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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
魔法少女と夜魔の女王編
95/220

挿話 配信視聴中の国の重鎮たち

本編進行と同時進行の動きなので、挿話扱いになっています。

なので本編しか興味がないっていう方は読み飛ばしてもらって構いません。




 第一、第二階層を突破するのにおよそ一時間程度。

 ペースとしては決して急いでいる訳でもなく、ゆっくりと周りを見ながら歩いている魔法少女、そして『みゅーずとおにぃ』の二人からは体力的にも精神的にも疲労の色は見えない。

 余裕を持って行動している事からも、彼女たちの実力を前にしては第一、第二階層程度では役不足であることが窺えた。


 そんな光景を世界各国、ありとあらゆる場で視聴者たちは見つめている。

 当然ながら世界各地、インターネット環境が整っていてスマホが一台あれば観られるのだから、ごく一般的な家庭の子供から、国の重鎮、軍を預かる立場の者まで、ありとあらゆる立場にいる者たちが、注目が集まるのは当然の事と言える。


 特に今回放送されるのは葛之葉にできたダンジョンだ。

 そんな場所にダンジョンが発生したと言うのだから、大和連邦国内での注目度は必然的に高まっていた。


 かつて凄惨な出来事があった葛之葉という町を、凛央魔法少女訓練校と軍の合同奪還作戦で奪還できたと発表。

 結局、軍部の失態、ルイナーの大量発生には触れずに蓋をされた。

 ダンジョンという未知の存在が生まれた現状で、無闇に不安を募らせるような情報を公表しない方が良いという判断であったであったが、この対応が正しいか否かについては今も国の上層陣内では意見が分かれている。


 事実として、ダンジョンの出現に対し、世界は様々な反応を見せている。

 比較的柔軟な対応を見せたのは、サブカルチャー文化に理解がある国々や、そうした国々と交流のある国々であったが、とある国ではダンジョンの存在を秘匿しようとし、ダンジョンで手に入るという魔道具、魔法薬を融通しろと強請るような声明を発表した。


 その行いが、文字通り()の怒りを買う事になった。


 この神託、そして天罰の執行という言葉によって、世界各国はダンジョン、そして神に対する考え方を改める必要があると考えた。

 神託では『ダンジョンの秘匿』が禁止事項としている事は窺えたが、それに加えて『精霊への冒涜』を言及していた以上、どこからどこまでが禁忌にあたり、神の怒りがどの程度のものまで許されるのか、どこまでが許容範囲なのかが理解できなかったのだ。


 ――もしも自国が神の怒りに触れていようものならば、今度は自国が粛清されるのではないか。

 そう考えると、「神はいてもいなくても変わらない」というようなスタンスを貫いていた国々としても、無視できる問題ではないとようやく理解したのだろう。

 各国では神宣院、あるいは教会などへの問い合わせが殺到し、どこまでは許されるのかを教えてもらいたいとアドバイスを求めるような形となり、結果として神に関係する部署は建国間もない頃に近い権威を取り戻しつつある。


 ともあれ、こうした世間の動きもあり、かつ今回は『夢幻廻廊』のような複数階層型のダンジョンの存在とその内部の放送ということで、連邦軍、政治家たちの注目度もまた非常に高まっていた。


「――素晴らしい。ダンジョン産の魔道具があれば魔法少女に引けを取らない戦闘能力を得られるという訳か」


「やはり国内のダンジョンをもっと積極的に探索させていくべきでしょうな。ルイナーに奪われた各所の主要な地域の奪還を行っていきたいところですね」


 国の重鎮たちが居並ぶ会議室内。

 そこでは『みゅーずとおにぃ』チャンネルが配信している『夢幻廻廊』の映像を流しつつ、様々な意見が飛び交っている。


 そんな話し合いの場には、国の重鎮に呼び出される形となり、話し合いの行く末を見守るかのように沈黙を貫く二人の男の姿があった。


 神宣院の重鎮。

 大和連邦国の亜神である天照の側近、神楽の一族の現当主――神楽 (まこと)

 ルオが出会った由舞の父である。

 そしてもう一人は、魔法庁の重鎮、『結界師』の一族の現当主。

 今まさに全員が目を向けている『夢幻回廊』の映像内に映る、東雲桜花の父――東雲 貴信(たかのぶ)である。


 喧々諤々と議論を取り交わし合う政治家たちを前に、誠は柔和な表情を浮かべたまま、貴信は険しい表情を浮かべたまま腕を組んでその成り行きを見守っていたのだが、議論の方向性はダンジョン内で得た魔道具を扱う者への徴兵がどうの、魔法少女のダンジョン踏破活動への要請だのと、なかなかに身勝手なものへと変わっていく。


 そんな中、柔和な表情を浮かべていた誠がパンと両手で一度拍手するような形で音を鳴らせば、会議室内の議論はピタリと止んで、誠へと注目が集まった。


「失礼。少々聞くに堪えない(・・・・・・・)話題となってきたため、一度止めさせていただきました」


 にこりと微笑んでみせつつ、誠は堂々とそんな言葉を皮切りに続けた。


「先程から魔道具保有者の徴兵だの、魔法少女――いえ、少女(・・)への命令だの、まったくもって聞いていられませんねぇ。まるで自分たちがまだ安全な後方に居続けていられるような物言いだ」


「な、にを……」


「そんなに容易く他人にダンジョン踏破を命じるぐらいならば、せめてあなた方が率先してダンジョンに入り、ご自身で魔道具を保有なさればよろしい。魔道具を得た人物、そして年端の行かない少女に未だに頼ろうというあなた方のご意見は非常に不愉快です」


「まったくですな。あなた方が送り出そうとしているのは、いわば戦場だ。そこに娘を送り出せと言われてる親の立場にある私からすれば、特にそうだ。――それこそ、今すぐこの場で貴様ら(・・・)全員を殺してしまおうかと何度か思った程度には、な」


 誠に続いて、貴信もまた殺気を伴って言い捨ててみせれば、会議室内はしんと水を打ったように静まり返り、配信の映像越しに聞こえてくる戦場とは思えないような軽い内容の会話と、それを聞いてくすくすと笑う娘――桜花の声が聞こえてきて、貴信はふっとその身から放ち続けていた殺気にも似た気配を収めてみせる。


 貴信は魔法庁の顧問という立場に収まったものの、娘である桜花を広告塔のように扱った政府に対して怒りを抱いてきた。


 かつては自分の立場上仕方のないことだと割り切って要請を受諾したが、それでも、娘が傷ついて平気な顔をしていられる親などいない。

 広告塔となり、引き入れた魔法少女が葛之葉の一件で命を落としてしまったあの一件でどれだけ桜花が傷ついたのかを、貴信は知っている。

 だと言うのに、今回もまたその過去を忘れたかのように配信参加の要請。

 さらにダンジョンという、魔物という不可思議な存在が蔓延る場所に行けなどと容易く口にする。


 いっそこの場で殺してやった方が良いのではないかと本気で考える程度には怒りを抱いていた。


 そんな貴信の本気の怒りを感じ取り、言葉を失った重鎮らを前に、一方で誠は相変わらず柔和な笑みを浮かべたまま改めて口を開いた。


「時に、東雲殿。東雲殿はおにぃ(・・・)さんについてはどう思いますか?」


「ふむ……。それは実力についてですかな?」


「いえ、人柄についてです」


 一体何が言いたいのかと話の流れが見えないまま沈黙し、会話の推移を見守る重鎮たちの前で貴信は誠の狙いがなんとなしに読めて、その会話に続く事にした。


「今の世には珍しい、世間擦れしていない好青年、というところでしょうか。好ましい人材だと、そう思っておりますとも」


「なるほど。いえ、魔法庁の顧問である東雲殿にそこまで言われると、私としても嬉しい限りですね」


「ほう。嬉しい、とは?」


「いやはやお恥ずかしい話ですが、実はおにぃ(・・・)さんの最初のダンジョン踏破の映像は見ていましてね。妹を守るためにあくまでも冷静に立ち回り、魔道具がなくとも魔物に対峙してみせた姿。そして血だらけになってもなお戦い抜いた勇姿。そして東雲殿が言う通り、どこか世間擦れしていない姿に、すっかりファンになっていまして」


「ほう、神楽殿もですか」


「えぇ。あの妹さんの能力はもちろんですが、彼のあの姿を見て、あの兄妹の絆を見たからこそ公認探索者となってもらいたく、天神様に相談し、了承を得たのです。それを徴兵しようなどとは……」


「い、いえ! そのようなつもりはなく――!」


「――おや。それはつまり、彼ら以外ならば徴兵してもいいだろうと思っていた、と?」


 そうきたか、と貴信は苦笑する。

 自分たちが徴兵などと軽々しく口にしていた相手が、そこまでの存在だとは思っていなかったのであろう重鎮たちの顔が青褪めていく姿をちらりと視界の隅で確認して、貴信は先程から胸の内に抱いていた燻りに対して僅かに溜飲を下げた。


「時に、東雲殿もあの配信を見られたのですか?」


「もちろん。実はちょうど娘と食事を約束した日の出来事だったので、家族と一緒に家で。確かにあの勇姿、そして大事な家族を守ろうとする姿には私も胸を打たれましたな。男親として、将来娘を譲るのであればああいう気骨のある者にこそお願いしたいものです」


「おや、東雲殿のご息女はまだ十五だったはず。結婚などまだまだ。えぇ、まだまだ、です」


「……そういえば、神楽殿のご息女、由舞殿も同い年でしたな……。おっと、失礼。少々脱線してしまいましたな」


 政府の重鎮が居並ぶ場でありながら、段々と話題が居酒屋での一幕のようなものになっていく。

 どうやら自分よりも娘をまだまだ守っていたいらしい誠の態度に呆れると同時にそんな事実に気が付いたのか、貴信が話を戻すと、誠が一度咳払いをしてから視線を戻した。


「ダンジョンとは神の試練の場とも言えます。そして、その試練に打ち克った者にこそ報酬は与えられる。その報酬を得た者を安易に利用しようなどと、神の怒りに触れたい訳ではありますまい?」


「そ、それはもちろん!」


「であれば、探索者ギルドに協力し、余計な事はしないことをオススメしますよ。自由意志の下にダンジョンへと挑む事を神々は推奨しています。国ごとき(・・・・)が取らぬ狸の皮算用に勤しむだけならばいざ知らず、余計な真似をしないことです」


 現状、ダンジョン調査は適性を持つ魔法少女と、その魔法少女に守られた研究者らが行っている。

 また、次世代魔法学研究所という会社の代表であり、研究者でもあるジュリー・アストリーによって、人造魔道具――『魔導武器(マギ・ウェポン)』という『魔導具』と呼ばれる新たな存在が世に出ようとしている。

 すでに『魔導具』については探索者ギルドとしても接触しており、そして大和連邦国では連邦軍が後ろ盾となって量産を開始しており、世界各国に同数ずつの販売を予定しており、探索者ギルドは探索者という名前でダンジョンに潜る者たちを支援するべく動いている。


 要するに、徴兵などと非生産的な思考で邪魔をされるのはただただ迷惑、というのが神宣院の代表――もとい、探索者ギルド日本支部代表という立場にある誠の本音である。


「あなた方に求められる役割は、あくまでも国の運営(・・・・)。神の領分であるダンジョンに手を出せば、痛い目を見る事になるでしょうね」


「……怖い話ですな」


「そうですか? 他所様のお家にお邪魔して好き放題してはダメ、という事ぐらい、子供でも解る話かと思いますが。どうもこの場所には、どうやら子供以下、赤ちゃん返りしてしまったような方々が多いようなので、一応口にしておいただけですとも」


 一見すれば邪気のない笑みで、あまりにも辛辣な物言いで釘を差すという形で誠は告げる。

 この数分後、ダンジョン対策会議という名目で集まった無駄な集まりは会議と言えるような会話もないため、必然的にお開きとなるのだが、これも仕方のない事であった。


 こうした動きは各国でも起こっており、探索者ギルドは着実にその始まりに向けて歩みを進めていた。


なんだかここ数日、ポイントが結構な勢いで上がっていました。

改めてこの場を借りて御礼を言わせてください。

ブクマやいいね、評価など、本当にありがとうございます。


ポイントっていう目に見えるものはやはりモチベに繋がっていますので、ありがたい限りです。

大変励みになっています!

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