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スイロク王国 1

 道中でトラブルはあったものの、レオーネとアブソリュートは無事にスイロク王国の王都へ辿り着くことができた。

 王城へと向かう最中、アブソリュートは馬車の窓を開け、時折り潮風を感じながらこれから起こるイベントを記憶の中から探っていく。



 『ライナナ国物語 第二巻:硝子の王女』


 勇者と共にスイロク王国へと帰還したレオーネ王女は、指揮官として賊の討伐の任務を任せられる。

 勇者達一向と共に賊へと立ち向かうレオーネ王女。

 しかし、敵はあまりにも強大な力を持っていた故に敗北をきしてしまう。

 混沌とした戦場の中でレオーネ王女を逃がすため、次々と命を落としていく騎士達。

命からがらなんとか生還するもその代償は大きく、大都市一つ。そして、多くの味方と尊敬する恩師を亡くしてしまう。

 自分のために死んでいった者達を想い心が折れかけているレオーネ王女。そんな彼女を鼓舞し、再び剣を握らせる勇者。

 再び相対する敵。迫り来る敵を機転によって撃退に成功する勇者達。敵将を倒し、勢いを取り戻すと、そのまま奪われた都市の奪還を試みる。

 だがここで鬱イベントが発生。レオーネ王女に究極の決断を迫られる。

苦渋の末に決断をするも、その結果レオーネ王女は守ってきた国民に石や心のない罵声を浴びせられてしまう。

懸命に戦ってきたレオーネ王女の心はこの戦いの中で硝子のように儚く、脆くなっていた。この心ない仕打ちによりレオーネ王女は心が折れ、剣が握れなくなってしまう。

 そんな王女の代わりに敵を死闘の末撃退する勇者。

 この一件で、勇者一行も『救国の勇者』として全国に名を上げる。

 その反面、レオーネ王女へのあたりは厳しかった。国民は王女をあろうことか、戦犯のごとく中傷し、攻めたててきたのだ。

結果、国に居場所を失った彼女は大陸を渡り他国へ嫁ぐことになる。


『ごめん。君を助けることが出来なかった……』

『いいえ、国を救ってくれただけで充分です。ありがとう勇者アルト』


 会話はするが出てくる言葉に感情が感じられなかった。取り返しのつかないぐらい彼女は壊れてしまったのだ。


(違う……俺は国ではなく君を助けたかったんだ。なのになんでこんなことに……)


 悪によって全てを失ったレオーネ王女の門出を見送り勇者は決意する。

 必ず悪は滅ぼすと。



 こんな感じだったか?

 いや、勇者はもっとアホだった気が……あぁ、原作の勇者はわりかしまともだったな。

 私が介入したせいで勇者はIQが下がりまくっているんだった。

 

 それにしても結構重めの話が続くんだよなぁ。

 いやだなぁ帰りたいなぁ。

 でもほっとくとヤバいのは確かなんだよな。

 水の都と言われるスイロク王国。大きな港を生かした流通が盛んな国だ。それゆえにこの国が落とされると周辺国ならびに私のいるライナナ国にも経済的被害が及ぶ。

 やるしかないかぁ……。

 再度覚悟を決めるアブソリュートだがその気分は重いままだった。


「着きましたよ。スイロク城です」

 交渉屋の声に思考を戻し、改めて決意を固めたアブソリュート。

 馬車を降り、城の中へと歩を進めた。


 

 アブソリュート達は城内に入るとそのまま客室に通され、国王代理を待った。

そこに別で到着したレオーネ王女が顔を出す

「兄を呼んできますから、待っていてください」


 レオーネが退室し、部屋には椅子に座って待つアブソリュートと後ろで控えているウルと交渉屋の三人が残される。


「アークさんちょっと聞きたいことがあるんですがいいですか?」


 少しの間を置いて珍しく交渉屋からアブソリュートに声をかけてきた。

 交渉屋はアブソリュートを内心嫌っている。アブソリュートの『絶対悪』のスキルの影響に加え、自分を縛り付けている張本人なのだ。自分から声をかけることなどまずない。

 そんな人物からの質問だが別に断る理由はない。


「なん――」

「駄目なの。今すぐその臭い口を閉じるの。下っ端」

「………………」


 交渉屋の問いをする前にウルが拒絶し話を終わらせにかかる。獣人は自分より下だと思っている相手には容赦ないのだ。


 (辛辣で草)


「酷い……」

「ウル、別に構わない。言ってみろ交渉屋」


 さすがに不憫なので助け舟をだす。

 上位者であるアブソリュートが許可したためウルも拒絶の言葉を出さなかった。


「言ってみろなの。下っ端」

「ありがとうございます。今ってスイロク王国は王太子が治めているんですか?」

「一応王位継承権一位だったからな。順当なところだろう。下には留学で国を離れていたレオーネと、まだ八歳の王子しかいない。それと、王太子様だ。お前は使用人だろ? 口の聞き方に気をつけろ」

「失礼しました。それで王太子様ってどういう人なんですか?」

「お前スイロク王国出身じゃなかったか? 私より詳しいだろ」

「いえいえ、確かにその通りですが私は汚らしいスラム街の生まれですから。こういった煌びやかな世界のことは分からないのですよ」

「優秀な人物らしい。人柄も良く、当たりな方の王族だ」

 スイロク王国国王代理シシリアン・スイロク。

 正式な継承をまだ終えていないため、代理となっているが実質この国の統治者だ。

 交渉屋に話した通り、頭がまわり非常に優秀な人物だと言われている。だが、その反面非常に体が弱いという欠点もある。


(この世界では体が弱いと言われているが、原作を知っている私の認識は違う。シシリアンは大病を患っている。それもかなり重病のだ……)


 コンコン。

 会話もそこそこに扉からノック音がしたのち、レオーネと車椅子に座っている青年。それを押す女性が中に入る。先ほど会話の話題となっていた人物、この国の現統治者――


「お待たせしました。スイロク王国国王代理シシリアン・スイロクです。よく来てくれたアーク卿」



 シシリアンとレオーネはアブソリュートの向かいの席に座り、車椅子を押していた女性は彼らの後ろに待機している。


「私はシシリアン・スイロク、レオーネの兄だ。話は聞いている妹が世話になったね。そして後ろにいるのは私の婚約者であり、秘書のビスクドール・ズィーだ」


 シシリアン・スイロク。

 海の底のような深い青色の長髪に、まだ描く前のキャンパスのように白い肌の男だ。一見平然としているようにも見えるがよく観察すると目は充血し白い肌は顔色を隠すために化粧をしているのが分かる。


「よく来てくれたね、アーク卿。スイロク王国は君を歓迎するよ」


 人好きのする笑みを浮かべながらシシリアンはアブソリュートを歓迎した。

 アブソリュートのスキル『絶対悪』の効果を受けても決して友好な態度を崩さない。ライナナ国のミカエルとは違う完成された王族だ。


「いきなり応援を求められて驚いただろう? 昔ヴィラン殿にはお世話になってね。今回はその縁を辿ったわけだが……まさか御子息が来られるとはね」

「………………」


(遠回しに『お前なんで来た?』って言ってるのか。まぁ、気持ちは分かるよ)


「アーク家当主は別件で国を出ている。知らせを聞く限り早急な対応が必要だと判断し代理として私が来た」

「迅速な対応痛み入る。だが、アーク家の兵士は見当たらないが?」


 痛いところをつく。

 本来なら兵を伴って出陣するのがセオリーだが、今回は最初の人質イベントからレオーネを救うため、兵士を集める時間を惜しんで強行したのだ。


「必要がないから連れてきていない」


 とりあえずそう誤魔化すしかなかった。

 さすがにキレるかと思ったがシシリアンの態度は飄々としたものだった。


「……そうか。さすがアーク家、自信家だね。頼りにさせてもらうよ。さて、来たばかりで悪いのだけどこれから内乱鎮圧に向けての会議を行う。君も参加してくれ」


 どうやらポジティブに捉えてくれたようでこれ以上の追求はなかった。


「了解した」


(とりあえず顔合わせは終わったな。後は会議に顔出して、戦場へ行ってブラックフェアリーを討伐する。これで鬱イベントは回避できるかな?)


 会話を終えアブソリュート達はレオーネとシシリアンと共に会議が行われる間へと向かった。

 これまで順調にイベントを回避してきてどこか緩みをみせるアブソリュート。

 ――しかし、この後に災難が待ち受けていることを彼はまだ知らない。




  

 



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akuyaku  書籍第三巻予約開始です。発売日は1月31日です。  よろしくお願いいたします。 akuyaku  夏野うみ先生が描くコミカライズ版第2巻発売中です。 コミカライズ化されたアブソリュートを是非見て下さい!   
― 新着の感想 ―
何度か読み返して楽しんでます。 最後の行 > ――しかし、この後に災難が待ち受けていることを彼はまだ知らない。 > だ」 の『だ」』って消し忘れかなにか誤字扱いですか? 完全消去は誤字報告として報告…
[良い点] ウルが絡んで交渉屋の質問あたりが軽くなってますけど、『スイロク王国出身のスラム育ち』ってブラックフェアリーとの関わりがあったり思想に影響があったりしてもおかしくないですよね……ハラハラです…
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