魔法学の授業にて
勇者の暴走により負傷者がでた事でAクラスのレクリエーションは中止になった。生徒の方から特に反対の意見もなかったのでそのまま次の授業に入る事になる。ちなみに勇者は、ミライ家に強制送還され、今は学園からの処分待ちになっている。
勇者の犯した罪は三つ。
①クラス全員の前でアブソリュートを侮辱したこと
②試合を止めにきたティーチを攻撃したこと
③試合開始前に不意打ちを行ったこと
これらの行為でアブソリュートは被害を受けたため、勇者とミライ家に責任追求を行うつもりだ。両家の示談の結果を踏まえて学園での処分も決まる。勇者と言えど身分は平民であり、高位貴族相手に侮辱や不意打ちを犯したら処刑も考えられる。
だが、王家からの介入も考えると処刑はできない。なぜなら、相手がライナナ国を救った事のある勇者の子孫であり、勇者のスキルを持っているからだ。勇者のスキルはこの世界でかなり貴重で強いスキルだ。将来的に見ても国にとっては利益になる存在であり、失うわけにはいかなかった。
今回は落とし所が難しくアブソリュートは頭を悩ませるのだった。
レクリエーションが中止になり、時間割が進んで最後は魔法学の授業が行われる。魔法学では魔法の知識を深めること、使える魔法を増やすことを目的としている。
この学園で魔法学は王城に勤めている魔法士が教鞭をとっている。
アブソリュートは魔法学に関してはある程度、既に学習している為に一番後ろの席で聞き流していた。
「今回の授業は魔法基礎について解説する。私達が使う魔法は火、水、風、土の基本的な四属性に聖と闇の二種類がある。闇に関して昔は悪属性と言ったりしていたが差別や中傷等が原因となって今は闇属性と呼ばれている」
使える魔法属性は生まれた時に決まっており、自分の属性にない魔法は使う事ができない。例えばアブソリュートは火、水、風、土に闇の魔法が使えるが聖属性の魔法は使う事ができない。ちなみにアブソリュートが回復魔法を使えるのは、回復魔法は聖か闇の属性を必要とし、尚且つ。大量の魔力を有していなければできないのだ。そのため、使用するにも使い手がかなり限られる。
「基本属性の説明は以上だな。次は魔法と魔術の違いについてだ。誰かこの二つの違いを説明できる者はいるか?」
教師が生徒たちに問いかける、前に座っている一人が手を挙げて答える。
「魔法は自らの属性に合った魔力を使って発現させます。対して魔術は魔力とスキルを使って発現させます。スキルのあるなしがこの二つの違いだと思います」
「その通りだ。よく学習しているな、クリスティーナ・ゼン。座っていいぞ」
魔術を使うにはスキルが必要になる為、使い手はかなり少ない。アブソリュートの周りだと傘下のレディ・クルエルが『氷魔術』のスキルを持っている。彼女はスキルを使って、基本属性にない氷を使った魔術を可能にしている。他にも勇者の『ホーリーアウト』も勇者のスキルによって発動している為、魔術に分類される。
「他にも魔法には貴族の各家で継承する固有魔法があるな。固有魔法についてはそれぞれの家の方針に従うように。学園で使うのは禁止だ」
眠くなるぐらい長く感じる授業だったがそろそろ終わりの時間を迎える。
「最後に入試主席と次席の二人に魔法を実演してもらう。クリスティーナ・ゼンと……アブソリュート・アークだな。二人とも前に来てくれ」
胸を張って前にでるクリスティーナとは反対に、嫌そうな雰囲気を醸し出すアブソリュート。
(せっかく勇者との戦いで魔法を温存できたのに、なんでこんな所で披露しなきゃいけないんだよ。最悪だ、魔法学死ねっ!)
アブソリュートは手札を隠しながらも常に力を示し続けなければいけない。アブソリュートはどの程度実力を示すか考えながら前に向かう。
「ではクリスティーナから自分の得意属性の魔法を使ってくれ」
「はい。クリスティーナ・ゼン、いきます! 『火柱』」
クリスティーナは初めに天井に届くくらいの火柱を発現させる。
「『風操作』」
次に風魔法を使って火柱を更に大きく燃え上がらせる。その火力はまるで油を注いだかのように高く、そしてよく燃え上がる。最後に水魔法で火柱を弱めて土魔法で火柱の周りを囲って閉じ込めて鎮火した。
あまりの魔法にクラスの全員が唖然とする。
「凄いな、クリスティーナ・ゼン。基本属性四つに加えて上位魔法並みの火魔法。流石は灼熱公と言われるゼン公爵家だ」
教師も大絶賛だった。
アブソリュートも内心驚いていた。
(マジかよ……あのクリスティーナとかいう奴結構やるな。あぁそっか、勇者は原作と違ってマリアがいないからクソ弱かったけどクリスティーナは関係ないもんな。原作のクリスティーナと同じ実力という訳か。にしてもこの実力者が序盤に死ぬって、何があったんだ?)
「いえ、この程度大した事はありませんわ。あの勇者を倒したアブソリュートさんならこの程度容易いでしょう?」
クリスティーナがアブソリュートに喧嘩を売ってきた。
いきなりの挑発にアブソリュートは睨むようにクリスティーナの方を見た。クリスティーナはアブソリュートの睨みに微笑みで返してきた。アブソリュートはそれを挑戦状の様に感じた。
(この女、何喧嘩売ってんの? こっちは色々制限してるからどうするか考えてるのに)
アブソリュートが睨んでいると、それを見ていたクラスメイトがさらに油を注ぐ。
「いやいや、それはないでしょう。さっきの勇者との戦いだって魔法は使ってなかったでしょう? きっとあんまり得意じゃないんですよ。あまりハードル上げるとかわいそうですよ!」
アブソリュートはイライラしているところに油を注がれさらに怒りがわく。
(……アイツは確かミカエルの取り巻きのロイド・ファミリアだったな。舐めているな、アイツも見せしめに使うか。舐められるくらいなら容赦はしない)
アブソリュートはクリスティーナと同じく火柱を発現させる。だが、それは黒炎の火柱だった。
「黒い炎⁈」
教師から驚きの言葉がでる。
アブソリュートは魔力で火の色を変える事ができる。
父であるヴィラン・アークの『黒炎斬』という技をまねて試行錯誤した成果である
更に先程のクリスティーナと同じように風魔法で火柱を燃え上がらせる。だが、火柱はクリスティーナより大きく太く、そして黒く燃え上がる。まるで地獄の業火のようだった。クリスティーナの時はこれに水をかけて弱らせ鎮火したが、アブソリュートは鎮火せずにそのままロイド・ファミリアの方に火柱を移動させる。
「おいっ! 火柱がこっちくるぞ‼︎ 逃げろ」
だんだん迫ってくる火柱に気づきクラスメイト達は逃げ出し始める。ロイド・ファミリアも逃げ出すが火柱はロイドを追っていた。
「嘘だろ……なんで俺のところに⁈」
ロイドはなんとか回避しようと必死に逃げ回るが、火柱はピッタリと後ろについてきていた。
ロイドは感じた。これは事故ではなく故意のものであると。
「や、やめぃてぇ‼︎ 助けてぇ」
人は追われている時が一番恐怖を感じるとアブソリュートは考えている。二度と舐めた口を聞けないように徹底的に恐怖を与えるつもりだった。こいつは見せしめだ。これに懲りてアーク派閥に手を出す奴らが減るのを願うばかりだ。
ロイドだけを火柱は追う。そろそろ消すか迷っていると、クリスティーナや教師が水魔法や土を使って何とか鎮火に成功した。
「アブソリュート・アークどういうつもりだ‼︎ 人に向けてあの威力の魔法を放つなど許されないぞ」
教師がアブソリュートを叱責する。あのままでは命に関わったかもしれないと感じて怒りが増していた。
「いいや、人に向かって放つなどしていない。ただ私の魔法が発現する直前にクラスメイトから挑発されたものだからな。意識がそちらに向いてしまったが故に火柱がそちらにいってしまっただけだ。故意ではない」
嘘である。
アブソリュートは確実にロイド・ファミリアを狙っていた。正直怪我させる気はなかったのでそこまで大事にはならないと思ってやったことだ。だが、ここで意外な助け舟がはいる。
「先生、私はアブソリュートさんが魔法を発動する段階で、ファミリアが挑発しているのを確認しました。加えてあの火柱を黒く染めるにもかなりの魔力コントロールが必要だと思います。妨害された結果、たまたまファミリアの方にいってしまったのだと思います。非常識にも妨害してきたファミリアに責任があると思います」
アブソリュートを擁護したのは、先程挑発をしてきたクリスティーナだった。
「だが、アブソリュート・アークは鎮火する様子もなかったぞ? これは故意の証拠だろう?」
「それはきっとかなり集中していたのでは? 炎を黒く染め上げるなど、どれほど緻密なコントロールをしていらしたのでしょうね。それに怪我人はいないのですし、痛み分けという形で収めてはどうでしょうか?」
(この女、どういうつもりだ? 挑発したかと思えば私を庇ったりするなんて。意味が分からないな)
「……そうだな。確かにレベルの高い魔法を使用する時に挑発する奴も悪い。私の経験上、緻密な魔法を使う場合はコントロールをミスると暴走するケースもあった。アブソリュートだけの責任ではないな。ロイド・ファミリア、アブソリュート・アークの両者の謝罪をもってこの場は手打ちにしよう」
教師に促されロイド・ファミリアがアブソリュートと向かい合う。先程の黒い火柱がトラウマになったロイドはアブソリュートを見ると体が、震えていた。
先に口を開いたのはロイドだった
「ご、ごめんっ。もう、言わないから」
「いや、悪かったな。お前がいきなり面白い事をいうからコントロールをミスしてしまった。次は気をつけろよ? また何か言ったらまた魔法が飛んでくるかもしれないから」
(((((コイツ、ワザとだ⁈)))))
周りのクラスメイト達はドン引きしていた。
アブソリュートの心のこもっていない謝罪を受けたロイドは力無く笑っている。
二度と変な事を言わないと心に誓うロイドだった。
♢
魔法学の授業がおわりクラスメイトが退室し始める。
クリスティーナが退室しようとするアブソリュートを呼び止めた。
「アブソリュートくん。あまり暴走するのは良くないと思いますわ。あの程度の野次に振り回されるのはらしくないと思います」
(……なんだコイツは? らしくないって、何を知った気でいるんだか)
アブソリュートはクリスティーナを無視して退室しようとする。
「あっ待って下さい。さっき庇ってあげたでしょう! あれ貸しですからね!」
「……私の知り合いの金貸しからは、借りた覚えのない物は返さなくてもいいと言われている。全く記憶にないな」
「いや、絶対その人闇金の人でしょう! 闇金のいうことを真に受けないで下さい。ちょっとっ!」
アブソリュートは呼び止めようとついてくるクリスティーナを、なんとかまくことに成功した。
(なんだったんだ、アイツは。まぁいいか、勇者とミライ家関連でやる事あるし。マリア達のとこ行ってさっさと飯食って帰ろう)
アブソリュートはマリア達が食事準備している場所へ向かうのだった。
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