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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
最終章 邪神の最期
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エピローグ Ⅱ 〈了〉

 やってきたのは、廃墟となった棄民街の一角。

 かなり治安の悪い地域ではあるのだけれど、どうやら僕がここに来るまでに一通りの通過儀礼(・・・・)は済んでいるのか、あちこちに焦げ跡やら斬撃やらの痕跡が見受けられる。


 随分とまあ、派手にやったね。

 いや、まぁあの二人もこの場所がそういう世界(・・・・・・)である事を理解し、順応してきつつある、というところだろうか。


 そうして開かれた場所――片側三車線の道路の交差点中央に、槍を携えた青年とスマホを浮かばせてそこに向かって話しかけている、一人の少女がいた。


「――でね、実はその人こそが私たちの知る限りの最強(・・)なんだよね。私たちなら勝てるかって? あはは、無理無理。だけど、今日はなんとか時間取ってもらったんだけど……あ、きた!」


 こちらに気が付いてぶんぶんと手を振ってくる、今しがたまでスマホに話しかけていた少女――美結。

 そんな彼女がこちらに気が付いたおかげか、座り込んだまま自分の槍を肩に立てかけていた青年――鏡平が立ち上がり、こちらを見て軽く会釈してきた。


「あははっ、コメント凄いねー! そう、気付いた人はもう気付いているよね? 三年近く前、突如として魔法少女たちの前に現れた銀髪の少年。そして当時は敵対していたと思われていた銀髪の女性! さらにさらに、その横にいるのはなんと! 私とおにぃに稽古をつけてくれていた師匠、魔法少女の『最強』! フルールさん!」


 そう、この場にはルーミアと唯希が僕と一緒にやって来ている。

 ジルやアレイア、リュリュは僕らを近くにある建物の屋上から見つめる形ではあるけれど、ちょっとした最後の仕事を見守ってくれている、という訳だ。


「それでね。あの少年とお姉さん、ルオくんとルーミアさんって言うんだけどね。あの二人は『始まりの【覚醒者】』って言われていて、探索者ギルドの特別顧問という立場にいるの。今日はそんなお二人に、探索者最強と言われている私たちがお手合わせいただくのだー!」


 ――打ち合わせ通り進められているようだね。

 そんな事を考えながら鏡平にちらりと視線を送ってみれば、鏡平が力なく苦笑を浮かべて頬を掻いていた。


 ダンジョンをこの世界に生み出したばかりの頃、偶然、或いは必然としてダンジョンに招かれた、魔法少女一歩手前にいた美結と、その兄として魔力に早い段階で覚醒した鏡平。

 今や『みゅーずとおにぃ』という二人と言えば、ダンジョン配信者としても世界に知らない者はいないのではないかというレベルで有名になっていて、その実力は魔法少女にも比肩すると言われている。


 そんな二人とどうして動画越しに手合わせするのか。

 その理由は幾つかある。


 一つは、僕らという存在を公にする事で、三年前の謎の銀髪二人組という存在をハッキリと敵ではないと認識させること。


 これについては風化していてもおかしくない話題であったはずなのだけれど、今でも根強く僕らの正体を推察するような話なんかも出ているようで、そういう憶測に終止符を打たせ、僕らという存在が味方であるとアピールすることだ。

 凛央魔法少女訓練校の生徒達の活躍によって魔王が討たれ、ルイナーが現れなくなったと言われている今、僕とルーミアが魔法少女たちの前で魔法少女たちすらも圧倒するような実力で戦っていたという動画の映像を引き合いに、いつか僕らが再び現れ、魔法少女たちと戦うのではないか、なんて話も出ているような状態であるらしい。


 僕としては無視すればいいと思えるような内容ではあったし、相手にするつもりもなかったのだけれど、ここ最近、どうにも【覚醒者】になれば僕らのように魔法少女とも渡り合えるのではないか、みたいな話が賑わっているようなのだ。

 実際、僕らの前方にいる鏡平ことおにぃは、魔法少女ともいい勝負ができる程度までは鍛えられているからね。


 そこで最後に、僕とルーミアが探索者ギルドにいるという事をアピールすると共に、ここ最近増えてきた【覚醒者】による犯罪に対する警告という、探索者ギルドとしての仕事を行うためにこうして探索者代表である『みゅーずとおにぃ』と手合わせするという形になったのである。


 ちなみにこの辺りの段取りを整えて依頼してきたのは、他ならぬ天照だ。

 神界にいる際に念話を通して相談を持ちかけられ、探索者ギルドとしても【覚醒者】の犯罪には手を打ちたいので、何かいい方法はないか、なんて相談されたところ、イシュトアとルーミアが介入した結果がこれである。


 ……あの二人、やっぱりあんまり組ませない方がいいんじゃないだろうか。

 いちいちスケールが大きくなるし。


 とまあ、そんな訳で今に至るのだ。


 昔はスマホを手に持って動画配信していた美結も、今では精霊のおかげでスマホが自動ドローンみたいに勝手に動き回って撮影してくれるおかげか、身振り手振りを交えて話せていたりとずいぶんと配信慣れしたように思える。


 そんな中、鏡平がこちらに向かって立ち上がり、魔道具である槍を手に構えた。

 悠長な話し合いは手合わせが終わってから、とわざわざ説明していた美結もこちらを見つめ、準備を終えたと言いたげに頷いてみせる。


「……ルーミア」


「大丈夫よ。ちゃあんと手加減するわ」


 僕らの目的はあくまでも『探索者の中でも最強の存在をあしらえると知らしめること』だ。だから強い魔法は使わないし、手数で押しもしない。ただただ純粋な技術でのみ圧倒して、文字通りに手も足も出ないのだと見せつけるのが目的となる。


 どちらかと言うと『みゅーずとおにぃ』が弱く見えてしまって名前に傷が付きそうだとも思われるけれど、それは無用な心配というものらしい。

 実際、『みゅーずとおにぃ』の実力は常人から見ればとっくに常人の域を超えていると誰もが知っているし、本人たちも特に負ける姿を晒す事を気にしている様子もなく、それどころか今回の話に対しては乗り気だったと聞いているからね。


 そろそろ始めようか、なんて考えつつ【亜空間庫(インベントリ)】から『黄昏』を引き抜くと、前方にいた鏡平と美結の顔が明らかに引き攣った。


 うん、そりゃそうだよね。

 だって『黄昏』は見た目からして妖刀って感じだし、邪神を斬ったりした影響か、なんか黒い靄みたいなものを纏わせているせいで、もうどう見ても危ない武器だもの。


「……おにぃ、あれと打ち合うの? 大丈夫? 即死効果とかありそうだよ?」


「大丈夫だ……、……多分。ちゃんと手抜いてくれるって話だしな……。大丈夫、だよな……?」


 あの、その秘密の会話してるの丸わかりな感じでスマホも近づいてガッツリ配信してるっぽいし、なんならこっちにも聞こえてるし、むしろこっちに確認してきてるみたいだけれど、そっちこそ配信的に大丈夫なの?


 うん、まあいいか。

 安心しなよ、なるべく怪我はさせないから。

 そう思ってにっこりと微笑んであげたら、二人して「ひぇ」みたいな声をあげた。


 ……なんでさ。


「かかってきなよ、鏡平。キミがどれだけ成長したのか、見せてほしい」


「……おう。胸を借りるぜ」


「あら、嫌よ。私の胸は貸さないわよ?」


「おにぃ、ヘンターイ」


「そっちにゃ言ってねぇだろっ!?」


 一瞬で全世界に向けて鏡平がセクハラしたみたいな流れに持っていくのはどうかと思う。






「――は……、はぁ、ぜぇ……っ、無理だろ、当たらねぇ……っ」


「……なきたい。なにもできなかったよ……」


 寝転がる鏡平と、ぐったり座り込んだ美結。

 結果はまあ、言わずともこの通りである。


 鏡平は人間離れした速度でひたすらに僕に攻撃してくるけれど、残念ながら邪神の触手よりも遅い攻撃に僕が当たるはずもなく、全て避け、いなし、時折、『黄昏』を振るって鏡平の動きを完全に封殺する。


 ルーミアは美結の魔法攻撃を全て発動と同時に潰され、だんだん涙目になっていく美結を見てくすくすと笑いながら煽り続ける。


 配信のコメントもどうやら盛り上がっているらしいけれど、何よりも『みゅーずとおにぃ』の二人が完全にあしらわれたという事に驚きの声が上がっているようだ。


 そんな中、美結がスマホを僕に寄せてきたので、僕からスマホに向かって――この動画を見ている人々に向かって宣言しておく。


「力を持って多少は気が大きくなってしまったり、自信を持つっていうのは構わない。でも、その力を犯罪に使ったとすれば、僕らのような『探索者ギルド』の『執行官』が断罪する。『執行官』は【覚醒者】の犯罪に対する断罪権利を有しているから、おいた(・・・)が過ぎないよう自重することだね。『執行官』は、躊躇わないよ」


 断罪という言葉の言下に、殺す事を認められているというニュアンスを含んでの宣言である事に気が付く人は多いだろう。

 実際、【覚醒者】の犯罪に対してはそういう事(・・・・・)も認められている、というよりも認めざるを得ない、というところだったりするんだけど、まあ僕には関係のない話だ。


 若干の不穏な空気を残しつつ、配信は終了した。

 茜色に染まった空の下で、本当の意味でのやるべき事を全て終えたと改めて実感し、ため息が零れる。


「お疲れさま、二人とも」


「……あぁ、全然届かなかったぜ……」


「当たり前です。私にすら届かないんですから」


 沈黙して流れを見守っていた唯希が告げれば、鏡平も美結も苦笑を浮かべてから、こちらを見つめた。


「……なあ」


「なんだい?」


「……ありがとうな」


「……気にしなくていいよ」


 その一言に詰められた想いが、何も今回の件だけを指して言った言葉ではないという事は訊ねずとも理解できた。


 この二人はルイナーによって親を失って、それでも生きてきた人間だ。

 魔法少女のような特別な存在にはなれなくて、それでも折れずに生きてきた中で、偶然にも力を手に入れる機会が訪れ、そしてその機会を掴み取り、戦い抜くという未来を選んだ一般人であったと言える。


 そんな二人ではあるけれど、さすがに邪神を倒したという具体的な事までは気付いていなくとも、僕らがルイナーとこの世界の戦いを終わらせた、という事にはなんとなく気が付いているのだろう。

 それに対する御礼だという事を惚けて誤魔化す事もできたけれど、さすがにそれは野暮というものだと考えて受け入れておく。


「それで、また会えたりすんのか?」


「いいや、会うつもりはないよ」


「……そうか。まぁ、こんな話をお前が引き受けた時点で、なんとなくそんな気はしてたんだけどな」


 こういう話になると、美結の方が食いついてきそうかな、なんて思っていたけれど、どうやら彼女もなんとなくは察していたらしく、寂しげに苦笑するだけに留まった。

 そんな中、鏡平が拳を突き出してきた。


「……元気でな」


「キミの方こそ。ちゃんと妹ちゃんを守りなよ」


 拳をコツンと当てて返事をすれば、鏡平は「おう」と短く返事を返す。

 そんな僕らのやり取りを見ていたらしいルーミアと唯希がこちらに近づいてきて、そしてジルやアレイア、リュリュもまた姿を現した。


 さすがに突然現れたジル達には驚いたようだけれど、ジル達も僕の仲間だという事ぐらいは理解できたらしい。


「それじゃあ」


「おう」


「……うん。元気でね?」


 泣きそうな顔で見送る美結に苦笑しつつ頷いて、僕とルーミア、唯希、ジル達が一箇所に集まったところで、ちょうど夕陽がビルの陰に沈み、空から光が降ってくる。




 ふと、たった一人でこの世界に降り立った時とはずいぶんと変わったな、と思う。




 三年間という短い時間ではあったけれど、なんだかんだでこうしてルーミアや唯希、それにジル達という仲間ができて、この世界の人々とも関わってきた。


 シオンとルメリア。

 そして、この世界でそれぞれに未来を見つめて、異なる戦場で戦っていた仲間たち。

 僕の中ではずっと仲間と言えばあの二人だけという感覚がどうしても残っていたけれど、どうやら今は片手じゃ収まりきらない程度に仲間が増えてしまったらしい。


 そんな仲間たちに別れを告げて、そして今、この世界にも別れを告げる。

 この世界を生きる仲間たちは、それぞれの未来に向かって歩いて行くのだろう。


 ――少しばかり、行末を見届ける事ができないことを寂しいと思う。


 でもまあ、僕も今は一人じゃないからね。


「どうしたの?」


「我が主様?」


「……いや、なんでもないよ――」


 光の柱が僕らを呑み込んで視界が全て染まり切る前に、僕はルーミア達に向かって微笑みながら告げた。






「――さあ、行こうか。次の世界へ」








〈了〉




現人神様の暗躍ライフ 了




という事で、この『現人神様の暗躍ライフ』はこのお話をもって完結となります。

年始の元旦を除いてこの半年ほど毎日更新という形でやってまいりましたが、最後までお読みくださりありがとうございました。


今回は久しぶりの本格的な執筆だったという事もあって、継続して書き続けつつ、テーマと課題を決めて取り組んでいたのですが、プロットが切れた状態での毎日更新はあまり良くないですね。話がぐだった箇所もありましたし。


改めてブクマや評価、レビューや感想、それに誤字脱字報告も含め、応援ありがとうございました。

連載を続ける上で大変励みになりました。

感想については仕事の忙しさもあったため返信よりも続きを書く時間を捻出する方に注力する形となりましたが、全て目を通させていただいております。


別の世界での話については今後どうするか少し時間ができたらプロット考えたいと思います。

改めてですが、応援ありがとうございましたm

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