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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
最終章 邪神の最期
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#166 別れの時間 Ⅱ

「役目の、終わり……」


 はっと我に返ったようにロージアがそんな言葉を呟いて、僕もまた彼女を、そして目の前にいる魔法少女たちを見やる。


 ――思い返せば、この世界は酷い有様だった。


 邪神の眷属との戦いを魔法少女に丸投げするような政府と軍のやり方。

 戦いに対する魔法少女たちのどこか夢見がちな態度。

 そしてそれを応援しているという大義名分で物見高に囃し立てている民衆の態度も。


 でも、それでもこの少女たちは、そして他にもいる魔法少女たちは大切な誰かを、人々を、世界を守る為に戦い続けてきた。その戦い方の一つを見ても稚拙な力技しかなかったとは言え、それでも守ろうと立ち上がったのだ。


 もしも僕が魔法少女と同じような立場で、戦う力を持っていたとしても、きっと僕は他人を守ろうなんて考えなかっただろう。


「僕がこの世界にやって来たのは、あくまでも邪神対策。この世界をこの世界に生きる者達が守り、救えるようにするのを裏から助けるためだった。実際にキミ達は僕らが誂えたとは言え、魔王を倒し、この世界を救ったんだよ。結果として僕らが戦った邪神の討滅にまで参加したのは誤算ではあったけれど、いずれにせよこの世界は救われた。あとはキミ達が、この世界に生きる者たちが未来を築いていくだけだよ」


 天照にはすでに伝えているけれど、この世界の管理者については新たに就く神が決まっている。

 というのも、その神こそがこの世界の管理者であった下級神を捕まえたという、僕のファン――という名のイシュトア提供動画視聴者――だ。


 本来なら中級神が管理者になる事はないらしいのだけれど、この世界は下級神が世界そのものに干渉した結果、そのせいで世界そのものを廃棄される方向に傾きつつあった。

 しかし邪神討滅の功労者としてロージア達が邪神に一矢報いたこと等もあって、要観察対象という程度に落ち着いているというのが神側の事情だったりもする。

 そういう意味でも、目の前の魔法少女たちはそういう意味でも確かに世界を救っていると言えるかな。


 ともあれ、その辺りの情報は、どうやら神界の配信サービスでしっかりとアピールしたらしい。

 きっちり印象操作をしているあたり、さすがはイシュトアである。


 そういう訳で、この世界の管理は下級神ではなくその上位存在である中級神預かりという形になったというのが背景だ。

 天照や他の亜神たちは僕に残ってほしかったみたいだけれど、僕はイシュトアの専属部下という立場だからね。一箇所に留まり続けるという訳にもいかない。


「これから先、この世界にも魔力は溢れて広がっていく。世界の有り様は変わる事になるだろうね。それに、ルイナーという目に見えて分かる脅威がいなくなった事で、いずれは魔力を用いた戦争なんてものも起こりもするだろう」


「ッ、それは……」


「もっとも、しばらくはそんな余裕もないだろうけれどね。まぁいずれにせよ、ここから先はキミ達、この世界に生きる人間が選び取っていけばいい。僕らみたいな存在が関わったのは、それだけ邪神という存在がイレギュラーだったというだけの話だよ」


「……ルオくん……、あ、ルオ、様……?」


「呼び方なんて気にしなくていいよ。なんだい?」


「……もう、会えないってこと?」


「そうだね。というより、僕にまた会うって事は、紛れもなく世界がイレギュラーな事態によって危機に陥ってるって事だからね。会わない方がいいと思うよ」


 冗談めかして肩をすくめて言ってみせれば、ロージアや他の魔法少女たちもまた悲しそうに、けれど納得できたのか苦笑を浮かべる。


 冷たい言い方かもしれないけれど、こういう事はハッキリと伝えておいた方がいい。

 中途半端に「また会える」なんておためごかしを口にしても意味はないし、実際、僕がここにもう一度来るとしたら、その時は世界に危機かイレギュラーが起こっているのだというのは間違いないしね。


「……ルオさん」


「なんだい、魔法少女オウカ」


「改めて御礼を言わせてください。あなた達がいなければ、この世界はこうして平和を迎える事はできなかったと、そう思います。私たちはきっと今のようにもなれていなければ、それぞれの戦場で命を落としていたかもしれません。本当に、ありがとうございました」


「気にしないで。邪神の生み出した疑似世界でも告げたように、僕らは僕らの都合でキミ達を利用した。キミ達はそれに利用されつつも自ら足で歩き続け、結果として良い結果を得られた。ただそれだけの話さ」


「それでも、です。それでも私は、私たちは感謝していますから」


「えぇ、その通りですわ。わたくし達だけではどうしようもなかった。そんな閉塞感は間違いなくありましたもの」


「おー、そうだそうだー! ありがとー!」


「お前それ感謝する態度かよ……。その、ありがとうございました」


「え、と、ありがとうございました……!」


「ん、感謝」


「……うん、どういたしまして。その気持ちは受け取っておくから、顔をあげてくれるかな?」


 思い思いに感謝を告げて頭を下げてきた魔法少女たちに僕がこれ以上否定したとしても、収まるものも収まらないだろうと感謝を受け取っておく。


 ロージアと夕蘭をちらりと見れば、夕蘭は僕が天照のさらに上位の神であると知ったせいか深々と頭を下げていて顔は窺い知れない。

 天照が親会社の社長だとしたら、僕は会長とか、そういう立場だったりするのだろうか。

 まあ、いずれにせよあまり近くにいてほしくはないお偉いさんって感じだったりするかもしれないね。


 その横に立っているロージアはまだ何か言いたげな様子ではあったけれど、それでも引き留めたところで意味がないと理解できているのか、口を噤んでいるようだった。


「ルオ」


「ん?」


「アタシの身体については、どうすればいいんだい?」


「クラリスが年を取って、その時が来たら天照が声をかけに行く予定だから心配しなくていいよ」


「……そうかい。すまないね、ルオ。色々ありがとう」


「なに、ちょっとは師匠孝行できたみたいで良かったよ」


 僕は師匠には前世で何も返せなかったからね。

 そういう意味も込めての返答に気が付いて師匠も苦笑を浮かべて頷いてくれたみたいだし、まあ良かったよ。


「それじゃあ、僕らはもう行くよ。あまり僕らがこの世界に留まったままっていうのもよろしくなくてね。時間が限られている内に、関わり合いになった人たちにも軽く挨拶しなきゃいけないからね」


「……はい。お元気で、と神様に向かって言うのもおかしな話ではありますが」


「まあ、人間らしくていいんじゃないかい? キミ達も元気でね」


「ルオくん……っ」


「うん?」


 軽くオウカと別れの挨拶をして、後ろにいたジル達の所に行こうとしたところでロージアに呼び止められ、振り返る。

 ロージアは涙を溜めた目でこちらを見ていて、僕が振り返ると勢い良く頭を下げた。


「……ありがとう、ございました……っ!」


「……うん。僕の方こそ、キミ達には感謝している。これから先に広がった未来を、精一杯生きて幸せになってくれると嬉しい」


 これ以上、かける言葉はいらないだろう。 

 そのまま背を向けて、僕はルーミアとジル、それにアレイアとリュリュ、唯希といった面々を連れて、その場から転移した。

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