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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
世界の大変革編
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#044 西都の魔法少女 Ⅲ

 葛之葉が神域だと称していた御神薙(みなぎ)山は、どうやら当たり(・・・)だったようだ。

 御使いと名乗った少女――神楽 由舞――と、その相棒というか、指導役というか。ともあれ相棒に当たる猫又のキヨと一度別れ、明日の昼、御神薙山の中腹にあるという休憩処として地元の人に愛されているという茶屋で改めて落ち合う事になった。


 そんな訳で、僕としては今日はまだ半日近くもあるし、西都の観光をしたいなぁ、なんて思っていたのだけれど……僕は今、隔離結界の中でルイナーと向かい合っていた。


「……はあ。ホント、キミたちって空気読まないよね」


 言っても仕方ない事とは言え、ついつい口を衝いて出た愚痴に言葉を返す人はいない。

 唯一言葉を返せるはずの存在である、隔離結界を張った精霊と魔法少女は気絶してしまっていて、今にも殺されそうだったところを助けに入ったので、返事は期待できないしね。

 精霊まで気絶してしまっているし、僕以外に助けに入らなければ、きっと殺されていたところだろう。


 百足(ムカデ)型、とでも云うべきか。

 それともハサミムシ型とでも云うべきなのだろうか。

 ともあれ、大量にある足に長い胴体。


 その口が倒れた魔法少女に迫っていたので、間に入ったという状況である。


「デビュー戦にしては、些か気持ち悪い敵に当たったものだね」


 葛之葉の前ではどうにも情けない反応を見せていたし、普段は特に妖刀らしさは全くない、というのが僕の感想だったんだけれど……なるほど、これは確かに妖刀だ。目の前のルイナーを僕が敵として認識した途端、僕でさえ明確に感じ取れる殺気を放ち始めている。

 僕のぼやくような呟きにも同意を示すような素振りを見せないあたり、じゃじゃ馬っぷりが凄まじい。


 敵を斬るという事だけに意識を注いでいるかのようで、少しでも油断すれば無駄なものまで巻き込んで斬り捨ててしまいそうな、そんな力が感じられた。


 手に魔力を込めて妖刀の柄を軽くポンと叩いてあげると、妖刀の意識が少しだけこちらに向けられる。

 そのタイミングで僕も威圧混じりに魔力を高めた。


「あまり勝手をしないでね。じゃないと、砕くよ?」


 軽く威圧混じりに告げてみせると、妖刀から放たれていた殺気らしい殺気がみるみる萎んでいった。

 ちょっと我を忘れていそうだったから軽く釘を差しただけのつもりだったんだけど、効果がありすぎたらしい。

 ルイナーまで少し後ずさりしているし。


 ……いや、ルイナーに知恵も生きる本能もないはずだし、その反応はおかしいでしょ。


 ともあれ、鯉口を切って柄と鞘を掴み、妖刀を引き抜く。


 ルーミアによって、銘を『黄昏(クレス・クラム)』という大仰な名前がついたこの妖刀。

 由来はその名が示すような、黄昏時の空が燃えるような陽の赤と夜空が混じったような不思議な色合いの刃というイメージからきたそうだ。

 確かに血のような真紅というよりも、少し橙色に近い赤だし、言わんとしている事は分かる。


 ただ、妖刀なのに洋風な名前の魔剣っぽさが似合わないので、僕はそのまま『黄昏(たそがれ)』と読んでいるけれど。


 刃長百五センチ程もあろうかという長大な刃は少々引き抜くにもコツがいるけど、それはともかく。

 ともあれ、『黄昏』はその刀身を晒す。


 一息に駆け出す――その体勢のまま、向かい合うルイナーの上空へと転移して、空から真っ直ぐ襲いかかるような形を作る。

 落下と推進力で一気に距離を詰めて、そのまま長大な刃に魔力を込めて一閃すれば、百足型ルイナーが縦に両断され、その勢いのまま地面にまで亀裂を走らせる結果となったらしい。


 空中でくるりと体勢を整えながら着地して、『黄昏』を納刀させて――僕はついつい顰めっ面を浮かべた。


 無駄なものまで斬ってしまったのは、『黄昏』のせいじゃなくて僕の技量の未熟さ故だ。

 本来ならルイナーだけを斬って地面にまで斬撃を当てるつもりはなかったのに、それが制御しきれていなかったのだ。

 一応、葛之葉から基礎の基礎を学んだとは言っても、神という存在になったおかげで基礎を学べばある程度の応用が利いてこの程度で済んではいるけれど、このままじゃ使いこなせているとは言えない。


 課題は多いなぁ。

 せっかくの良い武器も、使いこなせないんじゃ意味がないし。

 計画がある程度進んだら、ちょっと本腰入れて鍛えないと。


「――桔梗ッ!」


 遠くから声が聞こえて天眼を発動すると、魔法少女が走ってくる姿が見えた。

 気絶している子の仲間だと思われる少女は、倒れたまま気絶している魔法少女を抱きかかえると、僕に向けてつり上がった眼を向けてきた。


 まぁ僕は天眼で見ているから背中を向けたままな訳だけれど。


「自分、ナニモンや!?」


 イントネーションからして関西弁、かな?

 だとするとこの自分っていうのは一人称じゃなくて二人称だろう。


「つか自分、男やろ!? なんで隔離結界の中におんねん!」


 ……なんかこう、懐かしいね、この感じ。

 最近は夕蘭とかロージアの前ではルーミア劇場のせいで僕の素性(設定)も知られつつあったし、胡散臭い存在って感じで見られてる気がするよ。


 少しロージアたちと接し過ぎて謎の第三勢力感が見えなくなってきたし、少しテコ入れしてほしい、という視聴者要望(上級神命令)があったんだよね。

 なので、初志貫徹という感じで不敵な第三者勢力感を少し増して接しておこう。


 対応方針を定めた後で、僕はくるりと振り返った。


「あんまりキャンキャン吠えない方がいいんじゃないかな? 安く見えるよ?」


「なんやと!?」


「ほら、そういうとこだよ。キミ、大型犬より小型犬がよく鳴くって知ってるかい?」


「うちは猫派や、ボケ!」


 あ、はい。そんな事、一切訊いてないけど。

 ボケって、流れるようにボケてるのはキミなんだけど。


「あまりそう噛み付かないでよ。一応そっちの子は僕が助けてあげたんだから」


「お、助けてくれたんか? すまん、焦っとった、おおきに!」


「あ、はい」


 意外と素直なんだろうか、この子。

 なんか悪人にあっさりと騙されそうな気配をヒシヒシと感じるけど。


 少し冷静になったのか、突如現れた少女は今更ながらに風化していくルイナーへと目を向けて、目を輝かせた。


 ……うん? 目を輝かせた?


「……真っ二つやん! なあなあ、それ、腰にぶら下げとる刀で斬ったん!?」


「うん、そうだけど」


「すごっ! なんや自分、さすらいの侍なん!?」


 さすらいの侍……。

 いや、そんな侍文化が現代にまで根付いている事なんてなかったはずだけど。

 え、ないよね?


《――えぇ加減にせぇよ、椿。侍っていつの時代やねん。つか侍に魔力があるなんて聞いた事ないわ》


 そんなツッコミと共に、椿と呼ばれた少女の真横に姿を現した精霊は、見た目は烏のそれそのものだった。


「お? 侍なら魔力とかあるやろ、常識的に」


《お前の常識と世間様の常識を一緒くたにすんな、アホ》


「ないんか!?」


《ないわ。って、そういう話とちゃうやろが。目の前のあんちゃんの話やろが》


「刀持っとるんやし、侍やろ? さすらいの」


《ちゃうわ。って、何回擦んねん、侍。もうえぇ加減に黙っとけ》


「ぶー、なんやクロ、感じ悪ぅ。はいはい、お口チャックしときますぅ」


 ……漫才か何かかな?

 あまりにも軽快なリズムで話がとんとんと進むから、一瞬このまま転移してこの場から去ってしまおうかと本気で悩んだよ?


《わいはクロ、こっちは椿や。んで、あんさんに助けられたんが桔梗と、あっちで伸びとる蛇の精霊がルビや。助けてくれておおきに》


「僕はルオだよ。偶然見かけただけだから気にしなくていいさ」


 烏にかくんと頭を下げられると、毛づくろいしようとしているか餌を啄もうとしているかにしか見えないんだよね。

 まぁ言わないけど。


《その喋り、央京者(おうきょうもん)やんな?》


「おーきょーもん?」


《凛央とかにおるような連中の喋りやんか、自分。この辺やったらまず聞かんわ》


 あぁ、だから央京者、ね。

 日本で言うところの東京者とか、そういう括りの表現みたいだね。


「そういうキミたちこそ、京言葉とも少し違うみたいだけど?」


《んな古い喋り方するヤツ、そうそうおらんわ。珍しいぐらいとちゃうか? なぁ、椿》


「せやな。うちの周りでもよう聞かんわ」


 となると、由舞のような京言葉っぽいあの喋り方は古い言葉に当たるんだろうか。


 まぁこの辺りはよく分からないし触れないでおこうかな。

 言葉の発祥とか由緒とか、そういう部分は僕にはあまり関係ないし、知っていても意味がないし。


「なるほどね。まあお察しの通り、凛央の方から来たのは間違いないよ」


《せやろ? で、なんで西都におるん? 観光っちゅー訳やないんやろ?》


 するするとテンポ良く会話が流れるものだから、ついつい必要以上の情報まで口にしてしまいそうになるけれど、果たしてこれは天然なのか計算なのか。

 椿っていう子は天然っぽいし、疑問を疑問として思った事を口にするって感じではあるけれど、こっちのクロって精霊はなかなかに会話が上手いタイプらしい。


 前の世界の情報屋なんかにもこういうタイプはいたから僕は気付けたけれど、少し油断したら絡め取られそうな印象だ。

 なかなか油断ならないね、この精霊。


「観光って訳じゃないけど、ちょっと用事があるんだよね」


《用事なぁ。あんさん土地勘ないんやろ? せやったらわいらが付いてって案内したっても――》


「――あまり深入りし過ぎるのは、感心しないよ?」


 僅かに魔力を込めて威圧するように告げてみせれば、椿という少女は咄嗟に桔梗という倒れた魔法少女を庇うように前に出て、クロと呼ばれた烏の精霊は翼を広げながら後方へと下がった。


《……なんや、急に怒らんといてーな》


「怒ってはいないけどね。ただ、僕はパーソナルスペースを大事にしたいタイプでね。キミみたいにそれを理解した上で踏み込もうとするタイプは、あまり好きじゃないんだ」


《……チィッ、気付いとったんかい》


「まあね。ただ、目的そのものは言えないけど、僕だって敵対したいって訳じゃない。一つだけヒントぐらいあげるよ」


《ヒント?》


「……今の内に力をつけておくといいよ。後悔したくないなら、ね」


 さっきの百足型ルイナーに負けた程度じゃ、『都市喰い』にだって勝てないだろうしね。

 その程度の魔法少女の仲間となると、あまり実力にも期待できそうにないし。


 そんな意図を含んだ忠告を短く告げて、僕はその場から転移した。


#035~041のサブタイトルだけちょっと分かりにくくなってしまっていたので編集しました。

内容的には変化はありませんが、一応報告まで。


お読みくださりありがとうございますm

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