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序章1

初めに断っておきます。この作品のジャンルは「ローファンタジー」ですが、流行りの【魔法やスキルを使った冒険譚!】といった展開は考えておりません。(作中に魔法が出てこない、というわけではありません)



──前作から引き続きお読み下さる方へのご報告──

 予告していた内容を変更しました。なので「異能力系バトル」は……大幅に減らして後半少しだけ。

(変更理由は活動報告にてお知らせ済み←ネタバレを含んだお知らせだったので現在は非公開)

 それと更新ですが修正作業及び「諸事情」により、暫くの間は前作のような3~7日間ではなく不定期となります。また今作は前作よりも短め(50~80万字)にする予定なので、進行に影響のない伏線などは回収せずに進めます。あと後書きで馴染みの「注釈」も「敢えて」入れません。(分かり難いところは入れます)

予めご承知ください。

 

「<マリー> 準備はいいか?」


『……勿論』


「適当に遊んだら<ミラ>が待機している場所で合流。では三十秒後に作戦開始(始めてくれ)


『……了解。幸運を』


 そこで無線交信を止め、隣りにいる暗視ゴーグルをつけた<相棒>を見ると「了解」と頷く。

 そこからキッカリ三十秒後。予定通りに夜空がオレンジ色に染まり大地が揺れる。

「相変わらずの派手好きだ」と思ったところに周囲の木々が激しく揺れる程の衝撃波と爆音に襲われた……



 今、我々が身を潜めているのは中南米の国境が入り混じる密林の奥深く、目的が無ければ誰も近寄らないような秘境。


 そんな秘境に俺達四人は観光……ではなく〈依頼(仕事)〉で来ていた。



 ・・・・・・



 日本時間で今から三日程前。

 アメリカに本部を置くとある財団の日本支部からアポが入り、急遽「交渉人」と会うことになった。


 財団と依頼に関する交渉をする場合、大抵は人目の少ない場所を指定してくる。

 だか今回指定してきたのは都内の繁華街にある居酒屋チェーン店だった。

 なので込み入った「依頼」になると予想し俺一人で来た。


 店員に案内されたのは四人用の掘り炬燵タイプの個室。とは言え隣の客の笑い声が聞こえるレベルの密室。



 ──やはりコイツか。



 俺の唯一と言っていい苦手な奴が待っていた。


「お久しぶりです」

「ああ」


 目を合わせたのは一瞬。対面に向かいながら挨拶を済ませると卓上タブレットにて料理を注文する。

 料理が届くまでの間、俺はスマホで時間を潰そうとするのだが……対面にいる女の視線が気になり集中出来ない。


「お待たせしましたーー!」


 頼んだ酒と料理が運ばれ簡易的な扉がやっと閉じられた。ここからが仕事の話。


「では始めますね」


 今では珍しい二枚の「写真」を見せながら経緯の説明を始めた。



 ◇


 今から二日程前、【財団】の本部に出所不明の二枚の画像が送られてきた。

 その内の一枚に写っていたのは黄金の【首飾り】。もう一枚は宗教的な建物。

 財団は【首飾り】に注目。画像の送り主に接触を試みたが「出所不明」が指すように人物の特定には至らなかった。

 そしてもう一枚に写っていた建物の割り出しには成功。ただし場所に問題があった。


 ◇



「確かにいやらしい場所だな」

「でしょ?」


 そこで選ばれたのが俺達、だったと。

 ただ疑問が残る。「そちらの部隊で対処できる案件では?」と。

 なにせ財団(コイツら)の本国には小国並の軍事力がある「自前の部隊」を持っている。

 さらに本国からも目と鼻の先だし、多少強引に事を運んでも金で解決出来る国と好条件ばかり。

 なにも我々のような「少数精鋭」の零細企業を利用しなくてもそいつらを使えば「物の入手」くらいは容易く行えるだろうに、と。


 コイツ相手に遠慮する気もないので尋ねると「今回は少々事情がありまして軍事力()が使えない」と言われた。


 使えない事情を考察する。

 財団の裏の顔、更に()()()の性格を知っている俺には嫌な発想しか浮かばなかった。

 なので今回は即決せずに営業スマイルを貫く美人交渉人(コイツ)の目で真偽を確かめることにした。


 すると俺の懸念を察した上で次の提案をしてきた。


「そういえば依頼金のご提示はまだでしたね」


 とカバンの中からタブレット端末を取り出すと滑るように指で操作を始める。


「えーーと、今回は依頼料とは別に、現地までの往復の手段のご用意、渡航に必要な手続きや経費の一切を当方が負担します。さらに成功の暁には特別にボーナスもご用意します」


 とタブレットを俺の前に置く。そこに載っていた数字を見て驚く。


 今までにない破格の条件。

 この組織は他よりも金払いが良い方だったが、それと比較しても「一桁」は多い。

 メンバー五人で割っても日本人の生涯収入を軽く凌駕する額。


 とはいえ「経理」だけでなく「投資と開発」も担当している<ファントム>に大半は持っていかれるだろうが。


 ……これ断ったら〈ファントム〉にシバかれる。


 冷や汗を垂らす俺を見て美人が続ける。


「我々からの条件は二つ。一つは()()()()()()()()の【完全な状態】での【首飾り(遺物)】の入手。もう一つはその【遺物】を貴方達が日本に持ち帰り【ある方】に届けて下さい」


「ある方? 届ける? もしかして盗品なのか?」


「いえ盗まれた、という訳ではありません。行方が分からなくなっていただけです」


「…………」


「今回は事が事なだけにそちらのご要望には可能な限りお応えしますし「アシの付かない装備」もこちらで用意いたします。現地は国家権力が及ばない無法地帯で大半の者は武装しているので身の危険を感じたら「遠慮なく」ぶっ放せます」


 ……この場に〈マリー〉と<ミラ>がいたら意気揚々と同意するだろう。連れてこなくて良かった。


 この交渉人は「財団」の日本支部の幹部で、我が社の担当をしている女性で名を【佐伯優】という。因みに【佐伯】という苗字は偽名だ。

 コイツとは学生時代からの付き合いで、俺だけでなく仲間の性格も熟知している相当な切れ者。

 ある事件に巻き込まれなければ俺とは「良い関係」でいられただろう。


 だからこそ分かる。既に外堀は埋められていると。もう断るという選択肢は無いのだと。

 ただ仲間の命を預かる立場としては、素直に頷けない。


「受ける前に一つ質問していいか?」

「?」

「何故俺達なんだ? 他にも適任者がいるだろうに」


 日本では俺達のような真っ当な稼業(トレジャーハンター)は珍しいが、世界には結構な数が存在している。その中には()()()()()()()()()非合法の組織も。


「……知りたい?」

「ウチのウリは「宝探し」で「強奪」ではない。それは知っているだろ?」

「勿論」


「…………」


 無言で続きを促す。


「仕方ありませんね、ではお答えします。今日は『赤』です」


 ん?


「い、いや下着の色じゃなくて」

「おや? 私は下着とは一言も」

「…………」

「フフ、今回は抽選です」

「抽選? もしかして丸い赤い箱に付いている小さなグリップを回して玉を出すアレ?」

「回転式抽選器ですね。本部の抽選方法をご存じとは流石です」

「…………」


「……あらあら? 今日はノリが悪いですね~。もう少し続けません?」


 余裕の表情で受け答えしている。


「……一応真面目に質問しているつもりなんだが。答える気はない?」

「分かっております。軽い息抜きですよ」

「いや、空気読めって!」

「それでは空気を読んでお答えします。今回は本部からの指示ではなく、私の推薦にて決まりました」

「推薦?」

「はい。〈ケン〉のチームが()()だと。あ、それと今回のミッションは失敗は許されないので皆さんを私が現地までエスコート致しますのでご安心を」


 ……適任?


「では(質問に答えたので)無事契約ということで」


 とここで俺の携帯端末がメールの着信を知らせてくる。

 送り主は<ファントム>で「確認済み」の文字と笑顔の絵文字が。


「【資料】はいつも通り<ミラ>さんにお送りしておきます。諸々のご要望は二日後の迎えの時までにいつものアドレスへ。現地に着くまでにはご用意致します」


 はぁ……相変わらず手筈が良いことで。


「では今回もよろしくね、洋人(ひろと)


 ソファーから立ち上がり俺の「名」を口にする。そして「素の笑顔」に変えてから右手を差し出してきた。

 見慣れた笑顔に一抹の不安を覚えながらも握り返した。


「そういえばアレどうなった?」

「アレ? ……あーもう少しだけ待って」

「そうか。すまない」

「ちゃんと調べてるわよ。貴方のお願いだから」


 今では見せなくなった笑みを浮かべながら、部屋を出て行こうと立ち上がる。


「……なあ」

「?」

「たまには一杯付き合え」

「……一杯だけでいいの?」

「…………」

「全く甘えん坊なんだから」




「今日は「黒」です」

「お、おい!」

「「「…………」」」


 澄まし顔でいきなり暴露する優。すると隣にいたメンバー三人の視線が俺に突き刺さる。

 今日は約束の出立の日。これから優のエスコートにて空港へ向かう。

 立ち止まることなく「財団」所有の中型プライベートジェット機に乗り込み、メキシコを経由して南米へ。

 ここまでパスポートを一度も使わずに小型汎用機に乗り換えると()()()()()()()()、現地に最も近い「プライベート滑走路」に到着。

 そこで物資の引き渡しを受けた後に優と別れ、車にて目的の地へと到着、今に至る。



 ・・・・・・



 衝撃波を木の陰でやり過ごす。

 この先は密林には似つかわしくない開けた空間があり、その先には反り立った崖が。

 その崖の下には小規模ながらも立派な宗教関連と思しき建物が。

 その建物の唯一の出入り口である、高さ3m程の両開きの扉が勢いよく開かれると、武装をした男達が慌てた様子で次々と飛び出してきた。


「…………」

「…………」


 室内の明かりを背に、銃を片手に何かを叫びながら辺りを見回す男達。

 その内の一人が遠くの夜空に舞い上がる赤く染まった煙を見付けると停めてあった車に分乗し走り去った。



 ──礼拝って雰囲気ではなかったな。銃を片手にお祈りしていたとも思えない。



 いや人を見かけで判断してはいけない。もしかしたら礼拝を邪魔された「熱心すぎる信者」って線も無きにしも非ず。

 と()()()()()()()で気を紛らわしつつ、胸ポケットから小型の携帯型端末を取り出し電源を入れる。


 [ハロー マイマスター。今日もお日柄が良く……]


 と〈ファントム〉お手製のプログラムが起動する。

 ()()()()()()()()()()()()と安堵しつつ、()()()()()()にメインメニューへと切り替え、いくつかある項目欄から「起爆」のアイコンをタップ、画面が切り替わり【1】から【3】の数字が書かれた、昔ながらの爆弾アイコンが現れた。

 その内の【3】をタッチ。すると「パン」と小さく乾いた音が聞こえたのと同時に、出入口から漏れていた灯りが消えた。



 ──無力化はこれでよし。



 この建物への唯一の給電設備であろう、脇の小屋の中に置かれた小規模発電機を使えなくした。

 これで監視機器があったとしても役に立たなくなっただろう。


「よし行くぞ」

「うん」


 暗視ゴーグルを装着すると窓が一切ない建物の脇から回り込み、開けっ放しの扉へ。

 一旦扉の陰に隠れて中の「気配」を探る。



 ──……気配がしない? まさか全員出て行ったのか?



 あの様子なら待ち伏せをするとは思えないが「捨て駒」の可能性はあり得る。

 ただ今はあれこれ考える時間が勿体無い。


 早速、後ろにいる相棒にハンドサインで 〖突入〗 の合図を出す。

 すると全身黒ずくめの相棒がハンドガンを持ちながら躊躇う素振りも見せずに身を屈めながら中へと突入。その後にサブマシンガンを構えた俺が暗闇へと入ってゆく。


「「…………」」


 誰もいなかった。

 中は一人掛けの椅子が整然と並べられたかなりの広さと高さがある部屋で、正面奥の壁の前には祭壇らしき棚と「地場の神」らしき怪しげな像あるだけで、普通の「宗教系の集会所」の雰囲気。


(ん?)


 相棒が右奥を指差している。

 その先は正面の祭壇が置いてある壁の右端に置かれた本棚。



 ──確かに違和感が。



 大半の【跡】は並べられた椅子とその椅子から出口に続いているので、外に出て行った奴らはここにいたのだろう。


 では違和感の正体は?


 それは本棚が本来の()()()()()()()()()()点。


 早速本棚を調べようと相棒にハンドサインにて 〖周囲警戒〗 を依頼してから近寄り遠巻きに眺める。


 どこにでもありそうな、但し「本が一冊も置かれていない」木製の棚。

 妙な突起やへこみもなし。

 カメラやトラップやセンサーの類はなし。

 怪しい点は見つからない。


 外観、そして内部の構造は一致している。ならば隠し部屋の類があるとすれば「足元」か「奥の壁」のどちらかしかない。



 ──多分この後ろに何かある。扉の役目をなしている本棚(コレ)をどう開けるのか……



 手袋のまま軽く触れてみる。左右や前後に動かそうと試みるがピクリとも動かない。

 ここで一旦暗視モードを解除しゴーグルに内蔵してあるライトに切り替える。



 ──ん? 最下段の棚板だけがやけに汚れているな。



 もしやと思い棚板を軽く踏んでみる。すると棚板が僅かに下がった後に棚全体が軋み音を立てながら、ゆっくりと上へとスライドしてゆく。

 急ぎライトを消し再び暗視モードへ。そのまま壁に背を合わせて、棚が自然に止まるのを待つ。


 息を殺して待つこと約十秒。棚は1.5m程の高さで「ガクン」と音を立てて止まると奥へと続く横穴が現れた。


「…………」


 中は真っ暗。

 耳を澄ますが何も聞こえてこないし()()()()()()()()

 腰のホルダーから小型の赤外線感知センサーを取り出し縁からそーと突き出す、が反応なし。



 ──静かすぎる。



 先程飛び出してきた奴らは十人程度。そこそこの武装と最低限の統率はとれていたが動きは素人そのもの。

 あれでは組織に属しているというより、スポンサーに利用されて(から支援を受けて)活動している「血気盛んな地元の有志風」に見えた。


 どちらにしても大事な物を保管しているなら見張りを残していくのが定番。



 ──もしや本当に「ただの宗教信仰者の集団」なのか?



 ここまでは()()()()()()

 だからこそ感じる違和感。その違和感の元になったのはあの一言。



『適任』



 だがここで時間を掛けるのは愚策の極み。

 先程出て行った奴らが戻ってきたら面倒な事態になってしまう。


「ここで待機してくれ」


 入り口付近にいた相棒に声を掛ける。すると相棒は()()頷いた。



 ──仕方ないだろう。邪魔をする者がいないんだから。



 相棒の機嫌が悪くなる前に行けるとこまで行こうと思いながら赤外線照射装置のスイッチを入れる。

 これで光源が一切なくてもある程度の距離までは見通せるようになった。

 気持ちを切り替え中へ。中は岩丸出しの洞穴といった通路で正面に真っすぐ伸びている通路だった。

 見える限りは障害物もなく遮蔽物もない、あるのは天井部に等間隔に取り付けられた灯具のみ。

 トラップの類に注意しつつ速やかに走り抜ける。


 横穴を100m程進んだ先は簡素な木の扉で封鎖されていた。

 とはいえ扉には鍵は掛かっていなかった。


 耳を当てて中の様子を窺う。

 物音はしないが()()()()()は感じる。



 ──誰かがいる……どうする?



 やはりいたか。だがこれはこれで対処に困る。

 問題はこの先の構造と扉の造り。

 そして「扉の先にいるヤツ」はまだ俺の存在を知らないか、様子見をしているどちらか。

 だがこの扉を開けた途端にガラリと状況が変わる。


 なるようにしかならないと決心しノブに手を掛け身を隠しながら扉をゆっくりと開ける。


 中から漏れてくる薄明かり。

 全神経を中に向けるが動く様子はない。

 中を窺うため、先程使ったセンサーで調べる。


 大きな反応は一つと小さな反応が一つ。

 小さな反応は多分光源。この明るさと揺らめきは蝋燭だろう。



 ──チャンスは一瞬。



 サブマシンガンを下に置いてから右手の手袋を取り左手で持つ。腰のホルダーからハンドガンを右手で掴む。


 ここで大きく深呼吸。

 再度大きく息を吸い込んでから脱いだ手袋を「囮」として中へと投げ込み、続いて中へと突撃した。


「…………」


 静まりかえる岩肌丸出しの半球体の室内。

 正面の壁には唯一の光源である蝋燭が一本。

 その下には祭壇? らしきものが。


「!」


 キラリと光る遺物である首飾り。

 情報通りここにあった。

 だが発見と同時に予想外(イレギュラー)な事態になったと確信する。


 そのイレギュラーとは祭壇の上で安らかに眠っている? 10歳前後の少女。この子はこの地の者とは違い東洋人と思しき顔のつくりと肌の色。そしてその少女の首に目的の「遺物」が掛けられていた。


 俺は職業柄、この手の遺跡は五万と見てきた。希少価値の高い装飾品を身につけたまま永遠の眠りについた者の大半は、位の高い者か生贄にされた者と相場が決まっている。


 この子が指導者でもあるまい、間違いなく後者だろう。で何かの儀式で必要になり、どこからか攫われてきたのだろう。



 ──面倒な事になった。



 暗視ゴーグルを首元にずらしながら考える。

 性格上、ここには置いてゆけない。

 依頼品だけ持ち去ったらこの子には悲惨な末路が待っている。

 さてどうするか。


「……可愛い……」

「!」


 突然声と共に耳元から相棒の顔が現れる。


「……〈ヒメ〉か、驚かすなよ」

「そーりー」


 そのまま首に手を回され密着してきた。


「おい見張りはどうした?」

「んーー暇だから見に来た。そんでその子は?」

「分からん」

「ふーーん。その子もしかして日本……ってお宝見ーーけ」

「お、おい!」


 と俺の首に巻きつけていた両手を解くと少女に手を伸ばす。その体勢のまま俺の背を強引に押してくる。

 なので否応なしに背から()()()()()()が伝わってくる。

 これに(あが)らってもしようがないのでそのまま一緒に近付く。


「コレそうでしょ?」

「ああ」


 首飾りとの距離は約1m。


「そんじゃお宝()()()()回収してサッサと帰ろ?」


「……フ、そうだな」


 悩む程のことじゃなかったな。


「じゃあ俺が背負うから先行してくれ」

「あいあいさーー」


 ハンドガンをホルダーに収めてから少女を背負う。部屋から出ようと身体の向きを変えた時には相棒の姿は既に無かった。


 ここで首に下げていた暗視ゴーグルをつけ直し扉に向かう。

 途中、扉の前に置いたサブマシンガンを拾うとしたが無くなっていた。多分相棒が<両手が塞がっているお前には不要だろう>と気を利かせて持っていったのだろう。


 そう割り切り建物に戻る。すると外への出口の扉の内側で、外の様子を窺っている相棒の姿が見えた。


 その相棒がこちらを見ずに 〖敵 待ち伏せ〗 とハンドサインで知らせてくる。


 待ち伏せ?

 なら先程の奴らは?

 もしや別勢力?

【財団】からは何も聞いていない。


 僅かな間、逡巡していると相棒が 〖蹂躙 OK?〗 と許可を求めてきたので 〖数は〗 と聞き返すと 〖いっぱい〗 と答えた。


 相棒は「無理な時は無理」とハッキリ言う。なのでこれ以上のやり取りは無意味と判断。

 隣に行きサブマシンガンの予備のカートリッジを渡そうとしたが、逆にサブマシンガンのスリング(ベルト)を押し付けるように首に掛けてきた。

 どうやら「これ邪魔だから返す」のつもりらしい。


 ()()()()()、そして敵がまだ()()()()()()()()()()を鑑みて(ここで待つ。出れるようになったら合図をしてくれ)と耳打ちをすると、黒い色の布で隠された口角が僅かに上がった。


 外は相棒に任せると「万が一」に備えて迎撃の準備を始める。

 先ず身近な椅子を持って部屋の隅に行き背負っていた少女を座らせてからもう一つ椅子を持って相棒のそばへ。

 〈任せたぞ〉との意味で相棒の肩に手を置くと〈OK〉と軽く頷いたので、外に向け椅子を力いっぱい放り投げた。

 椅子が外に飛び出した途端、派手な音と共に椅子に向け銃弾が撃ち込まれ、地面に落ちる頃には原型を留めていない程に粉々に砕け散った。

 その合間に外へ出た相棒が椅子とは反対側に疾走してゆく。

 幸運にも敵は「暗視スコープ」を使っていたらしく、()()()()()()()茂みに逃げ込めた。


 その後、静けさが戻る。

 敵が踏み込んできてもいいように扉から距離を取り、椅子に身を隠して銃を構える。


 その状態で待つ事約三分。

 足音が一つ、近付いてきた。


「終わったよーーん」


 場にそぐわない間の抜けた声が聞こえたので肩の力を抜く。

 サブマシンガンを首に掛けてから少女に向かう。


「ストレス発散出来たか?」


 ヒョコっと顔を覗かせた相棒を見ずに声を掛ける。


「うん!」


 清々しい返事。


「で、相手は誰だった?」


 未だに気を失っている少女を背負いながら聞く。


「傭兵君」

()()()()()()()()でもなく?」

「そう。根拠は二つ。一つは【デッ君】の癖が抜けきってなかった」

「デッ君? ……あー【デルタフォース】か」

「そ。退役した(辞めた)のは三年くらい前だね」


 特殊部隊の人数(1チーム)は大抵が5〜12人。重要なのは即応性でそれぞれが決められた「限られた範囲」をカバーし合いながら任務に当たることで無類の強さを発揮する。


 だが今回はそれが仇となった。

 特殊部隊と傭兵とでは任務の性質や役割が異なる。転職したからといって、今までの【癖】は直ぐには直せないし足枷にもなる。


 相棒が言っている【癖】とはまさにそれで、一瞬の動きから見抜いた上で「視野外」から攻めたのだろう。


「もう一つは戦利品」


 と真っ赤に染まった【認識票】12個と武器をぶら下げて見せた。


「使う?」

「ん? M16をか? 俺はAPC9(これ)があるから要ら」

「そ」


「ない」と言う前にポイッと投げ捨てられた。

 俺が銃を使うのは牽制や自衛のためで、殺傷が目的ではない。ましてや「並程度」の実力しかない俺には色んな意味で扱い辛い。


 メンバーの中でペアを組む機会が一番多い相棒は俺の性格を熟知している筈なのにこの問い掛け。そこに違和感を覚える。


「こっちは?」

「見せてくれ」


 認識票の一つを俺の目の前にぶら下げて見せる。


「…………確かに本物だな」


 身元を証明する物を身に付けて作戦に参加するってことは制圧に自信があったのだろう。

 ただ今回は()()が悪かった。

 夜の密林で相棒に敵意を向けるのは自殺行為。


「ん? コイツらの目的はなんだ?」


 待ち伏せ。殺意。元特殊部隊員。

 それらから導き出される答え。


「……嵌められた? いや違う」

「試験?」

「それだ」


 財団の力を使えば俺達のような弱小企業を抹殺するのは容易いだろうが〈動機〉がない。

 仮に動機があったとしてもこんな回りくどい手段は使わないだろう。


 それよりも「あの財団」が他勢力を把握していない、とは思えない。

 競合相手がいるならあの手この手で妨害する筈。



 ──知った上で手を出さなかった……いや出せなかった?



 〈事情〉



 ──財団が手を出せない相手。それはつまり……



「……合衆国」

「…………」


 不味いな。面倒事に巻き込まれたらしい。


「全員息の根を止めたよな?」


 外の奴らを聞いている。


「今頃(しがらみ)から解放されて、みんなでベリーダンスを踊ってる」


 腰に手を当て軽いステップを披露してくれた。


「ならまだ間に合うな」

「?」

「外にいた奴らの雇い主は」

アメリカ(メリケン)?」

「ああ。連絡が途絶えてから四分。そろそろ痺れを切らす頃合いだ」

「後続来る〜?」

「ああ、次は力押し……って嬉しそうに言うな!」

「あはは!」

()()()()()前にここを離れるぞ」

「遊んでかない……の?」

「そんな顔してもダメ。この子を連れ出すのが先だろう?」

「そだね、ごめんちゃい。我慢します」



 今、俺達を襲っているのは米国。つまりは「合衆国」が相手。

 推測だが、今まで競合相手が居なかった米国は、最悪の状況になった場合を考慮して、わざわざ自国の退役軍人を集めたり流通量が多い、足の付きにくい武器を使うといった小細工(言い訳)を用意して挑んできた。

 今まではそれで上手くいっていたのだろうが今回は裏目に出た。


 情報を嗅ぎつけた財団が横取りに出たのだ。

 財団側は正面切っての衝突を避けたかったから、小回りが効く俺達を使った。


 何も知らずに僅差で遅れてやって来た米国は〈マリー〉が起こした「爆発」を目撃し慌ててここにやってきた。

 想定外な現状を立て直す前に相棒に見つかり呆気なく殲滅されてしまった。

 仮にだが奴らにとってベストな状況にもっていかれたら、ここから抜け出すには相当な時間を要しただろう。


 だからこそ財団や俺達の()()()()()()()()()()()()

 手掛かりを残したら地の果てまで追いかけてくるだろう。



 だが何故俺達を使ったんだ?

 米国籍の会社は全て国に監視されているから除外するにしても会社は他国にもある。



 〈その子もしかして日本……〉



 ──日本人、だから?



 どちらにしても情報が足りなさすぎる。

 早いとこ仲間と合流してアイツを問い詰めないと。


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