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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
大和連邦国編
34/220

#028 葛之葉奪還作戦 Ⅷ

 ロージアと夕蘭の二人を連れて僕が転移魔法で飛んだ先は、結界の中心地でもあり、『都市喰い』が出現したポイントを見下ろせる廃ビルの上だ。


 地面を食い破って出てきた『都市喰い』の開けた大穴の向こう側。

 そこから感じられる、多数の魔力の反応がどうしても気になっていたため、先にこちらに寄らせてもらったのである。


 ――やっぱりか。

 この場所はよりにもよって大きめの『穴』になっているみたいだ。


「あれが『都市喰い』が食い破って出てきた跡、という訳じゃな。凄まじい大きさじゃな、この穴は」


「五十メートルぐらいはある、かな……?」


「うん、そうだね」


 物理的に見えている穴を指して呟く夕蘭とは対照的に、僕は違う『穴』を()ているのだけれど、内容としては一致しているので僕も肯定を返しておいた。


 僕が指している『穴』とは、つまりルイナーと呼ばれている邪神の軍勢がこの世界に侵略する為に空けたもの。

 言うなれば『世界の境界』とでも呼ぶべき場所に開かれてしまっている『穴』だ。


 しかもよりにもよって、この場所は『大源泉』――魔力を大量に生み出し、放出する源泉と言えるような場所であるらしい。

 目の前にある穴の奥からは前世の世界の魔力溜まりと呼ばれるような場所と同程度に魔力が湧き出ている。


 ルイナーが空けた侵略用の穴のせいで、『大源泉』が開かれた?

 だとしたら、元々ここには『大源泉』があって、それを何者かが封印でもしていたという可能性もあるけれど、果たして魔法文明の進んでいないこんな世界で、そんな事ができるだろうか。

 偶然に生み出された、と考えた方が自然なのかもしれないけれど、どうにもこの世界にはまだ僕の知らない何かがある気がする。


 何にせよ、これなら僕の計画(・・・・)を進める上での問題は解決すると言えるし、悪くはない。

 今はロージアや夕蘭に教えてあげる必要もないだろう。


 ――と、そんな事を考えていると、巨大な穴の中から複数の魔力反応を感じ取った。


「夕蘭、ロージア。もう一度飛ぶよ」


「ん? わかった」


「はいっ!」


 再び転移魔法を発動して距離を稼ぐと、ちょうど大穴の中から『都市喰い』と呼ばれていたミルワーム型のルイナーが大量に出てきて、地上に次々と姿を見せてきた。


 ……えぇ……、気持ちわる……。

 黒い表皮に赤い線が入っていて虫らしさがないのは救いかもしれない。

 あれで見た目が虫そのものというか、もっとこう生物らしい色合いだったりしたら、きっと僕はあまりの気持ち悪さに発狂してこの周辺一帯を全て灰塵としていただろう。


 前世でもあの手のタイプはなかなかに数がいた。

 身体も無駄に大きくて数ばかりいるけれど、知恵のないルイナーである以上そこまで脅威という訳では――


「な……、なんという、ことじゃ……」


「あ、あれ、全部が……『都市喰い』……?」


 ――……あー、うん。こっちの世界のルイナーを基準にしたら、そうなっちゃうかぁ……。

 二人して顔を青褪めさせている事に気が付いて、僕は考えを改めた。


 実際、この世界に来ているルイナーは弱すぎるのだ。

 先日の鯨型ルイナーだって、ルーミアみたいに観賞用ペット程度の認識だと言うのはちょっと行き過ぎではあるものの、冒険者であれば「何あれ邪魔」ぐらいの感覚で狩られるだけだろう。

 そもそも町に展開している結界すら破れそうになかったし。

 前世で『都市喰い』なんて、いっそドラゴンとかの竜種でもなければ不釣り合いな名前だしね。


 ともあれ、さすがにあの数は難しそうだし、すでに動いているはぐれた方の相手をしてもらおうかな。


「あの大群は僕がやるよ。キミ達にやってもらうのは、はぐれたヤツを相手にしてもらえばいいさ」


「……おぬしは、あの数をやれると言うのか?」


「まぁ、あれぐらいはね。野放しにしてあっちこっち行かれてしまうのも面倒は面倒だし、穴の周辺に集まっている今の内にやってしまった方がいいかな。二人はここで見てるといいよ」


 パチンと指を鳴らして二人に結界を施してから、飛翔魔法を使って上空へと飛んだ。


 あの程度のルイナーなら第七階梯程度の攻撃魔法でも充分に通用するにはするだろうし、そこまで力を入れる必要もないんじゃないかなぁ――なんて、そんな事を思いながら両手を突き出して魔法を構築しようとした、その時だった。


 何がしたいのか分からないけれど、『都市喰い』の群れが巨体をぐねぐねとぶつけ合いながら、密集し始めたのである。


 ――あ、無理。気持ち悪い。


「――闇を貫く一条の光 終焉を齎す災禍を焼き払う浄化の炎 遍く万象もろとも災禍を薙ぎ払え」


 詠唱を口ずさんで魔力を流し込み、眼の前に魔法陣を構築していく。

 雷と炎の合成魔法、第十階梯魔法【粛清の光炎(ブルク・レデュア)】という、前世の僕が使えた中でも最強の魔法の一つ。


 かつてはこれを使う為に数分間は魔法陣を構築する為に身動きも、考え事もできない程に集中しなくてはならなかったはずの魔法だ。

 けれど、やっぱり神となった今の僕には簡単だと思えてしまう程度には、短い詠唱だけで構築を完了させる事ができそうだ。

 なんとなく釈然としないものを覚えてガッカリしてしまう。


 ――だから、だろう。

 ちょっと余裕が生まれてしまったせいで、『都市喰い』の塊みたいな何かを見てしまい、嫌悪感が増してしまった。


 うん、ホント無理。

 ああいう虫が蠢いているような姿を見るとか、ホント無理。


 そんな事を考えてしまったせいで、必要以上に魔力が魔法に注ぎ込まれてしまった。


「あ、ヤバ……――【発動(エッシェン)】!」


 暴発しかけている魔法を無理やり発動させて放つと、想定していた光の大きさの五倍程度まで膨れ上がった光が発射された。

 その反動は凄まじく、狙いが僅かに外れてしまった事に気が付いて慌てて向きを戻すと、必然的に光条はルイナーの集団だけではなく、その周辺さえも薙ぎ払うように光を走らせた。


 刹那、静寂が訪れる中で凄まじい魔力が高まってきた。


 ――マズいッ!

 慌てて光条が走った範囲に結界を追加で張ってドーム状に囲ったところで、炎の柱が勢いよく大地から噴き上がり、結界の中を炎が埋め尽くす。

 炎は踊るように結界の中を縦横無尽に暴れ回っているようで、バリバリとスパーク光が走る姿が見えた。


 ……あぶな……。

 あれ結界張らなかったらどれだけ広がったか予測できないよ……。

 やっぱり魔法はダメかもしれない。


 そもそも僕、攻撃系の魔法は苦手だった(・・・・・)んだよね。

 前世では、僕自身の魔力量は少なく、その一方で魔法構成力、魔力操作には自信はあった。

 そんな背景から、少ない魔力量を無理に攻撃に回すよりも魔眼とサポートをメインに回していたぐらいだ。

 せいぜい大量に弱い敵がいる時とかに数を減らす目的で使うか、牽制や陽動でしか攻撃魔法を使う機会なんてなかったのだ。

 魔女であった師匠の影響で無駄に魔法を合成したりとか作ったりとかしてたからか、よく魔法がメインの人だと思われていたりもしたけれども、本職はそっちじゃないし。


 神なんていう存在になったから、つい魔力量が多くて魔法に頼っていたけれども……うん、この有様である。

 詰まるところ、そもそも力が大きくなり過ぎていて加減ができないのだ。

 ちょっと集中力が欠けるとこれだもの。


 なんとも言えない失敗をした気分だけを抱えつつ、とりあえずロージアと夕蘭の近くに空から降りて行くと、二人して僕には見向きもせず、未だに僕が張った結界の中を埋め尽くす炎を見つめて固まっていた。


 ……どうしよう、なんて声かけよう。

 明らかにやり過ぎた感があるし、かと言って何食わぬ顔しているとちょっと怖がられそうだし、素直に失敗したって言っておこうかな。


「あはは、失敗したよ。あまりの気持ち悪さに嫌悪感があったせいか、つい魔力を込めすぎちゃったみたいだ」


「……そ、そうか……」


「き、気持ち悪いだけ、で……」


 …………違う、そうじゃない。

 おかしい、どうしてこんな言い回しを選択してしまったんだろう、僕は。

 僕としてはこう、「本当はそんなに強い魔法を放つつもりはなかったんだよ、不慮の事故だったんだよ」ってニュアンスを伝えたかったのに。


 まるでこれじゃ、僕が気持ち悪いという理由だけで凄まじい魔法を放って全滅させた危険人物じゃないか……!

 あながち間違ってはいないけど、故意か事故かで印象は全然違うよ……!


「安心するといいよ。さすがにあんな力を人に向かって使ったりしないし、別に世界を滅ぼそうとか征服しようとか、そんな事には興味もないし、考えてもいないからね」


「……そうじゃろうな。おぬしがそのような目的の為に動いているようには見えぬ」


「……あ、あはは……。できないとは言わないんだ……」


 ねぇ、待って、ロージア?

 キミの今のぼそっと呟いた一言、聞こえてるからね?

 そういう意図で言ってる訳じゃないんだけど?


 というか、さっきからどうにも言葉のチョイスがおかしな方向に誤解を招くものばかりになっているんだけど……と考えて、思い至った。


 ――そういえばこれ、ルーミアの契約介入のせいだ……!

 ルーミアが契約に介入したせいで、僕が設定された態度に似つかわしくない言葉を口にしようとすると、強制的に生意気キャラに似合う言い回しにされるのだ。

 ここ数ヶ月は『暁星(スティラ)』の面々としか会っていなかったし、意図的にそう振る舞っている事の方が多かったから頭から抜け落ちていたらしい。


 ……うん、体裁を取り繕おうとするのは無理だね。

 諦めよう。


 でもこの惨状、軍の人達には僕の力を見られてしまっているだろうなぁ。

 ドローンとか飛んでたはずだし……。

 後でちょっと釘を差しておかなくちゃ。


 気持ちを切り替えて指を鳴らし、『都市喰い』を燃やし尽くしていた炎と結界を消した。


「――さて、無駄に多かった『都市喰い』は僕の方で処分したけれど、はぐれている『都市喰い』はまだいるんだ。そっちはさっきも言った通り、キミ達にやってもらうよ」


 まるで何事もなかったかのように振る舞ってみせると、二人も一瞬「そう言えばそうだった」みたいな顔をしてから、気持ちを切り替えて頷いてみせた。


「今の僕の魔力に反応してこちらに進路を変えているようだし、ちょうどいい。あそこで戦ってもらおうかな」


 僕が指さした先にあるのは、近くにある大きな公園だ。

 さすがにビルなんかが近くにあったら戦いにくいだろうし、崩れてきたりしたらそちらに気を取られて戦いの邪魔になりかねない。

 ルイナーの進行方向としても悪くはないし、ちょうどいい。


 二人を連れて再び転移魔法を発動させると、前方から『都市喰い』が凄まじい速度でこちらに向かってきているらしい事が魔力の近づき方で判る。


 夕蘭とロージアの二人もそれを感じ取ったのか、身構えて前方を睨みつけた。


 一見すれば人のいない長閑な公園の風景だけれど、鳥の囀りさえも聞こえない奇妙な静けさ。

 それを打ち破るように響いてくる地響きが、徐々に強くなってきている事も相まって、少しずつ夕蘭とロージアの緊張が増している事が窺える。


 いや、緊張というよりも、萎縮していると言うべきだろうか。

 どうにも表情が強張って見える。


「夕蘭、ロージア」


「む……?」


「へ? あ、はいっ」


「そう固くならなくても、魔力の密度を調整できるようになったキミ達なら、勝てない相手じゃないよ。まだ数ヶ月程度しか経っていないし、キミ達の実力じゃまだまだ楽勝とはいかないだろうけれど、僕はキミ達に期待している(・・・・・・)


 唯希と同世代の魔法少女に比べて、ロージアの世代の方が魔力の保有量が大きい事は確かだ。

 これは(ひとえ)に、魔力が存在している環境で身体を育成してきた年代によって順応率が異なっている、とでも言うべきものだと思う。


 しかし一方で、この順応は精霊と契約している者ほど早く、逆に『暁星(スティラ)』で保護している黒人の少年、コニーはそうでもなかった。

 魔法少女と精霊の契約によって、魔力への適応力が跳ね上がると同時に、その期間が長ければ長いほど、その順応値とでも言うべきものは高くなっているのではないか。

 ジュリーが唯希とコニー、それにリグレッドを通して幾つものパターンから魔力を計測した結果、そんな仮説が立った。


 詳細な数値の違いなんかについては僕には理解できないけれど、単純にロージアは他の同年代の魔法少女たちに比べて、群を抜いて保有魔力量が多い。

 それはつまり、より強い魔法を使う事ができるようになる可能性が高く、セーブすれば継戦能力を伸ばす事もできるということ。


 詰まるところ、彼女は僕が見てきた魔法少女の中で、ポテンシャルだけなら群を抜いていると言えた。


「さっきの僕の魔法が凄まじいと、キミ達はそれだけしか感じなかったのかい? 追いついてやろうと、超えてやろうとは思わないかい? 悔しいとは感じなかったのかい?」


 煽るように声をかけてみせれば、先程の僕の魔法や、迫る『都市喰い』への萎縮からか顔を強張らせていたはずの二人は僅かにキョトンとした表情を浮かべてみせた。


「……ふ、ククッ。ありきたりな煽り文句とは言え、こうして向けられてみれば、存外腹立たしいものじゃな。そうであろう、ロージアよ」


「……わ、私は腹立たしいって思ったりはしなかったけど……。でも……、うん。ルオくんぐらいの力があったら、きっと、もう私みたいな想いをする人はいなくなるかもって、そう思ったよ」


 ……僕、ルオくんって呼ばれてたんだなぁ。

 ちょっと耳慣れない呼び名に苦笑しそうになる。


「良かろう。乗せられてやろうではないか。『都市喰い』なんぞ、妾とロージアの敵ではないわ。見ておれ」


「へぇ、そこまで言うなら手出しはいらないかな?」


 ………………。


「……そ、それとこれとは別の話じゃろう?」


「え、えっと、さすがに危ない時は助けてくれると……」


 ……しまらないなぁ。


 そんな事を話している内に、『都市喰い』が公園の中へと入ってきた事を知覚した。


「――さぁ、来るよ」

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