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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
最終章 邪神の最期
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#151 邪神の最期 Ⅳ

 さながら触手のように、人間で言うところ肘の先あたりから大量に枝分かれして次々と伸びて襲いかかる邪神の腕。ルオはそれらに対し、空を旋回しながら置き土産とばかりに魔法陣をその場に残しつつ避けていく。

 残された光を放つ魔法陣に腕が触れた瞬間、激しい爆発音を立てながら伸ばした腕が砕かれ、力なく崩れ落ちていった。


 しかし、邪神の体表はこれまでに邪神が喰らってきた世界に残された負の感情が、核である邪神という存在によって形を得たような代物であった。

 魔法で破壊されたとしても根本的な解決にはならず、霧となっては邪神の核に吸い込まれ、再び生成されている。


 その際に僅かながらにロスは発生しているものの、砂でできた巨大な山から一摘み程度の砂を取り払うようなものだ。

 それだけで全てを取り払おうとするなら、数年、あるいは数十年単位での戦い続けるハメになりかねないだろう事に、ルオはもちろん気が付いていた。


 だと言うのに、迫る攻撃全てをただただ回避するだけではなく、先程から魔法を残して攻撃を加えている理由は何か。


 その光景を遠目に見ていた魔法少女の一人、オウカがその狙いに気が付いたのか感心した様子で呟いた。


「……なるほど。うまいですね……」


「んー? どーゆー意味だ、オウカー?」


「ああして伸びた腕をその場で破壊する事で、さらに伸びてきて挟み撃ちにされないように工夫しつつ、修復力とその影響を見抜く。さらには私達にそれを見せる事で、どういった攻撃が有用かと判断するための材料にさせようとしているのでしょう」


 ルオの目論見を見抜いたオウカがエレインに説明すると、二人の話を聞いていたエルフィン、それにフィーリスにカレスといった面々が表情を強張らせた。


「……あの一瞬でそこまで考えてんのか……?」


「……有り得ないとも言い切れませんわね。さすがは英雄にして神になった御方。正直、わたくしならあの速度で次々襲いかかられたら逃げるだけで精一杯ですし、すぐに行き場を失っていたでしょうね……」


「そ、それでも逃げれるだけでも充分すごいと、思うよ……?」


 襲いかかる邪神の腕の速さは、遠目に見ている魔法少女らから見ても凄まじい速度である事が窺えた。

 僅かな隙が生まれれば即座に捉われ、呑み込まれるのではないかと思える程だ。


 集中していたからと言ってどうこうできるようにはカレスには思えなかったが、それも無理はない。カレスは後方支援、治癒をメインとしているため、身体能力、戦闘能力で見れば他の魔法少女には劣ってしまう。

 もっとも、繊細な魔力制御を要求される治癒魔法を使える事もあり、魔力制御能力は誰よりも高かったりはするのだが。


 一方で、そんな話をしているオウカらの横ではロージアとリリスもまたルオの意図を読み取りつつ、お互いに意見を交換していた。


「――だったら、やっぱり私が防御を打ち破り、ロージアさんが一拍遅らせて追撃ですね。一撃の威力という点ではロージアさんの方が上ですし」


「そ、そんな事はないと思いますよ!?」


「今はそういった謙遜はいりません。如何にあの邪神にルオさんの攻撃を届かせるか、それだけです」


「……はい……」


 ロージアにとってみれば、相手は序列第一位の『不動』と呼ばれるリリスである。

 そんな彼女よりも自分が一部でも勝っていると言われて慌てる結果となったが、リリスはそんな事には一切頓着している様子もなくあっさりとロージアの言を謙遜だと言い切り、切り捨ててみせた。


 そもそもリリスは己の序列なんてものに拘りも執着も抱いていない。

 アイドルとしての活動によって広まった人気度、そして余裕のある戦い方からそうした評価になってしまっただけで、ただの戦闘能力で言えば唯希の方が圧倒的に高いだろうし、単純な火力であればロージアの凄まじさには届かないと冷静に己自身を評価しているからだ。


 今回の戦いで要求されている点は、『ルオが邪神を仕留める為の道を作ること』。

 その為にはタール状になってどろどろと蠢いている粘液のように見えている、これまでに喰われてしまった世界と思念が象ったものを穿つ、高火力の一撃が必要だ。


 本来なら実力的にもルーミア、或いはジル達の誰かが邪神の体表を削り取る役割をこなし、魔法少女達が囮になれるのが理想ではある。

 しかし、ルーミアらが魔力を込めて強烈な一撃を繰り出そうとすれば、今はルオに向かっている邪神の攻撃の一部がルーミア達に向けられる事になり、それを捌き切るだけの力は魔法少女たちにはなかった。

 それ故の次善策が、魔法少女の最大火力を放つ砲台と化し、その一撃を皮切りにルーミアが追撃し、体表を削り取るというものだ。


 とは言え、最も好ましいのはルーミアの追撃に頼らず、リリスとロージアの二人で体表を削り取れるという結果。

 今のところは邪神も魔法少女たちには攻撃を仕掛けてこそきていないが、動き出せば確実に魔力の高いルーミアを狙うであろう事は先程までの戦いを見れば明白なのだから、警戒されているとは言い難い自分達の攻撃でどうにかしたいとリリスが考えるのは、ある意味では当然の帰結であった。


 ただ、自分の魔法だけで防御体勢に入った邪神の防御を切り崩せるか。

 そこに自信があるかと問われれば、現実的に見て簡単に頷けそうにはないとリリスは思う。


「――リリス」


「……フルールさん」


「ルーミアさん達があなた達の準備が整い次第、分散して動く予定よ。あなたとロージアさんが撃ち込む魔法の邪魔はさせないから安心していいわ」


「……分かりました」


 短いやり取りを済ませて後方に下がっていく唯希の背を見て、リリスはぼんやりと彼女との過去を思い出していた。


 過去に何度か唯希と顔を合わせた事はあった。

 お互いに『まほふぁん』の序列には興味がない者同士ではあったが、今のように必要な事だけを話し合って別れる、というスタンスは当時のままだ。

 二人の高位序列者の実力上、なんだかんだで共に同じ戦場にいたとしても違う場所で戦うという形になっていた。


 ――そういえば、こうして共に肩を並べる事になるとは思いもしなかったな、と。

 そんな事を考えていると、唯希が不意に足を止めた。


「――あぁ、それと」


「……?」


「あなた達の魔法を通す道は、私が作る。だから、あなたとロージアさんはありったけの魔力を込めて魔法を作り、撃つ事だけに集中してくれればいいわ」


「それは……」


「ロージアさんとあなたを魔法少女が守り、その魔法少女をリュリュさんとジルさんが守る。そして、準備ができたあなた達の魔法を届ける道を私が作り、足りなければルーミアさんが動き出し、それをアレイアさんが守る。逆に言えば、あなた達の魔法がたとえ邪神の核まで届かなかったとしても、ルーミアさんが動く隙を生み出しさえすれば、あとはルーミアさんがやってくれる。そして我が主様が確実に倒してくれるわ」


 ――だから、余計な心配はしなくていい。

 その一言を口にする事はなかったが、唯希が伝えたかったのはつまりはそういう事なのだろうと勘付いて、その不器用過ぎる態度にリリスは苦笑を浮かべた。


「そっちも話し合いが終わったかしら?」


「はい、ルーミアさん」


「なら、始めましょう。予定通り、あなた達は最大火力を叩き込みなさい」


「……っ、はい!」


 ロージアさんに合わせて、私もこくりと頷いて動き出す。


 邪神の反応は顕著だった。

 短い時間の中で情報のやり取りを行っている魔法少女、そしてルーミアらに対しては関心を持たず存在を無視していた邪神が、リリスとロージアが魔力を練り始め、ルーミアがルオと反対方面に向かって魔力を込めて動き始めると同時に、片腕をあげて触手めいた腕を一気に伸ばし、襲いかかる。


 凄まじい速度で迫るそれオウカが結界を張って耐えようとした、その瞬間。

 ジルさんが魔法少女たちの前にふっと姿を現し、半身で構えるように腰を落として右腕を引いてみせると、すうっと深く息を吸い込み、そして――


「――ぬうゥんッ!」


 ――その場で拳を突き出してみせる。

 それと同時に衝撃波のようなものが周囲に撒き散らされ、邪神の腕もまた、まるで見えない壁にぶつかったかのようにがくんと動きを止めたかと思えば、そのまま膨れ、弾け飛んだ。


「ほほっ、これを正面から受け続けるというのは、なかなかに骨が折れそうですなぁ」


「……力技が過ぎませんこと……? いくら魔力を込めているからって、拳圧であんな攻撃を行うなんて、なんだか見た目の印象と違ってずいぶんと……その……」


「お言葉を濁さずとも、見た目によらず脳筋ですのでお気になさらず。それより、ここからですよ」


 リュリュの辛辣な一言と、ほぼ同時に。

 邪神の腕から枝分かれし、一本あたりはそれなりに細くなったものの、魔法少女たちの身体程はあろうかという腕だったものがそれぞれに対して一斉に襲いかかった。

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