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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
大和連邦国編
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#017 呪法使い Ⅰ

 明日架が授業を受けておる間、妾――夕蘭――のような契約を交わした精霊は、基本的に契約者の魔力を感じ取れる範囲を行動圏と定め、町をさまよってみたり、他の精霊と交流している事が多い。

 それは(ひとえ)に、ルイナーの存在に逸早く気付き、隔離結界を施す事によって人間の被害を最小限に留める事を目的としているが故の行動じゃ。


 ルイナーは前触れなく出現する。

 その出現頻度は低いとは言え、即応できるようにせねば、人間への被害が大きなものになってしまうからの。


 しかしここ最近、どうにも奇妙な出来事が続いておる。

 というのも、魔力の反応が出たかと思えばすぐに消えてしまうケースがあまりに多く、現場と思しき場所に急いでも、何も残っていないという状況が立て続けに起きてしまっている。


 大和連邦国内にいる精霊は、妾のような上位精霊を介して各地の様々な情報が他の精霊へと共有されておる。

 というのも、伝言役をして国内を飛び回っておる精霊によって伝えられるという形になるので、些か情報が古い場合もあるが。


 如何せん、精霊ではスマホを使って連絡、とはいかぬからの。

 人の姿を取れる妾ならばそれも可能じゃが、物理的にできぬ者の方が多い。


 ともあれ、じゃ。

 そんな精霊ネットワークとでも言うべきやり取りの中で、最も注目を浴びている話題と言えば、この数週間で頻発しておる、魔力の僅かな反応とすぐに消えてしまう謎の現象に関するものであった。


 ため息を零した、その瞬間。

 再び感じ取れた微かな魔力の揺らぎを感じ取り、妾はそこに向かって一直線に空を飛んだ。


「――……チィッ、また空振りか……」


 今日だけで三度目。

 この数日で明らかに頻度が増しておる。

 妾も調査を行っているのじゃが、しかし結果はこの通りじゃ。

 他の精霊らも原因の特定に動こうとしておるようではあるのじゃが、まだ何も掴めていないようであった。


 まるで妾らの反応を何処かから監視し、からかわれているような気分じゃ。

 まったくもって腹立たしい。

 無視してしまえば良いとも言えるやもしれぬが、如何せん、ルイナーである可能性を切り捨てきれぬ以上、そうはいかぬからの。


 気を取り直して空を飛ぶ。


 精霊の中でも話題になっているものと言えば、もう一つある。

 昨今の魔法少女の行方不明騒動に関するものじゃ。


 活動が見えなくなった魔法少女と同様に、契約しておった精霊も見当たらぬと来ている。

 最悪の可能性というものを考えれば、何者かに殺されたか。


 しかし、精霊を殺せるとなれば、それは強大な力を持ったルイナーか。

 それ以外となれば……かのルオと呼ばれておった少年と、その少年と戦っていたルーミアと呼ばれておった女ぐらいしか想像がつかぬ。


 しかし、ルオと呼ばれておったあの男子(おのこ)は魔法少女と戦うつもりはないと言っておる。

 その言葉が嘘ではない事は妾も理解しておる。でなければ、事実として妾や明日架を守り、助言まで寄越すはずはなかろう。

 何を目的としておるのか、そもそもどこからやって来たのかも不明であるが故に、信頼できる程ではないが。

 であれば、あとはあのルーミアと呼ばれた女になるが……あの女とてこの四ヶ月で目撃されたという情報もない。


 いずれにせよ、憶測の域を出ない以上、あの埒外にいるような存在に目を向けていても仕方あるまい。

 そもそもあの者らがもし敵対して動いていれば、もっと迅速に事を運ばれるであろうなと思ってしまう辺り、妾は妙な方向であの者らの力を認めておる。


 故に、この奇妙な魔力反応が、ただの気の所為や、魔法少女の行方不明騒動と無関係とは考えられぬのじゃが……こうも空振りが続いてしまうと、いい加減うんざりするのう……。


「しかし、どうしたものかの……――うん?」


 辟易とした気分でぼやくように愚痴を零しつつ空を飛んでて、それに気が付いた。

 早速とばかりに、妾はビルとビルの間にある狭い路地にて生じている異変(・・)へと近づくべく、空から一直線に地面に降り立った。


「のう、おぬし。何をそんなに慌てておるのじゃ?」


 妾が声をかけたのは、まるで慌てて逃げ惑う小動物のように右往左往している、まだまだ精霊としては自我が覚醒しきれていない存在――小精霊と呼ばれる者じゃ。

 其奴らは妾が上位の精霊だと気が付いたらしく、妾の前まで即座に飛んでくるなり、光を明滅させながら意思を飛ばしてくる。


 ――タスケテ、ヒメサマ。

 ――ナカマ、イタ。イマ、イナイ。


 言葉にすればそういった意思を、支離滅裂に、どうにか妾に伝えようと無遠慮にぶつけてくる。

 さすがにそれらを十全に読み取れる訳ではないが、明らかに異変があった事を伝えてきているのは間違いないようじゃ。


「落ち着くのじゃ。仲間とはぐれてしまったのかの?」


 妾の言葉はしかし、まだまだ小精霊程度では理解できぬようじゃった。

 違うだの正しいだの、どっちなんじゃと言いたくなるような思念が飛んでくるばかりで、小精霊が何を伝えようとしておるのか、まったく伝わってこぬ。


 むぅ、こういう時は念話に長けている精霊が羨ましくなるのう……。


「む? なんじゃ、ついて来いと?」


 どうやら小精霊は妾をどこかへと連れて行こうとしているらしい。


 ふむ、ならばついて行ってみるとするか。

 最近の奇妙な出来事に関する手がかりでもあれば良いのじゃが。

 ビルとビルの隙間を縫うようにふよふよと飛んで先導する小精霊に、妾もまた空を飛んでついて行く。


 凛央は連邦内でも中央に位置する首都であるが、しかしルイナーの襲撃によって修繕されていない場所も多い。

 散発的に、無秩序に現れるルイナーのせいで防衛範囲が広すぎては手が回らぬ故、そうなってしまうのは必然ではあるのじゃが。

 小精霊が進んでおるのは、そうした経緯から放棄され、治安も悪くなっておるような地域であった。


 小精霊は魔力を持たぬ者には感知できぬし、一応妾も姿を隠しておる。

 何者かから視認される可能性はほぼないと考えても良い。


 故に――油断した。


「――が……ッ!」


 乾いた何かの音が響いたかと思った、その瞬間であった。

 妾の肩口に衝撃と、焼けるような痛み――そして、ここ最近で何度か感じた奇妙な魔力の発露を感じ、落下しながら音の発生源へと目を向ける。


 ――あれは、銃か……!?

 奇妙なゴーグルをつけた男が手に構え、こちらに向けているものは、この世界の銃であった。


 しかしどうにも奇怪な見た目をしているその形はともかく。

 その銃から放たれたと思しき銃弾と、肩口についた傷から感じ取れた残滓に気が付き、視界が燃えるように真っ赤になった。


「――貴様ぁッ! 精霊を、妾の同胞を呪法に利用しよったなぁッ!?」


 怒りが口を衝いて出る。

 掴みかかり、縊り殺してやりたいと咄嗟に銃を撃ってきた男へと向かって飛んでいく。


 衝動に身を任せたが故の行動であったが、しかし。

 それはどうやら男の狙い通りであったようで、口元に笑みを浮かべたまま銃口をこちらに向けていた。


 構わぬ、直接的な攻撃方法を持ち合わせていない事など、関係ないッ!

 この手で殺してやらなければ気が済まぬッ!


 引き金が引かれる、その瞬間。


「――やっと見つけたぜ」


 視界の隅に突如として飛び込んできた黒い何かが、男の横っ面を殴り飛ばし、まるで車に轢かれたかのように回転しながら吹き飛んでいった。

 何度か地面を跳ね、ようやく壁に当たって止まった襲撃者はぴくりとも動かなくなっておった。


「な……ッ!?」


「あん? おう、嬢ちゃん。無事か?」


 あまりの出来事に思わず唖然としている妾に向かって、黒いコートを身に纏った、金髪をオールバックに固めた若い男が不敵な笑みを浮かべながら声をかけてくる。


 文字通り殴りつけただけの一撃であったが、およそ人の手で殴り飛ばしたと言えるようなものではなかった。

 それに何より、男の身体から立ち上る魔力の残滓。


 此奴、魔法を使えるのか……?

 そもそも男で、しかも大人と契約できる精霊など聞いた事もないが……。

 そう思いながらも周囲を探ってみるが、やはりと言うべきか契約しているような精霊は見当たらぬ。


「……貴様、何者じゃ?」


「そいつぁこっちのセリフなんだがな」


 ……態度から察するに、敵意はないようじゃな。

 吹き飛ばされた男はさすがに意識を失っておるのか、未だに倒れ伏しておる。


 滑稽に倒れる姿を見たおかげで溜飲が下がったようじゃ。

 思考が戻ってくる。


 ……危なかったの。

 危うく怒りに我を忘れて、彼奴の狙い通りにもう一度撃たれるところであった。

 明日架を酷く悲しませるところであった。


「礼を言う。危うくやられるところであった」


「気にすんな、あの野郎を追ってただけだからな。それよりお前さん、精霊だな? 撃たれたみてぇだが、大丈夫か?」


「む……」


 先程銃弾を受けたその場所から、禍々しい黒い靄が出ておる。

 冷静な思考が戻ってきて、この男に敵意がないと判ったが故か、身体に力が入らなくなってきている事に今更気が付いたようで、視界が霞んでいく。


 いかん、このままでは気を失ってしまう……。


「あー、やっぱダメそうだな。って、お? なんだ、ちっこいのもいたのかよ。心配すんな、こっちの嬢ちゃんは治療できるからよ。――おーい! いるんだろ!?」


「そんな大きな声を出さずとも、私ならここにいますが」


「うおっ!? いたのかよ!?」


「メイドですので、当然です。精霊は私が預かりましょう。あなたはあちらのゴミを持って帰ってきてください」


 ……メイド……?

 そんな会話を聞いている内に、妾の意識は深い闇に落ちるように失われていった。

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