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果樹園の魔法使い~形のない宝石を求めて  作者: こんぎつね
4章 砂の王国マガラ
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王族の自由人ザイド

【前話までのあらすじ】


ライス、リジ、そして案内人としてのマイルが、本格的に島の王国キャスリンを目指し始めた頃、アシリアとギガウはマガラ国にいた。港町ケロットで出会ったオレブラン(獣人)の少年スレイにマガラ国を案内してもらうと、ギガウは地中の水脈を押し上げ貧しいクタ地区の井戸を水で満たすのだった。

◇◇◇

—砂の国 マガラ—


 クタ地区の井戸が水で満たされたことはサンガ地区の役人に知られてはいけない。知られれば、奴らは都合の良い法規制を敷き、水脈ごと奪い去ってしまう。


 オレブラン(獣人)のスレイはクタ地区の人々に口外しないように口止めをして回った。


 「いいかい、タラばあちゃん。役人の前では、前と同様に水が無くて困っているふりをするんだ」


 それはあまり建設的な方法ではないことなど、スレイにもわかっていた。しかし、それしか今の現状、方法がなかった。



 「スレイ、俺たちはもう4日ここにいるが、船に乗る為の許可証はまだ得ることはできないのだろうか?」


 船に乗り一刻でも早くキャスリン国に渡りたいアシリアの気持ちとは裏腹に、スレイはコネを使って許可証を取れるようにするから、しばらく待ってくれと言っていた。


 「うん。ちょうど、今日、その約束が取れたんだ。王宮に行くよ」


 「王宮だって?」


 「そうさ。前にも言ったろ。ここマガラには裁定所なんてものはないんだ。全ては王宮で決められるのさ。でも、安心してよ。僕がちゃんと話を通しておいたから」


 オレブラン(獣人)のスレイは裕福層の大切な荷物の運送を請け負っている。彼の卓越した聴覚、嗅覚、方向感覚に裏付けられた仕事は、上流階級の客に絶対的な信頼を得ている。


 その為、スレイはサンガ地区の有力者に強いコネを持ち合わせていた。


 アシリアとギガウはスレイの馬車に乗りサンガ地区へ向かうと街の中央の噴水広場で、ある人物と待ち合わせをした。


 「あ、あの、アシリアさんはフードを被らないのですか?」


 「どういうことだ?」


 「い、いえ、何でもないです」


 「おいっ、スレイ。待たせたな」


 「あ、ザイドさん。わざわざありがとうございます」


 後ろから声をかけて来たのは純白に金の刺繍が入ったローブを着た男だった。男が近づいて来ると、スレイはフードを深く直してから握手をした。


 スレイはザイドに2人を紹介した。ザイドは王族の遠い遠い親戚であった。スレイは時々キャスリン国から秘密に入荷する特別な香草をザイドの家に運んでいるのだ。


 ザイドはスレイの袖を引っ張るとコソコソ話をし始めた。


 ザイドの言葉にスレイが困り果てていると、それを見かねたアシリアははっきりとした大きな声で言った。


 「いい加減にしろ! 私は誰のものでもない」


 アシリアの殺し屋としての鋭い眼はザイドを震え上がらせた。


 「いや、申し訳ない。仲直りの握手をしよう」


 ザイドの申し出にアシリアは応じなかった。代りにギガウが思いっきり力を込めて握手をした。


 王宮から乗船認可を取り付けるにはそれなりの紹介が必要だった。例えそれが名のある貴族や豪商であろうと紹介無しでは門前払いとなるのだ。


 紹介によって通された者は、次に海運大臣ゲディによって見定めが行われる。それは『こいつはどれくらいまで払えるか』というとてもいやらしい見定めなのだ。期待できなければ認可は降りないし、足元を見られればふっかけられてしまう。


 その為、スレイは王族のザイドに紹介を頼んだのだ。


—王宮内 海運認可・認証室—


 「ゲディ、この者たちは私の友だ。と、いうことでよろしくな」


 ザイドは気軽く海運大臣ゲディの欲目に釘を刺した。


 「は..はぁ.. で、お前たちは乗船許可にいくら出せると言うのだ」


 「はい。乗船許可証3枚にこの魔石一袋と七色魔石3つお出しいたします」


 間髪入れずにスレイが返答した。


 アシリアとギガウは顔を見合わせた。


 「おい、スレイ。乗船するのは—」「僕も一緒です。僕も一緒に行きます」

 

 「3枚か。3枚とするとこの魔石では足りないなぁ。あと最低でもこれの倍は必要だ」


 始まった。このようにして海運大臣ゲディは自分の取り分を上乗せするのだ。


 「相変わらず欲張りだねぇ.. ゲディ、お前、昔うちのメイドにちょっかいかけただろう。そのおかげでその者は役人への賄賂強要の罪をかけられて、王宮に持っていかれちまった。忘れちゃいまいな?」



 「な、なにを.... この場で言う事ではないですぞ」


 「そうか。ならばここでは黙って、次の王族親睦会の笑い話にでも使おうかね。俺はこれでも王族なのでな」


 「そ、それは.. ご勘弁を..」


 「なら、お前がとるべき行動はわかっておるな」



 「くっ... 許可する」


 このザイドという男はなかなか使える男だった。


 しかしその時だった。大きな音とともに扉が開くと、槍を持つ衛兵を引連れ水脈管理大臣ダレルと秘書ミレクが入って来た。


 「その許可を出すわけにはいかない」


 秘書ミレクが部屋を見渡すとギガウを指さして言った。


 「あの男です。間違いありません。あの者はチャカス族です」


 「そのチャカス族の男、神妙にしろ」


 「ダレル、どういうことだ?」


 ザイドは、いきなり始まった捕り物について質問すると、水脈管理大臣ダレルは鋭い眼光を突き刺すようにして言った。


 「ザイド殿、あなたは、まさかこの件に絡んでおりませぬでしょうな。このチャカス族の男は地の精霊を使い、勝手にクタ地区に水脈を引いたのだ。あなたがこの大罪に関与しておられるならば、ただでは済みませぬぞ」


 「い、いや、俺は知らない..」


 「ならば、黙っていてもらいましょう」


 水脈管理大臣ダレルの合図にギガウは取り押さえられた。


 アシリアの殺気が尖ったが、ギガウは『大丈夫だ。目的を見誤るな。落ち着くんだ』と彼女を制した。


 ギガウのみ取り押さえられ、スレイ、アシリアは即刻王宮内からの退去を命じられた。


 「大丈夫かな.. ギガウさん」


 「スレイ、この国では勝手に水を動かすことは死罪になるのはお前も知っているだろう」


 ザイドの言葉にアシリアの手に弓が具現化する。


 「やはり、私が助けに行く」


 「まぁ、落ち着け。俺は今まで王族・王宮の裏をかきながら生きて来た。それが自由人ザイドの生き方だ。俺の勘が当たっていれば、ギガウという男は殺されることはない。あいつら、ギガウを利用しようって腹だ」


 ギガウは縄をかけられると、そのまま玉座の広間に連れていかれていた。


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