示談
その後アブソリュートとウルは国王に連れ出され、先程と違う部屋に通された。
「アブソリュート・アークよ……そちのメイドから概ね聞いているがお前からも聞かせてくれるか? ことの経緯を……」
(国王は聞きたくはないだろうがね)
「ならこちらの映像をご覧下さい。念のために記録に残しておりますので」
国王はすべて諦めたかのように天井を見上げる。
あの場では目撃者はおらず、当事者だけの空間だったので最悪権力を使って揉み消せると考えていた。だが、アブソリュートはそれを見越して証拠として映像の魔道具を残し、逃げ場をなくした。
(逃げられてたまるか! ミカエル王子は将来勇者サイドについて権力を使って兵力を集めてアブソリュートである私を殺す。今のうちにミカエルを引き摺り下さなければ!)
国王は映像を見終えてアブソリュートに声をかける。
「アブソリュート・アーク……今回はすまなかった。この通りだ……」
国王は頭を下げた。もし、これがアーク家でなくただの上位貴族なら頭までは下げなかった。だがアーク家は裏で国防を担い、国の為に汚名を受けている功労者だ。決して剣を振りかざしてよい相手ではない。
「私達アーク家は王家が健全な国の運営ができるように手を汚しながら支えてきたつもりです。ですが、あんな形で恩を返されるとは思いませんでした」
国王が頭を下げても決して引いてはいけない、アブソリュートはたたみかける。
「あれは王家としての判断でしょうか? それなら私達アーク家も考えがありますよ?」
アブソリュートはスキル【王の覇道】を使い威圧するが国王は表情に出さずに圧力に耐える。
(…………流石国王だな、長年国を治めてきただけはある)
アブソリュートは国王の評価を改めた。
「いや、ミカエルの暴走だ。信じては貰えんだろうがな……まさかここまでの事を起こすとは思わなんだ。だが、アブソリュートよ。衛兵隊の腕を切り落とすのはやり過ぎじゃないか? お前ならもっと穏便に済ませたのではないか?」
国王から反撃されるが私は動じない。
「子息とはいえ高位貴族に斬りかかったのですよ? 正当防衛です。それに警告を聞かなかったのも近衛兵です。近衛兵なら命をかけてでもミカエル王子の間違いを正すべきでした。私を責めるのはお門違いです。それで、今回王家としてどう責任を取るつもりですか?」
(最低でもミカエルから権力を奪い取りたいが廃嫡は難しいかな? 被害者は無傷だし)
「アブソリュートと侍女に慰謝料を払おう……それに加えてミカエルには謹慎させる。どうだ?」
(………甘すぎるな)
「高位貴族の者を呼び出して、権力と暴力で私の奴隷を奪おうとし最後には殺人未遂ですよ? 甘すぎるのではないでしょうか。罪として裁くなら永遠に地下牢レベルですよ。最低でもミカエル王子は王太子の座から外して下さい」
「それだけはなんとかならんか? 私には息子はミカエルしかおらん。後継がいなければ王家は終わりだ」
国王は懇願するがアブソリュートは続ける
「ハニエル王女がいらっしゃるのではないですか? ハニエル王女に婿をとって頂けば解決するのではないでしょうか。今のミカエル王子を王太子にするより良いのでは?」
国王は悩む……確かにハニエルはミカエルより優秀だが問題があった。
「ハニエルは目が見えん。あれでは公務を行うのは厳しかろう……」
「ええ、そうでしょうな。だがそれは国王陛下やその周りが考えることです。私の要求は私と侍女のウルに慰謝料と、ミカエル王子が王太子から降りることです。国王陛下ご決断を」
国王は少しの間考える。国王だって我が子が、かわいい。国王の腹が、決まる。
「分かった。ミカエルは王太子から外そう。だが、もしミカエルが反省し、自らの行いを悔い改めた時は王太子に戻るのを許してやってくれんか?」
まだ、甘いことを言うがアブソリュートは突き放す。
「その時は、この映像を全ての貴族の前で公開し、その後全員の前で私に謝罪した時でしょう」
「そうだな……悪かった。お前の要求は全て飲もう。今日は悪かったな……慰謝料は帰る時に支払おう」
これで王家との示談が終了し、アブソリュートとウルは慰謝料で豪遊しながら帰宅した。
◇国王視点
私がアブソリュート・アークに初めて会ったのは、彼が五歳の時。アーク家と息子のミカエルの顔合わせをした時だった。
初対面で見た時のアブソリュートは幼い頃のヴィランによく似た顔立ちと、あの醜悪な一族の象徴である赤い瞳を宿した嫌悪感が拭えない子供だった。【絶対悪】というスキルの効果だとは聞いているが、無知のままであっていればそのまま追い返した可能性もある。
嫌悪感は拭えず血筋的にも危険な存在ではあるが、それ以上に彼の身に余る才気に興味がひかれた。彼の父であるヴィランが自慢していたことを親の色目だと思っていたがそれは間違いだったらしい。
もし彼が息子と良い関係を築くことが出来れば、ライナナ国はより発展を望めるだろうと将来を期待していたものだ。
だがそれももうかなわないだろう。なぜなら、息子であるミカエルがアブソリュートの奴隷を奪おうと剣を抜いたのだ。
アブソリュートが帰った後、ミカエルに罰を下すために謁見室に呼び出す。
父としてではなく王としての裁定だからだ。
ひざまずいたミカエルに語り掛ける。
「ミカエル……お前は自分が何をしたか分かっているか?」
「悪いのはアブソリュートです。彼奴がいきなり攻撃してきたのでやむなく交戦しました」
ミカエルはシラを切る。あの場には第三者がおらず隠蔽できると踏んだからだ。
「……そうか。この映像を見ても同じことが言えるか?」
「な、なぜ⁈ なぜそんなものがある⁉」
「アブソリュートからだ。お前は取り返しのつかないことをしたのだ」
「彼奴か‼︎ 卑怯なマネをっ! アブソリュートが悪いんだ、俺の十才の記念パーティーをぶち壊した、だから痛い目を見せようとしたんだ!」
国王は呆れた目でミカエルをみる。
ミカエルはこのようなことをしてしまったが馬鹿ではない。だが、まだ精神的に幼いのだ。嫌いな人間に取り繕うことが出来ず、演技でも友好的にできない。
まだ子供故、長い目で見ていたがまさかこのような短慮を起こすとは思わなかった。
「あれはアーク家でなくカコ公爵家の派閥が起こしたものだと言っただろう……アーク家は被害者だ。まぁとにかくお前は罪を犯した。ミカエル、お前には王太子を降りてもらう。本来なら投獄してもおかしくないが感謝しろよ?」
「俺が王太子を降りる⁈ そんな馬鹿な!」
「ちなみに、この映像を貴族全員に見せたうえでアブソリュートに謝罪するなら王太子の復帰を認めるそうだ……まぁそんなことしたら王家は終わりだがな。しっかり反省して次に活かせ。それだけだ、下がれ」
ミカエルを下がらせ国王は一人で頭を抱える。
「ミカエルもまだ子供だ。これから学んでくれればいい。問題はハニエルを王太女にすることだ。頭は悪くない、だがあいつの場合明らかに盲目がハンデになる」
国の事、娘の事。悩みだしたらきりがなかった。
そこでふと妙案が思いつく。
「ハニエルとアブソリュートを婚約させるか……」
悪くはない考えだ。
ミカエルを押していたゼン公爵は敵に回すがアーク公爵家、そしてアブソリュートを敵に回す方が国にとっては危険だ。裏で国を守るために暗躍しているのもあるがそれ以上にアブソリュートの血筋を危険視していた。
精霊に祝福されたアーク家の血筋
他国の大国を裏で支配している母方の血筋
もしアブソリュートが望めば世界を敵に回せる力があるからだ。
「王家の血を入れることでアーク家に報いることもできる。この方向で打診してみるか」
そして国王は動き出した。






