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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
大和連邦国編
3/220

#003 平行世界と魔法少女 Ⅰ

「――ここは……」


 イシュトアに半ば強引に送り出される事になり、光に包まれた。


 光が落ち着いて目を明け、目の当たりにした光景に思わず懐かしさが込み上がり、同時に違和感を覚えた。

 どうやら送り込まれた先はオフィス街の、さらに道路のど真ん中だったようだが、道路を走る車も見当たらなければ立ち並ぶビルにも人の気配らしい気配がまったく感じられない。


 魔眼の【天眼】――俯瞰的に周辺を探る魔眼の一種――を使おうか、と考えると同時に魔眼が発動した。

 唐突に切り替わった視界に僅かに困惑しつつ、手のひらを上に向けて火を――と念じてみれば、意識した通りに炎が生み出された。


 どうやら能力はずいぶんと強力になったというか、便利になったようだ。


 単純に考えれば「強くなったんだな」と喜べるところではあるのかもしれないけれど、前世で魔女に鍛えられ、何度も死線を潜り抜けてきた結果として辿り着いた魔眼の強化と魔法詠唱の簡略化だったので、こうもあっさりとそれ以上の力を手に入れるとなると少なからず複雑な感情も生まれる。


 それに何より……想像していた以上の出力のせいで、片手間程度に制御できていたはずの魔法さえ、いつ爆発してもおかしくないような危うさがあった。


 炎を消して――ふと、自分の手を見て違和感を覚えた。


「……なんか、妙に手が綺麗なような……って、まさか……」


 慌てて周囲を見回し、近くにあったビルのショーウィンドウに駆け寄る。

 そうしてガラスに映った自分の姿に、思わず固まった。


「……えー、何これ……」


 ガラスに映ったのは、およそ十歳前後といった子供。

 作り物めいた整った顔に、おそらくは白に近い銀髪と、濃い藍色を思わせる瞳はイシュトアのドレスの色に酷似していた。


 肉体が変わるとは聞いていたよ。けれど、まさか子供の、それもこんな整った顔だなんて一言も聞いていない。あまりにも顔が整い過ぎていると作り物めいた何かに見えるぐらいだ。

 平凡な顔にしてくれた方が埋没して印象が薄れて色々と都合が良いのに、これじゃ目立ってしょうがないじゃないか。


 ついつい顔を顰めた表情でさえ整って見えるというのは、もはや呪いか何かじゃないだろうか。


「……あー、違和感がすごい……。まさかまた子供になるなんて……」


 こちとら日本で十七年、異世界で二十二年生きてきたのだ。

 日本で死んでしまって一度は子供に戻った事がある身としては大人になって嬉しいという感覚の方が強かった。


 まぁ、前前世で大きくなれなかった身長は前世でも相変わらずだった。

 背が低く、大人になっても子供のように扱われたりしたけれど、前世では背の小さい種族もいたからそこまで気にはならなかったものだけれども。


 でも、今回は……なんだろう、比較対象がないから明言できかねるけれど、また身長が低い、ような……いや、やめよう。


 そんな事を考えていると、突然ポケットから音楽が鳴り、何事かとポケットを探ってみれば、そこにはスマホとまったく同じ見た目をした何かが入っていた。


 液晶画面にはご丁寧に――「着信 女神さま」と表示されている。

 あー、うん。イシュトアだろうね。


《あ、もしもーし?》


「イシュトア……よりにもよって子供の姿にしたね……!?」


《こっちも今見ているけれど、それは私のせいじゃないわよ?》


「え?」


《あなたは現人神となった。現人神としての姿や見た目はあなた自身の力によって形成され、固定されるの。本来なら銅像とかもあるんだし、エルトとしての見た目になるはずだったけれど、あなたは魔王の封印の中で私の力を受け取っていたから、あなた自身が無自覚に私の力に適合しようと変質し、そういう方向に魂が変質していったのね。結果、肉体もそういう姿になったという訳よ。いくら私でも、上級神なみの力を持った存在の器なんてそう簡単には作れないもの》


「……えぇー、なにそれ……」


 イシュトアのイタズラかと思っていたが、どうやら違ったらしい。


「せめて変身とかできたりしない? こう、大人に」


《できなくはないけどオススメはしないわね》


「なんで?」


《さっきも言ったけれど、あなたの身体はあなたの力に適したものなの。まだまだその器に定着しきってもいないあなたが器の形を変えようとすれば、力が暴走する可能性が高いわ》


「力が暴走?」


《そうね。あなたに分かりやすく言うと、最低で周囲二十キロぐらいが跡形もなく消し飛ぶでしょうね》


「いやいや……、え、本気で?」


《少なく見積もって、よ》


「そっかー……」


 いくら大人の姿になりたいとは言っても、さすがにそれは許容できない。


《アンチヒーローになるんだもの、せっかくだったら『すごい実力があるけど何が目的か分からない不敵な余裕を持った生意気キャラ』になりましょう!》


「なまいきキャラ」


《ほら、あなたは一人称を僕って言ってるし、その見た目で現人神な訳だしね。常に余裕を持った小馬鹿にしたような子供キャラって強敵キャラっぽくていいと思うわ!》


「……ちなみにそのキャラとかアンチヒーローとか、どこから情報を得て決めたのか聞いてもいい?」


《あなたのいた日本のマンガとラノベよ! いいわね、あなたがいた世界って。色々なアイデアが豊富だったから楽しかったわ。もし大人だったら影のある男風になってほしかったけど、その見た目なら『すごい実力があるけど何が目的か分からない不敵な余裕を持った生意気キャラ』っていう設定が一番だと思うの!》


「なんとなく言いたい事は分かるけど、力説が過ぎる」


 推し設定か何かなのかな、ってぐらいの圧を感じるよ。

 推し語りする人みたいになってる。


《そういう訳で、設定はそういう方向でやってもらえる? 「まったく、キミ達は手がかかるね。しょうがないから今回は助けてあげるよ」とか生意気な感じで言いながら絶体絶命のピンチを救ったりするのが見たいわ!》


「……イシュトア? ずいぶんと楽しそうだね……?」


《楽しいわ! あ、そのスマホは支給品ね。不壊が付与されているし、通話料とかもかからないから使ってていいからね! じゃ、頑張って!》


「あ……っ、切られた……」


 とりあえず登録されているイシュトアの名前を変更して、と。

 はぁ……ついつい深い溜息が零れた。


「んん……っ、あー、あー。……まったく、キミ達は手がかかるね。しょうがないから今回は助けてあげるよ……うん。似合い過ぎてて違和感ないのが逆にキツい……」


 イシュトアに言われた「すごい実力があるけど何が目的か分からない不敵な余裕を持った生意気キャラ」とやらを意識して、どこか嘲るようにキャラを作ってみてガラスに向かって不敵な笑みを浮かべてから呟いてみれば、確かに物言いや態度が似合っている。

 なんだかひどく中二病を患った気がして精神的な苦痛さえなければ、イシュトアの言う通り似合っているよ、こんちくせう。


 そんな事を実感して項垂れていると、不意に何者かがこちらに近づいてきた。

 何者かと【天眼】を通して見れば、ビルからビルを跳んで渡ってきたらしい何者かがガラスに顔を向けたままのこちらの背後になる位置へと降り立った。


 え、僕に用事なのか?

 というか僕どうすればいいんだ、イシュトアの言うキャラでいくしかないのか……?


「――やあ、僕に何か用かな?」


 ……我ながら演技している感に表情が引きつりそう。

 なんとか誤魔化して振り返ると、そこに立っていたのは――妙にフリフリとした意匠が目立つ赤を基調とした、まるで魔法少女か何かのコスプレでもしているかのような少女だった。


 ……えー、なぁにこれぇ……。

 これがビルからビルへと飛び移り、屋上から飛び降りてきたの?


 コスプレ少女は何故かこちらを見ており、しかも何故か、何か信じられないものでも見るかのような目をこちらに向けて、震えた指をこちらに向けていた。


 いや、信じ難いものを見るという意味なら、むしろこっちがそうしたいぐらいだよ?

 誰もいないはずの夜の街に、突然魔法少女っぽいコスプレに身を包んだ少女がビルからビルへと飛び移り、飛び降りてくるのだから。


「……えっ、あの、えーっと、お、男の子、ですか……?」


「……そうだけれど。キミは一体何者だい?」


「え……えええぇぇぇっ!? なんで!? なんで結界の中に男の人がいるの!?」


 唐突に叫びだすコスプレ少女。

 なるほど、結界という事はここは何かしらの結界の中であり、本来ならば人がいないはずのものであり、かつ男が街にいる事そのものがイレギュラーである、という事らしい。


 道理で周辺に人の気配が一切ない訳だ。

 けど、何故こんなに驚く必要があるんだろうか。

 男なんだから夜に出歩いていてもおかしくはない……いや、見た目十歳程の今の僕が夜に一人で出歩いているという意味では問題ではあるかもしれないけど、それを言ったら僕の目の前にいるこの子なんて、夜にコスプレして出歩いている少女じゃないか。

 僕の方が健全だよ、うん。


「あ、あなた大丈夫なの!? 魔力のせいで気持ち悪くなったりしてない!? は、早く結界の外に連れて行かないと――」


「――待つのだ、ロージア。この小童は何かがおかしい」


 ふとその場に響くような少女特有の声の高さと、それに似つかわしくないどこか老獪さを漂わせた声。

 同時に魔力が集まっていく気配を感じ取り、そちらに視線を向ければ、一人の少女が中空に浮かぶように現れた。


 ――精霊だ。

 見た目は少女のそれだが、精霊は見た目に左右される存在ではない。

 人型になれるという事は、ある程度は成熟しているという証左でもある。


夕蘭(ゆらん)様……?」


「気を引き締めよ、ロージア。この小童、得体が知れぬ。そも、男でありながら魔力を有し、かつルイナー以上の魔力すら感じる。ハッキリ言って有り得ぬ存在じゃ」


 ルイナー、ね。

 聞き覚えのない存在だけれど、一体何を指しているのやら。

 あまり深く聞き出そうとすれば怪しまれかねないし……さて、どうしたものか。

 ダークヒーローを装おうにも事前知識がないんじゃ立ち振る舞いを確定させるのも難しい。


 ……まぁ、喋り方やキャラ付けはこれでいいとして、だ。

 見た目としても違和感はないのだから、きっと変な目で見られる事はない……と思いたい。


 少し情報を探るしかない、かな。


「そう警戒しないでくれてもいいよ。少なくとも、今はキミ達と敵対するつもりはないからね」


「今は、じゃと?」


「そう、だね……。僕の邪魔をしないのであれば構わないさ」


「貴様、何か企んでおるのか? 一体何者じゃ? よもやルイナー共の仲間だと言うまいな?」


「……誰が、あんなものの仲間だって……?」


 威圧。魔力を暴れさせ、殺意にも似た強烈な敵意を魔力に乗せて叩きつける。

 そうした途端に、二人の顔が驚愕に染まり、苦しげに歪んだと思えば、アスファルトにはヒビが入り、近くの建物のガラスが一斉に砕けた。


 ――えぇ……、なにこれ……?

 こんな状況を生み出しておいてなんだが、威圧程度にこんな状況が生まれた事に一番驚いているのは間違いなくこちらであった。


 正直ルイナーとやらが何を指しているのかが判らなかったけれど、とりあえずこの二人の敵らしい事は想像がついたため、否定し、敵でも味方でもないポジションを確立しようとしただけであり、その真実味を持たせるために威圧してみたのだけど……どうやら現人神とやらになった結果、想定以上の力を発揮してしまったらしい。


 慌てて、けれど表情には出さずに威圧を解いた。


「――はぁっ、はぁ……っ! なんという力じゃ……」


「いやぁ、ごめんよ。ルイナーの味方だなんて言うものだから、ついね。悪気はなかったんだけど、ね」


「……いや、あのような異形の化け物共と同類として扱われては怒るのも無理はなかろう。妾の失言であった。すまぬ」


「いやいや、誤解が解けたなら何よりだよ」


 異形の化け物、ね。

 なるほど、どうやら邪神の軍勢をルイナーと呼んでいる、という方向で間違いはない、かな。


「しかし、じゃ。実際にお主は何者なのじゃ? 男子(おのこ)がこのような魔力のある場所に、ましてや魔力を有しているなど、見たことも聞いたこともないぞ」


「……さて、キミ達に答えてあげたいところではあるんだけれど、残念ながらまだその時じゃないかな」


「なんじゃと……?」


 アンチヒーローというか陰の実力者というか、そんな役割なら、こんな風にはぐらかしたりもするはずだ、多分。

 如何せん日本から離れて長いせいか、そんなキャラが何をどんな風に答えるのかなんてハッキリ憶えていないけれど、もったいぶってなかなか確信を突かない感じだった気がする。


 何かを匂わしているかのように装ってはぐらかしてみせれば、夕蘭と呼ばれた精霊は訝しげにこちらを見つめる中、一方でもう一人、ロージアと呼ばれた少女が何かを思いついたかのように口を開いた。


「あ、あの、じゃあ、それだけの力があるなら、私たちと一緒にルイナーと戦ってくれても……!」


「あはは、それはできないな。だって……そう――キミ達はなんの為に戦うのか、考えた事があるかい?」


「え……? そ、それは、わ、私はその、魔法少女になれたから……。この力でみんなを守りたいって、そう思ったから……」


 ――いや、見た目そのまんまホントに魔法少女かい。

 少しでも情報を抜き取ろうと考えていたが、あっさりと正体をバラしてくれるとは……少しばかり危機管理意識が低いというか、純粋というか。


 ともあれ、力を得たから、守りたいから、か。

 シオンのような事を言う少女だなと思う反面、まだまだ薄っぺらい正義感と、危うさが見える。

 戦う覚悟も、命を燃やす理由もまだまだ未熟。

 それでも魔法少女として戦う事になったという事は、おそらくそういう存在(・・・・・・)なのだろう。


 ――そういう風に誘導されて、戦う為に力だけを与えられた存在。

 それは、僕がいた異世界であったのなら、まず最初に死ぬような危険さを孕んだ存在だ。

 誰かが導く必要がある、そんな存在だ。


「キミの信念は立派だね。けれど……いや、だからこそ。僕とは相容れない」


「な、なんでですか……?」


 いや、なんでだろうね、こっちも知らないよ、適当に言っただけなんだから。

 イシュトアの言う世界のルールで表立って力になれない以上、こうして何かの理由をつけて断るしかない訳で、そのために適当な事を言っているだけなのだ。

 理由とか訊かないでもらいたい。


「魔法少女ロージア」


「は、はいっ」


「せいぜい気をつけるといいよ。敵はなにも、ルイナーだけじゃない」


「そ、それは一体……?」


 僕が訊きたいぐらいだよ、そんな存在。

 なんとなく適当な事だけを仄めかして、僕はふっと小さく微笑んだ。


「それじゃ、また機会があったら会おう」


 短く言い残して、転移魔法を使って目の前のビルの屋上へと移動すると同時に、魔力を隠蔽した。


 ……いや、ルイナー以外の敵とか適当な事を言い過ぎたかもしれない。

 というか魔法少女って……なんなんだ、この世界……。


 意味の分からない世界に送り込まれ、キャラ付けまで強制されたせいか、なんだか中二病が発病したような気がして、むず痒い気分でしばらくは身を隠す事になったのであった。


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