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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
世界の大変革編
52/220

#040 蠱毒の妖刀 Ⅰ

予約投稿したつもりが、読み直し推敲中のまま放置していたという…ね?

すみません、遅くなりました_(:3 」∠ )_




 双子の少女の名前は、白金色の髪の子が胡狐(ココ)

 黒髪の方が絽狐(ロコ)という名前らしい。

 二人は葛之葉の眷属として生まれた妖魔であったらしく、幼体のまま成体にはならないそうだ。


 食事が済んで眠ってしまった二人をルーミアとジル達に任せて、僕は葛之葉のコレクションが眠るという屋敷の奥、地下へと続く階段を連れて行ってもらっていた。


「これはまた、ずいぶんと薄暗いというか、闇が深いというか」


 地下へと続く階段を歩きながら、そんな感想が漏れた。

 一応、葛之葉が浮かべている狐火と呼ばれた火の玉が周囲を照らしているのだけれど、それでもなお仄暗く、お世辞にも見通しがいいとは言えない。


「あたしのコレクションは、どちらかというと美麗な品々というより、曰く付きの代物だったり、妖力の籠もった品々なんかが多いからね。あのちびっ子二人が触らないように、この地下は基本的に立ち入りを禁じているのさ。あの子たちは闇を怖がるし、あたしのコレクションは闇を好むからね。ちょうどいいぐらいさね」


 葛之葉が僕の前を先導するように階段を降りながら告げた内容に、なんとなく嫌な予感がする。


「……ねぇ、さっきキミ、強すぎて(・・・・)使えないって言ってたけど、それって……」


「カカッ、そういう事だね」


「……それ、俗に言う妖刀ってヤツじゃない?」


「正解さ。使い手の精神すら呑み込んで暴れるっていう、とんだじゃじゃ馬でね。ただ、あんたみたいな相当な力を持った存在が相手なら、あのじゃじゃ馬も言う事を聞くかもしれないからね。まぁ、一度見てから決めとくれよ」


「個人的な感想を言わせてもらえば、そんな呪われた品なんて使いたくないんだけど」


 一応、僕は神という立場にいる訳だし、思念の塊である怨念や呪いなんてものが何か危害を加えられるという事はないだろうけれど、呪われている品なんて進んで持っていたいとは思わないよ。

 夜中にカタカタ鳴ったり血が滴ったりしたら怖いし。

 和風ホラーの怖さだけは前世でアンデッドを相手に戦ったりしていた僕でも克服しきれない何かがあると断言しよう。


「それでも、あんたはアレを気に入るだろうと思ってね。――っと、着いたよ」


 目の前に現れたのは堅牢さを思わせる木製の大きな扉。

 妙に大きな海老錠(えびじょう)が扉の取っ手にかけられていた。


 呪いが滲み出ている、みたいな事になっている光景を想像していたけれど、隔離結界を施してあるからか、特にそれらしい気配は感じられない。


 葛之葉が海老錠に手を伸ばすと、一人でに海老錠がかちゃんと音を立てて解錠した。

 いかにも和風なそれだというのに、しっかりと魔力に反応して鍵が開閉するなんて、ちゃんとした魔道具と言える代物らしい。

 確かに今よりもよほど魔法技術が身近だったんだろうな、なんて気楽に考えていると、扉が開かれていった。


 扉を開ける事で、隔離結界が解かれて世界が繋がるらしい。

 うまく仕掛けたものだと感心したいところではあるのだけれど、僕個人としてはそんな感心どころではなく、ついつい眉間に皺が寄る。


「……これは……」


「ねぇ、葛之葉。キミが言っているじゃじゃ馬って、あの子(・・・)の事かい?」


 僕が指さしたのは、扉を開けた真正面にある台の上に置かれた刀掛に置かれた、一本の刃の長い刀である。

 ご丁寧に鞘には御札のようなものが貼られている上に、明らかにこの部屋に入った途端にあの刀から放たれる力の波動と云うべき代物が、僕らに向かって押し寄せているのが判った。


「……確かにアレの事を言っていたつもりさ。けど、なんだい、この力は……。これは……喰われた(・・・・)ってのかい……?」


「……なるほど。さしずめ、この部屋は『蠱毒の壺』だった、ってところかな」


 葛之葉が喰われた(・・・・)と表現したからこそ、とある一つの呪術に思い当たった。

 それが『蠱毒の壺』という、中国由来の蠱術、あるいは蠱道などと呼ばれる、毒性を持った虫を利用した呪術。

 それらを一つの壺の中に封じ込め、互いに喰らい合わせる事によって強力な毒を持たせるという、なかなかに趣味の悪い呪術ではあるけれど、品種改良という意味合いでみれば、ある種正しい考え方だったのかもしれない代物だ。


 中に足を踏み入れてみると、やっぱり正面に鎮座する妖刀のそれからしか力は感じられない。

 殺意というよりも、拒絶感、とでも云うべきだろうものがヒシヒシと伝わってくる。

 一方で、色々な代物が置かれているのに、それらからは何も感じられない。


 葛之葉が何を喰われたと表現したのか。

 この部屋に置いてあった数々の品に宿っていた力の源であった全てを、この妖刀が喰らったというところなのだろう。


「……まずいね……。ハッキリ言って、そこまでの代物になっちまったら、あたしにゃどうする事もできないよ」


 葛之葉が焦燥感を顕に呟くと、妖刀から放たれていた拒絶感が弱まった気がする。


 ……うん?


「ねぇ、葛之葉。『僕がキミを救った恩人であって、そんな僕の力を見込んだからこそ僕に託そうとした妖刀がアレ』なんだよね?」


「え? あ、あぁ、そうだけど、なんだい、急に」


 拒絶感がどんどん弱くなり、今なら多分何も考えずに妖刀へと近寄る事もできるだろうと思う程度に、力が弱まっているのが判った。

 むしろちょっと歓迎されるような気配まであるけど……これは……。


「やっぱり、あんな呪いの強い妖刀じゃ不服かい?」


「いや、別にそれはいいんだけどね。ただ、ほら。キミがせっかく『自分を救ってくれた相手に渡せると考えられる程の価値を持っていると評価している妖刀』を僕に渡そうとしてくれる気持ちは嬉しいんだけれど、『その妖刀があんな拒むような力を向けてくるんじゃ、さすがに葛之葉としても渡しにくいよね』って思っただけだよ」


「な、なんだい、急にそんな説明するみたいな言い方して……」


「うん、強いて言うなら確認、かな?」


 葛之葉を誤魔化しつつ妖刀に意識を向けると――うん、やっぱり妖刀からの圧が消えた。

 この妖刀、蠱毒の壺と呼べるこの空間にあったせいで力を取り込み過ぎて、外の水の球体と同じように自我を僅かながらに確立しているらしい。


 というか妖刀、キミ、葛之葉の事がずいぶんと好きみたいだね。

 さっきまで感じられた拒絶感って、もしかして「見てみて! こんなに強くなったんだ!」みたいに親を両手で押して力アピールしている子供のソレだったりとかしない?

 葛之葉に使えないと言われてショックを受けたり、僕の役に立つ事を期待されていたって言ってみる度に、なんとなくキラキラした期待に満ちた何かを向けられてる気がするんだけど、気のせいじゃないよね、これ。


 多分少し僕が力を与えれば普通に精霊化できるんだろうなぁ。

 夕蘭とかなんかよりも力の源は大きい精霊になっちゃうんじゃないだろうか。

 まぁ、それで精霊化した姿が幼女とかになろうものなら、たとえ妖刀の姿になっても思い切り振ったりできなくなりそうだし、斬る相手も選ばなきゃいけなくなりそうだし、そうなったら武器として本末転倒になるし、やらないけど。


 精神を呑み込んで暴れ回るじゃじゃ馬だって話だったのは、おそらく自我を確立しきれていない、衝動と怨念だけが表層化していた、というところだろうか。


「……やっぱり、アレは辞めた方が――って、何してるんだい!?」


 そんな事を口にする葛之葉を無視してスタスタと妖刀に歩み寄り、鞘と柄を握って持ち上げると、妖刀は拒絶する事もなく僕の手に収まった。


 刃長だけでも三尺半――およそ百五センチはありそうな太刀。反りは太刀にしては控えめらしい。

 柄頭にも兜金と猿手が拵えられていて、太刀緒もしっかりとついているし、石突金物しっかりとつけられていて、しっかりとした業物だというのが窺える。


 そもそも背の低い子供の姿である僕の腕の長さでは抜刀術なんてできなさそうだけれど、これは引き抜くのさえ苦労しそうだなぁ、なんて格好の付かない想像が脳裏を過る。


「キミはどうしたい?」


 妖刀に直接問いかけるように声をかけてみれば、意思を持ったかのように鯉口を切るかのように僅かに刀身が姿を覗かせた。


 そんな姿に葛之葉はぎょっとしたようだけれど、それ以上はやめてあげてほしい。

 ほら、今もぎょっとされて軽く凹んでしまったような空気が漂っているから。


「……なるほど、妖刀らしい色だね」


 柄を握って刀身を鞘から引き抜いていく。

 刀身の色は鋼色に赤黒い不思議な色が混じって、不思議な、魅入られそうになるような美しい色合いを生み出していた。


 中二病心がうずうずしてくるね。

 長剣と同じように扱ってしまわないように気をつけなきゃいけないだろうけれど、やっぱり刀って不思議な魅力がある。

 ちょっとこう、ポーズとか取りたくなるもの。


「葛之葉」


「な、なんだい?」


「気に入ったよ。僕、この妖刀貰っていいかな?」


 なんとなく、ここで僕が「やっぱり普通の刀でいいよ」なんて言えないしね。

 葛之葉にとっての御礼として相応しい、というのは妖刀のこの子にとっても名誉な事なのか、喜んでいるようだしね。


 葛之葉は僕の顔をじっと見つめると、若干苦笑を浮かべた僕の様子に気が付いているのか、少し気を抜くように嘆息した。


「……ま、あんたがそれがいいってんならあたしも言う事はないさ。ただし、稽古の時には気をつけとくれよ。それと本気で張り合えるような刀はさすがにあたしも持ってないからね。ぶつけただけで斬られちゃ稽古にならないよ」


「さすがにそれはないんじゃないかな。この刀が張り切り過ぎなければ、だけど」


 言下にちゃんと手加減するようにと釘を差しておきつつ鞘を叩くと、どこか不服そうな気配が返ってきた気がした。


「……訓練とか手加減には向かないかもしれないから、一応普通の刀も貰っていい?」


「あぁ、そうさね。なら、そっちにある打刀を選ぶといいよ」


 いくら同情したとは言っても、別に無理にこの妖刀を使う事もないんだよね。

 そんな事を考えながら太刀緒を腰に巻き付けつつ、打刀を幾つか見せてもらってから、ようやく本題――つまり、神に繋がるという神域について話を聞かせてもらう事になった。

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