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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
世界の大変革編
46/220

#034 プロローグ

お待たせしました。

新章スタートします。





 先日の騒動――連邦軍の一部の暴走によって始まった、葛之葉奪還作戦。

 その最中に確かに感じ取れた豊富な魔素を感じ取れた大きな穴の中を、僕とルーミアは進んでいた。


 あの時、確かに僕が感じ取ったこの大穴の続く先にあるであろう、魔素を生み出す巨大な『大源泉』。

 そして、邪神の軍勢であるルイナーがこの世界へと渡ってくるための、世界と世界を繋いでしまう『穴』があると感じ取れた大穴だ。


 光すら届かない深い深い洞窟とでも呼ぶべき闇の中を、光球を頭上に浮かべて、奥へと歩みを進める。


 歩きながら周囲に目を向ければ、黒い何かでコーティングされているような、妙に光沢を帯びている真っ黒な床と壁面が広がる。

 まるでコンクリートで舗装されているような感触を足の裏へと返してくるし、少し手でも触れてみたけれど、やっぱり意図的に舗装されているように感じられる。


「どうしたの、ルオ?」


「……色々と腑に落ちないというか、理解できない事が多くて、ね」


 この大穴はまず間違いなく、『都市喰い』と呼ばれていた蠕虫型ルイナーが作ったものだ。

 けれど、こうして掘った穴をルイナーが加工して、わざわざ舗装するような真似をするというケースは見た事がない。

 実際、この大穴に来る前にルイナーが掘っていた穴を覗き込んだ時は、ただただむき出しの壁面を踏み固めたような形になっているだけで、こんな黒光りするようなコーティングはされていなかった。


 その狙い、意図が何かを考え込むように思考を巡らせていると、ルーミアが僕の顔を覗き込むように腰を屈めて顔を近づけてきた。


 背の低い子供の僕とルーミアとでは身長差があるのは当然だ。

 決して僕が小さすぎるという訳ではない。

 大丈夫、まだ可能性はある。


 だからルーミア、ちょっと離れてくれない?

 近すぎて屈んでいると丸わかりなのは僕の心の中の何かが傷つくから。


「ルーミアはルイナーについて詳しくないんだよね?」


「えぇ、そうね。私からすれば魔物崩れ、という印象かしら。魔力障壁はあるけれど魔法攻撃も大して強くないし、知恵もないんだもの。戦っていても面白くないわ」


「まぁ、そうだろうね。この世界に現れるルイナーだけを見たら、正直に言えば脅威でもなんでもない。でも、こんな雑兵程度のルイナーでも、この世界の人間から見たら強敵だ」


「魔法技術どころか魔素すら薄すぎる世界だもの、しょうがないとは思うけれど、歯ごたえがなさ過ぎるのも考えものね。でも、あなたの言った通りね、ルオ。ここは当たり(・・・)よ」


 どこか心地良さそうに真紅の目を細めるルーミアの一言は、いつもよりもどこか弾んでいるような、嬉しさを滲ませたものだった。


 というのも、この魔素の薄い世界へと僕に召喚されて以来、こうも濃密に魔素が溢れている感覚を味わうのは久しぶりだからね。

 半精霊という特質を持つ夜魔の民である彼女にとっては、久々に心地良い環境にやってきた、という感想が強いのだろう。


「どんどん魔素が濃くなっているからね。間違いなくこの道が『大源泉』に繋がっているみたいだ」


「『大源泉』ね。私たちの世界では精霊の住処になっている事が多かったけれど、こちらではどうかしら?」


 ルーミアの言う通り、前世の世界では『大源泉』は精霊の住処となりやすい場所だった。

 濃厚な魔素が満たした、一種の別空間が生まれている『大源泉』。

 そこは魔力の塊とでも言うべき精霊にとって非常に快適な環境であり、生まれやすい環境でもあったからだ。


「さすがに向こうの世界と違って、純精霊はいないだろうね。いたとしても、僕やキミたちの誰かが契約して魔力を供給してあげないと、この世界じゃ魔素が薄すぎて生きていけないだろうし。生まれない方がいいよ」


「それもそうね……。実際、半精霊である私たちだって、あなたとの契約がなかったら魔素が薄すぎてこの世界では生きていけないもの」


 魔素を吸収して生きるという精霊の性質上、この世界は魔素が薄すぎる。

 分かりやすく人間で言えば、酸素が薄い世界で生きろと言われるようなものだ。

 そんな世界で生まれてしまって、『大源泉』の中でしか生きられないなんて、籠の中の鳥よりも窮屈な暮らしだろう。


「ところで、ルオ」


「うん?」


「ルイナーが邪神の軍勢だというのはあなたから聞いていたけれど、実際に邪神って何者なの?」


「あれ、言ってなかったっけ?」


「聞いてないわね。私の中での邪神のイメージは、元々神だった存在が堕ちてしまった事で邪神として扱われるっていうイメージだけれど、そういうものではないの?」


「あー、一般的に邪神って言われるとそういうイメージを抱くかもしれないね。でも、邪神っていうのはそういう存在じゃないんだ。アレはいわば、『世界の残滓(・・・・・)』らしい」


 邪神と言われて僕も最初はルーミアと同じような存在を想像したけれど、実際のところは違う。


「邪神は、滅んだ世界とその世界で生きていた者たちの無念、悔恨、怨念といったものが集まり、凝縮し、負の方向に膨れ上がった力の塊とでも呼ぶべき代物。世界と世界の境界を食い破れる程の膨大な力を持った怨念の塊とでも言うべき存在、それが邪神と称されるものだよ」


「……それって、まるで精霊王に近いじゃない」


「力が凝縮した頂点、という意味では確かにそうだろうね。もっとも、マイナス方向に吹っ切れる精霊王なんて生まれたりはしないし、普通なら有り得ない存在でしかないけれども」


 前世、シオン(勇者)ルメリア(聖女)との旅をする際にイシュトアから邪神がどういう存在なのかを聞かされた時、僕も似たような感想を抱いたものだ。


 精霊王もまた、司る属性の力の塊だ。

 精霊信仰の強い夜魔の民であるルーミアにとって、その最たる存在の精霊王と邪神が近い性質を持つ存在であると聞いて不愉快そうに顔を(しか)めてから、嘆息した。


「まったく、不愉快な存在ね」


「精霊王と比べたら、精霊王が可哀想だよ。僕から見れば怨念の塊だ。負魔霊(レイス)不死王(ノーライフ・キング)と言われた方が納得できるしね」


「あぁ、なるほど。どちらもさっさと処分しないと面倒ね」


 僕の表現がしっくりと来たのか、ルーミアも納得したらしく、表情をようやく戻してくれた。

 さすがに不愉快そうな顔や態度でずっと一緒にいられるのも居心地は悪いし、僕としても機嫌を直してくれて良かったよ。


「不愉快な話題はそこまでとして、世界の『穴』とやらは塞ぐ事ができるの?」


「僕自身の力で、という意味なら不可能だね。上級神が時間をかければ、というところだよ。もっとも、今は塞ぐつもりはないらしいし、僕も賛成ではあるけどね」


「あら、そうなの?」


「邪神の標的が絞れている方が対策が打てるっていうのもあるし、この世界には僕がいるからね。結局のところ、世界の『穴』を塞ぐっていうのは対症療法でしかないし、邪神が次の標的をどこにするかも分からないからね」


 結局のところ、『アンチヒーロー的なポジションで魔法少女に世界を救わせる』という僕の仕事は、あくまでも表向きの理由と言える。

 イシュトアとしてもそちらが最優先課題ではあると考えているけれど、あわよくば原因を直接叩きたい、というのが本音なのだそうだ。


「もっとも、僕はこれからも常に第三勢力であり続けるよ。場合によっては、僕が魔法少女と戦う場面も出てくるだろうね」


 そんな一言を告げたところで、僕らはようやく開けたところへと辿り着いたらしく、青い光が見えてきて、僕らは言葉を交わす事もなく小走りにそちらへと向かった。


「――……綺麗ね」


 真っ直ぐ進んだ先から見下ろすような位置。

 円柱状に広がった巨大な空間には、青い光を放つ巨大な湖が広がっていて、ゆらゆらと光が揺らめいて周辺を照らしていた。

 青く光る水は不思議と自らの意思を持つかのようにゆらゆらと揺蕩いながら、水滴を思わせる丸い球体となった水がふよふよとその周りを浮かんで浮遊しては、分裂と合体を繰り返していたりと、なかなかに幻想的な光景が広がっている。


 これは前世の魔素溜まりなんかでも目にした事がある。

 火山の火口で炎が龍の形を象ってゆらゆらと泳いでいたりといったものもあったけれど、ここはどうやら水の性質を強く持っているらしい。


 思わずといった様子で呟くルーミアとは対照的に、僕はその湖の中心にぽつりと立っている、とある物に目を向けていた。


「……あれは、鳥居……?」


 前世で何度も見たそれと同じような、朱色の鳥居。

 この場所からではぽつんと立っているように見えるけれど、それなりの大きさをしているらしいその存在は、何者かがここに何かを施した事を雄弁と物語っていた。


「降りようか」


「えぇ」


 僕らは飛翔魔法を使って湖のほとりへと向かって飛び降りた。

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