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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
世界の大変革編
64/220

#052 競争は突然始まる

 天照との話し合いは、僕が想定していた以上にスムーズに終わったと言える。


 下級神によって創り出された亜神たちは下級神の絶対的な下僕という訳ではなかったようで、好き勝手やろうとしていた下級神との関係はよろしくなかったようだ。

 そのため、僕がこの世界にやってきて神を更迭するという結果を招いた事に対しては、むしろ感謝している程だと語った天照の表情は実に晴れやかなものであった。


 もっとも、僕はその更迭にはなんら関与していないので、僕に感謝を告げられてもお門違いではある。

 結果的にいい方向に進んだと言うのなら良かったね、程度の認識でしかないので、過剰に僕に対して感謝される筋合いもない。


 ともあれ、色々な準備で指示を出す天照の邪魔をする訳にもいかないので、早々に葛之葉以外の『大源泉』の場所を教えてもらい、引き上げさせてもらう事にした。


 イシュトア謹製スマホ内にある地図にピン留めされた『大源泉』を見てみれば、この大和連邦国内にある『大源泉』は五つ。

 それぞれ葛之葉を中心として、北東と北西、南東と南西といった具合に散らばっているようだ。


 その他にも小規模、中規模程度の『源泉』もかつては存在していたそうなのだけれど、今では枯渇してしまっているかもしれない、との事だった。

 一応その中でも比較的大きめの『源泉』であった場所も教えてもらっているけれど、こちらは全ての『大源泉』を見回った後で確認してみればいい。




「――という訳で、キミをあの趣味の悪い封印に縛り付けていたのは、下級神らしいね。すでに更迭されてしまっているから、直接仕返しをするっていうのは難しいかな」


「……そうかい」


 所変わって、葛之葉の屋敷。

 その一室で天照のところから戻ってきた僕は、天照との話し合いの行く末と今後の流れについて、ルーミアとジル、アレイアとリュリュに説明した。


 葛之葉としてもなかなか面白くない話題なのではないだろうかと思いつつ、アレイアが用意してくれた冷たいお茶を口に運ぶ。

 今日はどちらかと言えば花魁を彷彿とさせるような肌の露出もある和服を着ている葛之葉は、僕からの報告を聞いて物憂げな顔で溜息を漏らしながら返事を返し、手に持った湯呑みに注がれたお茶を見つめているかと思えば、苦笑して顔をあげた。


「……ま、すでに罰を与えられたってんならいいさね。面白くはないけれど、野放しになってないんならそこまで言う事はないよ。仕返しの一つでもしてやろうと考えていたんだけどね」


「うん、まあ面白くはないだろうしね。そこでなんだけど、意趣返しでもしてやったらどうかな?」


「意趣返し?」


 きょとんとした表情を浮かべる葛之葉に向かって頷いてみせてから、僕は続けた。


「さっきも言ったと思うけど、これから外の『大源泉』の魔力を用いてダンジョンを生み出す。ダンジョンコア自体は僕が作るんだけど、その管理役――ダンジョンマスターとして、キミにはここのダンジョンのカスタマイズと管理をお願いしたいんだ」


「かすたまいず?」


「うん、要するに何をどう設置するのか、どういう戦いの環境を生み出し、構造や魔物の創造もキミに決めて実行してもらう。『大源泉』の管理者であるキミにならその権限を与えられるし、面白いとは思わないかい?」


「……ふむ、なるほどね。確かに面白そうと言えば面白いと思うけれどね、それのどこが意趣返しなのさ?」


「下級神がどうしても欲しかった魔力の『大源泉』。それを神の許可という公認の名の下で自由に扱える、という訳だね。下級神じゃできなかった事を、キミは堂々とやれる訳だよ。それを下級神はどう思うだろうね」


 下級神が何故『大源泉』を利用しようとしていたのか、何に利用しようとしていたのかについては中級神とやらが拷も――いや、尋問してくれるらしいけれど、その尋問の中で葛之葉が『大源泉』を利用する事を許可されて、利用している姿を見せるなんていうのは、なかなかに痛快ではないだろうか。


 そんな僕の意図を汲み取るのに僅かに時間がかかった様子の葛之葉は、しかし意図を理解するなり、くつくつと肩を揺らして笑った。


「くくく……っ、なるほどね。そりゃあ、確かに愉快な話じゃないか。アイツができなかった事を堂々とやって、それを見せつけようって魂胆だね? でも、あたしに任せてもいいのかい?」


「僕からすれば、キミがダンジョンマスターになるっていうのはむしろ好都合だよ。ダンジョンを管理する存在は、力量も含めて『大源泉』の管理者であるキミのような存在が好ましいんだ」


 僕にとっても、いずれにせよダンジョンを管理する人材が欲しいところではあった。

 人間たちに過度な恨みを抱いておらず、必要以上に殺し過ぎない程度に調整されたダンジョンを運営し、管理できるような人材。それでいて、かつダンジョンマスターとしてダンジョンコアを扱える程度に魔力を自在に使えるだけの力量のある人材である必要がある。


 ここと同様に『大源泉』の魔力を用いて生み出すダンジョンは、そういう実力と配慮を持つ存在にダンジョンマスターを任せるつもりであったし、葛之葉はそういう意味では非常にちょうどいい存在であるとも言える。

 他の『大源泉』にも似たような存在がいればありがたいのだけれど、そこについては現状ではなんとも言えないけど。


「なるほどね。いいじゃないか、乗らせてもらうよ。そういうのも嫌いじゃあないからね」


「そう言ってくれると助かるよ。専門的な魔法になるから基礎構築は僕が手伝うから安心してくれていいよ」


 大妖怪は魔力との親和性が高く、ルーミアたちのような半精霊に近い性質をした存在だ。

 そんな彼女ならば確かに魔力の扱いは上手いだろうけれど、さすがに一朝一夕でダンジョンコアを操れる程の技量を身に着けろというのは酷だ。

 そういう部分は僕がフォローするしかないだろうと考えている。


「ねぇ、ルオ?」


「うん?」


「他の『大源泉』なんだけど、私たちが解放したら私たちがダンジョンマスターになってもいいのかしら?」


 横合いから声をかけてきたルーミアが、そんな事を質問してきた。

 面白い事が好きなルーミアにとっては、ダンジョンコアを自由に操れるダンジョンマスターという立場は充分に魅力的な立場だったりするのだろうか。


「残念だけど、僕やルーミア、それにジルやアレイアも、リュリュも、ダンジョンマスターにはなれないよ」


 確かに、ルーミアはもちろん、その従者であるジルたちであればダンジョンコアを十全に操れるだけの技術もあるし実力もある。

 殺し過ぎず、けれど甘くないダンジョンを生み出し、管理する事だってできるだろう。


 でも、それはできない。


 ダンジョンマスターという存在は確かに表立って芸能活動をするような存在ではないけれど、今後この世界に関わり続ける、いわば歴史に登場するような存在になってしまう。

 だからこそ、僕らはその立場になる事はできない。


 割りと制約の多い立場なのだ、僕らという存在は。

 まして、イシュトアから聞かされている『過干渉の末路』とでも云うべき結末を知る僕としては、リスクはしっかりと避けておきたいところではあるしね。


 そんな風に考えながら答えると、ルーミアは特に落胆した様子も見せなかった。


「ふぅん、やっぱりね」


「あれ、ガッカリしないんだ?」


「確かにダンジョンマスターになれるっていうならなってみるのも面白そうという気持ちもあるけれど、私たちの立場上、ダンジョンにつきっきりという訳にもいかないもの。それに、私たちはこの世界にとってイレギュラー、なんでしょ?」


 ルーミアなりに、僕ら――つまりはイレギュラーな存在としてこの世界の外側の存在がこの世界に表立った過干渉をしてはならないという点を充分に理解してくれている上での言葉のようだ。

 ついついそこまで考えてくれていたのかと目を丸くしてしまう僕を見て、ルーミアはくすくすと笑った。


「分かっているわよ、それぐらい。でも、今回のあなたと葛之葉のような関係を作るぐらいは許されるかしら?」


「うん? それって、ダンジョンマスターを任命する、みたいなこと?」


「えぇ、そういう関係。直接ダンジョンマスターにはなれなくっても、横から口を出せる程度の立場になれるなら、その方が気楽に遊べそうだもの」


 いや、それ葛之葉の前で言うような内容じゃないと思うんだけど……。

 そう考えて葛之葉にちらりと目を向けると、葛之葉は隠そうともせずに大笑いしている。


 気位の高い存在というイメージがあったのだけれど、余計な部分には固執しない性格なのだろうか。


 まぁ、険悪なムードにならないなら良かったよ、うん。

 女性同士の喧嘩とか険悪なムードなんて、どうしていいのか分からないし、僕。

 いざとなったら転移してでも逃げるよ。


「まあ適任がいれば好きにして構わないけど――」


「――聞いたわね、ジル、アレイア、リュリュ。一人一箇所、私は北東をもらうわ」


「では、私めは南西をいただきましょう」


「リュリュ。北西と南東、どちらがいいですか?」


「ふぇっ? えっと、ど、どっちでもいいですよ?」


「じゃあリュリュ、あなたは南東になさいな。私も北東だし、合流しやすいでしょう?」


「はい、かしこまりました!」


「では、私は北西ですね。メイド兼『暁星(スティラ)』の教育係として、実戦訓練もできるような完璧な調整を我が主様にご覧に入れましょう」


 あれよあれよと言う間もなく、ルーミアの北東をいただく宣言が始まり、ジルが南西、北西にアレイア、南東にリュリュという形で話が収まってしまった。


 ぽかんと見守る僕と葛之葉に向かって、ルーミアがにっこり微笑む。


「そういう訳だから、ルオ。行ってくるわね?」


「行ってまいります。夕刻までには戻ってお店を開きますので、ご安心ください、我が主様」


「同じく、夕飯の時間を遅らせるような真似はいたしませんのでご安心を」


「ひえぇぇ、い、行ってまいりますぅぅ!」


 それぞれにカーテシーとお辞儀をして一言ずつ残し、ルーミアたちが影に溶け込むように呑み込まれ、部屋から消えた。


 ……うん、それは別にいいんだけどね?

 僕としても手間が減ってくれるなら大助かりだし、ルーミアたちなら万が一なんて事もそうそうないだろうし。


「……この中から直接転移したのかい?」


「まあ、鳥居は通るだろうけどね。というか、なんか競争でもしているみたいな雰囲気だったね」


 夕飯までに、とか。

 いや、今もうお昼ご飯食べ終わったところだし、半日程度しかないんだけど。


「……やれやれ。なんていうか、大変な存在に助けられちまったもんだねぇ、あたしも。言っとくけど、あの連中と比べないでおくれよ?」


「いや、葛之葉も大妖怪なんだし、ルーミアたちと同じぐらいはできるんじゃない?」


「……勘弁しとくれ」


 心底嫌そうに呟いた葛之葉は、顰めっ面を浮かべてお茶を飲み干した。




 ともあれ、こうして僕らはこの世界の大変革を行う準備を進めていく。

 後に世界の転換点と呼ばれるダンジョン発生と、それに伴う激動の変化の時代へと向かって。


まるで第二部終わりのようですけど、もうちょっと続きます。

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