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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
大和連邦国編
29/220

#023 葛之葉奪還作戦 Ⅲ

主人公登場シーンまで進めるためちょっと長いです。





「こちらポイントデルタ。敵影なし」


《了解。引き続き周辺の探索と警戒を継続してください》


「了解した」


 短く報告を済ませた男は、浅く息を吐いてから改めて周囲を見回した。


 男の目に映っているのは、かつて葛之葉と呼ばれた都市の成れの果て。五年程前まではオフィスが建ち並び、凛央に程近い街としても人気があった葛之葉だ。

 倒壊したビル、人の気配のない廃墟。砕けたコンクリートの隙間からは草が伸び、自然が人工物を侵食するかのような光景。

 まるで人間が築き上げた文明を否定するかのように荒れ果てているかつての街には、人の気配、野生の命の気配すらも感じさせない静けさが相まって、男は心胆を寒からしめる威圧感にも似た何かを感じ、僅かに身を震わせた。


「……嫌になるぜ、この静けさ。獣はともかく、鳥すら飛びやしねぇってどうなってんだ……? つか、虫すらいねぇのか……?」


 獣がいないというのは有り得るかもしれないが、しかし鳥すらも見かけない静けさ。

 そういった状況だからこそ、男は蚊や小蝿の一匹すら飛んでいない事に今更ながらに気が付いた。


「隊長、なんもいないみたいですし、ゆっくりしましょうや」


「気ィ抜くな。レーダーしっかり見とけ。間違いねぇ、ここはルイナーの縄張りになってやがる……!」


「へ? ルイナーの縄張りなんてあるんすか?」


 隊員の男の質問に隊長と呼ばれた男が答えようとした、その瞬間。

 まるで質問に対する答えだとでも言わんばかりに、周辺で何かが這いずり回るような音が聞こえ始めた。

 周囲にルイナーが現れるのではないかと警戒する隊員たちが、それぞれに背を向け合って周囲を見回す中、隊員たちの一人、また一人と視線を高い位置に固定して、顔を強張らせた。


「……おい、おいおいおい……。嘘だろ……?」


 隊員たちの視線はそれぞれ廃ビルの屋上に向けられていた。


 彼らの視線の先には、ルイナーの姿があった。

 それぞれに異なる方向を向いている五人の男たちが、それぞれ視線を向けている廃ビルの屋上に。


 現状、ルイナーが複数体出てくるというケースは存在していなかった。

 故に彼らは、ルイナーがその場所に複数存在しているという想定は頭からすっかり抜け落ちてしまっていた。


 男たちの眼前には今、数え切れない(・・・・・・)程のルイナーの群れが存在していた。


「あ、ああぁぁぁ……ッ! うわあああぁぁぁッ!」


「なッ、馬鹿野郎ッ!」


 ルイナーという自分たちの力が通じない相手が、数十から数百程度になろうかという数の、超常の存在が自分たちを見つめている。

 そんな恐怖に打ち勝てなかったのか、部隊員の一人が後方へと勢いをつけて逃げ出そうと駆け出した。


 しかし、突然動き出すという行動は危険だ。

 何が刺激になるのか判らない相手ではあるものの、睨み合うような膠着状態で、しかも何の打ち合わせもできていないまま動き出してしまうなど、以ての外であった。


 案の定、ビルの上で留まっていたルイナーが駆け出した男へと顔を向ける。

 しかし、ルイナー達は直接追いかけるかと思いきや、何故かまるで逃げるように散っていった。


「……み、見逃された、のか……?」


「お、おい……これ、なんの音だ?」


「地震……? いや、これはちが――!」


 隊長格の男が声をあげようとした、その瞬間――男たちの足元が割れ砕かれ、その場に残っていた全員が吹き飛ばされた。


 上空へと打ち上げられる形となった隊員へと向けて、地中から現れた直径にして十メートル程度はあろうかという巨大な何かが迫り、円柱状の先端部分がばくりと裂けるように開いた。

 運悪くそれを正面で見てしまった隊員の目に映ったのは、さながらおろし金を思わせるような鋭利な牙がビッシリと生えている、ルイナーの口の中。

 叫び声すらあげる事さえできずに呑み込まれ、口が閉じられた。


 幸いにも呑み込まれずに済んだ男の前には、先程ビルの上にいたはずのルイナーの一匹であろう、真っ黒な黒光りする肉体に赤い文様が刻まれた、猪程のサイズはあろうかという蜘蛛型のルイナーであった。

 眼前にいると気付いた時には、まるで杭を思わせるような足の一本が振り上げられており、次の瞬間には男の首へと真っ直ぐ叩きつけられ、貫通した。


 隊員を呑み込んだルイナーは蠕虫型とでも言うべきか。

 その一体はしばし動きを止めると、ぐるん、と勢い良く顔の向きを変えた。

 もしも隊員の中に生き残りがいれば、その先には、連邦軍の前線基地が存在していると気が付いただろう。


 蠕虫型のルイナーは一度大きく震えると、自らが這い出てきた穴の中へと戻っていく。

 そんな蠕虫型のルイナーに従うように、蜘蛛型のルイナーが続々と周辺のビルからビルへと飛び移りつつ、連邦軍の基地へと向かって駆け出した。





 そんな様子を空撮する形で見ていた前線基地では、予想だにしていなかったルイナーの大量発生、そしてかつての葛之葉の悪夢を体現した蠕虫型ルイナー、通称『都市喰い』が姿を現した事で、恐慌状態となっていた。


「『都市喰い』以外のルイナーまでいるだなんて、聞いてないぞ!」


「だ、だめだ、あれじゃ武器の数が足りない……! 想定は『都市喰い』のみだったんだ! あんな数を相手にできる訳がない!」


「ま、魔法少女を……! 魔法少女さえいれば、ルイナーは……!」


「無茶言うな! 千は超えてるんだぞ! 一体何人の魔法少女が戦えるってんだ!」


 ――酷いものだな。

 八十島は混乱に陥る前線司令部内の様子を見つめながらも、声をあげる事もなく、ただ一人そんな感想を抱いていた。


 確かに、あくまでも想定していたのは『都市喰い』のみだ。

 しかしルイナーの生態が分かっていない以上、五年もの間、地中で大人しくしていた『都市喰い』にこれまでになかった何かが起こっていても不思議ではないと考えるのが当然だ。

 国外から新兵器を手に入れ、実証実験すらままならないまま災厄とも言える存在にぶつけようとしたのは、偏にこの作戦をどうしても成功しなくては後がない故の焦り、といったところだろう。


 ――やはり、ここが俺の墓となるか。

 今回の作戦が失敗するだろう事は八十島も考えていた。

 それでもこの作戦の指揮をすると決めたのは、副官の男に告げた内容のみが真実であった、という訳ではなかった。


 五年前の禍根は確かにある。

 しかし、魔法少女という存在がただの少女であると知り、そんな少女に縋るしかない情けない自分たちという存在の方が、余程情けなく、惨めであると感じていた。

 だからこそ軍部に残り、軍の内部の改革をしようと志して――そして、大野のように報われる機会もなく、命や立場と引き換えに口を噤んでしまった一人であった。


 だからこそ、全てを引き連れて行こうと心に決めたのだ。

 自分のような人間こそが、自分とは違って改革に繋げてみせた大野の為にしてやれる事は、同じ立ち位置に立っての支援ではなく、分かりやすい程の()を提示してやれる事ぐらいだ。


 ――最期の仕事だ。

 己の中で短く告げて、八十島は目の前の机を殴りつけた。


「――静まれぇ!」


 野太い声を持った八十島の声は混乱の極みにある中においても聞き取れる程の威圧を伴っていた。

 まるで時が止まったかのように静まり返るテント内で、八十島は続けざまに口を開いた。


「我々にはあの兵器がある。すぐに発射しろ」


「し、しかしあの数が相手では殲滅なんて……!」


「――発射しろ、と。俺はそう命じたはずだが?」


 ギロリと八十島に睨みつけられて、反論した男は竦み上がって息を呑むと、慌てて行動を開始した。

 齢六十になろうというのに一切衰えない眼光の鋭さは、皺を刻んだおかげか迫力を増してしまっているらしい、と八十島は心の中で益体もない感想を抱くと、ゆっくりと立ち上がり、テントの奥へと進んだ。


「――来たか、鳴宮」


「八十島大将閣下……。どうして、あなた程の御方がこんな真似を……」


 隠れ潜むように機会を窺っていた鳴宮の存在に、八十島は気が付いていた。

 隣りにいる黒に近い灰色の髪をした、どこかじとりとした目つきの無気力さを感じさせるような少女は、八十島も見覚えがある。

 魔法庁所属の転移魔法を有する魔法少女アルテ。彼女の存在を知っていたからこそ、本来ならこの場にいないはずの存在がいる理由を即座に理解できた。


「他の魔法少女はどうしている?」


「お答えください、八十島大将閣下……! 何故、あなたが……!」


「質問に答えろ、中佐」


「――……ッ! 非常事態に備え、近くで待機しております……」


「そうか。ならば今すぐここを離れ、退避しろ。ここは間もなく死地となる」


 返ってきた言葉に鳴宮は思わず目を見開いた。

 軍内では鉄面皮などと呼ばれていた鳴宮の、珍しい素の表情を見た気がして八十島はふっと小さく息を吐いた。


「……何故、俺がこんなくだらない部隊を率いて、命令を聞いているか、だったな。単純な話だ。新兵器を使って過去の威光を取り戻そうとする老害と、お前たちでは拾いきれないゴミを代わりに掃除するためだ」


「な……ッ!?」


「いいか、鳴宮。大野と共にこれからもこの国の仄暗い部分へと足を踏み入れるなら、覚えておけ。綺麗事だけでは何も変わらん。正攻法だけでは届かぬからこそ、裏に潜む人間はしぶといのだ。清濁併せ呑むという覚悟がなければ、この国は変わらん。この国の闇は、貴様が思っている以上に昏く、深い」


「閣下……。あなたは……」


「今回使う兵器の出処を探れ。予備の弾頭を一発だけだが軍内の倉庫に隠してある。そいつを使えと命令してきたのは、官房長官の腰巾着だ。国内で新兵器開発は行われているが、成果に繋がっているという話は俺も一度も聞いていない。十中八九、海外と繋がっているだろう」


 声量を落として告げられた言葉に、鳴宮は驚きながらもしっかりと頷いてみせた。

 その様子を見て八十島は引き返すように鳴宮に背を向けた。


「俺の副官だった男が消えた。有能だったが野心の強い男だった。それ故に、どこの手の者かも、そもそもアイツがどの陣営に手を貸していたのかも判らんが、何かが軍内に入り込んでいるのは確実だ。お前はそういう輩に狙われやすい立場にある。気を付けろ」


「……ご忠告、痛み入ります」 


「行け」


「はっ」


 八十島はアルテに連れられて奏の姿が消えた事を確認すると、司令部へと戻る。

 戻った八十島が目にしたものは、モニターの向こう側で与えられた兵器が炎をあげている、まさにその瞬間であった。




 



 ◆ ◆ ◆






 鳴宮教官に言われるままにこの場所へとやってきた私――火野 明日架(ロージア)――たちは、設置されたモニターに映し出された光景に言葉を失っていた。


「……ね、ねぇ……これ、この黒いのが、全部ルイナー、なの……?」


 そんな、まるで私たちの疑問を代弁するような一言を呟いたのは、一緒にいた柚ちゃん――月ノ宮 柚(カレス)――だった。


 葛之葉攻略の前線基地となったこの場所は、葛之葉郊外にある巨大なショッピングセンターの駐車場だ。

 屋外駐車場の前には片側二車線、計四車線の広い道路があって、軍用車両も通りやすく、葛之葉ともそれなりに距離がある。


 そんな私たちがモニター越しに見ているのは、葛之葉の作戦状況を知るために共有されている空撮映像。葛之葉が、溢れ出てくる蜘蛛型のルイナーの大群によって黒く塗り潰されているような、そんな映像だった。

 その数は数千どころか、万にも届きそうだ。

 黒く塗り潰される範囲は、徐々に前線基地へと向かってきている事が窺える。


 しかしそこに、何発かのミサイルのようなものが発射されて直撃した。

 ルイナーに兵器が通用するとは思えなかったけれど、高く立ち上った火柱は青と緑の中間色のような色合いをしていて、どこか禍々しく思えた。


「――ッ!」


 私の隣にいた夕蘭様が、その炎を見た途端に火柱の立ち上った方角へと乗り出すように顔を向けて、ぐっと歯噛みした。

 夕蘭様、怒ってる……?


「夕蘭様……?」


「……ッ、なんでもないのじゃ。珍しい兵器(・・・・・)を使ったようじゃが……、効果はなさそうじゃな」


 夕蘭様がどこか寂しげに言った通り、ルイナーに効果が出ているようには見えず、ルイナーの勢いは全く衰える事はなかった。


「……愚かな真似をしたの。あの兵器ならばルイナーを倒せるとでも過信し、葛之葉におるルイナーに手を出したか。しかし、結果がこれではの。藪をつついて蛇を出すどころか、出てきおったのは悪夢そのものではないか」


 明らかに恐慌状態に陥っている軍部の様子を遠目に見ながら、夕蘭様が呟いた。

 大人たちが言い争い、叫び、逃げ出そうとしている姿が見える。


 そんなのって……。

 夕蘭様が冷たく言い放った言葉がもしも本当なら、あまりにも勝手過ぎる。


 葛之葉の悲劇と呼ばれた事件は私だって知っているし、あそこにだけは手を出せないって鳴宮教官も言っていた。

 もしも奪還するなら、万が一に備えて連邦国内全ての魔法少女を招集しなくてはならないけれど、それをすればルイナーがどこかに現れた時に対応が遅れてしまう。だから監視だけは続けている、というのが葛之葉の現状だと授業で習った。


 こんな馬鹿な真似をして、勝てないと判った途端に逃げようとするなんて……。

 その結果、今、ルイナーが大量に溢れ出ているのに。


「このままじゃルイナーが散らばって、あちこちの街に向かうってこと、だよね……?」


「あれらはもう止まらぬであろうな。じゃが、ここを死地としておぬしらが戦う必要などなかろう」


「え……?」


 夕蘭様は私の顔を見た後で、この場にいる訓練校のみんなと、その契約精霊の顔を見回した。


「この戦いのツケはおぬしらが背負うものではない。鳴宮とやらも言っておったであろう、おぬしらはあくまでもいざという時の為に行ってもらう、と。そしておぬしらの命に危険があると判断すれば、必ず無理をせずに逃げてくるように、と。この状況はまさに後者。おぬしらが尻拭いできる範疇を超えておる」


 夕蘭様が言う通り、鳴宮教官は確かに私たちにそう言っていた。

 今回の戦いは命を賭すべき戦いではない。だから、絶対に無理をしないで帰ってくるように、と。

 いつも冷静で、感情を押し殺している印象の強い鳴宮教官にしては珍しく、苦い表情を浮かべながら。


「ここで食い止める事ができるような数ではない以上、素直に退いて今後の防衛体制を強化するしかあるまい。あれに呑み込まれればまず助からぬが、距離が開けば分散する可能性も見えてくるであろう」


「それでも、もしも分散しなかったら……?」


「その時はまた逃げるだけじゃ。数を減らしながら安全圏まで下がる。それしかできぬ」


「じゃ、じゃあ逃げ遅れたりした人は……?」


「全てを掬いきれる程の許容はない。心を鬼にして言うぞ。ここはもう無理じゃ。先も言った通り、彼奴らは己の欲望で救いようのない真似をした愚か者、おぬしらが命を賭して守るべき者ではない」


 夕蘭様には珍しく、その一言には怒りのような何かが混ざっているような気がして、思わず私は肩を揺らした。


「――えぇ、その意見には私も賛成よ。あなた達は今すぐ離脱しなさい」


 私たちに向かって声をかけてきたのは、展開している軍部の人と直接会って話を聞きに行っていた鳴宮教官だった。

 アルテ(祠堂 楓)さんに連れて行ってもらっていたらしく、いつの間にか戻ってきていたらしい。


「鳴宮教官……」


「遅れてごめんなさい。この馬鹿な作戦を進めようとしていた人物から情報を得たわ。新兵器をアテにして葛之葉の奪還という成果を以て、軍部の威光を取り戻そうとしているような愚かな思考によるもの。つまり、夕蘭さんの言う通り、そこに展開している多くはあなた達が守るべき無辜の一般人ではないと判断します」


 吐いて棄てるような物言いで告げる鳴宮教官の一言は、まるで見捨てて逃げる事を正当化させるために敢えて厳しい言い方をしているような、そんな気がした。


 私だって、正直に言えば勝手な真似をした人達に対して怒っているし、呆れてもいる。

 勝手な真似をして、危険な場所だって知っていて手を出して。

 その目的が、よく分からない見栄とかそういう、どうでもいい事の為だって言うんだもの。

 そんな人達だけが酷い目に遭うだけなら、きっと私だって自業自得でしょ、って言えたのかもしれない。


 でも、死んでしまうって、残される方は酷く悲しくて。

 伝えたい事とか、言えない事とかたくさん残ってしまって、どうしようもなくなってしまうから。

 馬鹿な真似をした人達かもしれないけれど、やっぱり……私は、死なせてしまう事が嫌なんだと思う。


「……わたくしとしては夕蘭さんと教官の意見には賛成ですわね」


「フィーリスさん……」

 

「わたくし達が倒してきた数とは比較になりませんもの。五等級のルイナーならどうとでもなりますけれど……。ただ、あの数となると、取りこぼしがどれだけ出るか分かりませんわ。だったら、お二方の仰る通り、尻尾を巻いて逃げるのが最善でしょう」


 ただし――と付け加えて、フィーリス(未埜瀬 律花)さんが私たちを見回した後で、鳴宮教官をまっすぐ見つめた。


「さすがに無駄足を踏まされて黙って帰るというのは、わたくし、未埜瀬の者として許容できませんの。ですから、少々憂さ晴らし(・・・・・)するぐらいはお目溢ししていただけませんこと?」


「憂さ晴らし?」


「そうですわ。あれだけウジャウジャといるんですもの。わたくし達とて訓練校で夕蘭さんやロージアさんに教わった魔力の圧縮を習っていますし、せっかくなので逃げながら、憂さ晴らしに思いっきり魔法を撃ち込んでやるのも一興かとは思いませんこと?」


 あ……。

 そっか、フィーリスさんはそうやって安全を確保しつつ、けれど安全圏から魔法で攻撃して少しでも数を減らそうとしているんだ。

 戦うなんて言う訳にはいかないけれど、安全圏から攻撃をして離脱するって繰り返していれば、少しでも数は減る。


「ダメよ。今すぐここから離れるわ。祠堂さん、転移を」


「ん。残念ながら転移は魔力をたくさん使うから、連続使用のしすぎで休憩が必要。まことに遺憾」


「……あなた、前にも言った通り嘘を吐く時だけは饒舌になるのよ。くだらない事を言っていないで、早くしてちょうだい」


「お言葉ですが、鳴宮教官。わたくし達の本気での実戦なんて、そうそう見れる機会はありませんのよ? 的があれだけいるのですから、今後の育成方針にも役立つとは思いませんこと?」


 フィーリスさんがにこやかに告げてみせる事で、鳴宮教官も僅かに言葉を詰まらせた。


「……確かにデータは欲しいわ。でも、一歩間違えたら死ぬような状況で欲するものではないの」






「――だったら、僕が少しの間だけ手伝ってあげようか?」






 不意に聞こえた、この場にいるはずのない第三者の声。

 私たちが一斉に振り返ると、そこには。


「……ルオ、くん……?」


「やあ、魔法少女諸君。こんな場所で会うなんて奇遇だね」


 この状況においてもなお、一切動じても焦ってもいない、相変わらずの飄々とした態度で。

 ルオくんが一人の女性を連れて、その場に姿を現した。


 そして――


「――……な、んで、あなたが……」


 ――オウカさんの呟くような声が、その場にぽつりと零れ落ちた。

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