俺はへっぽこバッター
ポンコツである主人公は、自分には野球の才能がないと痛感するがだからといってそれを言い訳にはせずに登りつめた心の内であった。
甲子園ーーそれは、誰もが憧れる聖地である。
そんな俺は、今ここに立っている。
これまでの事を思い出すのに瞳を閉じる。
俺は、高校から野球部に入部したが、何をやってもポンコツだった。
バットを振っても三振、捕球はエラーをしてばっかり、そして球をとって投げてもあらぬ方向に飛んでいってしまう。
誰もが思うであろう……こいつは【ポンコツ】だと。
チームメイトからは、「お前は向いてないよ」や「ちがう道もあるんだぞ」とストレートに違う道を言ってくるが俺は諦められなかった。
家族からは、「そんなに怪我をしてまでやるのか」と心配そうな声をかけらるが俺は、満面の笑みで答える。
「楽しいよ。自分には何が足りないかっていつも教えてくれるから」
家族は、俺が意地を張っているのかと呆れていたが開き直ったのか「頑張れ!」と背中に活をいれる。
俺は、心の底で喜びが溢れる。誰にも言われなかった言葉をかけてくれた事が今の自分に励まされたのだ。
それから俺は、血反吐を吐き、泥水を啜るぐらいの地獄の特訓をした。
同級生に頭を下げ、特訓を開始した。それからは毎日バッティング、守備を見てもらったがどれも上達は、しなかった。
俺は、痛感する……野球としての才能がないのだと。
項垂れ、泣きそうになる自分が居る。そして腹を立てる自分もいる。
心の中で自身に卑下し、なんで上手くやれないんだの怒りが湧き上がり、めちゃくちゃに濁る。
同級生は、憐れの目をむけたが一人は違っていた。
「へこたれてんじゃあねぇ!そんな簡単に野球が上手くなれる奴なんていねぇ。お前だって生半可な気持ちでウチの看板背負ってねぇんだろ!!」
その一人は、キャッチャーである三年生の先輩だった。
先輩は、見えない絶望の壁に立ちはだかって下を向く俺に喝を入れる。
「下をむくな!お前にはまだいくらでも時間はたっぷりある。ドンドンいくぞ!!」
先輩は、手をかす仏様に視えたような気がした。
それから俺は、一日で何度も何度も気絶する瀬戸際まで自分を虐め抜いた。
ゼェゼェと嗚咽を吐き、唾液は、鉄のように生臭い味がしていた。
そんな日々だったが突然、監督から他校との練習試合をすると言い渡された。
部室では、どよめきがざわめいていた。
そんな他校の名前は、列強最強であるトップの高校であるからだ。
野球部の皆は、瞳の光が無くなり暗闇に染まる。
皆は、まるで悪魔の相手をさせようとする宣告をしようとしているのに気づいたからだ。
当然試合に出るスタメンを発表するがもちろん俺は、補欠である。
だが俺は、それがチャンスだと思った。
他校との試合でもあるが最強と知らしめている高校を間近でみれるからだ。
俺は、そこから自分の力に取り込むために色々とノートをもって書き写す準備をする。
色々と学ぶぞと意気込み練習試合に望む。
練習試合当日ーー
試合は、圧倒的だった。
9回戦10-0裏の後半
ウチのチームは誰も打てず、誰も守れなかった。
ピッチャーは、あの天才とも呼ばれる凄腕を通り越し神の子ともニュースで話題となっている人物だった。
あの天才は、1年生では左のサウスポー(左投手)で球速168kmを叩きだし、野手は両利きでいけ、毎度ヒットを必ずだす完璧の二刀流であった。
俺は、背中の中心からゾクゾクっと戦慄が駆け巡るが心にワクワクする感情の二つが入り交じる。
まるで好敵手を見つけたように……
そんな事を想っていたらツーアウトランナーなしの展開になっていたら、監督に呼び出された。
「おい、〇〇代打だ」
耳を疑った。「俺が代打!?」と驚きで全身が岩石みたく硬くなった。
監督は、早く行けと視線をむけていた。
野球部の皆は、血迷ったのかと監督を見ていたがどうせアウトになるだろうと学校に帰り支度をしていた。
俺は、準備運動を軽くこなし打席に立つがプレッシャーに押し潰されていた。
心臓は、嫌に速く脈打っていて汗は、冷たく頬を伝い背中は、スゥスゥと風が舐めている感じがした。
初めての打席に俺は、完全に呑まれていた。
俺は、ピッチャーが投げてくる球に反応できずに何度も空振りをする。
あっという間にツーストライク獲られる。
相手の守備陣は、俺を舐めてはいるが油断はしていなかった。
そんな俺は、審判にタイムを言い渡した。
クラスメートは、「それゃあ逃げるよな〜」、「まぁ頑張った方だよ」と憐れな野次が飛んでくる。
俺は、眼を閉じ深呼吸する。
そして頭に、脳にいい聞かせる。
大丈夫、相手をよく観ろ。球を見極めるんだと。
深い海の底にいるかのような錯覚に陥っていたが眼をゆっくりと開き、天才と目を合わせる。
お前からヒットを打ってやる。
口からの言葉では伝えられない心と心の言葉として……。
審判にタイムを終わりますと伝え、ピッチャーに向き直る。
ピッチャーは、ニヤリと笑っていたが嘲ている表情ではなく一人の侍としての挑戦として受け取っていた。
ピッチャーは、構え、球を投げる。
ど真ん中一直のノビがある全力投球のストレート一本だった。
俺は、タイミングを合わせる振る瞬間を探し出す。
それは僅か0.1秒。
周囲から見ればそれは一瞬の出来事かもしれないが打席に立っていた自分としては、体感として一時間だった。
刹那の見切りとして俺は、バットを振り切った。
バットは、カス当たりだったが球は、残年な結果としてピッチャーゴロとなって試合は、終わった。
だがそんな悔しさよりも嬉しさが勝っていた。
あの天才と呼ばれたピッチャーからの全力投球を打てたのだ。
俺は、そんなワクワクが抑えられずグラウンドに残り一人で素振りを何百、何万回もしていた。
今の感覚を忘れずに手に頭に足に覚えるために振り続けた。
あの時試合終わりのピッチャーは、悔しそうな顔をしていたがスッと無くなったのか前を向いていた。
俺は、そんな人生の百年ぐらいの濃厚で二度と味わえない体験したのである。
バッターを極めて、極めまくりいつしか誰でも打つ侍として名を挙げた。
そんな俺がいつしか夢の甲子園に二本の脚で大地に立っている。
そんなポンコツと呼ばれた俺が侍として呼ばれ、甲子園最後の試合であった。
相手は、あの時の最強である高校とのリベンジマッチでもある。
勝てば栄光、負ければ敗者としての大勝負。
互いに9回裏の0-0である。
そんな時、皆が繋げたチャンスを俺は掴み取る。
ツーアウトスリベースの当てれば逆転勝ちである。
俺は、瞳を開けて、あのピッチャーにバットの先端を差し向ける。
天才と呼ばれるピッチャーは、己のライバルと認めたのか頷き返すが球を握りしめ正面に向ける。
まるでお前から三振をもぎ獲ってやる……そんな覚悟を感じた。
逆に俺は、こう言い返す。
お前からホームランを打つと……そう返す。
互いに一歩も譲れないそんな熱き視線を発しバチバチと火花が跳ぶ。
応援席の左右からは、どよめきが溢れかえり食い入るように静寂が覆っていく。
左からは打つな。右からは打ての応酬が続けられていた。
ピッチャーは、構え、あの時に投げた全力投球のストレートを投げる。
俺は、バットを握りしめ最高の一振りをしたのであった。
終わり
初めまして!作者の蒼井空です。
【俺はへっぽこバッター】を最後まで読んでくださりありがとうございました。
これからも細々と小説を書いていくかもしれませんがどうぞよろしくお願い致します。