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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
魔法少女と夜魔の女王編
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#064 『夢幻廻廊』 Ⅳ

 葛之葉ダンジョン『夢幻廻廊』第一階層。

 和風庭園を思わせ、蛍を思わせる緑色の光の粒がゆらゆらと揺れ、空には満天の星空が広がり、足元の草花が淡く青い光を放つ。

 多くの者がその光景に見惚れるであろう幻想的な光景が広がっているその場所で、しかしそこには似つかわしくない硬質的な金属と金属がぶつかり合うような音が鳴り響いた。


 鏡平が対峙しているのは、奇しくも『みゅーずとおにぃ』が踏破したダンジョンと同じく歩く骸骨戦士(スケルトン)系の魔物。

 朽ちかけた袴姿と刃こぼれの酷い刀という、いかにも和風な様相を呈しており、みゅーずの配信コメントでは和風ホラーだのなんだのと騒がれている。


「――しっ!」


 槍を振り抜きつつ短く息を吐く鏡平。

 打ち上げるように振るわれた槍によって手に持っていた刀を弾かれ、懐を晒した骸骨戦士。

 瞬間、鏡平の横からエレインが飛び出してくる。

 手につけた手甲からバリバリと白い雷光を放ちながら飛び込んだエレインが、ニヤリと笑う。


「吹っ飛べ!」


 破裂音のような凄まじい音を立てて、胸元の核を守る肋骨が砕かれた骸骨戦士が後方へと吹き飛ばされる。

 天を仰ぐように倒れた次の瞬間、僅かに周囲の光を反射させた何か(・・)が骸骨戦士の核へと降り注ぐように落ちてきて、核を貫いた。


「うわぁ……、無色透明の氷ってこんな暗さじゃ視えないね……」


 貫いた何かの正体は、後方からリリスが放った氷の杭。

 真っ直ぐ核を貫き、そのまま大地に突き立った氷の杭を見ながらみゅーずが呟く。

 常人の域を越えた戦闘にコメント欄は映画を見ているかのような盛り上がりを見せているが、その中の一部にはみゅーずの呟きに「暗殺者かな?」だの物騒なコメントが飛んでいる事に気付いて苦笑を浮かべた。


「それにしても、リリスさんってあんな魔法が使えるんだ……」


「あら、あの魔法なら私も使えますよ?」


「えっ!?」


 みゅーずの護衛役を務めて後方から戦いを眺めていたオウカの一言に、みゅーずが驚きつつスマホを向ければ、オウカはにっこりと微笑んでみせた。


「私たちは今、魔法の体系化を進めているのです」


「体系化?」


「はい。魔法を体系化することによってそれぞれの特性を学ぶ。それによって魔法少女の戦力面の増強を行うと共に、今後魔力に目覚めた方が魔法を学んでいくための基盤となる魔法を構築しているのです」


「そ、それってもしかして、私とおにぃも魔法を使えるようになるってこと!?」


「はい。ただ、全部が全部とはいきません。人によっては属性に偏りがあったり、或いは放出するタイプの魔法だと消耗が激しいケースもあれば、逆に身体強化などがとことん苦手なケースもあるようです。魔法庁所属の魔法少女、それに凛央魔法少女訓練校でデータを取りつつ調べている最中です。ある程度体系化でき次第、他の訓練校にも情報を伝え、その上でしっかりと統計が取れて魔法体系が確立してから改めて公表されると思いますので、詳細な情報については公式発表をお待ちください」


「すごーい! え、どうやって調べるんですか!? というかどうやって覚えるんですか!?」


「詳細な情報については公式発表をお待ちください」


「ちょっとだけ! ちょっとだけでいいから!」


「詳細な、情報については、公式発表を、お待ちください」


「ひぇ……っ、ア、ハイ」


 にっこり、と微笑んだまま表情を微動だにもせず、まったく同じ声色で答え続けるオウカは譲る気がないことは見て取れる。それでも食らいつこうとした結果、わざわざ言葉を区切って言下に含まれた意味を悟って素直に待つ方向へと舵を切った。

 コメント欄でも表情を読み取る事に長けた人材はいるようで、「目が笑っていない」だの「これは鉄壁」だのと散々な物言いではあるが、オウカが情報を漏らすという事は期待できないと悟った者も多いようであった。


 実際に魔法を教えているのはリリスであるのだが、これはリリスのみに負荷がかからないようにと相談し、鳴宮を含め魔法庁、連邦軍の上層部へと上奏し、対応を決定した形である。


 リリスもまた己の契約している精霊、師に対して魔法技術を広めてもいいかと尋ねたのだが、それに返ってきたのは「好きにしな」の一言である。

 これには師である彼女自身、この世界の魔法――という名の無鉄砲に魔力を扱うだけの荒業には呆れていたという背景もあった。


 もっとも、教えるのはあくまでも『魔力制御』と『魔力構築』、そして第二階梯までの魔法のみと縛りが設けられている。

 それ以降については自力で研究し、開発しろというスタンスでしかないため、リリスもそれ以上はリリスが直接教えるようにと釘を差されているが。


 ともあれ、固有魔法だけではない戦術の広がり、魔装の構築という様々な技術が齎される事となり、非戦闘系の固有魔法しか持たなかった魔法少女たちの希望にもなっている。


 余談ではあるが、ルオが魔法少女コスチュームと表現している服装についても、魔装と同様に本人の意識と魔力の制御力を上昇させる事で変更できる事が分かり、十代中盤の少女たちは歓喜している。

 五年前の少女であった自分がイメージした衣装は嫌いではなかったが、成長して見た目も変わってきた以上、できればフリフリを少しは抑えたい、という気持ちはみんな持っていたようである。

 さらに余談ではあるのだが、十代中盤が想像する大人っぽい服というものが、今度は中二病テイストに染まったりしないだろうか、というルオのどうでもいい予感が何名かの魔法少女の心にクリーンヒットする事になる。


 どうでもいいところで魔法少女の未来は絶望に染まっているのかもしれなかった。


「へっへーん、どーだ! おにぃとアタシのコンビネーション! おにぃ、どうだった!?」


「おう、悪くなかったぞ。いい判断だった。さすがだなぁ」


「にへへ、だろー?」


「……むぅ」


 エレインが鏡平に向かって声をかけられ、鏡平が素直にそれを褒めてみせれば、エレインが嬉しそうに笑う。

 そんな姿が目に入ったみゅーずが僅かに兄を取られたような気がしてもやっとしたものを感じていると、隣りにいたカレスがくすくすと笑い始めた。


「エレインちゃん、嬉しそう……。一人っ子だから、ああいうお兄ちゃんが欲しかったのかな……。ちょっと分かるかも」


「あれ、って事はカレスちゃんも一人っ子なの?」


「あ、はい、そうです。おにぃさんって、なんだかこう、優しいですし、大人だから。どこかお父さんっぽいですよね。優しいお父さんって感じです」


「……あー、うん。それは分かるかなぁ。でも、間違ってもお父さんって呼ばないようにね? ほら、おにぃはまだ若いし、そういうの気にする年頃かもしれな――んぎゃっ」


「おうこら妹よ。俺はそこまで言われる程、まだ歳取ってねぇだろうが。……危機感だけは持っておけよ。ここの魔物、結構強い。周りも暗いから、音だけは聞こえるように注意だけは忘れるなよ」


「うー、はーい」


 頭を掴まれる形となったみゅーずに鏡平が注意を促しつつ、周囲を見回す。

 実際、この場所は薄暗く、いつ魔物が現れるかも分からないような状況ではある。

 やはり和風庭園と呼ばれるだけあって、中に入るような扉はないものの、屋敷のような建物、剥き出しになって屋根がついた渡り廊下などもあり、死角となる箇所が多いのだ。


「ふふ、相変わらず仲がよろしいですね。おにぃさんもご安心を。戦闘時はちゃんと私が結界で保護していますし、周辺に魔物がいない事も確認しています」


「確認してる?」


「おー、大丈夫だぞー。ちゃんと近くの魔物はいないって契約してる精霊も教えてくれてるからなー」


「あー、そっか。便利だなぁ」


 契約している精霊との繋がりを通して、思念のやり取りを行う。

 これは魔法少女――精霊との契約者であれば基本的に誰でも行う事ができる能力であると言える。


 もっとも、夕蘭と明日架のような明確に思念だけで会話のやり取りができるケースは珍しく、これまでは思念だけでは、あくまでもニュアンスを伝えてくれる、なんとなく理解できるという程度に留まっていた。

 しかし、精霊との契約は魔力による結びつきであり、その繋がりをしっかりと意識し、制御できれば会話も可能になるのだ。

 夕蘭の場合、夕蘭が高位の精霊であったため、夕蘭側での調整でどうとでもできていた、というのが実状であったが、今では魔力制御を学び始め、具体的な思念のやり取りを行える程度に凛央魔法少女訓練校の生徒たちも成長していた。


「リリスー、アタシの魔法パンチどうだった!? 課題クリアできてるだろー!?」


「えぇ、しっかりと魔力も乗っていましたし、制御もできていたと思います。良かったですよ」


「へっへっへー、序列一位に褒められちった」


 魔装を調整し、手甲で真っ直ぐ行って殴りつけるという選択を取ったエレインの戦い方は、シンプルでありながら自身の速さを活かせる戦法であると言える。

 この戦いを実戦で披露するのは初めてではあったものの、課題となる魔力の制御、インパクトのタイミングで魔法を発動させて魔力障壁を叩き割るという性質から、扱いはかなり難しい。

 リリスにとってもエレインの持つ天賦の才能とでも云うべき戦闘センスには驚かされているぐらいだ。


 もっとも、犬っぽく褒められにやってきて褒められてゆらゆらと身体を揺らしている姿から、どうにも妹、あるいはペットの犬という印象が拭えないせいか、こうした態度を見るとついつい頭を撫でてしまうのだが。


「にへへ、おにぃは褒めても頭撫でてくれないからなー」


「あのな……。自分の妹でもないのに頭撫でる訳ないだろ」


「そうかー? おにぃならいいぞ!」


「いや、そう言われても困るんだが」


「えー、おにぃ、そこはほら、こう「ごめんごめん、つい妹みたいで」って言いながら主人公ムーヴして頭撫でるとか。定番じゃん?」


「やらねぇよ。つか妹みたいだからって他人の頭撫でるとか、よっぽど失礼なシスコンか距離感バグってる変人じゃねぇか」


「……あー、まぁ、確かに……。リアルでやられたら確かに引くかも」


 鹿月鏡平という男には創作物のお約束というものに対する理解がないようだ。配信を見ている者たちもその事実を思い出したようである。

 一方、鏡平の現実的な意見を前に、二次元的な思考ではなく現実的に想像してみたみゅーずも、赤の他人が頭を撫でてくる事を想像し、表情を苦いものへと切り替えた。

 頭を撫でられるなど、確かによっぽど近い相手か好きな相手でもなければ御免被りたいと実感したらしい。


「うん、知らないおっさんから頭撫でられたらやだなー」


「こ、怖いですよ、いきなり頭撫でられるのって……」


「知り合い程度ならセクハラ、知らない人なら痴漢となりそうですね」


「私も嫌ですね……」


 女性陣も同意見だったようで、なんとなく気まずい空気が流れる事となった。


 ともあれ、そんな会話をする程度には第一階層は余裕を持って進めるというのは間違いなかった。

 その後は順調に進み、第一階層、そして続く第二階層も特に問題なく、一行はついに第三階層――知恵の試練へと足を踏み入れる事になるのであった。

~おまけ 配信コメント欄にて~

【戦闘中】

『やば、おにぃのせいで槍に憧れる』

『ていうかエレインちゃん可愛くない?』

『無邪気美少女』

『あのドヤ顔、頭撫でてよしよししたい』

『いや、やっぱリリス様でしょ』


【頭撫でる系定番】

『分かる、妹みたいでネタは定番』

『おにぃ真顔ww』

『くっそww』

『え、頭撫でるってそんなダメ?』

『なお女性陣全員ドン引き』

『知人はセクハラ、他人は痴漢w』

『ハードルくっそ高いなww』

『さっき撫でたいって言ってたやつ息しとる?w』

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