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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
世界の大変革編
53/220

#041 蠱毒の妖刀 Ⅱ

…………寝坊した_(:3 」∠ )_





 大和連邦国は「V」の字を太くしたような島国で、中心の北部にあるのが首都となる凛央だ。

 とは言え、この凛央が大和連邦国の首都となったのは葛之葉が封じられた後、つまりこの数百年の間に起こった変化だったようで、葛之葉は凛央という名前すらピンと来ていない様子であった。


「あたしらが現界を生きていた頃の感覚で言えば、都と言えば京の国だったからね。この辺りは確かにこの島国の中心部と言えるかもしれないけれど、大したもんはなかったよ」


 日本で言うところ、どうやら凛央が東京で京の国とやらが京都、と言ったところなのだろう。

 平行世界だと言うのだから地理だって日本そのものと同じだったら良かったのに、と思わなくもないけれど、言ってもしょうがないので呑み込みつつスマホで情報を調べる。


 普通に考えれば圏外になりそうな地下深いこの場所でも普通に使えるあたり、さすがイシュトア謹製の謎神器である。


「どうやら凛央に遷都(せんと)して、まだ二百年も経っていないみたいだね。かつての京の国とやらは今は西都(さいと)と呼ばれているみたいだね」


「西都、ね。ずいぶんと変わったもんだね」


 葛之葉が遠い目をしながら地図を眺めつつ、ぽつりと呟いた。


 数百年という永い時間を封印された、か。

 僕もきっと前世の世界、または日本に今から行ったとしたら、ずいぶんと様変わりしていて同じ世界だとは思えないとか、そんな気分になるのかもしれない。

 一度は様子を見てみたいという気持ちがない訳でもないけれど、思い出のある場所なんかが様変わりしていたら、取り残されたような、寂しさみたいなものも感じられるかもしれない。


 そんな事を考えていると、葛之葉が気を取り直したのか地図の左下、凛央から南西を指した。


「京の国はここだったんだけどね、この南西にある御神薙(みなぎ)と呼ばれる山がある。この山が神域だよ」


 なかなかそれっぽい名前だなぁ。

 さすがにそこが当たり(・・・)かどうかは判らないけれど。


「ねぇ、葛之葉。この国に神を祀るような山っていくつぐらいあるの?」


「さて、どうだろうね。どんな山でも背が高けりゃ神を祀るようなのが人間だからね」


「あー……、なるほどね」


 さすが日本の平行世界、と言うべきかもしれない。

 あちこちの山であっても名も無い山の神みたいなものが祀られていたりしてもおかしくはない、か。

 そう考えると、大和連邦国で神がいる山、なんて検索したら何十、何百っていう数が引っかかってきたりするのだろうか。


 全部の山を調べようと思ったら作業感で気が遠くなりそうだよ、さすがに。


「葛之葉、キミが無事で本当に良かったよ」


「……なんだい、急に」


 訝しげな目を向けられたのは当然と言えば当然だろうけれど、僕としては生き字引きとでも言うべき葛之葉の存在は非常に有り難いのだ。

 情報が溢れすぎたこの世界で、真に迫る情報を見つける難しさというか面倒臭さというものを葛之葉はまだ知らないだろうけれど、それを省略できるのは大きい。


「それで、御神薙山に行くのかい?」


「うん、そのつもりだよ。まぁその前にまだやる事はあるけどね」


「へぇ、忙しないねぇ」


「いや、こればっかりはキミも無関係じゃないよ。外の『大源泉』の事だよ。ほら、キミを通して魔力を奪っていた訳だけれど、それがなくなった以上、魔力が溢れていく事になっちゃうからね。今の世界にいきなり魔力が溢れていくっていうのもどんな影響が出るか分からないから、ちょっと調整しておきたいんだ」


 僕がこの世界に降り立った最初の日――ロージアと夕蘭と出会ったあの時。

 隔離結界とやらの中にいた僕を、ロージアが何故か酷く心配してきた。


 あの時、彼女は魔力の影響で気持ち悪くなっていないかを妙に心配していたのだけれど、もしかしたらこの世界の人が魔力濃度の高い環境にいると、気分を悪くしたり、気絶してしまったりという症状が出るかもしれない。

 葛之葉と凛央は離れてはいるけど、謎の中毒症状みたいな騒動になっても心苦しいしね。


 となると、拡散される魔力を抑え込む必要があるんだけど――と考えて、ふと、とある事実に気が付いた。


「ねぇ、葛之葉。『大源泉』の水って増えてるはずだよね? あれって溢れて鳥居が水没したりしないの?」


 鳥居の外にある『大源泉』の湖。

 あれは簡単に言えば魔力の塊そのもので、それが水の性質を持って留まったものだ。

 湧き出る魔力が水の性質を持ったからこそ質量を得て、ああして湖という形で残っているに他ならない。

 となれば、当然それを作り続ければ水位も上がってしまうだろう。


「水没って言われてもね。あれは別に地面に設置した訳じゃないからね。常に浮かび続けるよ。というより、そもそも水位が上がったら湖が広がって、地表に溢れ出ていくだろう?」


「うん?」


 ……なんだろう、何かが噛み合っていない気がする。


 常に浮かび続けるなら確かに水没はしないけれど、ここは地下だし、いずれは天井にぶつかったら水没してしまうんじゃないだろうか。

 なのに地表に溢れていく、という表現をしているのはどうにもおかしいような気がする。


「あ……」


「なんだい?」


「えっと、葛之葉。キミ、もしかして鳥居が地上にあると思ってたりするの?」


「どういう意味だい? 当たり前じゃないか」


 ……あー、はいはい。

 なるほどね。


「……言っておくけれど、僕らがこの鳥居を見つけたのって、地下深く進んだ先だよ」


「は? なんだい、それは?」


 つまり、葛之葉にとってみれば『大源泉』は地上にあるもので、当然ながら鳥居の外には大地が広がっている、という認識な訳で、ルイナーが掘り進めた地下の奥深くに現界に繋がる鳥居があるなんて思ってもいないらしい。


「まぁ、論より証拠ってヤツかな。『大源泉』の周りなら魔素濃度も高いし、キミも外に出られるだろうし。外に出てみようか」


 説明しても埒が明かないだろうと考えて外へ出る事を提案すると、葛之葉もよく分かっていないながらも理由があるのだろうと承諾してくれた。




「かか様いた!」

「母様、おかえりなさい」


 屋敷の地下にある葛之葉のコレクションルームに施錠して階段を昇っていくと、胡狐と絽狐の二人が目を覚ましていたらしく、ゆらりと太い尻尾を揺らして耳をぴくっと動かしてからこちらを見て駆け寄ってきた。


 ――と思ったら、僕の腰に太刀緒を縛り佩いてある妖刀の姿を見て、ピタリと動きを止め、僕から距離を取るように迂回して葛之葉の腰に抱き着きつつ、警戒するように妖刀を睨みつけていた。


「怖い気配」

「いやな気配」


 ……キミたちが怖いって言うから妖刀の気配が明らかに凹んでるけど。

 感情豊かだね、妖刀。


 そんな胡狐と絽狐の二人の頭をぽふりと撫でて、葛之葉が苦笑する。


「安心しな、ふたりとも。あの妖刀はおとなしいもんさ」


「ホント?」

「ホントにホント?」


「心配しなくても大丈夫だよ。おかしな真似をする気はないみたいだからね」


 自我が確立したとは言っても力の源となっているのは(しゅ)そのものだからね。

 葛之葉を封じていた(しゅ)とは違うものではあるけれど、これはこれで確かに危険視されるのも仕方ないのは分かる。


 分かるけれども、こんなにナイーブな呪だって知ったら、どんな反応をするんだろうか。

 葛之葉に至っては薄々ながらこの妖刀の性質――つまり、ナイーブさを感じ取っているらしく、なんだか生暖かい目を向けているし。


「神様が言うなら信じる」

「神様、助けてくれるいいひと。だから信じる」


「おやまぁ、ずいぶんと懐いたもんだね」


「かか様を助けてくれたから」

「わたしたちを守ってくれたから」


「カカッ、そうかい。人間なんて死に絶えればいいって言ってたお前たちが、ねぇ」


 ねえ、待って?

 この子たち、こんな可愛らしい見た目して言うことが過激過ぎない?


「大丈夫、神様は神様」

「いい神様。人間じゃない」

「人間は嫌い。死に絶えていい」

「むしろ推奨」


「うん、キミたちは人間が嫌いだっていうのは分かったよ、ありがとう」


 もし機会があったら外に連れて行ってあげたりもしようかな、なんて考えていたけれど、この見た目でこの考え方の子を外に出すのはさすがに危なそうだなぁ。

 魔法少女とかが可愛さに惹かれて構おうとした瞬間に攻撃されたりとかしそう。


「お前たち。ちょいと外の様子を見に行くから、お客人たちを――」


「――こちらに控えておりますのでご安心を」


「っ!?」


 まったく気配もなく、まるで先程から立っていたかのように声をかけてくるアレイアに、思わずといった様子で身体を震わせた。


「……まったく気配すら感じなかったけど、どうなっているんだい?」


「メイドですので」


「……冥土、ね。暗殺か何かを生業としているのかい?」


「葛之葉、それ違う」


 割りと真剣な顔でボケるものだから、思わず僕も真顔でツッコミを入れた。

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