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果樹園の魔法使い~形のない宝石を求めて  作者: こんぎつね
1章 冒険の始まり
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プロローグ

 光と闇は度々小競り合いを起こしていた。


 そしてお互いの力を見計りながら、繊細なバランスの上に世界が成り立っていた。


 天界と魔界でさえも光と闇の一部でしかない。


 では『人間界は何なのだろうか?』


 とるも足らない人間は碁盤上の駒にすぎないのだ。


——それは608年前の話


 光がわずかな揺らぎを見せた時、闇は『貧・憎・妬・欺』という4つの漆黒を人間界のとある国のガゼという男に押し込めた。


 ガゼは自らを覇王と呼び、世界に災いをばらまいた。その禍々しい力は人類を苦しめた。


 しかし、今、女神の恩寵を受けた勇者ソルトのパーティによって覇王ガゼは滅せられようとしていた。


 『 —グガァアア! おのれ、低級な人間ごときに我が.. 』


 「あきらめろ。俺の魔法でお前はもはや再生することはできない。その右足と左手もな」


 ガゼのちぎれた足は再生しようとしてもボロボロと崩れ落ちるのみだった。


 『 貴様の軟弱な魔法で我をいつまでも抑えることができるものか。貴様の魔力も底が見えはじめている。すぐに貴様ら4人を消し炭にしてやるわ 』


 ガゼは壁にもたれているが、未だに凄まじい覇気を魔術師リベイルにぶつけていた。


 「だからこの『女神の杭』でお前を封印するんだ」


 リベイルは女神から預かった4つの杭をカバンから取り出した。


 「さあ、勇者ソルト、お前がこいつに杭を打ち込むんだ!」


 「ああ。大魔術師リベイル・シャルト、感謝する。お前のおかげだ」


 勇者ソルト、剣士エミ、僧侶ブイは地面からそれぞれ杭を手に取った。


 だが勇者ソルトの一瞬の油断を覇王ガゼは見逃さなかった。


 覇王ガゼの体が大きく爆ぜると、身体から4つの漆黒が飛び出し、ソルト、エミ、ブイ、そしてリベイルへと向かってきたのだ。


 思いもよらぬ覇王の自爆にリベイルは動揺し、判断が遅れた。


 —— 仲間に早く防御魔法を! その一瞬で勇者ソルトなら活路を生み出すかもしれない。


 しかし、リベイルの魔力は残り少なかった。


 魔法防壁はひとつしか出せなかった。


 自分が闇に支配されれば魔法防壁も『女神の杭』も効果がなくなり、どのみち全滅してしまう—


 リベイルは自らを強固な防御魔球で包み込んだ。


 漆黒は勇者ソルト、剣士エミ、僧侶ブイに入り込み融合を始めていた。


 リベイルにとりつこうとした闇は防御魔球の光に弾かれると直ぐに覇王城から逃げ出した。


 リベイルは防御魔球を解き、時空間系の魔法と封印魔法で3人の闇の融合を食い止めようとした。


 「やめろ、リベイル。魔力を無駄にするな。こうなっては無駄なのはわかっているだろう。 してやられたな。まさか漆黒の闇がガゼの肉体を捨て俺たちを依り代にしようとするとはな」


 「ソルト!」


 「気にするな。お前の判断は正しい。だから希望が続いている」


 「リベイル、聞いて。私、あなたに醜い化け物になる姿を見られたくない。だから、あなたの手で私たちを封印してちょうだい」


 どんなに辛くとも今まで一度も弱音すらも吐いたことのない女剣士エミが涙を流し懇願している。


 僧侶ブイは静かに目を閉じて言った。


 「リベイル、申し訳ない。私の魔力が尽きてしまったばかりに.. やることはわかっているな。早くしろ。私たちがお前に牙を向ける前にぃぃ」


 僧侶ブイの手が—メリメリ パキパキ—と魔獣の手に変わり始めていた。


 エミはとっさにリベイルに背中を向けた。


 それは醜くなり始めた姿を恋焦がれていたリベイルに見せたくなかったからか、それともリベイルに「女神の杭」を打ち込みやすくさせるためだったのか..


 「早くするんだ、リベイル。お前を好きだったエミを苦しめないでやってくれ」


 勇者ソルトの言葉にリベイルは覚悟を決めた。


 [ 女神レイスの名のもとに闇を封印する—ライズ・ケイシン— ]


 『女神の杭』は空に舞い上がると光の槍と変わり天から3人に突き刺さった。


 「聞けぇ! 俺はお前たちの魂を絶対に救ってやる! 絶対だ! だから.. だからしばらくの間、眠って待っていてくれ..」


 リベイルの声は涙でうわずっていたが、3人の耳にははっきり届いていた。


 勇者ソルト、剣士エミ、僧侶ブイは半人半獣に姿を変えながらも安らかな微笑みを浮かべ石となった。


 リベイルはエミの頬の涙を優しくぬぐった。


 石となった3人を覇王城から降ろすと、人里離れた地の洞穴へ運び入れた。


 そして3人の魂の解放をひとつだけ残った「女神の杭」に誓った。



——覇王ガゼが倒されてから608年後


 長い年月の中、3人の封印石が置かれた洞穴の周りには果樹園が広がっていた。


 果樹園を経営しているのは26歳のロス・ルーラという農夫だった。


 「今年は良い桃ができたな。うん。これなら良い値で売れるだろう!」


 ロス・ルーラは豊作となった果物を嬉々として収穫している。



**

—ブレンの街 ある酒場の外—


 「え? どういうこと?」


 「だから、お前はクビだ! クビ! ドジばかりしやがって。おかげで魔獣よりも俺たちが黒焦げになるところだったじゃねぇか。リジ様は髪が燃やされて怒り心頭だ。二度と俺たちの前に現れるんじゃねぇ!」


 大男に思いきり胸をつかれるとその魔法使いの少女は尻餅をついた。


 「あ、あのさ、私の報酬は?」


 「あ? お前なんかに報酬なんかあるわけねぇだろ! とっとと消えろ!」


 大男は外に置いてある桶の水を少女に浴びせると酒場へ戻った。


 「 ..ううぅぅう....冷た.. お腹減ったな、今日こそはご飯食べれらると思ったのに..」


 空腹の魔法使いの少女の名前はライス。


 『世界を救うような冒険をして、みんなが憧れる大魔法使いになりたい』そんな夢を抱く少女は今、『おいしいご飯を腹いっぱい食べたい』と願っていた。



 やがて彼女はこの2つの願いを叶える出会いをするのである。

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