最果ての人
【前話までのあらすじ】
果樹園にラムダグが襲撃して来た裏事情を知るライスとリジ。マイルの情報から『形のない宝石』の在りかを特定すると、王国キャスリンへの旅の準備を始める。
一方、アシリアとギガウは『牢獄の魔道具』に関わるアシリアの姉を探しに水の国リキルスを目指す。そこへの行き方は島の国キャスリンの王族が知っているのだ。2人はキャスリン国までの乗船許可証をもらうため、船の所有者である王国マガラへ向かわねばならなかった。
2人はフードを被った少年の好意でマガラ国まで彼の馬車に乗せてもらうこととなった。
◇◇◇
—ラック砂漠~砂の国マガラ~
「少年よ、君には感謝する」「ああ、本当だ。助かった」
「いや、いいよ。エルフにとって砂漠を歩くのが、どれほど苦しいのかは知っているよ。君、氷のアシリアだろ?」
アシリアの眼が鈍く光ると弓矢が少年に向けられた。
「なぜ、私を知っている」
「やめてよ。そんな殺気だったら馬が怯えちゃうよ。僕の名はスレイっていうんだ」
少年は運転を続けたままフードを脱いでみせた。その頭の上からピョコンと耳が現われた。
「獣の耳!?」
ギガウが驚きの声をあげた。
スレイは再びフードを被った。
「噂だけは聞いたことがある。『最果ての森』には獣の特徴を持つ人々の村があるって」
「ははは。アシリアさん、それはもうかなり古い話だよ。今はね、僕のように人間にまぎれて生きている者もいるんだよ。まぁ、数はかなり少ないけどね。ところで、おじさんは何て名前なの?」
「お、おじさん.. 俺の名はギガウだ」
「ギガウさんか」
そういうとスレイは鼻をクンクンとさせる。
「地の精霊の匂いがするね。ギガウさん、チャカス族でしょ?」
「あ、ああ.. だがなぜチャカス族だと。いや、それより精霊の匂いがわかるのか?」
「うん。僕らオレブラン(獣人)は精霊の匂いがわかるんだ。でもそれだけじゃないよ。僕らは耳と鼻と方向感覚がいいんだ」
「スレイ、なぜ私たちを乗せた?」
「さっき言ったじゃない。エルフが砂漠を歩く辛さを知っているからさ」
「嘘をつくな。お前が私たちの前に現れたのは偶然じゃない。お前はずっと前から私たちの存在に気が付いていたんだろう。さっき、お前が自分で言っていただろう。精霊の匂いがわかる。そして耳と鼻がいいって」
「 ....」
「お前を責めているのではない。どんな理由であれ、私はお前に感謝しているのだ。だからお前に尋ねている」
「いやあ、バレちゃったか。もう少し砂漠の真ん中でネタばらしをしようと思ってたんだけどさ。ふふん。お二人さん、魔石をかなり持っているだろう。それ払ってくれないか? この辺じゃ、親切心なんてのは皆無なんだ。それが嫌なら降りてもらおう」
「な、なんて奴だ。身包み剥がすつもりだったのか? アシリア、まだ町には近い。こんな奴の馬車に乗ることはない。違う方法を考えよう」
「わかった。私とギガウはお前にあるだけの魔石を払おう。その替わりマガラ国まで早く確実に運んでくれ」
「おいっ、アシリア」
「いいのよ、ギガウ。このままいきましょう」
アシリアがスレイの条件を受け入れたことがギガウには意外だった。
「そうと決まれば、よし!」
スレイは馬のスピードを上げた。
「まったく、なんて子供だ」
呆れるギガウの手をアシリアは握った。そしてそのままギガウの胸を借りて眠りについた。
スレイの感覚器官の鋭さは砂漠の砂に潜むラークマーズの存在にいち早く気が付き、その場を避けていた。そのおかげでラークマーズを撃退する必要がないギガウにとってもかなり楽な旅となった。
アシリアが条件をのんだ理由はまさにそういうことなのだ。自分の旅の目的の為、ギガウの能力に助けを求めたアシリアだった。しかし、ギガウの心根の優しさがアシリアにとって彼を傷つけたくない人物へと変えたのだ。
ラック砂漠を北西に進みながら、宿代わりになるミツメ樹の中で一晩を過ごし、マガラ国に着いたのは朝方の事だった。
ほろ付きの荷台のおかげでアシリアとギガウは疲れることなく砂漠を渡ることができた。
「スレイ、約束の魔石だ」
ギガウが差し出した魔石の袋を受け取るとスレイはこんなことを言った。
「あんたら本当にお人好しだな。こういう時は交渉ってのをするんだぜ。もう降ろされる心配もないのに素直に全部出すなんてよ」
「いいんだ、スレイ。受け取ってくれ」
アシリアが続けて言った。
「まっ、そう言うんなら受け取ってやるよ」
「じゃ、これでお別れだ」「ほどほどにしろ」
アシリアとギガウは背を向けた。
「 ..あ、あのよ、俺もケロットで、思ったより運送代もらえたし。少し..返すよ」
アシリアとギガウは顔を見合わせるとスレイに振り返った。
「いいのか?」
「いいよ、アシリア。そ、それに、この辺の宿は高いんだ。何だったら僕、お、俺の家に泊まらせてやってもいいよ」
「お前の家の方が宿より高そうだ」
ギガウがからかう。
「そ、そんなこと言うと、お前だけ有料にするからな!」
「悪いな、スレイ。じゃ、泊まらせてくれ」
アシリアがそう言うとスレイは頬を赤らめながら笑顔で家まで案内した。




