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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
幕間 世間のダンジョン騒動編
84/220

幕間 兄妹の決断 Ⅰ

 ダンジョンから帰還した俺と美結を待っていたのは、国の機関からの連絡だった。

 保護者である俺の電話にすぐに連絡が入ったのは、配信なんていう方法を取った以上、必然と言えば必然だったのだろう。

 収益化に向けて本名や住所なんかも登録していたし、調べようと思えばいつでも調べられる立場にいる相手だ。


 そんな訳で、ダンジョンを出たばかりの俺に連絡が入り、ネット会議という形で最初の面談は行われた。


 曰く、ダンジョンはルイナーという異界の魔物とでも言うべき存在によって流入してきた魔力を徐々に世界に浸透させるための措置だそうで、魔物という異形の存在がいる一方、様々な恩恵を齎す魔法のかかった品々が生まれる事もあるとか。

 俺が使った槍、俺たちが使って持ち帰った魔法薬っていうのはその恩恵の最たるものであると言えるのだそうだ。


 正直、今朝のダンジョンに入る前の俺であったのなら「何言ってんだ、コイツ」みたいな目をして映画でも見ているような気分でいたのかもしれないが、如何せん体感してしまった当事者である俺にとってみれば、そういうものだったのかと腑に落ちる部分もあった。

 確かに恩恵は恩恵だろう。

 何せ俺は槍がなければ戦えなかっただろうし、外に出る事さえできなかっただろうからな。


 ともあれ、国の機関――神祇院とやらに所属している人が言うには、ダンジョンの存在はこれからすぐに公表される事になると聞かされた。

 どうやらすでにダンジョンが生まれた――生まれたという表現が正しいらしい――場所は多いものの、大きなものはすでに封鎖していて、俺や美結が入ってしまったような小さな出入り口はどれだけ発生しているのか調査中のようだ。


 続いて聞かされたのは、ダンジョンで手に入れた魔法薬や槍についての所有権に関するものだったのだが、これについては所有者として持っていて構わないということ。ただし、魔法薬を売却するつもりがあるのなら、一般市場に流すのではなく必ず連絡がほしい、との事だった。

 槍についてはルイナーにも通用する可能性がある以上、手放す気はなかった。

 万が一この辺りにルイナーが出現して美結を守らなくてはならない時、戦える武器は手元に置いておきたかったので、所持を認められた時は胸を撫で下ろした気分だった。


 すぐに休んだ方がいいのに申し訳ない、と真摯に謝罪された上で説明してくれて、あとで懇切丁寧に議事録と魔法薬、それに俺が手に入れた槍の取り扱いを明記したものをメールにて書面を発行してくれると言われ、二十分程度で会議は終わった。


 手短に済ませてくれたのは、俺が配信された映像の中で血だらけになっていたからだろう。

 実際、俺は寝転がって美結の隣で話を聞いていればいいとだけ言われたのだが、俺自身、正直国に対する信頼は低く、美結を丸め込もうとするのではないかと気を張って話を聞いていたのだが、拍子抜けする程に真摯な対応であった。


 ともあれ、その日は妙に腹が減ってしまってガッツリと飯を食い、美結もまた魔法薬のおかげかダンジョンの外であっても体調がいい事に機嫌が良くなってはしゃいでいて、気がつけば二人して朝まで爆睡してしまった。


 それからは、なんというか……本当に大変だった。


 世間でのダンジョン公表。

 俺と美結はすでに説明されていたが、さすがに世界各地で同時公表するなんて話になったせいか、発表は俺と美結がダンジョンを踏破した翌々日の昼になった。

 それまでは俺と美結が新しい映画の撮影をしていてそれのゲリラ宣伝だとか散々言われたりもしたけどな。

 魔法薬で傷を治したりしたせいもあって、傷も特殊メイクや仕込みだと思われていたらしいのだが……ダンジョン公表に伴い、俺と美結のダンジョン活動が全世界のお茶の間に流れたのである。


 どうやら俺と美結のようにダンジョンに入ってしまった人、あるいは入ったと思しき人は多少はいたようなのだが、ほとんどが帰ってこなかったらしい。


 これについて、俺と美結は政府の人に連れられて凛央の近くにある次世代魔法学研究所とか言う研究所で検査をした結果、俺と美結の魔力適正値とやらが一般の人に比べて高かったおかげで生き延びる事ができたのだろうと言われた。


 実際、美結の動画を見直してみて俺が俺の動きにドン引きしたぐらいである。

 なんだこれ、どこの超人だと本気で思ったぐらいであった。


 美結の体調の変化、そして俺の超人めいた動きは、どうやらこの魔力適正値が高く、ダンジョンという魔素濃度の高い環境において適応した結果、生き残れるだけの身体能力の向上が行われ、一種の魔法少女と同等の強化状態になったのだろう、と。


 ちなみにその発言を聞いていた美結が俺の魔法少女姿を想像したらしく、爆笑していた。

 俺は俺で自分で想像してしまってドン引きしたが。


 それに加えて、俺のスマホが圏外なのに美結のスマホだけが繋がったという点についてだが、実のところ、ダンジョン内ではスマホは一切繋がらないというのが一般的なようだ。

 実際、魔法少女と政府の人間が俺と美結の入ったようなダンジョンに入って調査をしたところ、一切繋がらなかったらしい。

 まあ電波がないんだから当然と言えば当然なんだが。


 そんな中で、何故美結だけが電波を取得して配信できたのか。

 そのための検査をしてみた結果、美結のスマホはどうやら俺の拾った槍と同じように、魔力を放っていたらしい。


「おそらくだが、キミのそのスマホは魔法少女が契約しているような精霊が宿っているのだろうね。精霊は付喪神のような存在であるケースが多いらしいし、キミのスマホには付喪神が宿っていて、キミの想いに応えているのだろう」


 さらりと全く考えた事もない精霊の正体を言及して言い放ってみせるジュリー博士という女性と、それに追従して「それは素晴らしい」と告げる政府の神祇院所属の女性。


 付喪神なんて相当長い期間使われていなくちゃいけないんじゃないのかと困惑したのだが、神祇院所属の女性からも魔法庁の魔法少女と契約している精霊からも事情を訊ねてもらったところ、ジュリー博士の推測は的を射たものであり、魔力の影響を受けてその期間が大幅に短縮されたのではないか、との事だそうだ。

 美結のスマホには、両親の写真やメッセージアプリの内容が詰まっていて、美結は何度もそれを見直したりして大事にしていたそうだ。

 新しく機種変してもそれは変わらなかったので、そうした想いと、美結自身が魔力を有していた事もあって、付喪神が生まれやすい環境にあったスマホがダンジョン内で僅かに開花したのではないか、だとか。


 当たり前のようにファンタジー小説よろしくぶっ飛んだ話を聞かされる事になっているのに、俺も自分の中でこれまで培われてきた現実とは全く違う方向性での説明に対して「そういうもんなのか」と聞き入れて受け流す耐性みたいなものが出来ているらしかった。


「なぁ、美結」


「どしたの、おにぃ?」


「……人間って、適応する生き物なんだな……」


「おにぃ、大丈夫? 疲れてるんじゃない?」


「そりゃ疲れるだろ……」


 ようやく諸々の手続きも終わって、気がつけばダンジョン踏破から一週間。

 俺は我が家の居間で寝転がっていた。


 ダンジョンなんてものに足を踏み入れてしまい、助けを求めるために配信なんて手段を取ってしまったが故に、俺と美結は今、何故かダンジョン攻略の第一人者として取材をさせてほしいという申込みなんかも来てしまっている。

 幸い限界集落住まいであるが故に家の周りが騒然とする事はないが、さすがにお茶の間にまで俺たちの映像が出たせいか、ジジババ様方に「よく美結ちゃんを守った」と野菜と共に激励の言葉をもらったりと、限界集落なのに活気付いてしまっている。


 頼むから俺と美結を旗頭に町おこしなんてしないでくれ。

 役場の人間が公表したいとか言ってきた時には正気を疑ったぞ。


 そんな事になるなら引っ越すぞ、マジで。


「……美結、体調はどうだ?」


「もう、それ何回目? あの魔法薬を飲んでから、ずっと元気だよ」


「そうか。……良かったな」


 苦笑しながら答える美結に、俺も何度目になるかも分からない言葉を口にした。


 あの魔法薬は確かに美結の体調を回復させた。

 まだまだ一般人程度の体力もないのだが、それでも毎日が楽しそうだ。


「ねぇ、おにぃ」


「ん? なんだ?」


あの話(・・・)、受ける?」


 身体を起こして意識を切り替えつつ頭を掻いた。

 美結はスマホをいじりながらうつ伏せになって足を上下にパタンパタンと振りながら、こちらには目を向けずに問いかけてきていたらしい。


「……正直、迷ってはいるんだがな。美結はやれるならやりたいんだったよな?」


「うん。ほら、私今有名人だし。下手なアイドルよりも有名じゃない?」


「……そりゃそうだろ。全世界にお前と俺が出てるんだからな」


「みゅーずとおにぃ、だけどね」


「本名とかまで公開されなくて良かっただろ、実際」


 そう、実際俺たちは今や超がつく程に有名人となってしまっているのだ。

 限界集落にいるおかげで実感はなかったが、ダンジョンという異質な存在の全世界同時発表と、魔力という存在の公表、それに適応した俺の実感こそなかったが映像で見て初めて知った超人的な運動能力は、まさに魔力に適応した例に相応しいらしい。

 そのせいか、どんな番組でも今ではダンジョンを取り扱っていて、どんな番組でも俺の戦闘シーンを使いたいとあちこちからも声をかけられて、正直俺だけでは対応に手が回らない状況であった。


 そんな俺と美結に出てきた提案。


「『探索者ギルドの公式探索者』にならないか、か」


 それが俺たち兄妹へと出された提案であった。


 魔法少女と組んでダンジョンを実際に探索しつつ動画で配信し、ダンジョンの恐ろしさを理解してもらおうという取り組みであり、唯一ダンジョンの内部の情報を生配信で届けられるという美結の特性と、俺の適正を活かしてダンジョン探索を行う。

 その代わり、しっかりと報酬も出る上にあらゆるマスコミ等に対する対応は『探索者ギルド』が受け持つというもの。


 どうやらダンジョンの存在が公表されて以降、無謀にも中に入って俺たちのように武器や魔法薬を手に入れようとした一般人なんかが多く、しかもその多くが未帰還者になっている、だそうだ。

 危険性を認知させるためにも積極的に内部の情報を届けてほしいらしい。


 動画でも撮影すればいいだろうにと思ったのだが、実はダンジョン内では電子機器が正常に作動しなくなる事も多いみたいで、正常に作動するのは極端に弱い魔物しかいなかったり、あるいは魔物すらいない迷路のようなダンジョンぐらいらしい。

 これはどうやらダンジョンの強さみたいなものは魔素濃度によって決まっているようで、この魔素濃度が高い場所ほど、電子機器が正常に作動しないのだとか。


 結果として危険性を伝えきる事ができないせいか、無闇に入らないようにと訴えても利益を独占したがる存在は多く、効果もそこまで高くないようだ。

 まだダンジョンが公表されて一週間程度だってのにそんな話が出ているのだから驚きだが。


 ともあれ、美結はその公式探索者とやらになって広報を行いたいらしい。


「私がお茶の間に真実を届けるよ!」


「いや、だからお前は戦場カメラマンか何かなのかよ」


「あはは、冗談だよ。でもね、私にしかできないことがあるなら、それをやっていきたいんだ。ほら、お父さんとお母さんが死んじゃって、おにぃにもお爺ちゃんに支えられてばかりだったから」


「……んなもん、気にするな。家族だろうが」


 ……歯がゆさみたいなものを感じていたのかもしれない。

 両親が死んで、精神的にも弱っていた美結はいつ消えてしまってもおかしくないような、そんな儚さがあった。

 けれど今回、ダンジョン探索で美結の体調も治って精神的にも成長してくれたんだろう。


 だが、俺としては美結に危ない事はしてほしくないのだ。

 ダンジョンは今回、ギリギリ死にかけるような中でどうにか踏破して帰ってくる事ができた。

 それだけ危険で、ゲームのようにコンティニューなんてできないし、人はあっさりと死ぬのだから。


 やはり止めるべきだろうか。

 そう考える俺よりも先に、美結が口を開いた。


「うん、おにぃはそう言ってくれる。でもね、おにぃ」


 美結は真剣な表情を浮かべて起き上がり、俺を真っ直ぐと見つめ――人差し指と親指の先をくっつけ、手のひらを上に向けた。


「稼げるんだよ、おにぃ」


「は?」


「スパチャ、広告費、探索者ギルドからの報酬。稼げるんだよ、おにぃ……!」


 いや、こわ。

 顔が真顔じゃん、めっちゃ力説してくるじゃん。


「おにぃ、ウチは決してゆとりがない生活をしている事ぐらい、私だって理解してるよ?」


「ぐ……。まぁ、そりゃそうだが……」


「そんな中、ダンジョンっていう世界的な関心が集まるものに先駆者として約束された成功があるんだよ? 乗らないなんてある?」


「いや、お前な……。ダンジョンは危険だろうが」


「でも、おにぃが守ってくれるじゃん。それに、魔法少女だってついて来るんだよ?」


 ……まぁ、確かに魔法少女がついて来てくれるなら二人で潜るよりは安心だろう。

 魔法少女の魔法はどうやらダンジョンの魔物にもしっかりと効くみたいだし、俺たちの安全――というより、美結の安全を最優先にしてくれるという話も聞かされている。

 魔法少女が調査済みの場所がメインになるらしいしな。


 ダンジョンは小さなポータルで入る場所――つまり、俺と美結が入ったような場所は踏破すると消えてしまうのだが、それなりに大きなところは踏破しても消えたりはしないらしいのだ。

 俺にはよく分からないが、小さなダンジョンは踏破すると魔素濃度とやらが減少して、正常な空間に戻るらしい。

 俺たちが入るのは、そういう『踏破したけど消えないダンジョン』になるらしい。

 もちろん、小さなダンジョンに自分たちだけで入っても構わないそうだが……命懸けで入るなんて、そうそうないだろ、普通。


 美結が入りたがる理屈は分かる。

 金がないってのは切実な問題でもあるからだ。


 だが……コイツ、完全に目が円マークになってやがる……!


 そんな事を考えながら若干引いていると、玄関のチャイムが鳴らされた音が聞こえて、美結が「はーい!」と元気良く返事しながら玄関に行った。


 しかし珍しいな。

 ウチは限界集落でど田舎なもんだから、基本的に来客時はドアを開けて声をかけられる方が多いぐらいなんだが。


 そんな事を考えていると、美結が駆けてくる足音が聞こえてきて。


「おにぃ! ダンジョンの精霊さんがウチに来た!」


 そんな言葉を口にする美結の後ろから顔を出したのは、あのダンジョンで会った自称通りすがりの魔法使いであって。


「――やあ。見定め(・・・)に来たよ。場合によっては消すかもしれないけど、我慢してね?」


 そいつは相変わらず飄々とした物言いで、物騒な言葉を開口一番に言い放った。

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