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模擬戦 前編

無事に入学式を終えて、ついに学園生活初日を迎える。今日は原作イベント、勇者対アブソリュートの初めての戦いだ。模擬戦という形だが、勇者はアブソリュートとの戦いに敗北し、それを機にさらに飛躍していく。

 

 では、この戦いに負ければ解決するのかと言えばそういう訳でもない。負ければアブソリュートの格が落ち、アーク家派閥が舐められる。アーク家派閥はアーク家の圧倒的な力で成り立っているのだ。それが崩れると派閥は致命的だ。故にアブソリュートは負ける訳にはいかない。常に実力を周りに示し続けなかればならないのだ。

 

 まだ朝食を食べているアブソリュートは、これから始まるイベントに向けて考え込んでいた。

 

(……負けイベントは避けられないよなぁ。負ける訳にはいかないけど、原作どおりに事が進むのがなんか嫌だな。あー、私との圧倒的な実力差に心が折れて田舎に引きこもってくれないかなぁ)

 

 食事が進んでいないアブソリュートをマリアとウルは心配していた。マリアがアブソリュートに声をかける。

 

「あの、ご主人様お食事口に合いませんでしたか?」

 

 考え事に夢中になっていたアブソリュートはマリアの言葉にハッとし、食事時に考えることではないなと自嘲した。

 

「いや、問題ない。少し考え込んでいただけだ。あまりそう心配そうに見てくれるな、大した事ではない」

 

 大丈夫だと言うがマリアとウルはいつもと違う雰囲気の主人を見て不安が隠せなかった。

 

(めちゃくちゃ過保護だよなぁ。厳しいよりは全然いいけど。二人共会った時から成長してすごく美人になっているから気を引き締めてないとすぐにダメ男になるな……あぁそうだ!)

 

「ウルよ。昔武闘大会で戦った勇者を覚えているか?」

「すみません。ウルより弱い奴は覚えてないです」

 

 獣人特有の価値観だろうか、格下と判断した者にあまり関心はないようだった。

 

「決勝で戦った男だ。少し会話もしていただろう?」

「あぁ、ぼんやりと思い出してきましたの。じゃなくて、です」

 

ウルはアブソリュートの前では、幼い語尾を直そうと近頃丁寧な言葉を心がけていた。アブソリュートは別に気にしていないし、むしろ個性ある語尾で可愛らしく思っていたが本人は同僚のマリアに触発され大人な女性になろうと頑張っていた。

 

「……そうか。例えばの話だが、もしまた勇者と闘うような事があれば勝てると思うか?」

 

 負けるとは思っていないが、実際に戦った者の意見も聞いておきたかった。勇者とアブソリュートは戦闘面でも相性が悪い。アブソリュートは自身スキル【絶対悪】の効果で聖属性を持つ勇者に弱体化がはいる。レベルやステータスの差はあるが油断出来なかった。

 ウルはいきなり出てきた勇者の話題に疑問を持ったが、気にせず少し考えてから質問に答えた。

 

「多分楽勝ですの! じゃなくて、です!」

 

(あっそうですか。一応勇者だし強キャラなんだけどな……。悩んでいても答えでないし、まぁなんとかなるか)

 

アブソリュートは思考を放棄しそのまま食事を終えた。



 アブソリュート様は入学式同様に傘下を引き連れて登校した。それに加えて今日からは侍女も加わる為に大所帯だった。

 アブソリュート達は校舎までくると侍女達とは別行動だ。侍女は学園では登下校と昼食の支度が仕事であり、基本別行動だ。学園では授業中に待機している侍女の為に待機塔も建てられている。

 

「私達はここで別れる。お前たちは食事時まで待機塔に控えておけ」

 

 アブソリュートから命を受け待機塔に向かうウルとマリアだが、そこで一人の少年に出会う。

 

「あっ君は⁉︎ 武闘大会の時の!」

 

 その少年は勇者だった。だが、ウルは勇者と戦ったことは覚えているが顔は覚えていなかった。ウル達はいきなり声をかけてきた男を警戒した。

 

「……誰? すみませんがお仕事があるので」

 

ウル達は立ち去ろうとするが勇者は待ったをかけた。

 

「えっ? ちょ、ちょっと待って⁈」

 

 ウルの肩を掴んで呼び止めようとする勇者だったが、それを共にいたマリアが許さなかった。マリアが勇者の腕を掴む。

 

「他所の家の侍女に手を付けようだなんてマナー違反ではなくて? それとも貴方様は私達がアーク家の者と知ってやっているのですか?」

 

 マリアの腕に力が入る。マリアとウルはアブソリュートから、何かあったら実力行使をしてもよいと言われている。この場で戦うのに躊躇いはない。ウルも臨戦態勢をとる。まさに一触即発の状況だった。

 

「えっ、握力強っ⁈ じゃなくて、俺はそこの獣人の子に話しかけようとしただけなんです!」

「それを咎めているのです!」

 

 マリアは毅然とした姿で言い放った。

 ウルを庇い、悪漢に相手するその姿は姫を守る騎士の様だった。例え家が滅んでも彼女は騎士であろうとしている。その生き方を貫こうとしているのだ。

 勇者はまさかの対応で困惑していたがそこで助け舟が入る。

 

「ちょ、ちょっと待って! 彼は私の連れなの。彼が何かしたかしら」

 

 会話に入ってきたのは婚約者のアリシアだった。アリシアに対してマリアはこれまでの経緯を説明した。アリシアは婚約者がいるのにも関わらず、他家の侍女をナンパしようとする勇者を信じられないような目で見る。だが、まずは彼女達への対応が先と一旦頭の隅においやる。

 

「彼には後で厳しく叱っておくわ。貴女達はどこの家の者? 貴女達の主人にも謝罪したいから教えて貰える? 私はアリシア・ミライ。こっちのナンパ野郎はアルトよ」

 

 マリアは相手の身元が分かったので勇者の腕から手を離し、質問に答える。

 

「アーク家に仕えております。マリアと申します。こちらはウルです。アリシア様、今回の件は主人に報告させていただきますので、それでは」

 

 マリアとウルはアリシアに一礼し、その場を去っていった。

 

「アーク家って…………なんて事してくれたのよぉぉぉぉぉおおおお!」

 

 アリシアの絶叫する声が響き勇者は人目を憚らず説教を受けた。

 

 (あぁ、アブソリュートに謝らなくちゃ……でも模擬戦で何されるか分からないし、終わってから謝ろう。はぁ何でこんなことに……もうアルト君、食事は出すから部屋から出ないでくれないかなぁ)

 

この後、さらなる不幸がアリシアを襲うことを彼女はまだ知らない。



 勇者が朝一からやらかしたが予定通りレクリエーションとして模擬戦が行われる。

 場所は学園の施設の中でもかなり広い修練施設だ。

 最初の対戦カードは予告通りアブソリュート・アーク対勇者アルトだ。クラスのほとんどは、嫌われ者のアブソリュートよりも勇者アルトの勝利を願っているのが分かる。

 

「それでは予定通り模擬戦をやるぞ。ルールとしては試合前の強化魔法の使用の禁止に、相手に致命傷を与えるような攻撃やスキルの禁止だ。危険と判断したらすぐに止めるからな? 武器制限はないが剣とかは刃引きの物を使え。説明は以上だが、質問は……ないか。それじゃあ、アークとアルトは位置につけ」

 

 ティーチ担任に従い指定の場所にいくアブソリュート。だが、勇者は聖女と何か話し込んでいる様子だ。

 

(あいつらいつの間に話すようになったんだ?)

 

アブソリュートは訝しげに二人をみる。

 

「おいっ! アルト何をしている、早く位置につけ!」

 

 ティーチ担任に注意され急いで位置につく勇者アルト。勇者はアブソリュートを一瞥して話しかける。

 

「待たせて悪かった。話すのは初めてだね。俺はアルト、勇者だ」

「……知っている」

 


 フレンドリーを装っているが、その目に狂気を感じた。

 そういえば話すのは初めてだな。

 アブソリュートは空返事だが、気にせず勇者アルトは続けた。

 

「君のことはある程度調べさせてもらったよアブソリュート。俺が勝ったらもう悪い事をするのはやめてくれないか? お前の家が陰で闇組織と繋がっているのは知っている。それにまだ小さい獣人の女の子を虐待していたのもな。負けたらすべて白状して罪を償ってもらう」

 

何言ってんだコイツ? 

公衆の面前で高位貴族を犯罪者呼ばわりは笑えないのだけど……

ほらっ、アリシアの顔見ろよ。めちゃくちゃ引き攣っているぞ。

 

「おいっ、アルト何を言っている! いきなりクラスメイトを犯罪者呼ばわりは許されないぞっ!」

 

ティーチ担任がアルトを止めにかかる。

だが、すでに攻撃態勢をとる勇者は止まらない。止めに入ったティーチを殴り飛ばしアブソリュートの元へ距離を積める

 

うわーー、担任殴り飛ばしやがった。コイツなんでこんな暴走してるの?

 

「いくぞっ! アブソリュートォォォォォォォ、ホーリーアウト‼︎」


 勇者アルトから聖属性の魔力が放たれアブソリュートを襲った。

少しでも面白い!と思っていただけたら


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akuyaku  書籍第三巻予約開始です。発売日は1月31日です。  よろしくお願いいたします。 akuyaku  夏野うみ先生が描くコミカライズ版第2巻発売中です。 コミカライズ化されたアブソリュートを是非見て下さい!   
― 新着の感想 ―
平穏な学園生活を送りたいだけのアリシアさんが可哀想すぎる……。
[良い点] 苦労人アリシアさんの不憫かわいい様子 [一言] 勇者何やってんだアリシアさんがかわいそうだろ!
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