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クリスグループ

【クリスside】

 

 クリス達Bクラスのアーク派閥グループも夜に森の中を彷徨くのは危険と判断して野営の準備を進めていた

 テントを張り終え、夕食を食べ終える。 

 クリス達は焚火を囲んでまったりとした時間を過ごしながら、今日の事を振り返るように会話をしていた。

 そんななか、木々の向こうから誰かがやってくるような気配がした。

 

 クリス達はさっき迄のなごやかな空気とは一変し、張り詰めたものに変わる。

 警戒するクリス達の前に現れたのはまるで舞踏会にいるかのように髪を巻いているこの場には似つかわしくない高貴さを纏う少女だった。

 

「貴方は……ゼン家のクリスティーナ様ですね?」

 

 初めに切り出したのはクリスだ。

 

「ご機嫌よう、アーク派閥の皆様。ええ、私はAクラスのクリスティーナ・ゼン。こんな所で奇遇ですね」

 

 クリスティーナは優雅にお辞儀をして答える。

 ゼンと言えば上位貴族の公爵家であり当主はライナナ国の宰相を務めている家だ。クリス達は上位貴族相手にあまり良い思い出がないので警戒心が高まる。

 

「初めまして、このグループの代表クリス・ホセです。ゼン公爵家の方が一人で一体何の御用でしょうか?」

 

 まさか闇討ちということはないだろうが、いきなり上位貴族の令嬢が一人でアーク派閥である自分たちの元に現れたのだ。警戒しないわけにはいかない。

 

「そう警戒しないでいいわよ、ホセ。ただ近くを散歩していたら友人の傘下の者達がいたから声をかけただけよ。他意はないわ」

「魔物がいる森を一人で散歩ですか、それはそれで怪しいと思うのですが……それに友人? レディやオリアナのことですか」

 

(Aクラスにいるアーク派閥ならレディやオリアナが妥当だけど、見た感じ二人と相性は悪そうだ。レディは計算高い女、クリスティーナ様はガツガツいく女みたいな感じで正反対の性格だ。オリアナは自他ともに認める陰キャラだからクリスティーナ様のような派手で我の強そうな人とは口きかないだろうし、もしかしてミストかな?)

 

「いいえ、アブソリュート君のことよ」

 

 シーーーーーーン

 

 アブソリュートの名前を出した瞬間空気が凍りついたかのように静かになり、クリス達の警戒心はMAXになる。

警戒した理由は一つ――

 『アブソリュートに友達が居るはずがない』

 

 アブソリュートのスキル【絶対悪】は周りの人間全てに作用する。あの嫌悪感を上回るほどの感情を抱ける人はそういない。それに傘下である自分達さえ友人認定されているか怪しいのに、あの心の壁の厚いアブソリュートに友人がいるはずがないのだ。

 

「嘘ですね。アブソリュート様からは貴女の事を聞いた事は一度もありません。本当の目的はなんですか? あんまりしつこいとアブソリュート様を呼びますよ」

 

 まるで警戒心の強い女が何かあるとすぐ警察を呼ぼうとするかのごとく、最終手段であるアブソリュートを呼ぼうとするクリス。

 

「……そんな理由で呼んだら怒るんじゃない、彼? 後、本当に友人よ? 空いてる時間とかよく話をするしとても仲良くさせてもらっているわ」

 

 クリスティーナの発言に間髪入れずに突っ込むクリス。

 

「嘘ですね。アブソリュート様は休み時間は本を読んだりして、ゆっくり過ごしたい感じの人なんです。貴女に口を開く筈がありません!」

 

 クリスはある意味でアブソリュートの一番の理解者である。裏の国防に携わる事意外はほぼアブソリュートのことを把握している。誕生日に好きな食べ物から休みの日の過ごし方、屋敷の使用人の名前までしっかりとリサーチしているのだ。余念がないアブソリュート様ガチ勢だ。

 

 実際、クリスの言っている事は当たっている。アブソリュートは何かと絡んでくるクリスティーナを初めは無視していたがあまりにもしつこいので嫌々対応しているのが現状である。

 

「本当なのに……まぁいいわ、別の目的があるのも事実ですしね。貴方達の口からアブソリュート君の事を知りたいのよ」

 

 クリスティーナの目的を知りクリスの目が鋭いものへと変わる。

 

「アブソリュート様が言わない事を私達に話せと? そんな簡単に口を割る奴アーク派閥にはいませんよ」

「そうじゃないわ。貴方達から見たアブソリュート君の事を知りたいのよ。彼あまり自分の事を喋らないじゃない?」

「アブソリュート様は寡黙な方です。ペラペラと自分を吹聴して回るような人ではありませんよ。質問を返すようで申し訳ないですが何故アブソリュート様について知ろうとするんです?」

 

 クリスの問いにクリスティーナはクスリと笑みを浮かべて答える。

 

「ふふっ、単純な理由よ。彼がどういう人間かを見極めるためよ」

「見極めてどうする気ですか?」

「どうもしないわ。私は友人としてライバルとして彼のことを知りたいだけよ。それで納得して貰えないかしら?」

 

 彼女の話を聞きクリスは考える彼女が信用できるかどうかを。

 クリスが考えをまとめていると、後ろに控えていた同じグループの獣人の女子がクリスティーナの目の前に立つ。

 

「おいおいっ‼︎ さっきから黙って聞いていたら、見極めたいからボスについて話せだぁ? 舐めた真似してんじゃねぇよ、テメェなんのつもりだ、ぶち殺すぞっ!」

 

 この粗暴な口調をしているのがアブソリュートに次ぐアーク派閥の問題児、ウリス・コクトだ。虎の特徴である鋭い爪と黄と黒の耳を併せ持つ獣人の彼女はかなり喧嘩っ早い性格をしており、あの器の大きいアブソリュートでさえたまに眉を顰めるほどだ。自分より爵位の高い貴族相手に平気に殴りかかるし、教員にも噛み付く問題児だが戦闘面に関してはAクラスにも劣らない頼りになる存在だ。

 

 ウリスの実家コクト家は『蟲』という闇組織を運営しており、その上にアーク家がいるので彼女はアブソリュートのことを尊敬の意を込めてボスと呼んでいる。

 

「ちょっと! ウリス落ち着いて!」

 

 クリスは何とか彼女を落ち着かせようとするが一度スイッチの入ったら止まらないのがウリス・コクトだ。

殺気ビンビンでクリスティーナに近づく。

 

「……貴女は確か以前ウチの派閥の者を痛めつけてくれたウリス・コクトね。噂に違わぬ狂犬ぶり……いや狂猫ね。貴女本当に貴族なの?」

 

 クリスティーナの言葉に額に青筋を立てたウリスは彼女の胸ぐらを掴み、凄むように睨みつける。

 

「テメェさっきから喧嘩売ってんだろ……あーしはなぁ、同じ派閥でもねぇのにボスに付き纏う奴とあーしを猫扱いする奴には容赦しねぇぞ」

 

 凄むように睨みつけるウリスに対して毅然とした表情を崩さないクリスティーナ。

 一触即発の空気に外野の者達は息をのむ。

 

「猫ちゃんその手を離しなさい。アブソリュート君の派閥に手荒な真似はしたくないけど、そっちがやる気なら私も上位貴族として格の違いを見せつけなければならないわ」

「やってみろよ、糞女」

 

 二人は睨み合い空気が張り詰める。

 クリスは睨み合う二人の間に入って、何とか二人を仲裁しようと試みる。

 

「ストーーーップ! 二人共落ち着いて……」

 

 クリスは勇気をだして止めに入るがその声は届かなかった。

 

「皆! 魔物がきた‼︎ 準備して」

 

 見張りをしていたグループのメンバーが魔物の襲来を告げる。

 爆発寸前だった空気が魔物の襲来で一変する。 

 クリスティーナやウリスも睨み合うのを止めて臨戦体制に入った。

 

「チッ! 先に魔物から片付けるか……それで魔物の数は?」

「とにかく沢山! いきなり現れて既に私達囲まれてる」

 

 ウリスが辺りを見まわすと確かに魔物の大群に囲まれていたのだ。

 

「ああん? どうなってんだ?」

 

 いきなり現れた魔物の大群に驚くウリス達。

 

(見張りが気づかず魔物の大群が現れるなんてあり得るか? それにこの数、これは非常事態だ)

 

 クリスは現状を非常事態と判断して空に魔法を打ち上げた。

 

「非常事態と判断したので救援を呼びました。これで先生たちやアブソリュート様が来てくれる筈です。クリスティーナさん申し訳ないですがそれまで力を貸して貰えませんか?」

「えっアブソリュート君が?」

 

 クリスティーナはアブソリュートの名前を聞くと少し考え込んでから言った。

 

「構いませんが条件があります。貴方達がいては戦えないので二手に別れましょう。私が貴方達の逃げる道を作るので貴方達は撤退しながら追ってきた魔物の対処をして下さい」

 

 無謀にも思える条件にクリスは目を見開く。

 

「えっ? 何を言ってるんですかクリスティーナさん。いくらAクラスの貴女でも無茶ですよ」

「いらない心配よ、私殲滅なら得意分野なの。『バーニング』」

 

 クリスティーナが発動した波のような大きな炎が魔物の大群に襲いかかり、どんどん魔物の大群を飲み込んでいく。圧倒的な火力と炎の量で魔物達を焼き払い結果、クリス達の逃げ道を作ることに成功したのだ。

 でたらめな威力に高レベルの魔法。開いた口が塞がらない。

 

「これは上級魔法ですか……流石公爵家ですね」

「ゼン公爵家は火に愛された家系。全ての火属性魔法を使うことができるのよ? 私は加減が出来ないから間違って燃やしても困るわ。ほら道が出来たから早く行きなさい」

 

(凄い威力の魔法だ……固有魔法かな? 確かにこれなら一人でも応援が来るまで耐えられるかもしれない。だが……っ!)

 

「悪いけどあーしも残るからクリス、後宜しく」

「ウリス⁈」

「どうせ、この女一人残したら後々ボスや派閥に響いてくるとか考えてるんだろ? だからあーしが残ってやるって言ってんだ。それにコイツがホントにボスの友人の資格があるのかあーしが見極めてやるよ」

 

 その通りだった。クリスティーナ一人残して自分達が逃げて彼女に何かあった場合、責任はアブソリュートに行くのが目に見えていたが故にクリスは迷ってしまっていた。

 クリスティーナはウリスの発言を興味深そうに聞いていた。

 

「ふぅん。ただの暴れん坊という訳ではないようね。でも貴女も行ってくれた方が、邪魔が入らなくて楽なのだけれど?」

「テメェの理由なんか知るか! 魔物は半分に分ければいいだろうが! あーしより先に全部倒したらボスについて話してやってもいいぜ?」

「そう……ならいいわよ。貴女の勝負受けてあげる」

「ウリス……」

「クリス何悩んでやがる! 今はテメェがリーダーだろうが! しっかりしやがれ‼︎」

 

 ウリスに背中を押されて、決断する。

 

「すみませんクリスティーナさん、ウリスをよろしくお願いします。行こう皆」

 

 クリス達はクリスティーナに背を向けて走り出した。

横からクリス達に魔物が襲いかかろうとしていたので、クリスティーナは炎でバリケードを作ってクリス達の避難のサポートをする。クリス達が無事逃げ切ったのを確認してから、彼女は再び魔物の大群と対峙した。

 

「こいつら殲滅したら演習一位間違いなしね。アブソリュート君も私を無視できなくなるんじゃないかしら」

「ハッ、やってから言いやがれ」

「そのつもりよ。それではコクト対戦よろしくお願いしますわ」

 

 二人は互いに背を向け合い周囲の魔物に向かっていった。

 

(一応危なくなりそうなら助けてあげられるように見ておかないといけないわね。他派閥であってもノブリスオブリージュの精神は忘れてはいけないわ)

 

 危機的状況においてなおクリスティーナは自分の勝利を信じて疑わない。何故なら自身が一番だと確信しているからだ。


 「さて、やりますか」


 2人が一斉に駆け出す。

 たった2人による戦いが始まった。


少しでも面白い!と思っていただけたら


『ブックマーク』の御登録と広告下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けたら嬉しいです。


書籍第2巻予約開始しました。

発売日は4月30日です。

よろしくお願い申し上げます。

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akuyaku  書籍第三巻予約開始です。発売日は1月31日です。  よろしくお願いいたします。 akuyaku  夏野うみ先生が描くコミカライズ版第2巻発売中です。 コミカライズ化されたアブソリュートを是非見て下さい!   
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