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果樹園の魔法使い~形のない宝石を求めて  作者: こんぎつね
8章 聖地カンザギアとゼルド国
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負けない意志と強き絆

【前話までのあらすじ】


巨大な氷の山『氷結の盾』の中を進む果樹園パーティ。突然襲った痛みにライスが塞ぎ込むと、そこには『刻印の扉』『女神ララの氷像』以外、誰もいなくなった。ライスが女神ララの指に試練の指輪をはめようとすると、甲冑姿のリジが襲ってきたのだった。

◇◇◇

――台座にて血判が行われた後のこと


 アシリアはライスを手招きして呼んだ。


 「ライス、魔法使いのあなたは、ギガウのような縦槌もリジのような剣も扱えない。だからといって何も武器を持たないわけにはいかないわ。だから、あなたにはこの短剣を預ける。これはルースの矢が姿を変えたものよ。洞窟内ではきっと精霊の力も弱まってしまう。それでもこのルースの短剣はあなたを守ってくれる」


 「え、でもそれじゃアシリアが..」


 「私はルースの矢がなくても闘える。私は『氷のアシリア』よ」


 「ありがとう、アシリア。この短剣、大切に使うから」


 アシリアは優しく微笑んだ。――


 リジの剣を止めたルースの短剣は、翠色の光を帯びているようだった。


 「リジ、私はここで倒れるわけにはいかない」


 ライスはリジの剣をはじき返した。


 それでもリジは我武者羅に剣を振り下ろし続ける。ライスは短剣で全ての攻撃を受け止めたが、その度に腕や肩の骨がきしむような痛みを感じた。


 そして、リジの剣はついにライスを壁にまで弾き飛ばした。


 床に尻をつき壁にもたれるライスの肩にリジの追撃が刺さる。


 痛みに顔を歪めるライス。今まで感じたことがない痛みだ。


 「負ける。このままじゃ負けてしまう。 負ける..」


 その時、ライスはビュルスの言葉を思い出した。


 『―心だけでは勝てない― しかし ―心だけでは負ける― ということではない』


 ライスはルースの短剣でリジの足を斬りつける。リジがひるんだすきにライスは立ち上がった。


 「―そうだ。これは決闘ではない。私の意志が試されているんだ。この指輪を女神ララの指にはめる。それを成し遂げるための私の心が試されているんだ―」


 リジの足への攻撃は思ったよりも深く、リジは両足で立つにはバランスを保てなかった。


 その隙にライスは女神ララに向かって走った。


 しかし、リジもそれを許すほど甘くはない。


 ライスの背中に激痛が走った。幸い、踏み込みの浅いリジの攻撃では、剣先でライスの背中の皮を切る程度だった。致命傷にはならない。


 それでも涙が出るほどの痛み。叫びあげたいほどの痛みだ。


 「…くっ、負けない。負けるもんか」


 ライスは目的を遂げるための意志を折ることはなかった。痛みに耐えて、女神ララのもとに近づいた。


 「女神ララよ。あなたをお慕いいたします」


 その言葉と共に女神ララの手をとり指輪をはめようとした。


 その時、突然、女神ララの氷像がライスを拒否し、思いきり突き飛ばしたのだ。


 よろけるライスの腹からリジの剣が突き抜けた。


 力が抜け床に這いつくばるライス。


 「ああ、失敗だ.. 私はここまでなのかな。 で..でも..」


 ライスは何とか力を振り絞りリジの姿を見つけると、リジに話しかける。


 「ねぇ、見ていた? リジ.. 私、負けなかったよ。最後はドジったけど、私の意志を見たでしょ? 最後に私の生きざまを、大切な友達のリジに見てもらえてよかった。きっと私の意志はリジに伝わるよね。リジ..今まで..ありがとう..」


 その言葉を聞くと甲冑姿のリジ・コーグレンの瞳から涙が溢れた。


 そしてライスの手から指輪を抜き取った。


 「死なせない。絶対に私の友達ライスを。絶対に死なせないんだから!!」


 なんと、リジ・コーグレンは女神ララに指輪をはめたのだった。


 白い扉に絡まる金色のツタが煙になった。そして、煙はライスの鼻から体の中へ侵入した。


 ライスの腹に空いた刺し傷が瞬く間に治っていく。


 ―お前の強き意志、絆を確かに見定めた―


 ひとりではない..多くの声がそう言った。それは歴代の戦士たちの声だ。


 ライスが瞳を開けると、目の前にメイド姿のリジがいた。


 「よかった、ライス。生きていて..くれた..」


 リジの絞り出す声は震えてかすれていた。


 「リジ.. あれ、メイド服.. 甲冑は?」


 「何を言ってるの..ライス。全然目を覚まさないんだもん。私、本当に心配したんだから」


 強く抱きしめるリジの涙がライスの耳を濡らした。


 「あのね、最後はリジが救ってくれたんだ。ありがとう、リジ」


 「ははは。ほんとに何を言ってるの..」


 「ううん。何でもない」



 「どうやら俺たちはそれぞれ試練を潜り抜けたらしい。見ろ。扉が開いているぞ」


 「今はここを早く通り抜けたほうがよさそうね。何か嫌な気配も感じる」


 ライスはリジに手伝ってもらいながら立ち上がるとアシリアのもとへ行く。


 「ありがとう、アシリア。これ返すね」


 短剣はアシリアの手に移ると、元の弓矢の形へと戻った。


 「さぁ、行こう!!」


 果樹園パーティは、足早に『刻印の扉』を通り抜けた。


 ライスが扉を通る瞬間、女神ララの氷像が眼を見開いた。その視線はライスの姿を追いかけていた。


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