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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
最終章 邪神の最期
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#161 書き換えられる筋書き Ⅳ

「――できなくはないけれど、なかなか大変よ?」


 邪神を討伐した後、魔法少女たちを凛央魔法少女訓練校にルーミアに送り届けてもらってから、僕はそのまま神界――イシュトアの元まで出向く事にした。


 目的は二つある。


 一つは、あの神獣が吐き出した黒い宝玉。

 あれが何かは分からなかったけれど、あまり持っていたくないというか、持ったまま忘れないようにイシュトアに丸投げ……おほん、お任せするためだ。

 ほら、新()が持つには荷が重い、ということで。


 そしてもう一つ。

 魔法少女たちへの報酬と、僕が少々気に入らない形となってしまった筋書きを書き換える。

 そのための報酬についてイシュトアに許可と相談を行う為である。


 僕としてはむしろこっちが主題であると言っても過言ではなかった。


 そんな訳で、イシュトアに魔法少女たちの報酬について相談してみたのだけれど、イシュトアとしては特に反対もなく賛成。

 ただ、その労力を心配するというか、面倒がるような素振りを見せたのは少々意外だった。


「そんなに大変?」


「大変は大変ね。要するに『器』を作るってことだし、『器』の根幹はいいとして、その状態を維持できるだけの魔力を蓄える必要があるもの。根幹部分がそれだけの魔力を生み出せる存在であるのならともかく、そんな力はないでしょうし、定期的に高濃度の魔力を手に入れる必要があるわ」


「高濃度の魔力、ね。それって形状とか容量とか、何か制限があったりするの?」


「んー、それは特にないわね。どんなものであったとしても魔力を抜き出せればいいんだもの。まあ保存しやすい形であればあるほど楽ではあるのは確かね」


「ふぅん……。なら、なんとかなるかな」


 そういう事ならアテはあるし、やりようはあるかな。

 もしもダンジョンの奥深く、魔素濃度的にかなり濃い場所まで行けという話であったとしても、まあ多分彼女たちならやりそうではあったけれど。


 ただまぁ、リスクありとなると僕が文句言われるか怒られそうなんだよなぁ……。

 誰にとは言わないけどもさ。


「それにしても、なんていうか相変わらずね、あなたは」


「何が?」


「何がって、今回こうしてこっちに来てまでやろうとしているところとか、そういう事に力を注ぐ時は躊躇わないところとか」


「んー、そうかな?」


 いまいち何が言いたいのか釈然としないというか理解できずに訊ね返してみれば、イシュトアは苦笑を浮かべて肩をすくめてみせた。


「確かにあの魔法少女たちは世界を救ったわ。それに、邪神討伐の一助にもなったと言ってもいいかもしれない。でもね、邪神討伐はあなたがいたからなんとか成り立った、ただそれだけの話よ。あの戦いに赴いて戦う事を選んだのも、その結果もまたあの人間たちが自ら選び取ったもの。だから、その戦いがどれだけ素晴らしくても普通は人間に報酬を与えるなんてしないわ」


「そうかな? 僕は魔王を封じて、こうして神になって新たな生活を送れるようにしてもらったけど?」


「あなたは特例というか、異例中の異例みたいなものだもの。邪神の力と共に私の力を受け続けたこと、信仰を集める形になってしまったことが重なった結果よ。だから、それは褒美とは言わないわ。実際、私はあなたの仲間だった勇者と聖女にも褒美なんて与えていないもの」


「それは当時のキミが機械みたいだったからじゃない? 「ワタシ、ニンゲン、キライ」みたいな」


「ちょっと。それは機械じゃなくて化け物じゃないの? マルカジリとか言い出すタイプの」


「よく分かったね」


 益体もない会話だけれど、よくよく考えてみるとイシュトアにこういう話題が通じるっていうのはなかなかに面白いなぁ。

 ぶっちゃけ、今のボケが通じるとは思ってなかったし、さらりと流されるかなって思ってたんだけど。


「ま、いいけどね。それより、作り方はさっき説明した通りだからできると思うし、頑張ってね」


「ありがとう、イシュトア。助かったよ」


「いいのよ。私は人間に褒美は与えないけれど、あなたは人間じゃないもの。私の力を受け継いでいる私の子供みたいなものだしね。親は子供に褒美を与えるものでしょう? ……ちょっと。何かしら、その顔。嫌そうな顔してるように見えるのだけど?」






 そんなやり取りを行っていたのが、あの邪神討伐の後の僕の過ごした日々だった。


 なので僕はこっちの世界からずっと離れている状態だったし、その間にジルやアレイアには『暁星(スティラ)』の面々に対する引き継ぎやらを行ってもらい、唯希とリュリュは空に隠した魔王城改め僕らの居城で修行中。

 ルーミアは葛之葉のところに行ったりなんやかんやと時間を潰していたのだろうけれど、多分そろそろこちらに来る頃だろう。


 みんなが来る前に始めようか。


「さて、まずは魔法少女オウカ。キミからだ」


「私、ですか……?」


「報酬は一人ずつ渡すつもりだからね。リーダーであるキミから順に渡していくつもりだよ。という訳で、はい。この本はちょっとした餞別で、こっちが報酬だよ」


 僕が【亜空間庫(インベントリ)】から取り出したのは二つ。

 分厚いちょっとした辞書ぐらいはあろうかという本で、『魔法基礎知識』と僕が書いた文字が書かれているものと、オレンジ色の淡い光を宿したブレスレットである。


「そっちのブレスレットは、キミの結界魔法に対する干渉能力をあげるちょっとした魔道具だと思っていいよ。使い方次第で他人からは違うもの(・・・・)が見えたり、キミの姿を覆い隠せるようなものも作れるようになる」


「……えっと、それはつまり……」


「変装したり、姿を消してみせたり、だね」


「――ッ!? ほ、本当ですか!?」


「うん。色々な使い道があるだろうから、頑張って使いこなせるようになるといい」


「ありがとうございます!」


 うん、まあ喜ぶだろうとは思っていたけれど、相当ストレス溜まってたんだろうね。

 というのも、僕も彼女が連日テレビに出ていたり、今や超がつく有名人になってしまっている事はこの世界の様子を見せてくれたイシュトアを通して知っている。

 出かける事もできないと愚痴っていたのを知っているんだよね、言わないけれども。


「そっちの本は、キミたちが今、この世界の魔法を体系化するために作り上げてきた魔法の基礎知識を含めて足りていない知識を補うためのものだよ。師匠から教わったキミたちの魔法はどうにも感覚的なところがありそうだからね。もっと基礎の基礎を学ばせる為の教材として複製して広めるといい」


「そ、そんなものを貰ってしまっていいのですか……?」


「探索者たちにも魔法を教える必要はあるだろうからね。そういう部分も含めて、魔法少女は魔法分野の先駆者である必要がある。けど、キミ達は感覚的に魔法を使えるようになったタイプだから、理論とか基礎知識がところどころ欠落していると言わざるを得ないからね。師匠はその辺りを見越してキミ達に感覚的な魔法の使い方しか教えなかったんだろうけれど、体系化させる事を考えると難しいんじゃないかな? 実際、魔法少女であっても伸びる子と伸びない子の差とか激しいんじゃないかい?」


「……仰る通りです」


「だと思ったよ。だから基礎をまとめた本をキミに託そうと思って。天照、問題ないよね?」


「貴方様がそうお決めになられたというのなら、何も。ご随意に」


「いや、そこまで畏まらなくていいってば……」


「ありがとうございます、ルオ様」


「いや、キミまで様付けとかしなくていいから。僕は外様の神でしかないし、今まで通りでいいよ」


 ほら、天照がそんな態度を取るものだから、魔法少女たちの顔が強張ったし、様付けとかされるじゃないか。

 勘弁してほしい。


「次はアルテ。キミはこのブレスレットね。転移魔法の構築で発生する消費魔力量を抑えるものだよ」


「……っ! ……ありがとう……っ!」


 いや、うん。この子の状況も知ってたよ、もちろん。

 ちらりとオウカを見やれば、ついっと目を逸らしたしね。


 転移魔法って僕らはぽんぽん使えたりするけれど、魔力の消費量は高いし集中力も使うから、そう簡単に使えるものでもない。

 実際、唯希とかが戦いの最中にあまり使おうとしないのは消費量の激しさが理由だったりするからね。


 負担が大きそうなアルテにとっては死活問題にすらなりかねないレベルだったし、今後はそれをつけて頑張るといいよ。

 僕から辞めていいとは言えないので、まあこれをつけて頑張ってほしい。


「次はフィーリスなんだけど、キミはこれからも戦い続けるつもりかい?」


「えぇ、もちろんですわ。未埜瀬グループとしてもダンジョン資源には手を出したいところですし、探索者の育成と調査団のリーダーとして動きますので」


「えっ!? そうなのか!?」


「えぇ、そのつもりです。なので、ここにいる皆様も興味があれば、是非お声掛けくださいな。ポストは空けておきますので」


 さらりとここにいるメンバーに唾を付けるあたり、さすがというかなんというか。

 まあ魔法少女だし、それも実力も戦い方もそれぞれに理解しているのだから、ここにいるメンバーで組めれば一番いいっていう気持ちは分かるけどね。


「なら、キミにはこれを」


「……これは、イヤリングですの?」


「うん。同じイヤリングをつけていれば念話を使えるようになる魔道具だよ。各部隊のリーダーとキミがつけていれば、ダンジョンの中でも意思疎通できるだろうね」


「まあ、それは素晴らしいですわ! ありがとうございます!」


 ピアスでも良かったんだけれど、ピアスだとピアスホールを空けるのに抵抗がある人もいるだろうという配慮だ。嫌がる人は嫌がるからね。

 リーダーとなるであろうフィーリスのものは赤い宝石をつけていて、他は青が五つ、緑が五つという形にしておいたので、有効活用してくれるだろう。


 エレインとエルフィン、それにカレスについては今後も戦い続けるかどうするかまではまだ決まっていなかったようなので、とりあえず魔力消費を抑えるブレスレットにしておいた。


 フィーリスの言う調査団という生き方を選ぶかどうするか。

 僕としては、せっかく魔法を覚えて戦えるのだからその選択は充分にありだと思っているけれど、エレインやエルフィンもそれができるのならそうしようかと気持ちが傾いているみたいだった。


 もっとも、エレインもエルフィンも自分の力をしっかり磨いていく段階だし、カレスは治癒魔法という稀有な性質上、魔力がなくなっていざという時に後悔しないようにと、魔力消費量を抑える方向に特化したものを渡しておいた。


 そうして、僕は最後の二人――ロージア、そしてリリスに目を向けた。


「さて、ロージア、リリス。二人ともこっちに来てくれるかい?」

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