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第三話 アプリ

えーと、区切りが悪いので再度分割しました。

それと今話は会話が多いです。

 

 向いている方向は東側。言われるまま視線を向けると……『新宿御苑』から東側、灰色の高層ビルや住宅があった場所の全てが緑豊かな「森林」へと変わっていたのだ。


「え、嘘……」「……森?」


「ああ森だ」


 一変していた光景にも驚いたが、それ以上に違和感を覚えた。

 その違和感の正体には直ぐに気が付いた。自分達が育った場所にあった「木」と種類が違うと。

 現在、人の目で触れられる場所にある森は例外なく「人の手」が加えられている。そういう場所は一部の例外を除いて、背が高く真っ直ぐ伸びる針葉樹が植えられる。

 だが目の前に広がる森は「もこもこ」とキノコのように横に広がった広葉樹が大半で、今の日本では余程の山奥にでも行かなければお目にかかれない種類のものばかり。


「信じられないだろうがこれは現実だ。その証拠にあそこを見てみろ」


 指し示す方向はほぼ真東。目を凝らしてみてみると……木々の合間に一か所だけ開けた空間が。そこに何かの建物だろうか、白色の建造物がチラリと見えた。


「……もしかして大手門?」

「正解。この森は皇居を中心に円形に広がっている」


 新宿駅から皇居はほぼ東。距離と方角は合っている。


「……ひ、人は?」


 木々が鬱蒼と生い茂っている為に姿は見えない。

 沙織の問い掛けに兄は一度だけ左右に首を振った。


 とそこにメールの着信音が。

 このメロディは藤乃専用。

 動揺が収まらない中、急ぎ開いてみると『これから地下鉄で新宿に向かうから待っててね』とだけ記されてあった。

 安否を確かめるため急ぎ返信を試みるが……届く気配がない。

 回線が渋滞しているからか、藤乃がいる場所が問題なのか、そもそも届く状況にないのか。


「どうした?」

「い、いや藤乃が」

「藤乃ちゃんがどうした?」


 詰め寄る兄。


「ふ、藤乃に『新宿駅に向かえ』ってメールをしたんだけど、届いたかどうかが分からなかったんだ」

「なら今のメールは?」

「その返事」

「今届いたと?」

「うん。ココに向うって」

「……そうか、()()()()()()()のか」


「「誘導?」」


「これはツイてる。よし、凪は藤乃ちゃんと合流しろ」

「え?」


「沙織は電車が動いている内に家に帰るんだ」

「え?」


「っとその前に二人とも今すぐこのアプリをダウンロードしろ」


 スマホを操作しQRコードを表示した。


「「? 何これ?」」

「入れながら教える。サッサと読み込め」


 言われるがまま読み込むと、()()()()()()()()()ダウンロードが始まった。


「二人ともいいか」


 俺達の肩を引き寄せると小声で耳打ちしてきた。


(コレは国家機密に該当する特別製のアプリでな。特殊なプログラム(暗号)を用いているので通信制限下でも普段通りに使える)

((…………))


 行き成りの展開で戸惑うが、自分達の兄が警視庁勤務の警察官だと思い出し黙って聞くことにした。


(ある種の「免罪符」だと思え。お前達の身分証明にもなるし電子決済にも使える。請求は国に行くから遠慮なく使っていい)


(ワォ)


 沙織の目が突然輝き出す。

 どうやら良からぬ発想をしているらしい。


(他にも色々な機能を備えているが、そちらは手が空いた時に「ヘルプ」を見ろ。困った時は警官を見つけてトップ画面を見せるんだ。公安がバックアップしてくれる)

(公安? 兄貴が所属している?)

(ああ。ある程度の階級にいる警官なら積極的に協力してくれる体制になっている)

((分かった))


「でも沙織一人で」「沙織、帰れるよな?」


 不安を口しようとしたら有無を言わさぬ雰囲気で遮られる。


「う、うん。でもあの混み具合だと……」


 兄のモノを言わさぬ雰囲気に気圧され思わず頷いたが中に入るのにも苦労しそうな、どこが最後尾なのかが分からない程の長蛇の行列を思い出し弱気になってしまう。


「丁度良い機会だ。実践して見せるから二人とも付いてこい」


 来た道を引き返す。

 駅ビルから出ると人がまばらな有人窓口へ。

 そこで係員に何かを伝えると疲労困憊といった様子の上司? らしき人が呼び出された。

 その人にあのアプリの画面を見せながら何やら耳打ちをする。

 すると態度が一変、考える素振りを見せた後に身振り手振りでの会話が始まった。


「何、話してるのかな?」

「多分……沙織を乗せてくれと交渉してるのかも」

「だね。でもそれはそれで複雑な」

「その気持ちは良く分かる」


 皆、我慢して並んでいるのに。


「……違う」

「何が?」

「凪兄、私が言いたいこと分かってないでしょ?」

「?」

「全く。教えてあげるから目を瞑って」

「へ? 何で?」

「いいから!」

「お、おう?」


 と目を瞑ると唇に温かい感触が。

 驚いて目を開けると沙織の顔が目の前に。


「これで分かった?」

「…………何が?」


 いつものおふざけの延長?


「……この鈍感兄ぃ」

「鈍感? そうか、もしかして一人で帰るのは心細い?」

「……違う」


「沙織も苦労しているみたいだな」


 苦笑いしながら兄が戻ってきた。


「話が付いた。申し訳ないが続きは家でしてくれ」

「へ?」

「うん!」

「沙織、挫けずに頑張れよ」


 頭を優しく撫でて励ましている。


「分かった! 今度は実力行使に出る!」

「その意気だ。では勢いそのままこの方についてゆけ」

「う、うん」


 何の話をしているんだ?


 促されるままついて行く沙織。不安そうな眼差しで何度も振り返りながらもついて行った。


「沙織は何処に?」

「鉄道会社の社員として列車に乗せて貰えるようにした。乗務員に変装させた上で「秦野駅」まで送らせるようにと」

「秦野? 何故?」

「県内は既に大渋滞で車は使えない。勿論厚木市内のバスも煽りを受けている。だから秦野にした」


「で、でも北回りで抜けようとする奴らもいるんじゃない?」



 西から都心に向かうルートで代表的なのは東名高速。だがそれが使えない場合、並走している国道246号が真っ先に煽りをくう。

 今回はその246号や海方面を走る国道1号も使えないのだから、県内にとどまるか「北」に逃げるしかない。

 そして北向きの道は圏央道や国道16号か国道468号があるがどちらも「相模川」を超えた先にある。

 圏央道は東名高速と直結しているのでまだましだが、他の国道は一般車両も雪崩込んでくるので酷い有様だろう。


「賢い者」なら同じく渋滞で有名な「厚木市内」に入る前に回避行動を取る。その場合、南に抜けても意味がないので北に向かうしかない。

 そこで真っ先に思いつくのは国道129号。だがいずれは16号と合流するので動かなくなるのは時間の問題。


 そこまで予測が立てられる「もっと賢い者」はさらに西側の「伊勢原ルート」から「宮ヶ瀬(実家)」方面に抜けようと考える。

 こちらは道幅も広いし信号も少ないので渋滞は滅多に起こらないが、高低差が激しく直線が少ないために車種による速度差が発生しやすい。

 流入する車が多くなればそれだけ渋滞発生率は跳ね上がる。


 そしてもう一本西側に抜け道があるが、道を知り尽くしている地元民以外は勇気がいるレベルで大型車は問題外。


 ただどれもこれも「運良く」抜けれたとしても、最終的には同じく都心に向かう「中央自動車道」に行手を阻まれるので、結果的には無駄な足掻きになるだろう。



「心配しなくていい」

「どうして?」

「あの辺一帯は既に通行止めに(封鎖)してある。登山道も全て」

「…………」

「駅から自宅までの()も手配しておくから沙織の心配はしなくていい」


 足? もしかして白黒の車? でもなんで封鎖したの?

 いくら身内だからってやり過ぎじゃない?


「今は沙織よりも藤乃ちゃんだ」


 なぜここで藤乃の名が? 


「藤乃?」

「そうだ。今は()()()している」

「……ロスト?」


 今は?


「こんなことなら強引にでも仕込ませとくんだった。そうすれば安否だけでも」


 苦虫を噛むような顔で呟く。


「まあ待つしかない。その間に一つずつ片付けるしかない」


 と身体の向きを変え何処かへと通話を始めた。

 その脇で待つこと約一分。


「凪」


 通話しながら目だけをこちらに向けて声を掛けてくる。


「え? は、はい」

「現時点で藤乃ちゃんの性格を最も知っているのはお前だ」

「う、うん」

「だからお前に尋ねる。お前の彼女は今日は何処に行っていたか、想像がつくか?」

「え? う、うーん」


「…………」


 耳にスマホを当てたまま俺の返答を待つ兄。


「多分……高い所? ……東京タワー」


 ()()()()に遠くを見渡せる場所で俺に近い場所と言ったらそこしかない。


「正解だ。これなら任せても良さそうだな」


 と口元を緩ませながら意識をスマホへと戻し通話を再開した。



 ──正解……とは?



 直ぐに通話を切り上げこちらに向き直る。


「何処をどう探すかはお前に任せる。首尾よく会えたら通話でもメールでも構わんから俺に知らせろ。直ぐに人を回す(フォローする)

「わ、分かった」

「それと先程入れたアプリを藤乃ちゃんのスマホにもダウンロードする(落とし込む)こと。これは何においても最優先で行え。やり方は……一度やったから分かるな?」


 軽く頷く。


「最後に一つだけ確認」

「?」

「お前にとって藤乃ちゃんとは?」

「え? とはって?」

「ただの幼馴染か? それとも親同士が決めた許嫁か? それとも……」

「?」


「仮に、仮にだ。藤乃ちゃんと沙織が同時に助けを求めてきたら、お前ならどちらに手を差し伸べる?」


「い、行き成り何を言い出すんだ? 何で二人を天秤に欠けなくちゃならないんだ?」

「答えられないのも無理はない。俺ですら今まで半信半疑だった。ただ現実に起きてしまった以上、受け入れざるを得ない」


「さっきから何を言ってるの?」


 話題がコロコロ変わっている気がする。


「大切な話をしているんだが。まあその時が来れば分かる。それともう一つ、日本の神話と言えば何を思い起こす?」


「し、神話? 『桃太郎』や『浦島太郎』とかじゃなくて?」

「それは御伽噺だろう。大学生にもなって何を言っているんだお前は」

「うっ! ……えーと『古事記』や『日本書紀』の方?」

「そう。学校で習ってるだろう。内容は勿論覚えているよな?」

「習ったのは日本最古の書物で確か国造りから始まる歴史を綴った()()……だったような?」

「物語か……登場する神は?」

「えーーと【伊邪那岐(いざなぎ)】と【伊邪那美(いざなみ)】?」

「その二柱の子らは」

「え? えーと天照、須佐男、月夜尊と……」

「後で必ず役に立つから暇を見つけて調べておくんだ」

「う、うん」

「で話を戻すが、藤乃ちゃんの履歴(足取り)は『赤羽橋駅』に辿り着いた時点で途絶えている」

「赤羽……ってことは大江戸線かな?」

「かもしれん」

「それ以降は?」

「分からん、というより追えていない」

「追えない? ……あっ停電!」

「ああ。だから坑道か地上かの判断もつかない」

「地上? ならどこかの出口から地上に出たかも?」

「出れたらな」


 出れたら……ここは範囲外だから変化が無かった。だが地上が様変わりしている向こう側では出口も「形」として残っているか分からない。


「身の安全は保たれているとは思うが詳細は不明。手伝ってやりたいが俺は俺でやることがある。なのでお前が藤乃ちゃんを見付けるんだ」


 身の安全は保たれている?


「あ、あとコレを渡しておく」

「?」


 背広の胸ポケットに手を入れると布に巻かれた掌より少し大きめのL字型をした『何か』と十cm程の細長い『何か』を手渡された。


()()()()()()コレを渡しておく」


 大きさの割にズッシリとした重量。特徴のある形状。直ぐにある物を思い浮かぶ。


「これ、もしかして」

「装填済みマガジンと予備に十ずつ、計二十入っている」

「…………」


 言葉に詰まる。どうしてこんな物を渡してきたのか、兄の意図が読めない。


「身の危険を感じたら躊躇わずに使え」

「え?」

「実はな、【不貞な輩】が多数、入国している。今はロストしているが」

「……そいつらが今回の騒動を?」

「いや違う。これは我々日本の問題だ……今は」

「?」

「今は知らなくていい。それより弾は簡単には補充が利かない。なので残弾数は常に頭に入れておくように」

「ちょ、待って!」

「セーフティーロックは知っているよな?」

「え? た、多分」


 実物を見るのも触れるのも今回が初めて。

 確かめておきたいが、人目があるここでは出せない。


「オートだからトリガーを引くだけ。慣れるまでは両手でしっかりと握り、息を止めてからトリガーを引く。逆に射撃時以外はトリガーに指を置かない。分かったか?」

「……大介兄。教えて」

「なんだ?」


「今何が起きてるんだ? 何でこんなものを俺に渡す?」


 聞くと瞬きを止め俺の目をジッと凝視しだす。

 その状態が数秒続いた後にようやく口を開いた。



「……お前は()()()()()()()()と思うか?」



 ここ数年内の出来事。

 そして先ほど見た都心の発光体。

 さらに一変した光景。


「信じるも何も……いるんだろ? 神様」


 答えるといつもの優しい兄の顔に。


「いい顔だ。では行ってこい」

「うん」


 預かり物をボディバックに入れてから駆け出した。





 

*海岸線は「まだ」そのままです


次話も数日中に投稿します。

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