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第二話 五里霧中

続きです。

 

 気付けば皆、手をかざしながら皆既日食さながら空を見上げていた。

 ただ日食観測とは雰囲気が異なり、皆一様(いちよう)に閉口し、あり得ない光景を目にして立ち尽くすばかり。


「ねえ、アレ大きくなっていない~?」


 呟きが聞こえたので振り向くと、三十代くらいの男性と絶世の美女の二人が空を見上げて立っていた。


「これ以上、大きくなったら〜私困っちゃう〜

「困っているのは俺の方だ。暑苦しいから離れろって」

「あ~~ん、なら二人で涼しい所に行きましょ〜」

「お前一人で行け」


 第一印象は絵になる二人、と思ったが女性からただならぬ雰囲気を感じて目を逸らしてしまう。


「ほ、ホントだ。大きくなってというより移動しているような」


 沙織にも分かったらしい。



 ──大きくなってる? つまり……



「行こう」


 沙織の手を握り歩き出す。


「キャッ! ど、どしたの?」

「ここから離れよう」

「どうして? もしかしてやっと()()()()()()()?」


 頬を赤らめながら目を輝かせている。


「こんな時にボケてる場合じゃない。嫌な予感がするからここから離れよう」


 ここにいちゃいけないという強い衝動に駆られる。一刻も早くここから離れねばと。

 強引に手を引き立ち尽くしている人の合間を縫って一番近い地下鉄へと駆けこむ。


「アレ何だったんだろう」

「分からない。けどアレは下へと降りてきている」

「下? 地面に?」

「多分」

「何だろう? 何かの撮影? それともテロ?」

「いや違う……と思う」


 撮影なら何かしらの規制が掛かるがそんな気配はない。それにコストやリスクを考えたらCGで済ます。


 では兵器か?

 まず照明弾よりも遅く降下する兵器なんて聞いたことないし、仮に存在していたとしても「兵器」として価値があるとは思えない。

 ましてやここは日本の首都。いくら平和ボケしている国でも、警察を始めとした国家機関がこんな状況になるまで放っておくとは思えない。



 ──まさか知ってて何の対処もしていない……はないよな。


 そういえば今日は一度も「お巡りさん」を見かけていない。


「とにかくここから離れよう」

「う、うん」


 殆どの者は騒ぎを聞きつけ地上に向かったので地下のホームはビジネス客や年配者だけでガラガラ状態。

 これなら繋がるのでは? と藤乃に通話を試みたが……やはり繋がらず。

 最後のやり取りは今朝交わした『今日は用事があるから』のメール以降は音信不通の状態。



 ──どこかで合流したい……



 取り敢えず『ヤバそうなモノを見かけたので急いで移動して。俺達は新宿で待つ』と避難を呼びかけるメールを送信しておく。


 送信を終えたタイミングで電車が到着。乗り込み新宿に向かう。

 一度乗り換え新宿が近付くにつれ徐々に混んできた。


「あっ! 繋がったよ! でもめちゃ遅い」


 周りの乗客も皆一様に無言でスマホを操作している中、沙織が声を上げた。

 自分もスマホを取り出してネットに繋げてみる。

 多分最も回線が混んでいた場所から離れたことにより電波の混雑率が若干だが下がったのだろう。

 とは言えサーバーに負荷が掛かっている状況には変わりないので未だに重たい。


 沙織の言う通り確かに繋がった。だが検索サイトはうんともすんとも動かない。

 他のサイトも開こうとしたが国内のサイトは軒並みダウンしているようだった。


 仕方ないので色々試したところ、SNS系のサイトが繋がったので開いてみた。

 そして息継ぎしながら出てきた投稿記事。そこには……


『皇居上空に謎の発光体が出現‼︎』


 との記事と共に色んな投稿画像が表示されていた。


「何これ……さっきより大きくなってない?」

「……やっぱり降りてきてるんだよ


 色んな方向から撮った「くっきりと写った」投稿画像から徐々に落下しているのが見て取れた。


「藤乃が来たら直ぐに(実家に)帰ろう」

「うん」


 その実家があるのは神奈川県。電車を使うなら大まかに三ルート。


 一つ目は東海道新幹線。これは早いが駅が二つしかないので論外。


 二つ目はJR東海道線。

 こちらは乗り換えが前提となるのでどうしても時間がかかる。


 最後は私鉄の小田急線。

 神奈川県の多くの地域を「蹂躙(カバー)」しているバス会社の親会社でもあり、我々「村民」にはなくてはならない存在。

 これなら「本厚木駅」まで乗り換え無しで行けれるし、実家近くまでバスで帰れる。

 そのバスが使えない場合は「伊勢原駅」まで行けば母さんが車で迎えに来てくれる。



『次は~新宿~』


「もう少しだね」

「ああ……ん?」


 と車内アナウンスが流れた直後、車内の照明が一斉に落ちたが直ぐに薄暗いが照明が復活。それと共に列車が加速を止めたため慣性により乗客が一斉によろけてしまう。

 咄嗟に沙織を引き寄せながら手摺りに掴まる。


「な、凪兄⁈」

「大丈夫。それより怪我は無い?」

「え? えーと……うん、ありがと」

「?」


 珍しくしおらしい態度。

 普段なら「このまま押し倒して♡」とか冗談言ってくるのだが。


 因みに加速を止めた理由は想像がつく。

 何かしらの理由で変電所からの送電がストップしたから。

 ただ理由は想像がついても「原因」は分からない。ただし心当たりはある。

 だがその心当たりが「今」どうなっているのか確かめる手段がない。


 あれこれと考えているうちにブレーキによる減速を始める。完全に停止すると車内がざわつき出す。


「あれれ? アンテナ消えちまっただよ」


 隣から呟き声が。

 見れば()()()()()()十代半ばと思しき小柄な美少女がスマホと格闘していた。



 ──アンテナ? あ、そうだ!



 ここでスマホの電源を入れてみたがアンテナは全滅状態。つまり「通信用のケーブル」に電気が供給されていないと。

 これにより地下鉄の電源とは「別系統」である地上()の基地局にも()()()起こったと知れた。



 ──あの光が原因で?



「……藤乃」


 心配だが何も出来ない。こちらに向かっているのを祈るしかない。

 今は兎に角地上に出ないと。


 そこにアナウンスが流れる。

 それによると〈送電が止まっている〉〈指令所からの指示待ち〉とのことで〈このままお待ちください〉とのことだった。


 知りたい情報ではなかったので少しだけ落胆する。


 それから約十五分待たされた後に『車掌の判断により、次の新宿駅まで歩いてくれ』との趣旨のアナウンスが入り、坑道を歩くことになった。

 案内に従い「先頭車両」から順に外へ。


「足元に気を付けて」

「あ、うん」


 坑内の照明は灯っているが、光量が均一でなはく相対的に暗い。

 なので大半の者はスマホのライトで足元を照らしながら歩いている。なので全員俯き加減で黙々と歩いていた。


「痛い!」


 後ろを歩いていた沙織が突然声を上げた。

 見れば後頭部を押さえながら背後を振り返り下をキョロキョロと見回していた。


「どうした?」

「頭に何かがぶつかって……」


 下には何も見当たらないし、背後の人とは5m程距離が空いている。


「どこ?」


 歩く順番を入れ替え、歩きながら後頭部を調べる。



 ──ん? まさかこれって……



 急速に光を失っていく()


「怪我とかしてない?」

「…………」

「ね、ねえ、何で黙ってるの?」

「え? あ、ごめん。何ともない」

「そう?」


 ……まさか、ね。俺以外は通り抜ける筈……




 十五分かけて駅へと到着。

 改札を抜け、止まったエスカレーターを階段代わりに使って地下連絡通路へ。

 そこは今歩いてきた場所とは違いとても明るかった。

 電気に感謝しつつ「小田急線」に乗り換えるため改札に向かうと……人で溢れかえっていた。

 改札は中も外も長蛇の列。どこまで続いているのか想像がつかない程の。

 それを見て足が止まってしまう。

 とその時、誰かが俺達の名を呼んだ。


「凪! 沙織!」


 見れば紺色の背広を着た兄だった。


「「大介(だいすけ)兄!」」


「やっと着いたか」


 この兄は我が一条(いちじょう)家の次男でエリート国家公務員。俺が小学生の頃に独立して一人暮らしを始めた十歳上の兄貴。

 因みにこの兄の上にはさらに長男と長女がいる。


「「どうして大介兄がここに?」」


 真っ先に浮かんだ疑問。二人でハモってしまった。


「その前に移動しよう」


 と言って壁際に連れて行かれた。


「体に異常はないな?」

「異常? 怪我ってこと?」

「怪我も含めて」

「「うん」」

「良しよし。ん? ところでお前達はどのルートでここに来た?」

「九段下で乗り換えて」

「新宿線? 地下鉄か? なら地下は影響を受けていないのか?」

「影響? 何の?」

「停電は起きてたけど?」

「そうか、知らないのか」

「「?」」


 どこかじれったく感じる会話。


「後で教える。それよりまだ大ぴらに言えないんだが、ここだけでなく()()()()で混乱が起きていてな」

「「?」」


 混乱?


「これ以上はここで話すのは()()だから場所を移す」


 そう言うと人混みを掻き分け駅ビルの業務用出入口に行き、扉の電子キーを操作して中へと連れて行かれた。

 そして薄暗く細長い通路の先にあった業務用エレベータを使って最上階へ。

 そこからさらに階段を上ると鉄製の扉が。


「付いてこい」


 扉を開けると眩しい光が。ここから先は屋上らしく周りには規則正しく組まれた鉄骨が。

 床に書かれた矢印に沿って進むとまた階段が見えた。

 その階段を上りきった先は広大なヘリポートだった。


 そこそこ強い横風に注意しながらヘリポートの端へ。


「見ろ。これが現実だ」


 東側を見据えたまま言ってきた。


「見ろって何を? …………え?」

「何……これ……」


 それを見た途端、声を失った。


あと一話更新したら一旦休憩に入ります。

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