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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
大和連邦国編
22/220

#016 『活動不明』

 魔法少女訓練校が開校して、すでに二ヶ月。

 敷地内への引っ越しについては、手続きから作業までの全てを連邦軍の人達が代行してくれたおかげで、一般的な引っ越しとは比べ物にならない程にあっさりと終わった。

 私――火野 明日架――は引っ越しなんて、それこそお父さんとお母さんがいなくなってしまって以来だったから、手際の良さにちょっと感心した程度だったけれど、お姉ちゃんは軍の人達が動いてくれる事に恐縮しきりといった様子で、「早いし楽だったのは確かよ。でも、普通の引っ越しより疲れた気分」といってぐったりしていたのが印象的だった。


 それからは慌ただしく、あれよあれよと言う間に始まった新生活も、二ヶ月も経てば充分に日常の一幕になる程度には生活にも慣れてきた。


 学校とは色々なものが違ってる。

 年齢の違うみんなと常に集まって行動するっていうのは、なんだか不思議な気分だ。

 私たち魔法少女は年齢もバラバラだから、そうなってしまうのは当然だとは思うけど、学校は同い年の友達と通うものっていうイメージがあるからかな?


 部屋も教室っていう訳じゃなくて、長方形で向かい合って座れるような会議室って感じの場所が私たちの教室扱いになっているし、色々と最初は戸惑ったりもしたけど、今ではこういう部屋にも慣れたし、みんなとも仲良くやれている。


「お、明日架ぁー!」


「おはよ、伽音ちゃん。どうしたの?」


「おー! おはよー! いやさー、今みんなでコレ見てたんだー! 明日架もこっちー!」


 相変わらずの元気さが特徴的な伽音ちゃん――凪 伽音――と、そんな伽音ちゃんの周りに集まっているみんなからも朝の挨拶が返ってくる。

 呼ばれるままに机に近寄ってみると、椅子に座っていた律花さん――未埜瀬 律花――が手に持っていたのは、タブレット端末だった。


 そこに映し出されていたのは――。


「『魔法少女ランキング』……?」


「あら、ご存知ですの?」


「あ、うん。あるのは知ってるよ。あんまりいい気分しないから見ないけど……」


 魔法少女の活躍、つまりルイナーを討伐したり、人気があったりっていう魔法少女のランキングが掲載されているホームページだった。


 ルイナーの討伐は基本的に夕蘭様のような精霊が隔離結界を張ってくれるから、一般人には見えない。

 けれど、討伐数だったりっていうのは魔法庁が公表してくれていて、活躍を知らせてくれている。

 そうやって民衆に安心を与えている、って夕蘭様が言っていたけれど、私にはよく分からなかった。


 一方で、このホームページは一般の人が作ったホームページで、強さや戦闘の華やかさ、見た目の可愛さだったり、愛嬌とか、ルイナーとの戦いに関係のない項目でランク付けされているから、非公式なランキングでしかないんだけど……このホームページは凄く人気だ。

 特にアイドルみたいにわざと精霊の隠蔽を解いてアピールする子とかもいて、そういう子は順位が高いし、自分で動画を撮って、一生懸命順位を上げようとしている子も多い。


 国内ランキングだけじゃなくて、国別ランキングなんていう、国の魔法少女の平均点で競っているようなランキングもあるんだけど、それが原因で、ランキングに拘る魔法少女と興味のない魔法少女の間で言い合いになったりする。

 ランキングを上げるために、動画でアピールしたり隠蔽を解けって無茶を言ってきたりするからだ。


 私は目立ちたい訳じゃないし、夕蘭様も「顔を出す危険を理解しておらぬ戯け者どもの言う事など気にするな」と言ってくれているから、顔を出すような事はしないようにしてるけど。


「まぁ気持ちは分かるけどな。ルイナーと戦わない連中に好き勝手につけられたランキングだし、やっぱいい気分はしねーもん。なんだよ、可愛さって。全然ルイナーとの戦いに関係ねーじゃん」


「あはは……、弓華ちゃんらしい理由だね」


 頭の後ろで指を絡ませて嫌そうな顔をする弓華ちゃん――皐 弓華――。

 弓華ちゃんはまっすぐな子だ。

 裏でコソコソされたりするような人は嫌いだって言っているし、元気な男の子っぽさがある。

 そういう意味では伽音ちゃんと似ているような気もするけれど、伽音ちゃんはどちらかと言うと純粋って感じかな?


「気持ちは分かりますわ。ただ、客観的な評価を知るというのも大事ですわよ。物事、主観ばかりでは思考が偏ってしまいますもの。でも、今回はそれが目的ではありませんの。これをご覧になって」


 律花さんがタブレット端末を操作すると、大和連邦国内の魔法少女の中でも上位と言われる十五人の魔法少女名だけが表示された。

 私でも知っている有名な魔法少女の名前が表示されているけれど……あれ?


「これって……」


 十五人の上位の魔法少女の内、四人の名前の横に表示されている『活動不明』の文字。

 強調するように表示されているから嫌でも目につく。


「なー、これってどーゆー意味なんだ? なんか変な事してるってことかー?」


「ううん、そうじゃなくて……」


 伽音ちゃんにどう説明しようかと迷っていた私に代わって、律花さんが口を開いた。


「『活動不明』とはつまり、三ヶ月以上、活動地域での活動が確認されていない魔法少女につく表示ですわ。厳密に言えば消息不明(・・・・)ですわね。しかし、消息不明と表現すると生死に関わる事態に陥っていると思われてしまいますわ。故に、このような表現となっているのです」


「お、おいおい……。これって、つまりアレか? 上位が四人もルイナーにやられちまったかもしれないって事なんじゃ……? つか、序列二位も『活動不明』ってどういう事だよ!?」


「落ち着きなさいな、皐さん。確かにルイナーに負けてしまうという可能性は完全に否定できるものではありませんが、それはないと思いますわ」


 弓華ちゃんも事の次第の大きさに気が付いたのか、表情を引き攣らせて告げた可能性。

 けれど、律花さんは冷静にそれを否定してみせた。


「この方々、特に大和連邦国内において序列二位でありながら最強と呼ばれ、『絶対』の名を冠するフルールさんがルイナーに遅れを取るのであれば、それはあの時、明日架さんが戦った鯨型ルイナーよりも確実に強いルイナーでなくては有り得ませんわ。もしそうなら、精霊の隔離結界が通用せず、騒動は大きくなるはず。ですが現状、あの一件以上のルイナーが出現したという情報は出ておりませんもの」


 序列何位とかは私も詳しくは分からないけれど、『絶対』の名を冠する魔法少女と言われると、私みたいに疎くても分かる。


 ――隔離結界を張る必要もない、一瞬で倒す実力を持っている魔法少女。

 ――現れたルイナーが、彼女が手を振っただけで体が切れて、死んでいく。


 そんな光景があまりに多くて、つけられた二つ名が『絶対』。

 ルイナーとの戦いに『絶対に勝利する』から。『絶対切断』という固有能力なのではないかとか、そんな噂からついた二つ名を持つ、私の知る限り、最強の魔法少女だったのが、魔法少女フルールさんだ。


「掲示板なんかでは、この数ヶ月でようやく動いた大和連邦軍の対応の悪さに嫌気が差して、すでに海外に行ってしまっただの、魔法少女として戦う事が嫌になったのではなどと、まるで根も葉もない噂ばかりが蔓延しておりますの。ですから、皆さんがおかしな噂を耳にする前に教えておこうと考えたんですのよ」


「そう、なんだ……。うん、ありがとう、律花さん」


 正直に言うと、ショックだった。

 フルールさんが、っていうのもあるけれど、それより。


 私のお父さんとお母さんが死んでしまったあの日。

 あの場所に現れたルイナーを倒してくれた魔法少女ニクスさん。

 あの人の名前が序列第七位にあって、『活動不明』の一言が表示されていた事が。


「おはようございます、皆さん」


「あら、桜花さん。おはようございます」


「おー! 桜花桜花ぁー! おっはよー!」


「おはようございます、桜花さん」


 桜花さん――東雲 桜花――は私たちの中でも最年長で、十四歳。

 見た目もみんなよりずっと大人っぽいし、穏やかに微笑んで答えてくれるからか、伽音ちゃんがすごく懐いてる。

 一方で、男兄弟の中で育ったらしい弓華ちゃんは、ああいう女性らしい人にどう接していいのか分からないらしくて、よく構われては恥ずかしそうにそっぽを向いていたりもするから面白い。


 律花さんとお話している時は少し難しいお話をしていて、少し近寄り難い雰囲気を放っていたりもする。

 律花さん、私と二つしか違わないのに普段から大人っぽい雰囲気はあったけれど、桜花さんと話している時はその雰囲気が強くなってる気もするんだよね。


 そんな桜花さんもこっちに近づいてきて、律花さんの机にあるタブレットに目を向けた。


「あら? 律花さん、それは?」


 律花さんに訊ね、内容を説明されている内に桜花さんの表情が驚愕に染まって、律花さんから震える手でタブレットを受け取った。


「……そんな。フルールさんが……? それにニクスさんまで……」


「そういえば、桜花さんはフルールさんと同年代でしたわね。面識がございますの?」


「え、えぇ……。こちらのニクスさんとフルールさん、それに私は最初期の魔法少女として魔法庁に所属をしていたので、何度か顔を合わせる機会がありましたから……」


「ん。フルールとニクスは私も知ってる」


「わぁっ!? か、楓さん? いつの間に……」


「ん。もちろん、転移してきた。寝起き二分で到着できる」


 いつの間にか私たちの後ろに立っていたのは楓さん――祠堂 楓――だった。

 固有能力で転移能力を持っているからいつもギリギリまで寝ているイメージだったけれど、今日はいつもより少し早く起きたのかな……?


「楓さん、魔法庁からこの話は聞いていますか……?」


「ん、初耳。多分、私たちの耳に入らないようにしてる」


「え……? ど、どうしてですか?」


 桜花さんに対してあっさりと言い放ってみせた楓さんに訊ねてみると、楓さんは私の方へと振り返ってから、ゆっくりと天井を指差すような仕草をしてみせた。


「天井がどうかしたのかー?」


「違う。私たちは今、魔法少女訓練校の生徒」


「なるほど。今、わたくし達は魔法少女育成のモデルケースとしてこの魔法少女訓練校にいる。そんなわたくしたちに不和の種を与えてしまうのは得策ではないと判断された、という事ですのね」


「ん、そう」


 あまり口数が多くない楓さんに代わって、律花さんが説明してくれた。

 私は夕蘭様がそういう事も色々話してくれるからなんとか理解できるけれど、伽音ちゃんは頭を抱えて唸っているし、弓華ちゃんもよく分からないって顔をしながら眉間に皺を寄せている。


「なぁ、それってどういう意味? 不和の種って、別に連邦軍が何かしてるって訳じゃないんだろ?」


「それはそうでしょうけれど、こういう問題ですもの。調べたり、助ける事もできないのかと責められたり、連邦軍は力になれないのだとわたくし達側から見限られる可能性もありますの。内容が内容だけに、痛くもない腹を探られてしまう可能性がある以上、連邦軍側としても今は下手な事は言えない状況なのですわ」


 律花さんが弓華ちゃん、それに伽音ちゃんにも分かるように噛み砕いて説明してくれているけれど……伽音ちゃんはどうやらいまいち理解できないらしい。

 まだうーうー唸っていたけれど、そんな伽音ちゃんの頭を桜花さんがそっと撫でてあげたせいか、伽音ちゃんが桜花さんに抱き着いた。


 桜花さんが伽音ちゃんの頭を撫でながら、弱々しい笑顔を浮かべつつ続けた。


「……こういう時、誰よりも頼りになるのがニクスさんなのですけれど……」


「そうなんですか?」


「えぇ。家族思いでとても真っ直ぐな方ですよ。ルイナーの討伐に積極的でしたし、そのお金で家族の暮らしを楽にしたいと言っていて。ニクスさんなら、こういう状況に対してもきっと力になってくれたと思います」


 そう、なんだ。

 私も会ってみたいな、ニクスさん。


「でもさー、それなら『最強』がいてくれた方がいいじゃんかー。ほら、もしルイナーが相手だったら――」


「――あの人はダメです」


「え?」


 伽音ちゃんの言葉を即座に否定する桜花さん。

 いつものおっとりとしていて柔らかな雰囲気とは違って、その声はどこか硬質なものを感じさせるものだった。


 伽音ちゃんも桜花さんの様子が変わった事を察したのか、桜花さんを見上げている。

 けれど、桜花さんはどこか遠くを見ているような目をして、表情もなく静かに続けた。


「あの人は、フルールさんは、確かに圧倒的な強さを持っていますが、他人に興味を持たないような冷たい人です。だから伽音さん、あの人に憧れてはいけませんよ?」


「う……、うん、わかった」


 伽音ちゃんに言い聞かせるように告げる桜花さんは、返事をした伽音ちゃんにようやく安心したのか、いつもの柔らかな笑みを浮かべた。


 何か、あったのかな。

 そう思って小首を傾げていると、楓さんと目が合った。

 なんか、楓さんも表情が暗いような……。


 そんな事を考えていた、ちょうどその時。

 パタパタと廊下を走って部屋に近づいてくる足音に気が付いて扉を見ていると、ガチャリと勢い良く扉が開いた。


「ひいいぃぃ……、はあ、はあぁ……。なんとか、間に合った、かな……?」


 柚ちゃん――月ノ宮 柚――が息を整えながら扉にもたれかかって声をあげている。

 そんな姿を見た私たちは、ついつい思わず苦笑していたのだけれど……柚ちゃんの後ろを見てしまったせいか、多分今は少々引き攣った笑みを浮かべていると思う。


「え、あれ……? お、おはよう、ございます……? みなさん……?」


「――月ノ宮さん。あなた、何を以て間に合ったと考えたのか、是非ともその根拠について聞かせてもらえるかしら?」


「えっと、それはもちろん、まだ教官は……きて…………ぴっ!?」


 誰に声をかけられたのか途中で気が付いたらしい柚ちゃんの顔が段々と青褪めていって、柚ちゃんの真後ろに立っている、声の主である鳴宮教官へと顔を向けて、小動物の鳴き声みたいな声を出しながら固まった。


「軍は時間厳守だと言ったはずよ。それは天候や条件といった外的要因を計算に入れた上で作戦を立てるから、と。そう、教えたわね? ここは訓練校ではあるけれど、学校じゃないの。時間を知らせるチャイムなんて鳴らない。それは何故か。時間を意識する、という事を日常的に意識して、徹底するためのものよ」


「……ひゃ、い……」


 こればっかりは私たちも対岸の火事のように見ていられる内容ではなかった。

 私たちも会話に夢中になっていて気付かなかったけれど、授業開始時間を二分ほど過ぎている事に、鳴宮教官の表情を見てやっと気が付いたからだ。


「教官だって遅刻してるじゃんかー」


「時間になったからあっちの扉についてる窓からここを覗いたら、月ノ宮さんが来ていない事が分かったのよ。休みの連絡はもらっていないし、何かあったのかと思って隣の部屋で親御さんに連絡を取っていたの。それで戻ったら今、という訳ね」


「おー、そっかー。んじゃ、柚のせいだなー」


「えぇ、そうね」


「ひぃぃ、ご、ごごごめんなさいいぃぃ!」


 少しからかうように肯定してみせた鳴宮教官だけれど、ふっと笑みを消してから、私たち一人ひとりの顔を見つめた。


「ルイナーとの戦いをあなた達に任せている大人の一人でしかない私が言える事ではないけれど、教官という立場上、厳しく言わせてもらうわ。時間を守って行動する。それだけをあなた達が徹底してくれれば、不甲斐ない大人である私たちが、何もしてあげられないルイナーとの戦いの中にあっても、あなた達の力になれる。その為に、私たち大人があなた達を守るためにも、しっかり慣れてちょうだい」


 それは紛れもなく、私たちの為に言ってくれている言葉なんだと思う。

 鳴宮教官は厳しいけれど、こういう所があるから、厳しいからって私たちも文句はなかった。


 みんなで「はいっ! すみませんでした!」と返事をすると、鳴宮教官はふっと小さく笑って柚ちゃんに進むように促してから――笑顔のまま私たちから少し離れた場所へと顔を向けた。


「――祠堂さん?」


「ひ……っ」


 なんか声が遠くから……って、あれっ!?

 楓ちゃん、いつの間にか自分の席に移動してる!?


「あなた、さっき転移したわね。素知らぬ顔して自分だけ行儀よく座って待っていたフリをするつもりかしら?」


「……それは気のせい。固有能力が転移だから、勘違いされる。私は悲しい」


「あなた、嘘つく時だけ饒舌になるって自覚ないのかしら?」


「…………はぃ……ごめんなさい……」


 ……本当は優しい人だって分かってるけど、さすがに笑顔で怒るのは……。

 やっぱりちょっと怖いかも……。

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