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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
幕間 世間のダンジョン騒動編
76/220

幕間 ダンジョン出現騒動 Ⅳ

「これからキミの身体の魔力適性値検査を行うんだ」


「魔力適正値……?」


「あぁ、そうだよ。どの程度の魔素濃度までなら耐えられるか、魔力に順応できるのかを検査しているんだ。一応、身長や体重、性別、年齢、生活環境なんかから割り出していてね。もっとも、魔力適性値の測定以外は簡単な健康診断とでも思ってくれて構わない」


「えっと、分かりました」


 ジュリー博士に言われるまま、簡単な検診衣と呼ばれる薄ピンク色の甚平のような服に着替えた私に、ジュリー博士が説明してくれる。


 魔素とは、魔力が形となっていない元素の状態を指していて、酸素と似たような扱い。

 それを取り込む事によって体内で魔素を蓄積して魔力とするのだと考えられているらしい。

 正直、私には全く理解できない……。

 うぅ、学校とか行ってないし、小学生の頃の勉強内容なんてほぼ憶えてないよ……。


「体内に新たな器官が生まれるという訳でもない以上、魔力というものは意思の力とでも言った方がしっくり来る気がしているけれどね」


「意思の力……」


「あぁ、そうだね。魔法を使う魔法少女の体内には、一般的な人間と異なる器官も存在していない。魔力を扱う力は人間の物理的な法則ではなく、精神、あるいは魂魄とでも呼ぶようなものによって生まれる力だと言える。既存の常識とは全く異なるものみたいでね。故に、肉体的な構造の変化を伴わずとも、魔力を用い、魔法が扱えるようになると考えられる」


「じゃあ、この身体検査は意味ないのでは……?」


「意味があるかないかで言えば、多少なりともある、というところだね。肉体、年齢、性別といった要素が魔力適性値に関係ないと証明できれば、先程言った精神、魂魄の力という事に一応の説明がつくからね。アレイアくん、別棟のスタッフの配置は明日からだったね?」


「はい、明日からですね」


「別棟……?」


 そういえば、外から見たあの渡り廊下が繋がった先にも建物があったけれど、あれの事かな?

 よく分からない話をぼんやりと聞いていると、ジュリー博士が私の身長を測りながら教えてくれた。


「あちらの建物には、連邦軍の軍病院を通して提供された最新の医療機器があるんだ。ついでに、明日からは腕と信用のある医師が配属される予定なのさ」


「え……? じゃあ、ここってもしかして、軍の管理下に……」


 私は棄民だから、軍の人なんて言われるとどうしても身構えてしまうのだ。


 アレイアさんが教えてくれた通り、無理に保護されて、そのまま苦しい生活にならなかっただけ、もしかしたらマシかもしれない。

 何より、今こうして毎日を幸せに過ごせていて、取り返しのつかない事態にはならなかったから、怒りとか憎しみなんてものはない。


 でも、助けてくれなかったこと、見捨てられたこと。

 子供で何も分からなかった私には理解できなかったけれど、悲しかったし、憎いと思った事がない訳じゃないから、あまり関わりたくない。


 つい不安になってしまう私の頭を、ジュリー博士はそっと撫でてくれた。


「心配いらないよ。そもそも私は軍属じゃないし、こちらが許可しないと向こうからこちらの棟内に入る事さえできないようになっている。魔力障害とも言えるような症状が出た場合に、私が立ち会って原因を解明する協力を請われていてね。設備の提供とスタッフ、それにこの土地と建物の資金を提供する代わりに、いざという時に私の知識を貸して欲しいという先方の願いに応じてあげるという訳だ。つまり、圧倒的に立場は私の方が上(・・・・・)なのさ。それに、悪意のある者はそもそもこの敷地内に入る事さえできないからね」


 ジュリー博士が何かを確認するようにアレイアさんに顔を向けると、アレイアさんは至極当然ですとでも言いたげに頷いてみせた。


 なんだか私には分からないけれど、心配いらないってこと、なんだよね?


「ふむ、身長に対して少し体重は軽いが、まあ健康体と言えるバランスだね。細かな体内の検査なんかは明日向こうに依頼するとして、先に魔力適正値の検査に進もうか。あっちの機械の中に入ってもらうよ」


 ジュリー博士が案内してくれたのは、中にリクライニングシートが置かれた直径三メートル程、高さも三メートル程という円柱型のガラスでできた筒状の機械だった。

 その近くには青く光っている水みたいなものが入っている大きなタンクが置かれていて、ついついその光に目を奪われる。


「あの中に入ってもらって、段階毎に魔素濃度への耐性を調べるんだ。魔力適性とは結局のところ、魔素濃度に対する耐性とも言えるからね。魔力適性値とは呼んでいるものの、裏を返せば魔素濃度耐性値とも言える、という訳だね」


「なるほど……?」


「この魔力適正値が使用可能『魔導武器』ランクの基準にもなるんだけれど……――まあ、詳しい説明を今は無理に憶えておく必要はないさ。調べておいて損はないもの、とでも考えておいてくれたまえ」


「わ、分かりました……」


 ……恥ずかしい。

 まったく理解できていなかった事がバレバレだったみたい。

 うぅ、難しいこと言われてもいまいち理解できないんです、ごめんなさい。


 服を脱がされてシールみたいな何かを身体のあちこちに貼られてから、もう一度検診衣を羽織り、促されるまま円柱型の装置の中に入って、椅子に腰掛ける。

 外の音は何も聞こえなかった。

 ジュリー博士とアレイアさんが少し会話しているみたいだけれど、口元だけが動いているように見える。


 なんだか、こうして中から見ていると、なんだか実験動物にでもなったような気がしてくる。

 棄民街で見つけた漫画なんかでこういうシーンあったなぁ、って。


 ……いきなり化け物みたいになっちゃったらどうしよう。


《――リーンくん、声は聞こえているね?》


「へ? あ、はい!」


 突然スピーカーから聞こえてきた声に慌てて返事をした後で、外に伝わるように少し大きく頷いてみせると、ジュリー博士が笑った。


《くくっ、心配せずともそちらの声もこちらに聞こえているよ》


「え……? あ、その、はぃ……」


《すまないね、先に説明しておけば良かったよ》


 多分今、私の顔は耳まで真っ赤だと思う。熱い。

 うぅ、ホントだよ……先に言っておいてくれてもいいのに……。


《まあ気を取り直して、早速だが検査といこう。その前に一つ聞きたいのだけれど、キミはこの施設に入って気持ち悪くなったりはしなかった。むしろ、身体の調子が良いように思えたと言っていたらしいけれど、本当かい?》


「えっと、はい。中に入ってから、なんだか呼吸が楽になったような気がして、身体の内側から温かな、ポカポカとした感じがします。でも、この中はそうでもないような……」


《ふむ、アレイアくんの言った通り、か。なるほど、では、まずはそこの内部の魔素濃度を施設内の基準値、ランクEに上昇させてもらうよ。もし何か異変を感じたら気兼ねなく言ってくれたまえ》


「はい!」


 短く返事をすると、シューっと空気が抜けてくるような音が聞こえて、さっき通路に入った時と似たような、けれど通路に入った時よりも比較的小さな変化が身体に生まれた。


「えっと、暖かい感じが少しします」


《ほう、嫌な感覚ではないかな?》


「はい。むしろ呼吸がしやすいというか……」


《なるほど。バイタルも安定しているようだし、特に問題はなさそうだね。では、このまま次の段階、ランクDまで引き上げるよ。先程も言った通り、また変化があったら教えておくれ》


「はい」


 再び空気が入ってくるような感じがして、さっきとは違う明確な変化についつい目を見開いた。


 なんだろう、この感覚。

 身体の内側で何かが溜まっていくような、そんな感じがする。

 嫌なものとかではなくて、こう、自分の中に何かが生まれたような感覚、なのかな。

 こう、温かな塊みたいなものを感じる。

 なんだかこう、身体の内側が疼いている、というのかな。


 そんな事を辿々しく伝えていくと、ジュリー博士のところにアレイアさんが近づいて行って、何かを伝えていた。


《……ふむ。バイタルも安定しているようだけれど、目眩とか気持ち悪さはないのかい?》


「はい! むしろ気持ちいいというか、なんかこう、走りたい気分です!」


《走りたい、か。なるほど。じゃあ、その調子でランクCにいってみようか》


「はい! ――……あれ?」


 再び空気が抜けるような音がしてきて、今度はなんだか身体の中が重いというか、少し、くらっとした気がする。

 その変化を見た瞬間、上部の換気扇みたいなものが動き始めて、他の部分から空気も流れ込んできたのか風が吹き込んできて、すぐにくらっとした感じが消え去った。


《ありがとう、検査は終了だ。立てるかい?》


「えっと、大丈夫です」


 目眩みたいなものがあったのに、今はなんともない。

 一瞬だったし気のせいだったのかな?


 私の目の前の扉が少ししてから開かれた。

 検査が終了したって事は私の魔力適性値っていうのも測る事ができたのかな?


「身体に何か違和感みたいなものはあるかい?」


「えっと、目眩みたいなのは一瞬だったので、今は大丈夫です。でも、まだ身体の内側に暖かいものがあるような感じがします」


「ふむ。アレイアくん、キミの予想通りだね」


「はい。おそらく、リーンはこのまま行くと比較的早めに魔法を使えるようになるでしょう」


 …………え?

 魔法?


「リーンくん、キミの魔力適正値はDプラスといったところだ。間違いなく魔素濃度がDランク以下であれば問題なく活動できるし、魔力適性も一般人に比べて高い数値だよ。リーンくんは魔法の発現まで後少し、というところらしい」


 …………えっと、それってつまり……?


「……あの、その、私が魔法少女になれちゃう、ってこと、ですか?」


 さ、さすがにこの歳になってからふりふりの魔法少女みたいなコスチュームは、その、少し恥ずかしいような……。

 そう思って問いかけてみると、ジュリー博士が苦笑した。


「安心するといい。魔法少女は精霊との契約がきっかけで魔力を発現した、いわば特殊な事例だ。キミは純粋に、魔法使いになる才能がある、という話だよ」


「…………えええぇぇぇっ!?」


 魔法、使い?

 私が?


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