白い闘い
【前話までのあらすじ】
ゼルド国20戦士の中には秘宝の奪還がギガウ頼りになることへの反発があった。ギガウは20戦士の代表者と闘い、その強さを示した。戦闘の民はそのギガウの強さを認めた。そして今、秘宝奪還作戦を開始するため、白い魔獣人ロレイスの縄張りに足を踏み入れた。
◇◇◇
――数刻前
ゼルド国から宝物庫までは実に1日半を有した。荷台に積まれた大樽の中には保存食と暖を取るためのラマリの欠片が入っている。
「ルヴァーさん、宝物庫というのはゼルド国のものでしょ? なぜこんな遠くの場所に建てたのですか」
「宝物庫は200年前、国の近くに建てられていました。しかし、王の死を境に白い魔獣人ロレイスが現れ、奴の巣にされてしまったのです」
「では、今から向かう場所に、もともと国があったのですね」
「いいえ、そうではありません。ギガウさん、この地上の物は、ほとんどが氷の上に存在します。宝物庫は絶えまない地氷の移動で、遠くへ離れてしまったのです」
「もしや、氷の下は海なのですか?」
「いいえ、地氷は地面の上も移動するものなのですよ」
ギガウはその言葉に安心した。地の精霊フラカは地面がない場所では弱ってしまうからだ。
間もなく、ソリを曳く大鹿が足を止めた。
「どうやら『宝物庫』が見えたようです。ここで別れましょう。私たち20戦士は気配を消しながら後方支援と王の秘宝奪還をいたします。ご武運を」
ギガウはルヴァーのソリから降りると、もう1台のアシリアとリジが乗るソリへ向かった。すると、一人の少年がギガウの後ろに付いて歩いていた。
「君も20戦士のひとりだろ? ルヴァーと行かなくてもいいのかい?」
「気にしないでいいよ。僕の名はオルファ。ここにいる僕は分身体だよ。あなたの闘いの様子を本体の僕がルヴァーさんに伝えるのさ」
「なるほど。君がいるだけであちらの班と連携が取れるという訳か」
「そういうこと。ただ僕は戦闘向きじゃないから、闘いのサポートを期待しないでくださいね」
「大丈夫よ。その心配はいらないわ。その為に、この風の剣士リジと氷のアシリアがここにいるのよ」
荷台から飛び降りたリジが決めセリフを言った。
「あ、メイド剣士のリジ・コーグレン」
オルファは顔を赤く染めていた。どうやらオルファも一定数いるリジのファンのひとりのようだった。
「ちょっと、せっかく『メイド剣士』改め『風の剣士』にしたんだから、出鼻をくじかないで」
「僕はメイド剣士のままでいいと思う。仲間のララスもメイド剣士の方が良いって、今、隣で言ってるよ」
「え? そう? そうかしら.. ま、どっちでもいいんだけど」
「そんなことより、どうやら白い魔獣人とやらは私たちの気配に気が付いたようだよ」
「そ、そんなことですって! ま、いいわ。オルファ、あなたはしっかり隠れてなさい」
オルファはソリの荷台に身を隠した。
そしてギガウ、アシリア、リジは地吹雪が吹く道に歩を進めた。
真っ白い地吹雪がゆっくりとおさまると、そこには白い鬣をなびかせる一匹の雄々しい獅子がいた。
「あれ? ギガウ、ここにいるのは魔獣人って聞いたよね? これって人というより魔獣そのものじゃない?」
リジの言葉に白い獅子は耳を傾けた。
「私が君らの言う魔獣人だ。もっとも私は、自分のことをそんな風には思っていないがね」
「獅子がしゃべった!!」
「君らとは初めてだな。まずは自己紹介しよう。私の名はロレイスだ。大きな君はギガウ、エルフの君はアシリア、それと、え~と メ.. 風の剣士リジ・コーグレンだな」
「 ..メイド剣士でいいわよ。全て聞こえていたってわけね。 まさか魔獣人に気を使われるとは思わなかったわ」
「そうでもない。これでも私は気づかいする方なのだよ。それで、闘うのは君ら3人というわけかな」
「いや、まずは俺が相手をする」
ギガウは思った。この魔獣人がどこまで自分たちのことを把握しているのか。この作戦も既に知っているのか。それならば、より時間を稼がなくてはいけない。
「君は戦士だな。それもかなり気高い血の持ち主だ」
「チャカス族の戦士だ」
「 ..なるほど」
次の瞬間、ギガウはゼルド国の戦士が勝つことができなかった白い魔獣人の強さの片鱗に触れる。
「もう闘いは始まっているのかな?」
瞬きも間に合わないほどの一瞬だ。ロレイスの牙はギガウの喉元にまで迫っていた。
咄嗟にだした腕に牙が喰い込んだ。牙は固く鋭く、ギガウの筋肉など紙のように穴をあけ、骨にまで到達して止まった。その巨大な顎に力を込めれば―メリメリと音を立て、腕を噛みちぎることも可能だった。だが、しなかった。
「油断大敵だよ、ギガウ君。これは初戦のサービスだ」
「俺の腕を噛みちぎらなかったことか? 余計なサービスだ。 それよりロレイスよ。お前の牙は大丈夫か?」
―パキン 乾いた空気に実に響きの良い音を立てロレイスの巨大な牙は砕けた。
「ほう.. 牙を折られたのは初めてだ」
「俺のタトゥには地の精霊が住んでいる。瞬間的に俺の骨の組織を鉄よりも固い鉱物に変化させることもできる」
「なるほど、不用意に牙を立てればこちらにダメージがあるということか」
ロレイスは眉間にしわを寄せると、牙をむき出した。先ほどの砕けた牙から新しい牙が生えてきた。
再び、ロレイスの姿が消えた。
巨大な咢が右に迫っていた。ギガウは掌底を繰り出すとロレイスを弾き飛ばした。
しかし左、そして背中へ同時に牙と爪が襲ってきた。
風のように軽やかで早い剣が爪を切り裂き、翠色の巨大な矢がロレイスの眉間に命中した。
「ロレイス、あなたが分身を使うのなら私たちも参戦するわ」
「分身? ははは。君たちには、今のが分身に見えたのかな。だが、違う。今のは、ただの残像だ。君たちの矢や剣は私の残像を攻撃しただけなのだ」
目の前のロレイスの体が不規則にぶれると、3体となった。
「嘘よ。絶対あれは分身よ」
「いいえ、リジ。少し前から降り始めた雪。私たちには付着する雪が、あの3匹には全くついていない。ロレイスの高速な動きが雪を付着させないのよ。つまりあの左右の2匹は残像よ」
「わかってくれたかな? 闘いは一対一でこそ楽しいものだ」
そう言うとリジとアシリアの前にそれぞれ白い獅子が現れた。
「そして、これこそは分身だ。これで君たちと個別の闘いが楽しむことができる。ギガウ、リジ、アシリアよ。さぁ、私に素晴らしい闘いをみせてくれ」
3匹の白い魔獣人の口は同時に動き、三重奏ユニゾンのごとく同じ言葉が白い世界に響いた。




