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星屑と廃棄物

 デザインベビーに関する法律が制定され、既に半年が過ぎている。

 胎外出産は母胎に負担をかけず、安心安全に子を成せる。男同士でも子をつくれるし、子がつくられる前に疾患を治せるということで、富裕層には持てはやされたが。

 人間というものは一度贅沢を覚えると、それより下に戻ることをよしとせず、更に上を見てしまう。


「髪の質をできる限り硬くまとまりやすくはできないでしょうか?」

「瞳の色をもっと綺麗な緑色に」

「顔の造形をブロンド像みたいに」

「できれば声域が幅広く、男性パートも女性パートも歌えるように」


 何世代もかけて競走馬を勝てる馬に仕上げるように。

 交配を重ねて錦鯉に理想の模様を付けるように。

 富裕層にデザインベビーが浸透した次の段階で求められたのは、理想の子供が生まれるようにだった。

 なにぶんデザインベビーをつくるのには、一般人の生涯年収と同等の投資をするのだから、失敗は許されない。どの企業もそれはそれは慎重にカウンセリングを施し、様々なアプローチを重ねて、リクエスト通りのデザインベビーをつくったのだが。


「この髪はなに!? こんなガチガチの髪、セットできないじゃない!」

「なにこの変な色の目は! これじゃカラーコンタクト付けたほうがマシだわ!」

「この醜い体!」

「全然声が出ないじゃないか!」


 リクエストに応えられなかったデザインベビーたちは、引取拒否をされ、捨てられてしまった。

 法律を通す際、富裕層にそれはそれは有利な案が通り、引取拒否を乳児遺棄と認定されることがなく、結果的に企業が引取拒否された子供たちを抱えて右往左往することとなった。

 それでも中間層の中には遺伝子調整を施されていない人々が大勢いて、臓器不全で手術を待つ人々もいる。捨てられて人権も与えられなかったデザインベビーたちは、最初はその臓器売買に使われていたが、それだけでは元手が取れなかった。

 結果として、臓器移植に使われない子供たちは、競りにかけられた。競りに参加するのはもっぱら富裕層であり、デザインベビー法について噛んだ者たちばかりだ。人身売買についてとやかく言う人間などいなかった。

 この狂った競り市が何回か開催される中、一部の企業がどうにか商品の価値を高めるために、歌って踊らせてみた。ただ競り市の物騒さを緩和させ、これが人身売買だという意識を薄めさせるための思いつきだったが。

 それが大いに受けたのだ。

 もうこの頃になれば、都心部はデザインベビー普及により、顔がよくて頭もよく、健康そのものというのは当たり前になっていた。そうなったら、次の価値は付加価値だ。歌って踊れるアイドルを持つということがステータスに変わっていった。

 こうして、廃棄物は星屑と名前を変えられ、この性根のひん曲がった「ダストフェスティバル」にも「スターダストフェスティバル」というキラキラとした名前を被せられた。

 企業は星屑という名のアイドルを管理するべく事務所を立ち上げ、アイドルにされた少年少女たちは、生き残るために三年に一度参加義務を背負わされた祭典で、勝ち続けることを強いられた。

 一般人はそもそも、この悪行を全く知らず、ただ少年少女の命のきらめきを星だと思いながら享受しているに過ぎなかったのである。


****


「……そんな……あれ? でもどうしてオレ……」


 普通に考えれば、デザインベビー以外はそもそも参加資格すら得られないはずのスターダストフェスティバルに、こうやって参加しているリゲルがおかしい。

 それにシリウスが溜息をついた。


「リゲル。普通はな、どれだけ遺伝子的に優れているからと言って、たった一度見ただけで振り付けも歌も覚えたりしないんだよ。どう考えてもお前はデザインベビーの因子が混ざってる」

「ええ? でも……オレ普通に病院で生まれたって、死んだ父さんも母さんも言ってたし、なんだったら家にオレの臍の緒保管してるけど?」

「多分だけどさあ」


 それにデネブが口を挟んだ。


「リゲルくんの死んだご両親、どちらかが……ううん、もしかしたらどちらもが、脱走したアイドルだったんじゃないの?」

「え、ええ……?」


 それにリゲルは困ったように目を伏せた。

 織姫は頷く。


「あなたの地元の話を聞いていたけれど、とてもじゃないけれど農家の子とは思えなかったのよ」

「えー……オレ普通に農家ですけど」

「日に焼けても肌が傷まない。身長も体重も過不足がない。なによりも手や足に肌荒れが見当たらない。それらは典型的なデザインベビーの特徴だよ。都心部じゃ、富裕層の過半数はデザインベビーだから、お前のそれが目立たないだけだ。お前の地元に善良な人間しかいなかったことに感謝したほうがいい」

「んーんーんーんー……そういうものなの?」


 シリウスにそう言われても全く自覚のないリゲルに、織姫は説明を付け加える。


「あなたみたいな容姿の子、放っておいたら臓器売買組織にいつ誘拐されてしまうかわからないから保護したけど、あなたの練習風景やさっきの予選内容を見ていても、そうじゃないかって思うのよ。あなたのご両親について、なにか思い出せることはある?」

「んー……ふたりとも優しかったよ。父さんは毎日毎日畑を管理してて、オレはその手伝いをしていた。母さんはそれらを売っていた。二局しか番組が映らないところだったから、見てもしょうがないやって、テレビはなかったけど、それはうちだけじゃないからおかしいと思ったことはなかったな」

「なるほど……わからないのね」

「……話を戻すけどさ。その予選会に負けた人たちって、そのまま臓器を売られてしまうの? そしたら普通は死ぬよね?」


 その言葉に、シリウスは重々しく頷いた。


「……死ぬ方法を覆す方法はある。理論上はあるんだが、どこも達成できていないから、オリプロだって三年かけてアイドルユニットを育てて作戦を練り、達成させる予定だったんだよ」

「なに? それ。それを達成させれば、負けた人たちも死ななくって済むの?」


 リゲルの矢継ぎ早の質問に、デネブが口を挟んだ。


「うん。ぼくたちだって、生まれちゃった以上は生きていたいもの。方法はね、本戦にまで出て、優勝すること。優勝したら、スターダストフェスティバルのルールをひとつ、書き加えることができるから」

「それ……! すごい! つまりは、『負けた人を売らない』って書き加えることもできるんだね!?」

「一応はな。だが、理論上だ。今までどうして、誰でも思いつくルールの書き足しをされたことがないと思う?」

「ええっと……」


 織姫は、重々しく口を開いた。


「……主催側や大企業にとって、もっとも都合のいい事務所が、優勝を独占しているからよ」

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