分身体の秘密
【前話までのあらすじ】
宝物庫から秘宝を持ち出すルヴァー班、白い魔獣人を足止めするギガウ班に分かれて作戦は開始した。そして圧倒的な強さを見せる白い魔獣人ロレイスにギガウも能力を発揮し、対等に戦うのだった。
◇◇◇
白い魔獣人ロレイスは3体に分かれ、それぞれがギガウ、アシリア、リジと対峙した。
ロレイスは分身しても、それぞれが凄まじい力を見せつけた。その姿通り、獣の王に相応しい強さだった。
そして、今、ギガウはルヴァーの言葉の意味を理解したのである。
『何人で立ち向かおうと同じこと』
そう、複数で挑んでも結局は1対1の闘いにされてしまう。共闘などする暇さえ与えてくれないのだ。
しかも、牙を割り、爪を割くなどの小さなダメージを与えても、ロレイスにとってはアクセサリーを付け替える程度のものでしかなかった。
「フハハハハ、ギガウよ、お前はなかなか良いぞ」
ロレイスは闘いを楽しんでいた。しかしそこに、不敬の感情は微塵も感じさせなかった。
ギガウの瞳が赤く輝くと、魔人ローキから貰い受けた能力を解放した。
空中より縦槌が落ちてくるとギガウの手に収まった。力があふれ出ると、押され気味だったロレイスの攻撃についていけるようになった。
一方、何度かロレイスの爪の攻撃にあうリジであったが、その爪がリジに届くことはなかった。伝説の防具、銀鴉が100%防御しているからだ。
この鉄壁の防御は破れないと思ったロレイスは、体をぶつけることでダメージを与える作戦に切り替えた。
リジの剣はロレイスに届いたが、圧倒的な質量で突進してくるロレイスの体にリジは弾き飛ばされてしまった。
しかしリジの疾風の斬撃を受けたロレイスもただでは済まないはずだ。かすめる程度だとしても、聖剣「天の羽」の刃は鋭い。普通ならば、傷口から血が噴き出るはずである。
だが、ロレイスの体は純白のままだった。
距離を取り闘うアシリアはロレイスの攻撃を受けることはなかったが、縦横無尽な素早い動きに、矢の狙いを定めることができないでいた。
そこでアシリアはロレイスの動きを封じる作戦に切り替えた。
アシリアが矢を空中高く放つと、ルースの矢は無限に分裂し、ロレイスを囲んで地面に刺さっていく。矢は矢を射抜き積み重なっていくとルースの牢獄ができあがった。
動きを止めたロレイスの影が見えた時、アシリアはロレイスを地面に縫い付けるために影を射抜こうと考えていた。
しかし、作戦はロレイスに読まれていた。
筒状の牢に閉じ込めたロレイスを攻撃するには、アシリアは必ず頭上に位置を取らなければならないのだ。
ロレイスとアシリアが線で結ばれた瞬間、大きな巨体が電光石火のように、アシリアを巻き込んで空高く飛び上がった。
傷ついたアシリアは木の葉のように地面に落下していく。牙をむきだしたロレイスは落ちてくるアシリアを待ち構えていた。
アシリアを助けるため、ギガウは全ての力をこめて縦槌を振った。その縦槌は空気を震わせるほどの勢いで目の前のロレイスを撃った。
「ギガウよ、愛の力はすさまじいな」
ギガウは確かに今までにないほどの手ごたえを感じた。大型の魔獣でも絶命するほどの一振りだったはず。
しかしロレイスは平然としている。
そんなロレイスを見て、ギガウはあることに気が付いた。ギガウが縦槌で打ち付けた部分だけに剣で切りつけたような傷あとが付いているのだ。白毛に直線の赤い鮮血が残っている。
「(おかしい.. 縦槌の打撃なのになぜ剣で切ったような傷が? 剣だと!?)」
ギガウは一瞬、リジの方を見た。
剣の傷はリジの攻撃? そして俺が打撃した部分..
「そうか! そういうことか」
3匹の分身は一体一体が意志を持っているのに、なぜか3匹のロレイスは闘いの開始の言葉を同時に言ったのだ。
『―ロレイスたちは素早いシンクロを繰り返しているのだ―』
ギガウがその思考を巡らせたのは、わずか2秒弱。
だが、闘いの中、わずか2秒の空白は命取りであった。
ロレイスの必殺の一撃は既にギガウへ向けられていた。
周りの空気が一点に集約するほどに凄まじい攻撃力。その牙はおそらくティアール鉄すら穿つであろう。
巨大な顎は、ギガウを牙刺しにしようとしていた。
もう防ぎようがない。
噛まれた後、そのまま何度も何度も岩に叩きつけらてしまうギガウの運命は決定づけられていた。
0.01秒、巨大な牙がギガウに届こうとした時..
―ズガガガァァアン
速く重い連打を叩きつけられたロレイスの飛沫が空中に舞い散らばる。
「馬鹿が。おっさんを倒すのは、あたしなんだよ!!」
そこには山麓の守護人リュキュエスが拳を振り上げ立っていた。
そして生意気な口調で言うのだ。
「そうだろ。ギガウのおっさん!」




