表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
最終章 邪神の最期
191/220

#138 最小限で最大限の効率

 ジル、リュリュはともかく、唯希も騎士種のルイナーとは戦えるようだけれど、それでもあまり余裕はなさそうで、消耗しているのが見て取れる。

 それでも二人が唯希をしっかりと見ていて、唯希では反応できないような攻撃を相殺したり、時にはそんな相手を巻き込んで周辺のルイナーを守ってみせたりとフォローしているおかげか、どうにか渡り合えているというところが現実的なところだ。


「悔しいでしょうね、あの娘も」


「そうだね。大和連邦国じゃ自分に比肩する存在はいないかもしれない。でも、こうして僕らが相手取るような敵が相手だとなんとか渡り合えるというのが関の山だからね」


 もっとも、唯希の年齢、経験を考えれば彼女は充分過ぎる天才だと言える。

 それだけの力を持っているし、そこに驕り、胡座をかくような性格をしている訳ではない。常に向上心を持って物事に挑んでいるのだから、悔しがっても仕方のない部分ではある。


 だからと言って「じゃあ気にしません」と言えるほど、唯希は自分に甘くない。

 そういう性分だからこそ、彼女は僕らという、いわば理外の化け物とでも言うような存在たちと共にいる事を望む以上、自分も追い付かなくてはいけないと誰よりもそう思っていることだろう。


 僕から言わせてもらえば、そもそも僕は戦闘能力で選別してる訳じゃないけどね。

 戦いたくて仲間を集めている訳じゃないからね。

 唯希の向上心に水を差す言葉になりかねないからそれは言わないけれども。


 そんな事を考えながら戦いの推移を見守っていると、だいぶ大量に倒してはいるもののまだまだルイナーの数に終わりは見えない。

 死体が残らないおかげで足元を邪魔されずに済むのは助かるけれども、数が多すぎて終わらない戦いというものは、ふとした瞬間に緊張の糸が切れて瓦解しかねない。適度に休憩をした方がいいだろう。


「ルーミア、僕らも行こう。唯希の方には僕がつくから、ルーミアはジルとリュリュと組んでもらえるかな? リュリュには僕から声をかけるから」


「えぇ、分かったわ。なら、向かって左手、七割ぐらいはもらおうかしら」


「五割でもいいけど?」


「別にそっちに気を遣っている訳ではないわよ? 単純に、あの二人の運動不足の解消に足りなくなりそうなんだもの」


「あ、はい」


 そういう感じだったんだね。

 てっきり僕らの方が人数が少ないからとか、そういう配慮から言ってくれたのかと思ったら、僕らには関係ない話だった、と。

 自惚れたみたいになっちゃったよ、僕――なんて感想を抱いて遠い目をしていると、ルーミアがお構いなしに先にジルの元へと転移した。


 気を取り直して僕も唯希の前に出る形で転移する。

 ちょうど波が途切れた瞬間とでも言うべきか、ひっきりなしにやってくるルイナーの波が落ち着く僅かな空白の時間を狙って転移したおかげで、リュリュと唯希が軽く声をかけ合っているところだったようだ。


「我が主様、いかがなさいましたか?」


「うん、僕とルーミアも出るから、少し休むといいよ。それとリュリュはルーミアとジルと合流して、暴れておいで」


 運動不足解消とまで言われているので、好きにやってくればいい。

 そう考えて告げたのだけれど、どうも僕の言葉のチョイスは間違っていたかもしれない。

 だって、リュリュがにたりと浮かべた笑みが明らかに獰猛なんだもの。


「……よろしいのですか?」


「あ、うん。どうぞどうぞ」


「……あはっ、ありがとうございます。では、不肖の弟子をよろしくお願いいたします」


 え、今の笑いなに、こわ。

 なんかこう、邪悪な悪魔が壊し甲斐のある玩具を見つけたような狂気さと無邪気さを全開にしたような笑顔だったんだけど。こわ。


 時折発散させてあげないと、いつかアレが日常に出てきたりするんだろうか。

 少しリュリュのストレス発散に付き合ってあげた方がいいかもしれないなと頭の中で考えつつ、ちらりと唯希を見やる。


「はぁ、はぁ……。す、すみま、せん……」


「そのまま少し休んでていいよ。回復するまでは前に出ないこと。いいね?」


「で、ですが……ッ」


「唯希」


「――ッ、はい……」


「確かに同等程度から僅かに格上が相手、しかも大量にいる戦場はいい経験になるかもしれない。でも、一朝一夕に強さは身につかないって事ぐらい、唯希も理解しているはずだよ。それに、キミは残念ながらそういう経験が足りないんだ。だからペース配分も狂ってるって事に気が付いているかい?」


 どちらかと言えば激しい動きをしない静の動きを主体とするはずの唯希が、ここでの戦いでは敵の攻撃が致命的なものだと判断したのか、少し動きが大きくなってしまっている。つまり、むしろ消耗を抑えなきゃいけないというのに余計な動きが増えてしまっているのだ。

 本人もそれには気が付いていなかったのか、目から鱗が落ちたとでも言わんばかりに目を大きく見開いて、そして悔しさを噛み殺すように瞑目した。


「……今、気付きました」


「受け止めてくれて何よりだよ。そんな事ない、とかキレ気味に言い返されたらどうしようかと思った」


「そ、そんな事は絶対にあり得ません……。それに、我が主様がここに来た瞬間に疲労感が一気に来ましたし、本当に気付いていなかったんだと思います……」


「こういう戦いだと余計にそういう症状が出たりするからね。――じゃあ、『最小限の労力で最大限の効率を求めた先』っていうものを、少し見せておこうか」


「え?」


「昔、僕をそう表現した人がいたのさ」


 手を翳した【亜空間庫(インベントリ)】から『黄昏』を引き抜いて、僕は前方から迫ってくるルイナーを前に数歩ばかり歩み寄るように前へと出た。


 まずは一体、槍使い。

 槍は点を攻めてくる刺突攻撃こそがもっとも厄介だけれど、僕にとっては戦いやすい相手だと言える。

 薙ぎ払いなんかもそうだけれど、槍は対象が下がってくれると様々な攻撃を行えるだけのスペースが生まれ、返す形で払ったり、或いは刺突に切り替える事ができる。

 でも、前に出られてしまうと間合いを作るために下がらなくてはならなくなってしまって、ワンテンポ動きが遅れる。


 そこに体術も加えていたりするのが達人だけれど、どうやらルイナーは槍一辺倒らしい。


 刺突攻撃を『黄昏』で弾くように受けつつ、前へと一歩。

 咄嗟に間合いを取ろうと後方に飛ぶルイナーの後方には、すでに僕が魔法で地面を隆起させて円錐状に尖らせ、待機させてある。なので、むしろ僕は片手を翳して魔法で風を放つ。

 魔力に風の属性を乗せただけの簡単な魔法だけれど、後方に飛ぼうとするルイナーの勢いを更に押して、そのまま隆起させた大地の棘で刺し貫かせた。

 僕の魔力でコーティングして硬度を高めているおかげもあって、あっさりと突き刺さったらしい。


 次、戦斧。

 横合い上空からやってきて、頭上から振り下ろすギリギリのタイミングで半歩下がり身体を撚る。

 こっちのコツは振り下ろし始めるまでは軌道を読む事を優先し、修正が利かなくなったタイミングで動くことと、身体も横向きにして腰の回転を使い、カウンター気味に通り過ぎた戦斧の軌道を斬り裂くように攻撃すること。それだけで、無防備な首を跳ね跳ばせる。


 これらは前世、シオンとルメリアの二人と旅をしていた頃、多種多様な武器を持っている騎士種の存在が有名となった後、僕は様々な武器種を持つ冒険者たちに稽古をつけてもらったおかげで知っている戦い方だ。


 武器の特徴、できること、できないことを知る。

 僕の目があればその時に目で見て対応できるという事もあって、知識と実戦経験の不足分を補えれば、戦いに有利になるだろうと考えたからこそ、そういう訓練に付き合って貰った。


 旅を続ければ続けるほどに、シオンとルメリアは強くなっていった。

 スタミナも無尽蔵なのではないかと思わされる程で、なんというか、格の違いというものをまざまざと見せつけられてきたのだ。


 だから僕は、最大限の巧さを意識するようになった。

 効率良く、労力は最小限に、魔力は最低限で戦うという方法。

 基本的に魔法攻撃で大きな魔法は滅多に使わず、あくまでも今みたいな小さな魔法で追い打ちを意識しつつ、行動阻害や束縛系の魔法で補助に徹する。


 それだけ徹底し続けて、ようやく僕は初めてシオンやルメリアと肩を並べる事ができると言えるようになったのだ。


 もっとも、僕の事を剣聖が「最小限の労力で最大限の効率を求めた先にお前はいる」という不思議な評価をしたせいで、妙な呼ばれ方で周りから呼ばれるようにもなったけど、まあそれはさて置いて。


 ――これが、凡人として突き詰めた戦い方だよ。

 唯希に見せつけるように、ただただ静かに効率良く敵を屠り続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ