深淵の者
—カシュー国 礼精教会—
『 —おい、闇にもなれない半端者よ。起きよ 』
その声にカシュー国の礼精教会の使長ヨーエンは目を覚ました。
「は、ははぁ。 我らの天使さま」
『 —貴様に聞く。ここに深淵の指が来たであろう』
「はぁ.. もうひとりお連れを率いてお越しになりました。私を罵倒して下のペドゥル国に行きましたが..」
『 —それきりか?』
「はい。それきりでございます、天使さま。何かございましたか?」
『 —貴様のようないつまでも人であった頃にしがみ付く半端ものには関係ないことだ』
「はい。申し訳ございません。しかしそういうあなた方『深淵の者』も組織など作って人間その者じゃございませぬか?」
『 — .... 』
「クククク。いや、失礼いたしました、天使さま」
膝を折り懺悔しながらも下卑た笑みを浮かべ、言葉を無くした天使の辱を舐めて喜んでいた。
「そういえば.. 深淵の指がペドゥル国へ降りてすぐに不快な鐘の音が聞こえました」
『 —鐘の音だと、どこかわかるか?』
「さぁねぇ.. ご自分でお調べになったらどうですか、天使さま?」
『 — .... 』
「クククク.. 他に何かお手伝いすることはございますかぁ?」
『 —ふん、貴様はそこでせいぜい人間どもの卑辱でもしゃぶっていろ』
部屋を覆いつくした闇が去るとそこには子供の足跡が残っていた。
「クククク.. 天使さま、困ったものですねぇ。お互い人であったことを忘れられないのは。しかし、その感情こそが美味なのですよ」
『闇の従者』は何処にでも現れる。その都度、小さないざこざを起こしては、そこに生まれた負の感情を楽しむのだ。それぞれの『闇』は単独だ。決して群れたりはしなかった。
しかし例外が発生した。600年前、絶大な力を持つ闇の従者『漆黒の闇』が覇王を名乗り、世界各地に混沌を引き起こした。そのため、多くの冒険者が『闇の従者』の討伐を始めたのだ。
人の業を捨てきれない闇が作った組織。それが『深淵の者』。奴らは『漆黒の闇』に近いモノで、遠い者でもある。
そして600年がたち残存する『深淵の指ダグラム』、『深淵の手リキドル』が姿を消した。残存する深淵が再び動き始めようとしていた。
そして、それこそがロス・ルーラが『形のない宝石』を探す大きな壁となっていたのだ。迂闊に動いて奴らに関われば、式紙だけでは対抗できない。だからロス・ルーラは待ったのだ。魔術師リベイル・シャルトと同等の力を持つ者が現れる時を。
今、ロス・ルーラの意志を継ぎし者、魔法使いライス・レイシャ、メイド剣士リジ・コーグレン、エルフの殺し屋氷のアシリア、精霊に愛されたチャカス族のギガウが王国キャスリン行きの船に乗る。




