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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
最終章 邪神の最期
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#164 書き換えられる筋書き Ⅵ

「天照、協力してくれてありがとう。何か御礼でもさせてもらうよ」


「いえ、当然の事をしたまでですので御礼など不要です。私にとっても貴方様はもちろん、魔法少女たちに少しでも報いたかったので、それができたのであれば何よりです。それでかえって御礼をされてしまっては立つ瀬がありません」


「いや、魔法少女に何かしてあげたいっていうなら止めはしないけれど、僕にまで報いようとする必要はないさ。僕は僕の役目を果たしてきただけだからね」


「……左様ですか。であれば、私もまたこの世界の者に報いただけですので、お気遣いは必要ございません」


「……そうきたかぁ」


「ふふ、はい。そうきちゃいました」


 見事にこれ以上は野暮になるというところまで言い返されて苦笑する僕を見て、天照が口元に手を当ててくすくすと笑う。そんな天照の表情を見て由舞が目を丸くしているようだけれど、こういう表情をしたりするのは珍しいものなんだろうか。


「――さて、と。ロージア、リリス。それに師匠も夕蘭も、ちょっといいかい?」


 感動の再会に水を差すようで悪いけれど、それなりに伝えておかなくちゃいけない事もある。

 特に師匠の身体の注意点や今後の事なんかも含めると、伝えなくちゃいけない事は割と多いからね。


「夕蘭については天照、キミから説明を」


「はい。では夕蘭、心して聞きなさい」


「はっ」


 うわぁ、夕蘭の緊張が伝わってきそう。

 まあ夕蘭にとっては大親分みたいな……うん、ちょっと表現が違うかな。

 グループ会社の子会社にいるような社員が親会社の社長に会った、みたいな感じかな?


 いや、僕そういう経験はないけど、関係はあるけれど遠すぎるお偉いさんに会った、みたいな構図を想像したらそんな感じなのかなって。


「夕蘭、あなたの身体は元通りに戻ったという訳ではありません」


「……っ、やはりあれだけの大きな魔力を使った弊害が……」


「夕蘭様、そんな……」


「良い、気にするでない、明日架。幸い、もうルイナーはおらぬのであろう? ならば以前のように無理をしなければ良い、ただそれだけの事よ」


「でも……」


「おぬしと共にこうして過ごせるのであれば、それに越した事はあるまい」


「……うん。でも、力を蓄えないと本調子にはなれないってこと、だよね……」


 …………うーん。

 えっと、シリアスな雰囲気のところで非常に言いづらいんだけど。


「天照。元通りではない、という意味をもう少し詳しく」


「はい? 前よりも力があるので気をつけるように、という話ですが?」


「…………は?」


 うん、そうなるだろうね。

 別に夕蘭の身体が無茶をしたせいでぼろぼろだとか、今後の動きに制約がかかるとか、そういう話ではない。断じてそれはない。

 今の言い方だとどう見てもマイナス方向に影響がありそうな、そんな風に聞こえてしまってもおかしくないし、実際そう感じた人の方が圧倒的に多いと思う。

 無表情、無感情であんな言い方するんだから尚更にね。


「もともと成長途上であったにもかかわらず魔素濃度、それに休眠と調整が間に合っていなかったように見えますが、その分も満たされているはずです」


「あ……。そういえば夕蘭様、眠り足りないみたいな事を言っていたような……」


「思い当たる節はあったようですね。その部分も含めて満たす形になったので、力が増えているのは当然です。ですから、力があるので気をつけるように、と」


「ア、ハイ。アリガトウ、ゴザイマス」


 さすがにこれはちょっと可哀想というか、憐れと言うべきか……。

 多分今、夕蘭もロージアも後ろにいる他の魔法少女たちから向けられている気の毒そうな視線が突き刺さっているような気分だろう。


 うん、僕だったら転移して逃げたくなる。


 シリアスな感じで夕蘭も納得していたし、ロージアはロージアで返事をしつつも何か夕蘭を元気にさせるために決意みたいなものを滲ませていたところに、蓋を開けてみれば「問題ありませんと伝えるつもりでしたが?」という天照の悪気のなさが、より居た堪れなさを増してくれてる。


 天照、もしかして天然なのかな?

 神宣院というか由舞の一族である『神楽』との付き合いは続いていたんだから、少しは感情の機微とかそういうものぐらい理解できるのでは……?


 ……あぁ、もしかしてさっき由舞が驚いていたのは、そういう人間めいたやり取りを天照は滅多にしなくて、人間には機械的に接していたりするとかなのかもしれない。

 昔のイシュトアのように、笑って冗談めいた事を言うような人間っぽさがある方が珍しい光景だったりするんだろう。


 僕に笑って意趣返しできるのなら、もう少しぐらい人間にもフランクに接すればいいのに。


「気にしなくて結構ですよ」


 気にするのはキミだよ、天照。

 もう少しこう、空気を読んで言い方とか考えようね。

 神楽の一族もちゃんと釘を差すようにした方がいいと思うよ、由舞。あとで僕からも言っておくけども。


 ともあれ、ロージア達に関するあとのフォローは由舞に投げようと決めて、未だに師匠に抱きついて離れようとしない、とは言えどうにか立ち上がりはしたらしい師匠とクラリスに顔を向ける。


「師匠、その身体の事だけれど、調子はどう?」


「……絶好調だよ。それにしても、まさかアタシの身体を創るなんて……」


「そうでもしないと、またクラリスの未来で自分の存在が邪魔になるのでは、なんてことを考えるだろうからね、あなたは」


「え……?」


 僕の推測からの指摘は当たっていたようで、師匠は僅かに苦い表情を浮かべて、逆にクラリスはそんな事を考えもしなかったのか師匠の顔を見上げて目を丸くしていた。


 相変わらずだね、師匠は。


「クラリス、師匠はあの戦いで邪神が僕によって倒されると踏んだ。つまり、未来を理解したからこそ、【禁呪】に手を出したのさ。戦いのない未来が訪れた時、クラリスの未来にはこれまでに比べてずっと多くの選択肢が待っているからね。そうなった時に、自分がクラリスの中にい続ける状態というのは、あまり良くないだろう、と考えたんだよ」


「エルト、やめないか」


「あ、僕の名前はルオになってるから、そっちでよろしく。――まぁそういう訳で、師匠はキミの未来を考えて【禁呪】を用いて邪神に一矢報いて、そして自分が消えるという一挙両得を狙ったという訳さ」


「エル……いや、ルオ。それは――」


「――確かに正しい選択ではあったのかもしれない。クラリスの未来を考えるのであれば、いつまでも彼女の中にいるというのはあまり好ましくはないかもしれない。だから、師匠がその方法を選んだのは納得できるよ。けれど、師匠。今、そうやってクラリスの顔を見て、それでも自分の選択が正しかったと、自分はどうあっても消えるべきだと、そう思うかい?」


 ――それは遠い未来ばかりを見て、現在と近い未来を見ない選択だよ、と。

 言下にそう突き付けた言葉だという事に、師匠はすぐに気が付いただろう。


 だって、抱きついているクラリスは、泣きながら怒っているような、なのに悲しんでいるのか泣き出しそうな表情を浮かべて師匠を見つめているのだから。


「……私、やだよ、師匠……。師匠と一緒がいい……!」


「……クラリス……」


 クラリスの視線、ぎゅっと握られた服と抱き締める腕の力。そういう言葉だけじゃ伝わらないものが、身体を通して伝わる。

 師匠はそんなクラリスの真意に気付いたのか、僅かな時間に考えを纏めるように瞑目して、やがてゆっくりと目を開けて微笑んだ。


 考えを纏めるというより、決意をした、といったところかな。


「……分かったよ、アタシの負けだね。もう勝手に置いて行ったりしないさ」


「師匠……!」


「……置いていかれる側の気持ちってのは、アタシも痛い程に分かっていたつもりだったんだけどねぇ……。歳を取るもんじゃないね、まったく」


 ちらりと僕を見て言うのはやめてほしい。

 まぁ、僕もまた残した側だし、シオンやルメリア、それに師匠にその事を責められるのであれば、それは受け止めるつもりではあるけどね。


「ふふ。三百歳とちょっと、だっけ?」


 ……うん?


「え? 何それ? そんな若くないでしょ、師匠――おわっ!?」


 師匠の年齢についてクラリスがそんな事を言っていたので否定すれば、師匠から攻撃魔法で生み出した氷の刃が飛んできた。

 慌ててギリギリで避けて師匠に目を向けると、すでに追撃するつもりでいるのか同じ氷を幾つも頭上に並べつつ、青筋の立った笑みを向けてきていた。


「……ルオ、いい身体を用意してくれたみたいじゃないか。どれ、ちょっと身体の調子を確かめるために、少し本気で手合わせしてもらおうか。えぇ?」


「……あはは。師匠、『三百歳とちょっと』って、その『ちょっと』の部分だけで軽くその三百年の倍以上の時間を過ごしたって自覚すらないのかい? あ、もしかして英霊召喚でボケ――」


「――その減らず口、閉じさせてやるよ、馬鹿弟子」


「ハッ、僕は妹弟子に真実を教えてあげようとしているだけじゃないか。三百なんて過ぎた時点でこの世界じゃもう雲の上の話どころか、天に昇ってるご先祖様の年齢なんだよ。変にサバ読んでる師匠が悪いんじゃない?」


 お互いに睨み合い、魔力を練り上げ魔法を構築させるべく構える。

 そんな僕らの空気を感じ取ったのか、周りが徐々に離れていき、距離を取っていく。


 そして――




「――……あなた達、何してるのよ……」




 ――いざ、というところで、ルーミアの呆れたような声が響いたのであった。

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