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第五話 報告

『がんばれシャミ子』

あのナレーションはもう聞けないのか……

なら次は「若本さん」やってくれなかな……



今話は沙織が主役です。

「では気を付けて」

「はい。ありがとうございました」


 普段なら急行1本、一時間ほどで着くところを二回の乗り換えと四時間かけて秦野駅に到着。

 最後尾の車掌室(乗務員室)から降りると、紺の背広を着た二人の男性がすーと近付いてきた。


「一条沙織様ですね?」

「は、はい」

「貴方の兄である一条室長からの命令でお迎えに参りました」

「……えーと」

「ご自宅までお送りします」


 そう言えばメールが届いてたっけ。


「では参りましょう。立ち止まらず私に付いて来て下さい」


 と目で続くよう合図してくる。

 一人が先頭を歩き私が二番目を。もう一人は私の後方を歩きながら人気(ひとけ)が疎らなホームの階段を上り改札に向かう。

 今日は運賃支払いはしなくてよいらしく自動改札機は電源が落ちていた。

 そこを抜けると目の前に人だかりが出来ていた。

 皆私を見るとあからさまな落胆の表情をする。

 その人達を横目に改札を抜け北口の階段を下りてゆく。


 階段の下には背広にサングラスという井出達の男が四人、四方を向いて立っていた。

 その人達の中央に入ると距離を保ったまま付いてくる。


 駅前は昼間の新宿駅とは真逆で人は疎らでバス待ちの客も数人程度。だがタクシー乗り場だけは大行列とギャップが凄かった。

 その客待ちの人達が興味津々とこちらに視線を向けてくる。

 借りている帽子を深く被り直しタクシー待機場の脇にある一般車の乗降場所へ向かう。


「…………」


 そこには黒塗りの車が三台、赤灯をキラキラさせながら縦列にて止まっていた。その内の中央に止まっていた1台の車はテレビで見かける「某国大統領専用SUV車」そっくりだった。

 周囲の好奇の眼差しを感じつつその車に近付くと、並走していたサングラスの男性がその車の後部座席のドアを開けた。


「お乗りください」

「は、はい」


 乗り込むとホームから付き添っていた人が私の隣と助手席に乗り込む。他の四人は分かれて前後の車へ。

 全員が乗ると「サイレン音」を響かせタイヤが鳴りだすギリギリの速度で急発進。一路北に向け爆走を始めた。



 ──びゃぁぁーーーー凄い速度!



 パトカー? に乗るのは人生初めて。信号や渋滞を無視して爆走してゆく姿に肝が冷えた。

 しかも大通りでなく裏道を。

 そのせいで車内を見回す余裕は無かった。


 二分も掛からず東名高速の高架橋の下をくぐった先では警察官が道路を封鎖していた。

 そこを止まらず通過する(爆走してゆく)

 そして民家が途切れる寸前にある小さな橋のさらに先の最初のカーブの手前で、今度は「迷彩服」で肩から銃をぶら下げた人達が道路を封鎖していた。

 そこも同じく止まらずに通過したところでやっと速度を落としサイレンを止めた。


 今走っているこの道は崖あり谷あり落石あり湧き水あり擦れ違い困難な場所も盛り沢山で、地元民でも用がない限りは使わないややこしい道。ちょくちょく通行止めにもなるほどの険しい道でバスも走っていない。

 そんな抜け道を夜の帳が降り始めた夕暮れ時にも拘らず危なげなく走ってゆく。


「何か飲まれますか?」


 隣に座っていた男性が前席の間にあるコンソールの下部の引き出しを開ける。そこにはお茶らやジュースが収まっていた。


「だ、大丈夫です」

「そうですか? ならこれはお土産として」


 先程までの張りつめた空気はどこへやら、柔らかい口調と笑顔にて350mlのペットボトルのお茶を手渡してきた。


「ありがとうございます。それより質問いいですか?」

「どうぞ」

「あなた達は?」


 今更ながらと思いつつ聞いてみた。


「我々は神奈川県警の警官です」

「先程見かけた人達も?」


 道路を封鎖していた人達。一度目は制服姿だったので間違えようがないが、二度目の人達は警察官には見えなかった。


「外陣が我々神奈川県警。内陣は陸自でこの辺一帯の警備を任されています」

「……そうですか」


 擦れ違う車もなくダム湖畔エリアに入る。観光地なのに誰もいない【やまびこ大橋】を通過し【半原】方面へ進路変更。

 このまま直進すれば厚木市内に向かう道の途中、アスファルトで整備された薄暗い林道に入る。

 人気のない緩やかな直線の坂。程なく進むと視界が開けそこそこの広さの駐車場についた。

 正面には〈一の鳥居〉となる【神明鳥居(しんめいとりい)】があり、一般車両の進入はここまでとなる。

 その鳥居の脇に設けられた駐車スペースに車が止まる。


「我々はここまでです。なのでここからはお歩き下さい」


 ここから自宅までは歩いて数分。一応一本道なので目を瞑ってでも辿り着ける。


「室長にはこちらから「現着」の方を入れておきます」

「え? あ、はい」

「それと伝言が一つ」

「大介兄から?」

「はい。『大婆に()()するように』と」

「…………」



 ──えーーと()()()()()()



 外側からドアが開かれた。

 僅かな時間逡巡した後、荷物を持って外に出る。


「我々は近くで控えています。ご用の際はいつでもお声をおかけ下さい」


 表情を僅かに緩ませながら優しく言ってくる。


「……はい。その時はよろしくお願いします」


 荷物を受け取ってから深々と頭を下げてお礼を言う。



 ──本当にこれで良いの?



 未だに決断出来ない、迷っている自分。


 神社の入り口となる石造りの鳥居に向き直る。すると送ってくれた三台がUターンを始めた。

 横目で車を見送ってから鳥居を潜る。すると「空気の変化」を肌で感じた。



 ──〈結界〉が広がってる……



 ◇


 今では神社の敷地全てを覆う程に広がったこの〈結界〉の存在を知ったのは約2年前。凪兄が家を出てから暫く経ったある日。

 学校から帰ってきた時に「妙な感覚」を覚えたので大婆を訪ねた。

 凪兄にだけは厳しい大婆だが私には常に笑顔で孫のように接してくれる優しいお婆ちゃん、なのだがこの時ばかりは違った。悲哀に満ちた笑みで「妙な感覚」の説明をしてくれた。


 妙な感覚の正体は神社の最奥にある「お社」を守る〈結界〉で、名称の通り普段は【選ばれしモノ】しか通さない〈結界〉が張られていると。

 最近その〈結界〉の性質が変わり、徐々にだが広がっているとのこと。


『間に合って良かったわ』

『? 何が?』


 その呟きの意味を聞いたが教えてくれなかった。


 その数日後、環境が一変した。

 変わったのは両家の親達の態度と私の感情。


 ◇


 空は夜の帳が。明かりがない静寂な参道を一人歩いて家に向かう。

 この山は人里や通りから離れた場所にあり周辺一帯の土地は【遠野家】の所有物。

 その中心がここで、手入れの行き届いた高さ30m級の木々の間を真っすぐ延びる、落ち葉一つ落ちていない石畳と、両脇に点在する石灯籠を備えた参道が300m程続く緩やかな上り坂。その道の中ほどで【本殿】と小さな【(やしろ)】がある敷地と我が家と遠野家がある道に分かれている。

 そして遠野家が代々受け継いできた神社は規模こそは小さいが、昔からある由緒正しき神社で祭っている神様は……確か「お」から始まる名だったような?


 陽が沈むのが早いこの時期だと17時はかなり暗い。これで陽が沈むと真っ暗。


 ぐう~~


 慣れ親しんだ場所に帰ってこれて気が緩んだようだ。


「そういえばお昼食べてないや」


 参道の中間地点に〈私有地につき住人以外の立ち入りはお断り〉と書かれた門扉が現れる。この門から先は遠野家の私有地で100m程先に我が家と遠野家の屋敷がある。


 履け放たれた門を抜け自宅に向かう。

 玄関脇には私の原付バイクと母が使っている軽自動車が止まっており玄関には明かりが灯っていた。


「ただいま~」


 木枠とガラスを用いた昔ながらの引き違い戸を開けて中へ。


「お帰り~」


 普段と変わらぬ明るい玄関。やっと帰ってこれたと安堵したところに、これまあ変わらずの長閑な声が聞こえ……母が駆け足で現れた。


「え? あれれ? 今日は泊まってくる(決めてくる)んじゃなかったの?」

「それどころじゃなくなったんだ」


 こりゃテレビすら見てないよ。いやそもそもテレビってやってるの?

 と思いつつ、惚けた母を引き連れリビングへ。


「そうなの? 折角お色気たっぷりの「勝負下着」まで揃えたのに」

「もういいって。それよりお父さんはどこ行ったの?」


 父の車は無かった。

 父は50後半で役所勤めのしがない公務員。日曜日のこの時間は大抵は家でゴロゴロしている。


「まだ帰ってこないのよ」

「どこ行ったの? 今日は休みだよね?」

「お昼頃に呼び出しがあってね」

「あーー(都心が)あの状況じゃーね」

「?」

「なんでもない」


 非常招集が掛かったのかな?

 こういう時公務員は大変だ。まあ本人が巻き込まれてないだけマシだけど。


「お腹空いた~」


 都心の状況を教えずに、20畳ほどの広さのリビングに置かれたソファーに腰掛ける。


「今日はパパと二人だけの予定だったから夜ごはんの準備はまだだし……お握りでも作ろうか?」

「ごめんね。お願いします」

「ちょっと待っててね~」


 とにこやかに隣のキッチンへ。

 そこで先程もらったお茶を思い出し三口ほど飲む。

 はーーと一息ついたところにおにぎり二個と漬物が運ばれてきたのでカブリついた。


 もぐもぐ。ん〜塩味が効いてて美味(うま)いよ。


「一つ聞いてもいい?」

「ん~?」


 隣に腰掛けた母が私の漬物を摘み食いしながら聞いてきた。


「なんでそんな格好してるの?」

「恰好?」


 お? そういえば借りた服のままだった。いつ返せばいいんだろう?


「凪兄の趣味なんだ」

「あらそうなの? ラブラブね」


 一条家、そして遠野()()()()の恋慕。

 知らないのは凪兄と藤乃さんの二人。


「ところで凪は?」

「突発の用事とかで新宿で別れた」

「あらあの子ったら。ツイてないわね」

「あ、別れる前に大介兄に会ったよ」

「へ~~」


 一条家の次男である大介は私と凪に歳が近くよく面倒を見てくれていた。社会人になった後もこまめに帰省し顔を出すなど家族の中では評判が良い。

 それに比べ長男長女は一回り以上離れており、私達が物心つく頃には既に高校生で接点が少なかった。

 独立後、長女は正月には必ず顔を帰省するが、長男は家を出てから一度も帰ってこない。

 私や凪からしてみれば10年以上会っていない。だから街で見かけても気付けないかもしれない。


「なら同じこと言われたでしょ?」

「……うん、頑張れって」


 そうは言っても……


「何を悩んでるの?」

「ん? 悩んでないよ。単に疲れてるだけ」

「そう? ならいいけど」


 顔に出てた?


「ご馳走様。ちょっと大婆に会ってくる」


 バレないうちに移動しよう。


「行ってらしゃい。(暗いから)ランタン持っていきなさいね」

「はいはい」


 自室に戻り着替えてからスマホを持って玄関へ。

 隣家である遠野家は目と鼻の先とはいえ50mは離れており山の中で木々に囲まれた我が家の周囲は真っ暗。なので充電式のLEDランタンを玄関に常備している。


 言いつけを守りランタン片手に遠野家へ。今は三人しか住んでいない巨大な屋敷の玄関の呼び鈴を鳴らす。

 だが返事が無い。玄関のライトは点いているが中は真っ暗。気配も感じられない。



 ──神社()にいるのかな?



 藤乃の祖母は【神主】という立場で両親は神主見習い。三人共神職についている。

 とはいえ行事が無い時は誰かしらが自宅にいる。そして朝が早い分、日暮れ前には家に帰っている。



 ──まあ報告も兼ねて行ってみるか。



 帰宅してからおよそ15分。辺りはもう真っ暗でライトがないと足元も覚束ない。

 とはいえこの地で育った私にとっては日常だし、どこに何があるかは頭の中に入っている。なので目を瞑っていても辿り着ける。


 参道につき【神社】がある方を向く。

 ここから100m先には〈二の鳥居〉があり、そこから150段程の石段が続く。そこを上りきると赤色で染まった〈玉垣と門〉があり、その中に神社の建物が収まっている。



 ──あれれ、明かりが……。帰ってきた時には点いていなかったような? 気付かなかっただけ?



 石段の左右に約15m間隔で並べられた石灯籠に明かりが灯っていた。


 今日は行事がなかったよね? と思いつつ急な角度の階段を上りきり開いている門を見て無駄足にならずに済んだと安堵した。


 大きな両開きの門の中へ。学校の体育館ニつ分の敷地に白色の玉砂利が敷き詰められた広場となっており門から拝殿へと続く中央には石畳が敷かれてあるだけで、賽銭箱や(参拝者相手の)社務所といった設備もない。そして照明もないので日暮れと共に閉門するのが決まりとなっている。

 だがどこから持ち出したのか、石畳に沿って松明台が並べられており、そこに煌々と火が灯されていた。



 ──様子がおかしい……



 慣れ親しんできた雰囲気ではない。



 ──どうしよう……



 ここから先には進みたくない。初めて湧いた感情に足が言う事を聞かない。


「「沙織()」」


 逡巡していたところ名が呼ばれたので顔を上げる。

 見れば拝殿への階段下に、神職の正装である白装束を着た藤乃の両親がこちらを向いて立っていた。


「お、おじさんと……おばさん?」


 炎の明かりで二人の表情までは伺い知れない。

 だが声からは昨日までは優しい笑顔で「沙織ちゃん」と呼んでくれていた、そんな面影は感じられなかった。


「「宮司が【本殿】にてお待ちです。どうぞお通り下さい」」


 二人が左右に分かれて道を開ける。

 先には【(きざはし)】へと続く階段があり、その先の【拝殿】の中は明かりが灯っているのが見える。


 どちらにしても大婆に会わなければならない。

 会って経過を報告しなければならない。


 迷いながらも一歩踏み出し篝火の中をユックリ進む。

 そして二人の間を抜ける時に「ごめんね」とおばさんの呟き声が聞こえた。


 何に対しての、いや誰に対しての謝罪の言葉なのか。

 いや誰に向けての発言なのかは直ぐに想像がついた。なので胸がチクリと痛む。

 ただこればかりは()()()()()()()()()()()。そんなこと、この二人の立場なら理解している筈。

 なので顔を合わせず足早に階段を上り、板間の前で靴を脱ぎ奥へと進んだ。


 拝殿はこぢんまりとしており、学校の教室二つ分の奥行しかない。

 普段はその限られた空間に儀式用の椅子やら神棚が置かれているので狭く感じるが、今は装飾品も含めて全て取り払われておりとても広く感じる。


 最奥に本殿との仕切りとなる引分タイプの扉に向かう。

 板の間に等間隔に置かれた行燈(あんどん)の薄暗い光源を頼りに奥へ進み扉を開けると本殿への板張りの(通路)が現れる。

 この神社の造りは少々特殊で、拝殿の直ぐ裏に本殿がある。その本殿には拝殿を通り抜けなければ辿り着けない。


 ここより先、参拝者は立ち入り禁止の神聖な領域。

 参拝者用の【拝殿】と、神聖な領域である【本殿】を繋ぐ通路は壁はなく屋根と柱と床だけ。

 そこを通り【本殿】に辿り着く。

 正面には本殿入り口となる朱色で装飾が施された重厚で両開きの扉が行手を遮る。


「沙織です。入ります」


 この先は私でも数回しか入ったことがない厳格な部屋。

 白と赤の壁や柱、そして天井。そして奥には神棚と規模に似合わず豪華な造りとなっている。

 本来であれば、入る際は「身を清め」てから「正装」をした上で礼法に沿って、と幾重の仕来(しきた)りがあるのだが……


「遠慮せず入りなさい」


 ()()()《・》()()()で返答があった。

「今回()仕来りは気にせずに済む」と安堵したが、先程の「ごめんね」との言葉を思い出し気分が沈む。


 扉の片側だけを開け中を覗く。

 拝殿同様の明るさで外と比べればかなり明るい。

 拝殿の倍の広さの部屋の中央に正装の大婆が神棚を向いて正座しているのが見えた。


「ご苦労様。良くぞ無事に戻ってくれた」


 こちらを見ずに体勢そのまま話している大婆は同年代の人と比較したら大柄な女性。兄の凪ほどではないが自分や藤乃よりも背が高く、恵まれた体型をしている。

 後頭部で纏めた長い白髪交じりの髪が特徴で、おばさん()藤乃()と同じく美人で70代とは思えない所作の人。


「うん」


 雰囲気から「堅苦しいのは無し」と判断、作法など気にせず中に入り扉を閉める。


「どうだった? 上手くいったか?」


 やはりそっちを聞かれた。


「ううん。それより大婆」

「どうした?」

「今日のアレ、何だか知ってる?」

「……都心で起きた現象か?」

「そう」

「あれはな【選別】を行っているんだよ」

「選別?」

「そう選別だ。あの【光】を身に浴びて【残れる者】がいるかどうかの」

「……光?」

「そう光。見なかったのか?」

「うん。あの時は地下にいたから」

「そうか。いずれあの光は【葦原の中つ国】、いや日本全土を……まあお前達三人()()影響のない光だから今は気にしなくて良い」

「…………」

「沙織」

「……はい」

「何度も言うが、沙織は流れに身を任せ、感情の赴くまま自由に行動してよいのだぞ」

「本当にいいの?」

「よい。藤乃は気にしなくてよい」

「どうして気にしなくていいの?」

()()()()してくれる」


 二年前から始まった「歪」な状態を肯定している一条家と遠野家。この状態がまだ続くの……


 私の気分を察したのか、座ったまま体の向きをこちらに向けた。

 向き合う形となると私の目を瞬きせずにジッと見てきた。


「とは言っても不安は拭えぬか」


 そう言うと一度目を瞑る。


「一度触れてみるか?」

「何に?」

「神に」


 はい?


「きなさい」


 立ち上がり本殿最奥の壁に歩いてゆく。ついてゆくと「茶室の入り口風」の高さ1m程の引き戸があり、そこから外に出た。

 左右が玉垣で仕切られた板張りの通路が続き本殿裏の山の山肌に繋がっており、小さな【お社】となっていた。


「その【戸】に触れてみなさい」

「戸?」


 初めて見た場所。

 斜面の山肌に沿って建てられたお社は本殿のような建物ではなく屋根と柱だけであり山肌に洞窟のような穴が開いているだけ。戸の類は……穴の奥に地肌と異なる【岩】があるだけ。


「…………」


 戸と呼ぶからには「仕切り」の役割があるのかもしれない。

 そんなことを思いつつ恐る恐る手を伸ばし【岩】に触れてみる。

 そして触れた瞬間、意外なことに「温かみ」を感じた。


「え? な、何?」

「慌てなくてよい。害はない。でどうだ? 何か感じたか?」


「感じた……というか温かかった」


 そして今は心が落ち着いている。


「そうか、それは重畳。では明日一番で東京に戻り凪達と合流しなさい」

「え?」


「おい、小娘!」


 突然大声で叫ぶ大婆。


「出てこい!」


「……気付いてたの?」


 どこからともなく女性の声が聞こえてくる。


「それで気配を消しているつもりか?」


「……つもりだったんだけど」


 と本殿の引き戸から小柄で可愛らしい女性が現れた。



 ──……あれ? どこかで見かけたような?



「名は?」

「ミラ」

「ミラとやら。誰の指図でここへ来た?」

「んーー指図っていうか【契約】っていうか仕事だわさ」


 と言って私をチラ見する。


「なるほど。アヤツの差し金か。して目的は?」


「その子の護衛」


 淡々と答える。

 その様子をジッと眺める大婆。


 ……私の護衛?


「経緯は理解した。正直者の其方の言は信じよう」

「そりゃどうも」

「丁度良い。以後、沙織を任せる、がその前に一言忠告をしておこうか」

「忠告?」



()()()()()()()()



 その言葉を聞いたミラの瞬きが止まる。


「……アヤツとは?」


「【()()】、なのだろう?」


 諭すように言う大婆。


「……ご忠告ありがとう」


 一考? した後に礼を言う。その返答を聞いた大婆は口元を緩ました。


「ここで見聞きしたことは他言せぬように。勿論()()()()()()()()()()な」


「……はいはい」


 降参といった風に戯けてみせた。

 ミラの反応を確かめた大婆は私に向き直る。


「沙織や。今晩この者を泊めてはくれないか」

「え? えーと、お母さんに聞かないと」


 使っていない部屋が三つあるが、初対面な人を泊めろと言われても。


「私から言っておく」

「う、うん」

「言い訳は……そうだな。その容姿なら「同級生」にしておくか」


 その容姿? 確かに同い年に見える。


「大丈夫。この者は()()()()()だ。多分、気も合うはずだ」

「は、はい」


 ミラを見ると和かにウインクしてきた。


「では双方任せた。戻ろう」


 お開き、とばかりに私たちの背が押された。


*普段なら・・この時点ですべての列車は最高速度を20kmとし「運行種別」は「各停」となっている。さらに「相模大野駅」にて折り返し新宿へ戻る。特急専用列車以外、出来うる限りの編成を出しているので(ラッシュ時の山手線のような)超過密ダイヤの常態。「多摩線」を利用する者は「新百合ヶ丘駅」で乗り換え。相模大野から西側や南側に行く者も同様。小田原方面は客が減るので「本厚木駅」で折り返し。そこから西に向かう場合は乗り換え。乗り換えが必要な者は一旦改札を出て並び直す。各踏切は電源を落とした上で警察官が横断者を管理。鉄道会社の社員は駅や線路の切り替えポイントに配置。他社直通は中止。(因みに新宿駅の混雑は夕方までには解消されている)……………………という「うんちく」を本文に入れても鬱陶しいだけなので省きました。



 6月初旬から始まった(私生活の)ドタバタはもう暫く続きそうで、予定が全く立てれずにおります。

(この場を借りて……救急隊の迅速な対応には感謝しております)

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