでいる。
この技の特筆すべき点は、幻術をかけるハードルの低さにある。通常、幻術を相手にかけるならいくつか達成すべきプロセスがいる。
だが、この技は対象者と目を合わせるだけ。プロセスを無視して発動するため、この技は強力な初見殺しなのだ。
「はっ‼︎」
掛け声とともに剣聖に向かって距離を詰める。
そして剣を振るうのではなく剣聖めがけて投擲した。
剣聖は投擲された剣を難なく宝剣で振り払うが、予想外の一手に一瞬振り払うのが遅れてしまっていた。
(もらった。【死戦場】)
距離を詰めたイヴィルは兜の奥にある剣聖の顔を覗きこむようにして目を合わせる。
だが顔を覗きこんだイヴィルは驚愕した。
「嘘だろ……コイツ、目を瞑ってやがる」
剣聖は初めから目を瞑っていた。
まるでこちらの思惑を見透かしているように。
「私のスキルは【気配感知】。目を瞑っていても気配だけで戦える。さて来ないのなら次はこちらの番だ。『染め尽くす白』《ホワイトアウト》」
剣聖の宝剣から魔力による斬撃が放出される。
屋敷全体を白い光で埋め尽くす強力な一撃がイヴィルを襲った。
剣聖の解き放たれた魔力が込められた一撃が、部屋を、屋敷を白い光の魔力で埋め尽くし部屋にあるものすべてを蹂躙した。
アイディール・ホワイト
45才
スキル
・気配感知 v8……相手の気配、動きを感知できる。
ステータス
レベル :60
身体能力:220
魔力 :25
頭脳 :54
固有魔法『チャージ』……宝剣ジュピターに宿った固有魔法。装備した者にのみ使用可能。容量に制限なく魔力を溜めることができ、自由に放出できる。
習得魔法
なし
技術
剣術 英雄 拳法 逃げ足
書籍第2巻が4月30日(火)に発売します。
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